紬実
2025-10-29 00:16:02
3325文字
Public ロースコ
 

My pumpkin

ハロウィンにかこつけていちゃついているロースコ。ビジュアルイメージは旧映画の2人です

ノックの音がしたかと思うと返事をする前に扉が開いた。相手も俺が部屋にいるとは思っていなかった様子で「なんだ、いたのか」と呟きが届く。
ベッドに横になる俺を尻目にスコットは持っていたバスケットを机に置いた。
「これ、置いておく」
「説明もなしかよ」
ひと言そう言うだけで出て行こうとした彼を呼び止めると、寝転がっていたベッドから起きあがりバスケットの中を見る。中には溢れそうなほど飴やチョコレート、小さなドーナツなどが入っていた。
「俺用ってわけじゃなさそうだな」
「当たり前だ。今日はハロウィンだろ。どうせお前は何も用意してないと思ってな。子どもたちがまわって来るだろうから来たらあげてくれ」
教室の飾りつけもしたんだ。忘れていたわけではないが菓子のことまでは頭が回っていなかった。
「ありがたく貰っておく」
スコットは頷くとスタスタと俺の部屋から出て行った。そのすぐ後に扉がコンコンと叩かれる。今度は控えめなノック音だ。
「ローガン先生、トリック・オア・トリート」
年少の子どもたちが三人、悪魔の耳やカボチャの飾りを持って俺の部屋の前にいる。フッと笑うとバスケットに入った菓子を渡した。
「やった!」
「次はグレイ先生のところに行こ」
「バイバイ、ローガン先生」
さっそくスリムが持ってきた菓子が役に立った。あいつもなかなか気が利く奴だ。飴玉を一つ口に放り込むと花火のようにパチパチと弾けた。


  ***


「サマーズ先生、トリック・オア・トリート!」
「うーん、どうしようかな……なんてね、嘘だよ。はい、お菓子」
スコットの楽しそうな声がし目を向けると、教室の片隅で彼が子どもたちに棒付きのキャンディを渡しているところだった。
生徒たちも楽しそうにしているがスコットも負けず劣らずはしゃいでいるように見える。学園でのイベントはいつも騒がしく、煩わしいと思うことも多々あるが、あいつのああいう顔が見れるところは気に入っていた。
サングラスの下にある目を細めて笑っているに違いないと想像するだけで少しばかり愉快な気持ちになる。
……先生、ローガン先生」
――あ、ああ、どうした」
「お菓子くれないの」
我に返ると生徒が数人俺を見上げ、菓子をねだっているところだった。廊下を行き来するだけで飴玉がどんどん減っていく。
「悪かったな、ほら」
ポケットにこぼれんばかりの飴をしまった子どもたちは満足げに頷くと今度はスコットの方へと走り、お決まりのやり取りをした後、また嬉しそうに去っていった。
「ローガン、なにか用事だったか」
教室から顔を出したスコットが訝しげに眉を潜めた。さっきまで笑っていたくせにその眉間の皺はどうにかならないものなのか。
「今日は助かった」
横を向いて言えば、スコットは不思議そうに俺を見て、「なんのことだ」と首を捻った。しばらくして合点がいったのか笑いを溢す。
「まさか食べたりしてないだろうな」
クツクツと笑いながら通り過ぎようとするスコットの手をとると「なあ」と囁く。
「俺には何もくれないのか」
スコットはピタリと止まると俺をジロジロと見る。
「これは子どもたちにあげる用で――
俺が掴んだ手を離さないからかスコットは溜め息を吐くと、唇を少し尖らせわざと不機嫌な声を出した。
「今日の夜、部屋に行ってやる」
ニヤけそうになるのを抑えながら彼の手の甲にキスをする。
「なっ、昼間はやめろって言ってるだろ」
「わかってる。だからここまでにしといてやる」
スコットはまた眉間に皺を寄せながら廊下を歩いて行った。いつまでも初心な反応をするものだから、ついもっと彼の知らない一面まで見たいと思ってしまう。
「ローガン、こっちでジャックオランタンを作ろうと思ってるんだけど手伝ってくれない?」
オロロに呼ばれ空き教室の方へと向かう。浮かれている、と自覚があるほどにはあいつのことを考えている気がした。


  ***


スコットの匂いがする。部屋に入る前から見知った気配が鼻孔を掠めた。
「お疲れ」
扉を開けるとスコットが読んでいた本から顔を上げ、ふわりと笑った。俺が滅多に腰掛けない椅子に行儀良く座り、俺が開けたこともない歴史の本を読んでいる。
いつから部屋にいたのか、夕食の後から姿が見えないとは思っていた。俺が戻る間に片付けられた室内はまるで彼の部屋のようだった。
「ローグが作ったプティングは食べたか? あの子はお前の感想を聞きたがってたぞ」
「食べたさ。美味かったと言っておいてくれ」
「自分で言えよ、その方が喜んでくれる」
スコットの手から本を取り上げると軽く頬にキスを落とす。ペパーミントの香りがし、彼がきちんと歯を磨いたことがわかる。
――それで、俺には何をくれるんだ」
グッと顔を近づければスコットは俺を避けるように立ち上がりベッド横に置いてあった紙袋を俺の手に押し付けた。
「お前の分だ」
中を見なくても甘い匂いからビスケットやチョコレートが入っていることがわかる。期待していた分拍子抜けしながらも俺のために律儀にこんなものを用意していたことに笑いが浮かぶ。
ベッドに座り込んだスコットの頭を撫でると彼は大人しく唇を噛み、顔を背けた。
「なんでそんな仏頂面してるんだよ」
「別にしてない」
「明日はお前も生徒と一緒に仮装して、街にでも行ってきたらどうだ」
「そういうのはジーンとオロロに任せるよ」
確かにあの二人なら気合の入った仮装をしそうだ。いつもと違うスコットを見てみたい気持ちもあるが、自分で衣装を用意してまで楽しむタイプではないだろう。
「スリム、お前も疲れたなら早く寝ろよ」
紙袋を机に置き、彼が読んでいた本を手に取るとパラパラとめくってみる。俺の部屋に来てまで勉強熱心なリーダーには辟易するものの、惚れた弱みでいまさら嫌いにはなれない。
「ローガン」
小さな声で名前を呼ばれる。
本を棚に戻したあと、彼に目を向けた俺はどういう状況かわからず固まってしまった。スコットはシーツを頭から被り、「トリック・オア・トリート」とこれまた小さな声で呟いた。
しばらく沈黙が続き、先に折れたのはスコットの方だった。シーツにくるまったまま、だんだんと項垂れるとベッドへと沈み込み、丸くなったまま動かなくなった。
「スリム」
……忘れてくれ」
「スリム、顔だせよ」
シーツを引っ張るが中からも力強く抵抗される。仕方なく無理やりシーツを引っ張り彼を引き出すと、顔を背け続けるスコットの顎を掴んだ。
「顔が赤いな、スコッティ」
身を屈め、キスをすると彼の眉間に寄った皺を撫でる。俺を見上げるスコットの口に貰ったばかりのチョコレートを放り込み、深く舌を合わせた。甘く、熱い、幸福の味がする。
――満足したか」
息を整えてからそう問えば、スコットはゆるく首を振った。
――……いたずらはしてくれないのか」
その言い方に鼓動が跳ねた。少しばかり拗ねた口調に愛しさが湧きたつ。
「さっきチョコをやっただろ。それに俺もお前から菓子をもらったしな」
だから、いたずらはなしだ。困らせてやりたくてわざと呆れたように言えばスコットは俺の枕を腕に抱え「わかってるよ」と呟いた。
「でも、今日はそういう気分なんだ。だけど、お前が嫌だったら今日はしない」
出て行こうとするスコットの手を掴むと俺の腕へと閉じ込める。どこまで可愛いやつなのか、底知れなさが時折怖い。彼の鼓動が早く、頬の赤みが増している。
「お菓子もいたずらもしてほしいなんて、欲張りな優等生だな」
耳朶を甘噛みし、ベッドへと押し倒すと、彼のワイシャツのボタンへと手を掛ける。
「どういういたずらを期待してたんだ、スリム。一つ一つ教えてもらうことにするからな」
また唇を噛んだ彼の口元へ指を這わせれば、スコットは俺の指を軽く食んだ。その光景に目を奪われたところでグイッとTシャツの襟が引っ張られ、柔らかな唇が合わさった。
いたずらが成功した子どもの表情で笑う恋人に呆気にとられながらも、とびきり大人なキスを返す。頬を寄せればスコットはくすぐったそうに笑った。