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ゆうひです
2025-10-31 21:00:00
8025文字
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小説
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僕の優秀な、
降風WEBオンリー用の小説。降谷さんが探偵・安室としてちょっとした依頼を受けて変装する話
たいらに
均
なら
したコーヒーの粉のまんなかに、細くていねいにお湯を注ぐ。ふつふつと丸く膨らんでくる泡は新鮮なコーヒー豆の証だ。少し果実味を感じさせるふくよかな香りがカウンターに漂った。フィルターから落ちる濃褐色のしずくが集まると、喫茶店・ポアロの自慢の一杯になる。
安室はブレンドを注文した客のもとにそれを運んだ。接客業らしい愛想のいい笑顔と柔らかい声色を用意して、見慣れた顔の女性客のテーブルに湯気の立つコーヒーを置く。
「あのう、安室さんに少し相談したいことがあるんですけど」
配膳後に背を向けようとしたときにそう声をかけられて、安室は「なんでしょう」と返した。
私立探偵・安室透という存在は、実際のところ探偵としての仕事を積極的におこなってはいない。秘密裏に動かなければならない公安の仕事か、潜入捜査員として関わっている組織の活動を行う中で「探偵」という肩書きが必要になったときに、降谷零という男が切るカードのひとつだった。
しかしながら表向きには、「安室透」は探偵と喫茶店アルバイトのダブルワーカーということになっていて、顔見知りや喫茶店の常連は安室の本業を探偵だと思っている。特に広報活動をしていないながらも、その繋がりから「探偵」への依頼をされることが稀にあるのだった。探偵業は監視対象である毛利家が関係する事件をのぞけば、潜入先であるポアロでの人間関係を円滑にするためにサービス価格で依頼を受けるくらいだった。
今回もそうで、さきほどの客の相談とは一言で言えば単純な浮気調査だった。依頼人である彼女の恋人は、なにか最近よそよそしいような、隠し事をしているような雰囲気なのだという。当人にとっては深刻な問題だろうが、探偵への依頼としては一番よくある部類のものだ。
ひとつ問題なのは、依頼人の恋人の男性もポアロの常連だということだった。勤め人同士のカップルである二人は仕事帰りによくポアロで待ち合わせをしていて、当然彼も安室の顔を知っている。尾行するにせよ聞き込みをするにせよ、面が割れていると少しやりづらい。
バイト後の帰り道でどうしようかと考えているうちに、ここしばらくの拠点としているメゾンモクバに帰り着いた。ドアを開けると飼い犬のハロが嬉しそうに尻尾を振って出迎えてくれた。頭を撫で、顎下を撫で、両の手を使って肩から背中を撫でた。柔らかくて少し硬い、白い犬の毛の感触を手で楽しんでいると心身の疲れがほどけていく。
撫でたい犬はもう一匹いるが、今日はいない──正確には犬ではなくて、時々犬っぽく見える人間だが。そういえば、その風見(その時々犬っぽい人間)に、変装の痕跡を目ざとく見咎められたことがあった。そうか、変装すればいいか、と降谷は思いついた。素顔の見えづらい小物を使ったり服装をちょっと変えたりといった小手先のものではなく、まったくの別人になりきるような。以前に組織の女──ベルモットという、変装術に長けた者に一通り教わったことがある。そのときのように、自分とはまったく違う顔のヘッドマスクを使ったりすれば、ターゲットの情報も探りやすくなる。マスクを自作するのは面倒ではあるが、これも習得しておけば今後何かの役に立つかもしれない。現代とは便利なもので、そういった特殊メイクのような専門的な技術についても、インターネットで調べればある程度の知識が得られるのだった。降谷にはさらに、プロの技術を施された経験もある。
浮気調査それ自体は難しいことではない。浮気をする人間が警戒するのはパートナーと知人の目くらいで、よほど用心深い人間以外は少しのあいだ張り付いてさえいれば尻尾を出すのが普通だ。ひとまず彼のほうが「予定があって会えない」と伝えてきたという日に行動を追ってみよう。降谷は自身のスケジュールを確認し、ポアロのシフトを少し調整してもらうことにした。
この街で、尾行しても目立たないようなマスクの造形を考えるとき、いわゆる「普通の日本人」として溶け込むなら、東アジア系の、いわゆるモンゴロイドをモデルにするのが妥当だろう。降谷は自分のことを日本人でしかないと思っているが──日本で育っているし、日本国籍があるのだから名実ともに当然そうだ──降谷自身のブロンズ色の肌は、この国の中ではときどき疎外感を覚えさせるものだった。
複雑な気持ちもないではないが、成形前のシリコンに混ぜるための粉末顔料を明るいベージュに調整する。顔以外の、見える部分に使うファンデーションの色にできるだけ近づけたい。少量のシリコンでいくつかのサンプルを作り、その配合をメモしておく。
それから、アルジネートという型取り剤を自分の顔に盛って顔型を取っているあいだ、どんな顔になろうか考えた。少しくらいなら老いたり若返ったりもできる。周囲にあまり威圧感を与えないように、目立たないようにするなら少し弱々しいくらいの印象がいいかもしれない。
顔の型取りが終わるとそれを石膏取りし、ライフキャストと呼ばれる自分の顔の石膏像の上に、なりたい顔を粘土で造形する。それをまた石膏で型取り、その型にシリコンを流し込み、成形されたものをさらに専用の着色料やファンデーションで細かくペイントする。できるだけ自然に見えるよう、眉ともみあげには少し植毛する。薄い眉毛を見るとつい風見が思い出されて、少し面白かった。
それなりに時間はかかったが、二つめで納得いくものができた。完成したマスクを装着し黒髪のウィッグをかぶると、それなりに平凡な男に見えた。帽子を目深に被ればそう違和感も持たれないだろう。
ただ、匂いで人を判断する飼い犬のハロには変装の意味はないようだったが。
土曜早朝、ターゲットの住むアパートに向かう。風見に買ってきてもらったものの、「地味すぎて少し趣味じゃないな」とほとんど着ていなかった服を着ることにした。どこにでも売っていそうなグレーのTシャツと濃いインディゴのデニムパンツに、黒のカーディガンを羽織った。自作したヘッドマスクとウィッグを被り、首や手の素肌が見える部分にはファンデーションを塗る。目にはダークブラウンのカラーコンタクトを入れ、降谷本来の持つ青い瞳を隠した。歩き方も変える。少し猫背になり、意識していつもより緩慢な動きで目的地に向かった。
男のアパートの向かいには都合よく喫茶店があった。窓際の席に座ればそのアパートの人の出入りを観察することができる。店内は、客が落ち着けるようにという配慮からか衝立や植物が多く置かれており、着席すれば他の客や店員からはあまり見えないつくりなのがありがたかった。ミステリー小説の文庫本をさりげなくテーブルに置き、長居をする客だと暗に示す。何時間ここにいることになるだろうか。
頼んだコーヒーにミルクを入れてスプーンでかき混ぜると、黒い湖面に白い渦が巻いた。こういったとき──別人になりきろうとするとき、どこまで本来の自分からずらした行動を取るべきか迷う。たとえば、降谷自身は基本的に選ばないカフェラテを頼むとか。今回に関してはそんなに深刻な状況でもないので、完璧な別人になりきる必要もないのだが。
午前七時ごろから居座って、午前十一時になろうとするころに男が姿を現した。
身長一七〇センチほどの痩せ型で、年齢は三十過ぎ。さっぱりとした黒髪に少しツリ目の一重。職業はメーカー系の営業職。ポアロでの彼女との待ち合わせでは、彼女より遅れて来ることが多い。趣味はゲーム。ライトな競馬ファン。コーヒーは深煎りのブラックを好んでいる。ジャガイモを使った料理が好き。照れると髪をいじるクセがある。デートでは自分から提案するよりも彼女に誘われた場所に行くことが多い──降谷が彼について知っているのはおおよそそんなところだ。ポアロにやってくるときの彼はスーツ姿が多かったが、今日は少しカジュアルな装いだった。白いTシャツに黒のチノパン、ベージュのステンカラージャケット。降谷は四杯分のコーヒーの支払いを済ませ、店を出た。
男のあとをさりげなく尾行する。スマホを何度も確認していて、普段と比べて少しそわそわしているように見えなくもない。電車を使って数駅移動すると、男は百貨店に入った。粉っぽい匂いの化粧品売り場を通り抜け、向かった先はジュエリー売り場だった。降谷はショーケースの中できらめく宝石たちを眺めるふりをしながら、男の動向に注意を払う。男が店員と二言三言やりとりすると、しばらくしてトレーに乗せられた小さな箱が現れた。今日は男が予約していたアクセサリーを受け取る日だったらしい。
これが浮気相手へのものであれば、彼女との破局が近いだろう。二人が会っている頻度から言えば彼が浮気している可能性は低いように思える。しかしそういうことをする人間はどうにか隙間時間をやりくりするものだし、ひと月やふた月に一度しか逢引しないような相手なら、何にせよばれにくくはある。結婚詐欺やデート商法を行うような輩はプレゼント用のアクセサリーを使い回したりすらする。
しかし彼女へのサプライズ──年齢的にプロポーズもありえる──となれば話は真逆だ。彼女に対しての対応が普段と変わってしまうのも仕方ないかもしれない。そういえば依頼人の誕生日はもうすぐではなかったか。
「彼女、ここのアクセサリーが好きなので。前もネックレスを贈ってまして」
男ははにかんで言った。思い返せば、依頼人の彼女はいつも同じネックレスをしていた。小粒な石がいくつか嵌まったごく細い三日月型のモチーフの首飾りは、オフィスカジュアルの多い彼女の装いにささやかに華を添えていた。
それは毎度ご贔屓にありがとうございます、と店員は言い、続けて小箱の中身とメッセージカードの確認などをおこなう。降谷が背中越しにちらりと視線をやると、プラチナの台座に透き通った宝石が花の形に並ぶ指輪が見えた。
諸々の手続きが終わり、小さなショッパーを手に持った男を見送る店員は「うまくいくといいですね」と笑顔で言った。
その後、男はさらに上階にある紳士服売り場へと向かい、新しい服を求めている様子だった。おそらくは、あの小さな箱を渡すときに着るためのものだろう。降谷はそこで調査を打ち切ることにした。
謎は拍子抜けするくらいあっさりと解決してしまった。真実をそのまま伝えるのも無粋なので、依頼人には「もう少し様子を見る」と伝えておくことにする。
それにしても、マスクを被りっぱなしで顔周りの違和感が多少不快ではあるものの、それなりに手間暇かけた変装をすぐに解くのも勿体無い気はする。このままいくらか寄り道をして、周りの人間に怪しまれたりしないか検証してみようか。あえてポアロに行ってみるとか──とも考えたが、注文時に声を出せば降谷だとバレてしまうだろう。それでは自分をよく知る風見と対面してみるのはどうだろうと思った。
現在は十三時過ぎ。降谷は風見を呼び出すことにした。変装のクオリティの検証も兼ねて、もしまた昼食を抜いていたら遅めのランチをおごってやろうと決めた。風見が持っている自分専用のスマホに向けて「日比谷公園で待て」とだけ送り、駅に向かう。
恋人に、サプライズでアクセサリーのプレゼント。実にロマンチックだ。降谷がそれをしたいと思っても、する機会はしばらくないだろう。部下であり恋人でもある風見とともに特殊な業務についているうちは、少なくとも。
日比谷公園は現在風見が詰めているであろう警視庁の庁舎からそう遠くない。電車で二十分ほど揺られて到着した降谷よりも、当然風見は先にやってきていた。コンビニのテイクアウトのコーヒーカップを片手に、何をするでもなくベンチに座っている。爽やかな風の吹く秋の昼下がりの木漏れ日が、風見のスーツの上でちらちら揺れていた。小休憩する疲れたサラリーマンを装うには少し背筋が伸び過ぎているが、降谷は風見のそういうところを好ましく思っている。
風見の視界に入ったところで降谷は風見に一瞥されたが、すぐに目を逸らされた。まだ自分に近づいてくる男が降谷だとは気づいていないようだ。風見の座るベンチまであと三メートルほどのところまで歩いてきて、さてどう声をかけようか──と考えていると、降谷の後ろからカランッカランッカランッと正体不明の音が近づいてきた。
振り返ると、犬が。
舌を出して満面の笑みのラブラドールレトリバーが、伸縮式のリードを引きずりながら全速力で駆けてきていた。プラスチックの持ち手が地面とぶつかり派手な音を鳴らしながら跳ねている。近くに飼い主らしき人物の姿はない。
降谷はとっさにしゃがみ、犬を通せんぼするようにして動きを鈍らせ、そのリードを掴んだ。リードを短く巻き取って、たかたか足踏みをする犬の背中を抑えておすわりをさせる。
すぐ近くで一部始終を見ていた風見が犬と降谷に寄ってきた。「大丈夫ですか」と声をかけられて降谷は頷いた。声を出すとバレてしまう、と思ってついそうしてしまった──別に今、バレたって構わないのだが。
また今にも走り出したそうにしている犬を降谷が抑えているあいだに、風見は首輪を確認して電話番号の書かれたタグがあるのを見つけた。
「すぐそばに交番があるので、僕が連れていきますよ」
風見の言葉に降谷は再び頷いた。一言も話さない降谷に、風見が一瞬怪訝な視線を向けたので、降谷は自分の喉を指さしてトントンと叩いたあと、両手の人差し指をクロスさせてバツ印を作った。風見は降谷の「話せない」というジェスチャーを正しく受け取ったようだった。風見に犬のリードの持ち手を渡し、「頼んだぞ」という目線を送ると風見は了承の笑顔を見せた。この程度のやり取りであれば筆談などは必要ないだろう。
「それでは」と言って交番に向かおうとする風見の足元で、犬はその先導を拒否するように、ぎゅっと足を踏ん張っている。風見は「え」と小さく声に出し、困ったなあという空気を素直に醸し出した。手のかかる犬だな、と降谷の口元がつい緩む。
司令の上では、本当は風見は降谷が来るまでここで待っているべきで、目の前で起きた不測のトラブルも傍観しておいたほうがよかった。しかしまあ、交番に犬を預けるだけならそんなに時間もかからないだろうし、日比谷公園前交番はほとんど日比谷公園の中にあるようなものだからそこまで待ち合わせには支障はない。だからこの程度の「お人好し」は降谷としても構わない。そう思いながら降谷が犬を眺めていると、
「ワンちゃんが気になるなら、無事に飼い主のところに戻れるまで一緒に待ちますか?」
と風見が提案した。降谷はまた頷いた。降谷が踏ん張る犬の尻を持ち上げて押してやると、しぶしぶ前に進み始めた。風見はほっとした顔で歩き出し、犬と降谷はそれについていった。
噴水広場から三百メートルほど、公園の中を歩く。空は青い。並ぶ木々の中に黄色い葉がまだらに覗く。黙って歩いているので、二人と一匹の足音と、葉ずれの音がよく聞こえる。降谷は自分でもよくしゃべるほうだという自覚があるが、いまは沈黙も悪くないなと思った。いつもより遅く歩く降谷に風見が歩くスピードを合わせていることにふと気づいて、降谷はこっそり笑った。いつも早歩きの自分に風見をついて来させているので、やっていることは普段と変わらないと言えばそうなのだが。
交番に着き、当番の巡査が首輪のタグに書いてある番号に電話をかけるとすぐに飼い主に繋がった。散歩中にうっかり手を離してしまったのだという。そう離れていない場所にいるとのことで、これから交番まで迎えに来るそうだ。なんにせよ飼い主と離れて走り回っていたこの犬が事故に遭わなくてよかった。風見が巡査と簡単な事務処理をしているのを横目に見ながら、降谷はしゃがんでやんちゃな犬を撫でた。頭を撫で、顎下を撫で、両手を使って肩から背中を撫でる。明るいクリーム色の短い毛並みは、ハロとは少し違う手触りだ。ふと視線を上げると風見がこちらを見下ろしていた。風見にはそうとはわからないはずだが、浮気現場を見られたような少し気恥ずかしい気持ちになった。
少しして若い女性が交番にやってきて、無事に犬は飼い主に引き渡された。巡査に軽く注意を受けた飼い主はしきりに恐縮し、「この人が捕まえてくれたんですよ」と紹介された降谷に何度もぺこぺこと頭を下げた。降谷が何も言わないので女性が不思議そうな顔をし、それを察した風見が「この方、声が出せないみたいで」とフォローしてくれた。
交番の前で、リードをしっかりと握った彼女と犬に挨拶をして別れた。
「それで降谷さん、噴水広場まで戻りますか?」
風見の言葉に降谷は驚いた。そして、もういいか、と思って普段通りの声を出した。
「いや、いい。風見、昼食は取ったか? まだだったら一緒にどうかと思ってね」
「ちゃんとしたメシはまだですね」
降谷はそうか、と言って飲食店の多く並ぶ通りに向かって歩き始めた。公園沿いの道では、ビル風が落ち葉を巻き上げている。
「いつから気づいてた?」
「ついさっきですよ。犬の撫で方で──ハロくんを撫でるときと手つきが同じだったので」
降谷は思わず小さく吹き出した。よく見ている。刑事として有能で、恋人として優秀だ。
「それから、本当に失声症の方であれば、話しかけられたらすぐにヘルプマークを見せるなり筆談用の道具を出すなりされることが多いかと」
と風見は補足した。
「なるほど。今後の参考にさせてもらうよ」
二人は何度か来たことのある蕎麦屋の暖簾をくぐった。
しばらく外の風に晒されていたので、二人とも温かい掛け蕎麦を頼むことにした。
「それで、どうしてそんな変装を?」
注文を済ませてすぐに風見に訊かれて、降谷は一部始終を説明した。
「まあ単に、どの程度僕の変装が通用するかというテストだったんだ」
風見は得心したようで、なるほど、よくできてますねと降谷のマスクをしげしげと眺めた。
「それでご飯が食べられるんですか」
「一応ね」
気にするところはそこなのかと思ったが、まあこの状況では一番に出て当然の疑問だろう。そうしているうちに降谷の前に鴨南蛮蕎麦が、風見の前にとろろ蕎麦が置かれた。
「それにしても、アクセサリーのサプライズプレゼントですか」
風見の言葉に含みを感じて、降谷は続きを促した。
「身につけるものは本人の趣味に合うかどうかが大事ですから。元々本人が欲しいと言っていたものでなければ、アクセサリーは一緒に選んだ方がいい物の筆頭だというのが定説かと」
「そういうものか」
降谷は鴨肉をかじり、蕎麦を啜った。降谷には恋人同士のロールモデルのように感じられたことに、風見はもう少し現実的な目線を持っていたようだ。
「じゃあ、君へのサプライズプレゼントもやめておいたほうがいいな」
降谷は冗談めかしてささやかなロマンを捨ててみせる。
「そこまでの変装ができるなら、一緒に店に入って選んだりもできそうですし。さっきみたいに外でデートだって──」
風見はなんでもないことのようにそう言いながらとろろの絡んだ蕎麦を啜った。さっきのはデートだったかな。降谷は風見の顔を見ようとしたが、眼鏡が湯気で曇っていて表情はよくわからなかった。少し顔の血色が良くなっているような気もする──温かいものを食べているせいかもしれないが。
「いつか、な」
「いつかですね」
風見が食べているとろろ蕎麦も美味そうに見えてきたので、次に来たときはそれを頼もうかな、と降谷は思った。
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