桃のパフェ

「望普で桃のパフェ」でお題をいただきました。ありがとうございました!
現パロ。高校生望普が授業をサボります。

「平日のみ、15食限定なんだって」

教室を出て廊下を曲がったところで始業のチャイムが鳴った。これから四限目がはじまるが、望はそしらぬふりで渡り廊下の先の階段を下りる。ピロティを抜けるとき、だれかとばったり出くわさないかヒヤヒヤしたが、運よくだれにも会わないまま校舎を出た。いかにも「用事があってそっちに向かってます」という顔で裏門を開けると、先に着いていた普賢が用心深く校舎をうかがった。
「大丈夫そう?」
声をひそめる友人に無言で頷く。足音など立たないけれど、つとめて静かに、二人は駅への坂をくだりはじめる。

「平日のみ、15食限定なんだって」
昨日の夜、そろそろ寝ようかという時間に、普賢からLINEが来た。先月できたばかりのカフェに行きたいという。駅近くの真新しい店に行列ができているのを望も見ていたし、並ぶほどうまいのだろうと思っていたのだけれど、いかにもおしゃれでスタイリッシュな店構えだったから、高校生には縁遠い店であろうと通り過ぎていたのだ。
普賢もそんなに興味はなさそうだったはずだが、と返信に迷っていると
「季節のパフェ、いまは桃なんだけど、今週いっぱいで終わりなんだって」
添付されたSNSにはとっても心惹かれる写真が何枚かアップされている。
今日は木曜日。
「望ちゃん、桃好きでしょ?」
そのひと言で決まった。平日のみというなら、平日に行くしかあるまい。

通学時間は高校生であふれている通学路も、この時間は歩く人もまばらだった。どこかから電車が走る音が聞こえてくる。並んで歩く普賢の横顔をちらりと見た。まっすぐ前を見る目が澄んで、わずかに青い空が映っている。
店までは歩いて15分。その間、普賢はパフェがどんなにおいしいかをつらつらとしゃべり続ける。桃の甘みに合わせて中のジェラートの酸味を変えているのだとか、トッピングは胡桃じゃなくてアーモンドが合うらしいとか、チョコレートの飾りがきれいだとか。
相槌を打ちながら思わず笑みがこぼれた。いつも小難しい話ばかりしていると思っていたけれど、こんな一面もあったか。
「望ちゃんなら絶対付き合ってくれると思ってた」と普賢は声を弾ませる。足取りは軽やかで、つまりは桃のパフェが楽しみなんだろう。いつも何を考えているかよくわからなくて、本音を読み取らせないのに、いまは手に取るようにわかるのが、なんだかおかしかった。「桃であれば行くしかあるまい」と返事をしたけれど、桃じゃなかったらこの誘いに乗らなかったかと聞かれれば、言葉を濁していたと思う。
「桃の次はマスカットなんだって」
「なんだと。それはまた行かねば」
「いつにするか、桃食べながら相談しよう」
信号の一つ先の交差点、開店前の店先に数人並んでいるのが見えた。全員が全員パフェを頼むわけではないだろうけれど、最後尾に並んだとしても無事オーダーできそうだ。授業サボったかいがあったね、と普賢は秘密を打ち明ける口調で耳打ちする。
こんなふうに秘密が増えるなら、授業なんていくらでもサボってやろうと望は思った。