白殊皎(しらよし こう)
2025-11-01 15:00:00
4576文字
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やもすると?

えふご【歳勇/土近/としいさ/ひじこん】
まだお付き合いしていない2人が北海道旅行をする話。
新聞広告の台詞が入っています。

このタイトル及び内容は、第1回【白殊にタイトルを投げつけよう】企画にてリクエストいただいたものです。
ありがとうございます!

 京での特異点が修正され、新選組の隊士たちも無事帰還した。
 その後新たなえにしが紡がれたことによる召喚で、近藤勇と藤堂平助に河上彦斎、現地での契約した原田左之助が新たに加わった。
 河上彦斎を除けば全員新選組なので、彼らはカルデアの中でも結構な大所帯になったことになる。


 新規加入のメンバーもだいぶカルデアに馴染んだ頃、新選組の面々に管制室への招集がかかった。
 すわまた特異点かと緊張する面々の前に、マスターと、マシュ・キリエライト、そしてダ・ヴィンチちゃんがやってきた。
 皆一様に表情が明るい。
「みなさん、先日は特異点の修正、お疲れ様でした!」
 まず口火を切ったのはマシュだった。
「そして、新選組の皆さんに朗報です! 今回のご褒美として、レイシフトを利用した二泊三日の旅行へのお許しが出ました!!」
「へーそれは結構な太っ腹な話だねぇ」
 とりあえず特異点じゃなくてよかった、と斎藤一が答えた。
「レイシフトを使った旅行?」
 ぽかんとしているのは近藤、原田、藤堂の三人。
 それは来たばかりなのでしかたのないことだろう。
「うんうん、私たちが使っているレイシフトは、過去にならリソースの供給があれば飛ぶことができてね。それを使って白紙化する前の好きな場所に行くことができるというわけさ。なので──」
 マシュから引き継いだのはダ・ヴィンチちゃん。
「ゆかりの地を巡るなり、リゾート地を満喫するもよし、自由に希望を言ってくれたまえ」
 ぴっかぴかの笑顔でダ・ヴィンチちゃんは締めくくり、斎藤や永倉はそれはいい、と楽しむ様子を見せたが、一人が手を上げた。
「ダ・ヴィンチ……ちゃん?」
「ん? 何かな近藤くん」
 それは新選組局長・近藤勇で、戸惑いを隠せない表情をしている。
「皆はともかく、私はあの特異点の元凶。それが恩賞にあずかるのは少々気が引けるのだが……
──そんな事ははないよ。近藤さん最後には誠の旗を立てて、頑張ってくれたじゃない。近藤さんがいなかったらあの場は収まらなかったよ。
 明るい髪色の少女マスターはそう言って、近藤と新選組のメンバーに笑顔を向けた。
「違いねぇや。局長、遠慮するこたないぜ」
 今日は浅葱の羽織で若い姿の永倉が笑い飛ばす。
「そうそう、するだけ損ですよっと」
 同じく羽織姿の斎藤も同意した。
「そうなのか……
 近藤はいまいち納得がいかない様子だったが、飲み込みはしたようだ。
「では準備もあるから、できるだけ早く行き先を決めてほしいのだけど。大丈夫かな?」
 ダ・ヴィンチちゃんの言葉に『え、いまここで!?』という顔を全員がした。
「ゴメンね〜。その代わり、全員同じ場所でも、それぞれ違う場所でも大丈夫だし、向こうで使う通貨にも色を付けておくから」
 ダ・ヴィンチちゃんは舌をペロッと出して必殺のウインクをした。
 頬に手を当てたり腕組みをしたり、じーっと床を見つめたり、各々がいろんな姿勢で考え込む。
「う〜ん、難しいですね。ここは一つ、近藤さんが行きたいところを発表していただこうじゃありませんか!」
「総司!?」
 突然の指名に近藤はびっくりして沖田を見やる。
「いけませんか? 局長と同じところだったら行きたいと思う人いるかもですし!」
「違ぇねぇや、何処行きてぇんだ局長。良さげな所なら俺もついて行くぜ」
 さも楽しそうに永倉が笑う。
「そうだな……
 近藤はその整った眉をしばししかめていたが、やがてうん、と頷いた。
「私は、蝦夷地……いやいまは……ほっかい、どう? と言うんだったかな。そこに行ってみたい」
「「「「「北海道ぅう!?」」」」」
 近藤の出した答えに隊士たちは目が点になった。
「駄目かな?」
その反応に近藤はしゅん、と沈み込む。
「ダメじゃないっスけど。俺、他に行きたいところあるんでパスっす」
「行きたきゃ行けばいいぜ。俺ァ武田の大将のお膝元にでも行くわ」
「浮かれている場合かよ。まぁ折角だから行くけど。あ、蝦夷地は遠慮させてもらう」
「そうだねぇ、俺は会津に行ってラーメンでもいただきますかね」
「いいね。私は京に行こうかな。昔は景色を楽しんだりする余裕はなかったからね」
 返答した全員が全員、別々の所を言いだし近藤は戸惑った。
「いや、ほら。の地には美味しいものや興味深いものがたくさんあると聞いたの、だ……けど……
「はい、決まりですね。もちろん、沖田さんも北海道は遠慮します。ということで近藤さん、土方さんと楽しんできてください! あ、お土産はよろしくです。まかり間違ってもジンギスカンキャラメルとかやめてくださいね」
 何かまずいことを言ったのかとオロオロする近藤を尻目に、沖田総司はそう言い放った。
「総司!?」
 隊士のほぼ全員から行きたくない発言をもらい、近藤の顔がみるみるくもる。
「おい、沖田。俺は行くともなんとも──」
 それまでずっと黙っていた土方がそこでやっと口を開いた。
「え、土方さんは近藤さんの行くとこならどこでも行くでしょう?」
 いつも以上によく回る沖田の舌に忌々しげな顔をした土方だったが……
……嫌かい? 歳」
………………
 おいて行かれた子供のような顔の近藤に見つめられて言葉に詰まる。
「まぁ……あんたと一緒なら、な」




──という経緯の元、近藤と土方が降り立ったのは……
「近藤さん…………
「なんだい、歳?」
 あんたわかってここに来たのか、と言いたそうな長いマフラーと黒のロングコートの土方の横で、黒のサングラスに襟ぐりの広いゆったりとしたセーターを身に纏った近藤はにっこりと笑った。
──これは笑顔で誤魔化そうとしている。
…………はぁ」
 それでも来てしまったものはしかたがない。
 雪の積もった道を楽しそうに歩む近藤のうしろを、土方はゆっくりと歩いていった。

──ここは……日本の北海道・函館にある五稜郭公園である。

 なんとまぁ、近藤は現代の五稜郭を行き先に選んだのだ。
 しかも土方を伴って。
 言うまでもなくここは土方の因縁の土地。
 土方歳三終焉の場所である。
 聖杯からの知識やカルデアのライブラリで新選組関係の本も読んでいるようだから、知らないわけではないと思うが……
「またここに立つことになるとはな」
 凍てつく空気に白い息を吐きながら少しだけ感傷に浸る。
 あの頃とは全く変わった景色に、当時の狂おしさはあまり感じなかった。
 それはあの人が目の前にいるからかもしれない。
「歳、あそこに土産物店がある。見て行かないか?」
「あぁ」
 うきうきと建物の中に入る近藤に短く返事を返し、続いて店内に入る。
「いらっしゃい」
 人の良さそうな年嵩の女性店員が迎えてくれた店の中は暖房が効いて暖かい。
 雪の北海道では少し寒そうな格好の近藤が心配だったので、ちょうどいいなと思った。
 ほかの客はあまりいないが、近藤と土方の来訪にヒソヒソ声で、「みて、あの人。超キレイ、モデルかな?」となど声が聞こえてくる。
 中には失礼にも許可もなくスマフォのカメラを向ける人間もいるくらいだ。
 近藤さんに勝手なことするんじゃねぇ、と土方が睨みをきかせる。
 その視線に気づいた同行者が「止めなよ、彼氏凄い怒ってる」と袖を引く。
 流石に自分の無礼を認めかつ土方の視線を恐れたか、スマフォをしまい土方にごめんなさいと頭だけ下げてその客は店から出ていった。
 ちなみに別の客から土方に対しても「カッコいい」とか「凄い風格、なにもんだ」とかの声があったが、彼の耳には入っていない。

 北海道の物産が並ぶ店内の一角には見慣れた模様のコーナーが作られていた。
 言うまでもなく、新選組グッズを扱っている。
 キーホルダーに浅葱の法被、誠の旗、関連した本、中には新選組の面々が使っていたという刀のレプリカまで存在した。
「歳、凄い品揃えだ」
 近藤はその中から何かを一つ取り上げた。
…………
 それは一枚のポストカード。
 描かれている肖像は……土方歳三。
「ここで、こんなにも新選組が愛されているのは、お前が走り続けてくれたお陰だな」
 それをそっと撫でながら近藤は呟く。
「──今もおまえはここにいるのか。あの日掲げた『誠』とともに」
 土方の胸をぽんと叩いて近藤は微笑んだ。
「あぁ、俺の『誠』は今もここにある」
 土方はその笑みに微かに口角を上げて答えた。
「そういえば、総司に土産を頼まれていたっけ。なにがいいかな、ちょっと向こうを見てくる」
 しんみりとした空気だったのが、切り替えた近藤の言葉で吹き飛んだ。
「あんまりはしゃぐなよ」
 一つため息をついて言った土方の呟きは、耳に届いているのかいないのかわからなかった。
「お兄さん、お兄さん」
 暫くして土方に声をかけ、腕をぽんぽんと叩く者がいた。
 土方が振り返ると、入店した時に迎えてくれた店員が、盆の上に二つの湯呑み茶碗を乗せて笑っていた。
「仲が良いねぇ。でも彼女さん寒そうだから、これをあげなさいな」
 ふわり、といかにも暖かそうな茶の湯気が上がる。
「彼女」
 口の中で反芻する。
 明らかにそれは近藤の事だろう。
 長く艶やかな蒼混じりの黒髪を三つ編みにして、白皙の肌に端正な顔をサングラスで隠し、身体の線がわかりにくいゆったりとしたニットを着た近藤は、確かに女性に見えなくもないだろう。
 それに「仲が良い」と枕詞まくらことばがつけば……
 近藤と自分がカップルだと思われているのか、と思い当たった。
「ありがとよ。でも、彼女じゃねぇ」
 土方の返答には〝彼〟であって〝彼女〟ではないという意味と、本当に恋人同だったら、どんなにいいことかという意味も含んでいた。
 恋人同士──生憎それは真実ではない。
 近藤が新選組の隊士たちに距離が近いのは今に始まった事ではないし、あくまで自分は〝大切な幼なじみ〟という域は出ていないだろう。
「あらぁ。照れちゃって」
 口に手を当ていかにも楽しそうに笑うその人に、もう一度そうではないと口を開きかけたその時、誰かが土方の腕を抱いた。
「ありがとう、お姉さん」
 誰あろうそれは近藤で、にっこりと笑顔を店員に向ける。
「まぁまぁ、こんなおばちゃんにお姉さんなんて」
 女性はその華やかな笑みに頬を染めた。
「近藤さん……
「歳、暖かいうちにいただこう」
 土方と腕を組むようにしたまま、盆から湯呑みを受け取り、口に運ぶ。
「彼女、か。──やもすると?」
 空になった器を返しながら、近藤は土方にいたずらっぽい笑みを見せた。
…………
 その笑顔の可愛らしさに土方は一瞬時を忘れる。
「歳。あちらに皆に良さそうなものがあったんだ、一緒に選ぼう」
 近藤は恋人つなぎのように手を絡ませ引っ張った。
「危ないぞ」
 ハッと時間の流れを取り戻し、極力動揺を見せないように引っ張られる。
 頭の中で近藤の言葉と態度が何度も繰り返された。

──それは……。期待してもいいということか……

 土方の疑問の答えは、まだわからない。