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水樹
2025-10-29 20:35:02
3642文字
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イタズラ失敗、しっぺがえし
スグアオ/sgao
イタズラしたらやり返された話
きっかけはただの偶然。たまたま見つけたスグリの背中に、ちょっぴり勢いをつけて抱きついただけ。たったそれだけ。
「スーグリっ!」
「わぎゃあ!?」
「
……
」
「
……
」
「えと、スグリ
……
?」
「
……
」
もしかして怒らせちゃったかなって、おそるおそるその顔色をうかがう。どうやら怒ってるわけじゃなさそうだ。だけどぷくぷくのほっぺを赤くして、ゼイユみたいにぷるぷるしてて。見開いたお月さまみたいな瞳には、わたしが映っていて。口が開いたり閉じたりを繰り返して、そしたらぷいってそっぽを向いちゃって。耳とか首が、うっすら赤くなっていて。
それら彼の反応全てを。
かわいいと、思ってしまったのだ。
スグリはたぶん、男の子にしてはかわいい部類に入るんだと思う。もちろんかっこいいところもたくさんあるけれど、普段はどうしたって「かわいい」が勝つ。タロだって確かそんな感じのこと言ってた気がするし。
……
それを本人に言うと、むすっとかわいくむくれられてしまうから、面と向かっては言わないけれど。
くすくすと肩を揺らしながら笑う姿とか。
ポケモンたちと仲良く遊んでる姿とか。
ゼイユやカキツバタにからかわれて、しゅんとしてる姿とか。
アカマツのお料理を食べて、ちょっぴり涙目になってる姿とか。
全部ぜんぶ、かわいくてしかたない。
中でもとびきりかわいいと思うのが、ちょっとしたイタズラを仕掛けて、それが成功したとき。ほっぺをちょっぴり赤くして、「アオイ
……
」ってちょこっとむっとしながらわたしの名前を呼んでくれるとき。やめてって言われないから、ついつい後ろから抱きついてみたり、ほっぺをつついてみたりするのをやめられない。それにいつも最後には「しょうがねえなあ」って許してくれる。そう言って笑う姿だってかわいいの。もっともっと見たいなあって、ついイタズラしたくなるの。
最近、アオイがやけにイタズラをしてくる。まあイタズラといっても、いきなり後ろから抱きついてきたり、急にほっぺたつついてきたりとささやかでかわいらしいものだ。いちいち怒るようなものではない。
……
ない、んだけど。
「スーグリっ!」
「わぎゃあっ!?」
「ふふっ、びっくりした?」
「
……
したよ。アオイ、気配消すのうまいなあ」
「えへへー」
背中の感触から意識をそらしつつ、なんでもない風を装う。アオイの腕は俺のお腹のあたり。お腹でよかった。もう少し上だったら、ばかみたいにどこどこ鳴ってる心臓に気づかれかねない。別に、驚いたからだよってごまかせないわけではないが。
ちなみに抱きつくイタズラをしてきたときのアオイはなぜかその後、少しの間俺を解放してくれない。つまりしばらくひっついたままなのである。どうして。
……
いや、嫌とかじゃなくて、むしろ嬉しい、と思う。もっとひっついててほしいけど、ばくばくしてるのに気づかれないうちに離れてほしいとも思う。
イタズラするのはやめてほしいけど、にこにこと満足そうに笑うアオイがわやめんこくて、つい「しょうがねえなあ」って許しちまう。あうう
……
。こういうのを惚れた弱みって言うんだろうな
……
。
「で? なんだよ相談って」
「
……
俺、最近、アオイにイタズラされてんだ」
「イタズラぁ? 優等生ちゃんのアオイがか?」
……
優等生は立ち入り禁止の場所に行ったり、厄災とか呼ばれてるポケモンっこさ解放したりしねえと思うけど。
「うん。でも、すごく困ってるってわけじゃなくて」
「んん? スグリが困ってねえってんならそんな大した問題じゃなくねえか?」
「うーん
……
」
さてどう言ったものか。目の前のペパーから、彼が意気揚々と振る舞ってくれた野菜多めのサンドイッチに視線を移す。挟まれているらしいハムは見えない。かじっても出てこない。ほんとに入ってるんだろうか。
「えと、イタズラそのものは、やめてほしいなって思ってる。思ってる、んだけど
……
」
「けど?」
「
……
アオイにひっつかれるのは、そこまでいやってわけじゃなくて」
「お、おう
……
?」
ペパー特製ソースのおかげか、野菜独特の苦味や青臭さはそこまで感じない。挟むもの一つでこんなにも味の感じ方さ変わるものなんだな。
……
あ。ハム出てきた。
「イタズラだけやめさせるには、どうしたらいいかなって」
「なるほどなあ
……
?」
疑問符が隠せていない。
自分でも支離滅裂なこと考えてるのはわかってる。わかってるけど、そう思ってるのだからしょうがない。
「んー
……
」
「わふっ」
「うおっ、マフィティフ? どうした? 腹ペコちゃんか?」
「ばふ」
勝手に出てきたらしいマフィティフは、ペパーの腕をぽふぽふと叩いている。サンドイッチを差し出されても無視して、ぽふぽふ、ぽふぽふ。
「? マフィティフ?」
「ぐる
……
がう!」
「だて」
「わや、ダーテング? え、な、なに?」
今度はダーテングが出てきて、俺の腕をぺちぺちと叩き出す。痛くはないが、意図がわからない。
「
……
あら? スグリくんにペパーくん、ずいぶんかわいいしっぺがえしを受けていますね」
「タロ?」
しっぺがえし?
……
わざの?
「マフィティフ、おまえなんでんなこと」
「ばう」
「しっぺがえしって確か、ダメージ受けてると力が増すわざ、だよな」
「ですね。威力は限りなくゼロに近いですけど、間違いなくマフィティフもダーテングも、二人にしっぺがえししてましたよ?」
「ええ
……
?」
「心当たりは?」
「ねえんだよな。なにせいきなり出てきたからよ」
「んー
……
。だとすると、なにか伝えたいことがあった、とかですかね」
伝えたいこと
……
なんだべな。首を傾げていると、ダーテングが垂れた俺の前髪をぺしぺししだす。やめて。
「あー、そういうことか」
「ペパー?」
うんうん唸っている間に、タロは誰かに呼ばれて行ってしまったようだ。
俺と同じようにしっぺがえしを食らいながら、首を傾げていたペパーが合点がいったように頷き、マフィティフの前足をつかまえる。
「なんかわかったの?」
「なんとなくな。たぶんヒント出してくれてたんだろ」
「ばう!」
「だーて」
「お? 当たりちゃんか?」
……
ヒント? どういうこと?
「
……
むう」
ここ数日、スグリにイタズラができていない。どうも気配に気づかれやすくなったようで、そーっと近づいているはずなのに、いつもくるりと振り向かれてしまう。
……
いや、もうこんなイタズラはやめたほうがいいと思ってるけど。思ってるんだけど、スグリの反応がかわいいから、つい。ほっぺをぷにっとつつくほうは、まだときどき成功してるし。
どうしようかなって考えたところで、対策らしい対策はない。極限まで気配を潜ませるくらいしかできない。脳内でママやボタン、ゼイユが「やめなさい」って訴えてくるけど、やんわりと無視をする。あと一回、あと一回だけ。それが成功すればやめるから。あと一回だけ、お願い。許して。
「
……
あ」
部室へ顔を出すと、見慣れたすみれ色がそこにいた。どこかで見たような男子部員と何か話していたようだけれど、もう終わりだったようですぐに部員は離れていく。
……
これは、チャンスなのでは。さっきの男子部員はわたしに気づいてなかったし、それはスグリも同じ。未だにこちらを振り向くこともなく、ポケットから取り出した何かを見ているみたい。
そろりそろり、いつもより息も気配も殺して、無防備な背中に近づく。久しぶりにスグリの「わぎゃあ!?」が聞けると思うと笑いがこみ上げそうになるけど、それも抑えて抜き足差し足忍び足。
そして、いちにのさん! で飛びこむ寸前、視界に入ってきたのは赤色。期待した悲鳴も聞こえない。その代わりに。
「にへへ。アオイつかまえたー」
「え
……
? あれ
……
?」
えっ? なに? どういうこと?
背中と腰に回されたスグリの腕。それによってぴったりとくっついたお腹と胸。身じろいだら腕の力が少しだけ強くなって、密着度が増した。
「しゅ、すぐ、り
……
?」
「
……
ん」
「っ!?」
スグリのほっぺすりすり! こうかはばつぐんだ! アオイはまひした! そんな幻聴がする。
「なっ
……
なな、なん、で
……
?」
「
……
いつまでも、やられっぱなしじゃいられねっから。仕返し
……
じゃなくて、しっぺがえし」
「あ
……
ぅ
……
」
「にへへ。こうかばつぐん?」
「
…………
ふぁい
……
」
くっついていたのに、自分のそれがうるさいから、気づかなかった。
スグリの鼓動が、わたしのと同じくらい、早まっていたことを。
(な、なにこれなにこれなんなのこれ!? し、心臓が、すっごくうるさい
……
!)
(
……
アオイ、これで少しは、意識してくれっかな)
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