雪成はす子
2025-10-31 00:22:26
1999文字
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声なきトリックオアトリート

💛のホラー。旗揚げ組+春夏秋冬シリーズ秋編
スワロー島のハロウィンの話。
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 プレジャータウンは今日、年に一度の記念日に沸いていた。
 笑うオバケの形にくりぬかれたカボチャの中に蠟燭を詰めたランタンが、街のあちこちで仄かな明かりを灯している。くりぬかれた中身はカボチャのクッキーやパイに有効利用され、それぞれオバケや魔女に扮した子供たちに可愛くラッピングされたものが手渡された。子供たちは籠いっぱいにお菓子を貰いながら、それでもなお大人たちを見ればお菓子を貰える不思議な魔法の言葉を唱えた。

「「「「トリックオアトリート!!」」」」

 その言葉を唱えれば、大人たちは籠にお菓子を入れてくれる。この日ばかりは日ごろ食べ過ぎないようにと我慢しているお菓子も、今日は我慢しなくていいのだ。
……全く、揃いも揃ってはしゃぎおって」
 バギーの傍らで寛ぎながら、ヴォルフは目の前ではしゃぐ彼らを見つめてやれやれと肩を竦めた。
 大きなカボチャを被ったベポは、早速大人たちに囲まれて飴やらクッキーやらを詰め込まれていた。ローが用意した血糊とシャチが施したメイクで完璧なゾンビになったペンギンは、ペンギンの顔を覗き込もうとした女の子にノリノリで腕を掲げて悲鳴を上げられている。
 一方のシャチは牙もメイクも完璧な半獣人型の狼男だ。その後ろで、「絶対似合う!」とノリノリで用意された衣装を着たら、何故か衣装を用意したシャチ本人に「着せるんじゃなかった……似合うってレベルじゃない……!」と膝から崩れ落ちながら言われてしまったローがはあ、と籠を持て余してため息を吐いていた。
 籠を持て余してはいるが、ローはそこに立っているだけで籠にお菓子を放り込まれてしまう。「いらねえっつってんだろ」と突っぱねた所でまた別の角度からお菓子を投げ込まれてしまうので、ローは流石に諦めてしまったようだ。重くなった籠の中身を能力を使ってコッソリとバギーに乗せて来るが、荷台に乗ったお菓子は既にうず高く積み上げられている。

「トリックオアトリート!! ヴォルフ~、お菓子は?」
「ああもう早速来おったなガキ共め!! ほら、ペンギン達が作ったクッキーだ!!」

 そして自分もここに立っている以上、この祭りに巻き込まれる事には代わらない。あらかじめ用意していたクッキーを子供たちに配ると、子供たちはぱああっと顔を輝かせた。ありがとー! と口々に言いながら走り去る子供たちに「そんなにはしゃぐと転ぶぞ」と声をかける。まだ本格的な寒波が来ていないとはいえ、昨日降った雪は今日は固く締まっている。柔らかい雪の上ならともかくとして、固い雪の上は転びやすいのだと今一度注意が必要だった。

 そうして子供たちにお菓子を配っていると、ふと、輪の中にとある違和感を見つけた。

 まだ五歳ほどの、小さな子供。大きなカボチャを被った子供の籠には、何も入っていなかった。
 誰かに声をかけるでもなく、子供はぽつんと歩いているだけだった。誰も気にしていないのか、その子供の籠にお菓子を投げる者はいない。

 ヴォルフはクッキーの包みをひとつ掴み、その子供の籠に投げ入れた。

 子供は振り返り、ヴォルフをじっと見つめる。
「そんなに見つめんでも、そのお菓子はお前さんのモンじゃよ」
 そう言ってやると、子供はぺこりと頭を下げてふっと消えた。
 まるで最初からいなかったように子供はいなくなり、けれどヴォルフが子供に投げたお菓子もまた綺麗に消えてなくなっている。
 そして――彼の代わりに真っ白なシーツに身を包んだ子供が、同じく空っぽの籠を携えてふらふらとヴォルフに近寄った。
「ああ、ああ。分かっておるよ。ほら、ちゃんと順番に並ぶんじゃぞ」
 真っ白なシーツを被った子供の籠にクッキーを投げ、ヴォルフは叫ぶ。
「ヴォルフー!! トリックオアトリート!!」
「だからちゃんと並べ!! 順番に並んだらお菓子をくれてやるからの」
 全身をぐるぐると包帯で巻いた男の子に呼ばれ、ヴォルフは怒鳴りながらもクッキーの包みを取り出した。


 今日は生者と死者が混じり合う日。
 生と死が曖昧になる夕暮れに、ランタンを灯して生者は死者を迎え、死者は生者と混じり合ってひとときの時間を過ごす。
 お互いの境界を穢さぬように、けれどお互いに敬意を払って生者は死者と過ごし、死者もまた柔らかな灯火の中で生者の歓待を受けるのだ。
 声を発せぬ死者を見かけたらお菓子を。
 声を発する生者にもお菓子を。

 今日は、生者と死者が混じり合う日なのだから。


「「「ヴォルフー!! トリックオアトリート!!」」」
「お前らは家で散々食っただろうが!! 家にまだあるから帰ったら食え!!」
 ペンギンたちが同時に叫んだのを、同じくらいの声量で叫び返す。
 やれやれと肩を竦めるヴォルフの後ろで、バギーの荷台のお菓子が更に膨れ上がっていったのだった。