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ひじり
2025-10-30 11:42:07
1082文字
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大新 小説
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両の手
大新。
新橋のみた夢の話。
筆者が実際にみた夢をもとに、夏目漱石『夢十夜』の第一夜の雰囲気を加えました。
こんな夢を見た。
木々の騒めきがこだまする雑木林で、俺は土を掘っていた。手が汚れるのも気にせず、懸命に両の手を動かして、されども目の前の土は一向に減っていない。爪の隙間に土塊が入り込んでくる。尖った石が装甲の下の柔肌を突き刺す。掘り起こされた土から虫が蠢く。そのすべてを俺は無視して土を掘っていた。
俺の横には大崎様が立っている。大した光も差し込んでいないのに、その顔は暗く、表情は読み取ることができなかった。革手袋には鈍く輝く鉄塊がある。こちらに向けられた銃口は、いつでも命を刈り取れるのだと言外に伝えていた。回転式拳銃の弾倉に果たして薬莢が装填されているのかこちらからは判断できない。ただ、確かに合わせられた照準はまったく俺を逃がす気もなく、それなのに俺は仄かな喜びを感じていた。
黙々と土を掘る俺と、それを静かに見下ろす大崎様。重たい土は雨上がりの匂いを含んでいた。鍬のように指を曲げ、土を掬い、傍らへと盛る。堆積が増えているとは到底思えなかった。
「これでは日が暮れてしまいますね」と俺は言った。相違なかった。朝だか昼だかわからないが、薄暗い雑木林が真の闇に包まれるのに時間はかからないだろう。大崎様は何も言わなかった。
「俺の入る穴となると、あとどれほど必要でしょうか」
俺はさも当然かのように尋ねた。俺は俺の墓穴を掘っているらしかった。
「寝そべってみたらどうですか」
大崎様ははじめて口を開いた。流石探偵様と俺は納得し、その場に寝そべってみせた。掘っていた穴は俺の顔よりも小さかった。足のあたりは靴を懸命に動かして、自分の横幅は両の手を水掻きみたいに動かして、俺は土の上に印をつけた。土で汚れた髪や服をはらうことなく、俺は満足気に膝立ちになった。点の印を早速繋げて線にした。銃口はまだこちらを見ていた。
さく、と落ち葉を踏みしめる音がした。次いで話し声が近付いてきた。大崎様は急いで木陰に隠れた。俺もそれに従うように隆起した地面の陰に隠れた。音の主は男の大人が二人であるようだった。
「我らが王はどこに消えたんだか」
「兜を被ってしまわれたんだよ」
「九人目が駄目だったのか」
「青く清らかな愁に惚れただけだろう」
音は次第に遠ざかった。どこか懐かしい音だった。
「よかったんですか、助けを求めなくて」
大崎様は無感情に言った。
「おかしなことをおっしゃりますね。俺たちの仲ではありませんか」
大崎様が微笑んだ気がした。腹のあたりが熱くなるのを感じた。赤子をあやすような温もりだった。俺の両の手には冷たい土が握られていた。
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