syanpon
2025-10-28 23:32:29
2956文字
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せいぜい死ぬまでかわいがってね

オトスバ
現パロ


 幼い頃白い猫に恋をしたと言ったせいだろうか。ほぼ間違いなくそのせいだと思うのだがスバルの恋人はオットーが猫に擦り寄られるのに対しあまりいい顔をしない。ちなみに当の本人は「可愛いな〜!」といって猫をよくモフっている。どことなくフェアじゃない。
 だがそれも惚れた弱み、オットーにとっては年下の恋美の可愛い我儘にしかならないのだ。

 友人の家に荷物を受け取りに来たオットーは「まぁ上がっていけよ」と言われた言葉に甘えたのを上がって3秒で後悔することになる。
 
「ちょ、ちょ、困りますって」

 オットーの足元には毛足の長い美しい白猫が擦り寄ってきていた。制止も自由な猫には届かずどっかりと膝の上に乗られて喉を鳴らして眠られる始末だ。あわあわとしているとコップを持った友人が半分笑いながらオットーに声をかける。
 
「あー悪い。普段は人見知りなんだけどなぁ。スーウェンも猫飼ってるって言ってたもんな。やっぱ焼いちゃう?」
 
 オットーは擦り寄ってくる美人の顎を撫でながら家にいる『飼い猫』を思い返し瞳を細める。
 
「ええ、家に帰るのが怖いくらい」

「ただいま帰りました」
「おう! おかえ……ん」
 
 スバルの満面の笑みがムスッとした顔になり、おかえりの「り」の字が消えていつものハグの代わりにコロコロが手渡される。
 オットーは玄関で大人しくそれを受け取りコロコロと自分の身体の上を転がしていく。だいぶ取れただろうかと靴を脱いで上がろうとしたら止められてまたコロコロ。まだついていたのか誠意が足りないのか。果たしてその両方か。
 
 親指で廊下の先を指されて「風呂」と一声。
 
 いつもより距離が遠い。オットーが玄関から上がるとスバルはぴゅんとリビングに引っ込んでしまう。
 
 ――その日オットーはいつもより入念に体を洗った。なんなら頭は2回泡立てた。

 風呂から上がるといつもはソファでくつろいでいるスバルがダイニングテーブルの椅子に腰掛けている。
 スバルはオットーの姿を見留めるとふいと視線を逸らす。
 
 今すぐ彼の元に足を運び、許しを請うて甘やかしたい気持ちでいっぱいになるが唇を噛み締めることで堪える。
 ここで手を出してしまうとその倍お預けを食らうことはもう知っているので。

 オットーはスバルが隣に座れるスペースを開けてソファに腰掛け、特に見ないテレビをつけて雑誌を捲る。テレビのガヤとページを捲る音が響く。時々スバルからの視線を感じる側目を合わせてしまうとはじめからやり直し、最悪の場合お預けだ。
 
 どのくらい経っただろうか、ガタリと椅子を引いて立ち上がる音がリビングに響く。
 そのまま黙っているとオットーの左肩にずしりと慣れた重みとあたたかさが寄せられた。

「ナツキさん」
「ふん」

 普段彼がおちゃらけてやるようにあごの下をくすぐるとスバルの肩がぴくりとはねる。
 そのままカリカリとくすぐり続けているとばしりと手を払いのけられた。睨みつけてくる顔は真っ赤だ。

「だー! やめろ! 今はそういう気分じゃないの! そう言う気分にさせようとしてくるのは反則だろ!」
「そういう気分」
「うるさい。今日のおまえは浮気者なのでダメです」
 
 そう言って顎をオットーから隠してしまい、ぐりぐりと頭を肩に押し付けられる。
 ほんの少し体を引いて向きを変えると案外簡単にスバルはオットーの腕の中におさまった。

 オットーの視線の先で黒い毛並みが呼吸に合わせてゆっくりと動く。抱きしめる許可が出たと言うことは触れてもいいということだろう。ぽんぽんと宥めるように軽く頭をたたいてからその髪の毛の流れに逆らわずにゆっくりと撫でつける。
 
 ――オットーは友人にスバルのことを話す時『猫』と言う。それは付き合いはじめが高校生と大学生だったのもあるしスバルを必要以上に他人に見せたくない独占欲からくるものでもあった。
 
 スバルを完全に猫と思っているわけではないのだが、初恋だと話した猫に嫉妬して気まぐれに甘えてくる姿は猫っぽい。
 ちょっと癖のあるはねた短い髪の毛も今のオットーには黒猫の耳に見えてきていた。

……オットー」
「はい?」
「なんでこう、頭の横側ばっか撫でるわけ? モヒカン状にはげさせようとしてる???」
「あ、いや。あんたが猫っぽくてつい」

 そこまで言ってオットーはぱたりと口をつぐむ。
 普通に地雷を踏んだかもしれないと視線が泳いだ。

……

 スバルがもぞもぞと動いてオットーの腕の中から抜け出す。空いた隙間がほんの少し寒くて寂しい。このまま「寝る」と言われて置いていかれるパターンだろうか、うっかりで恋人の時間を失ったオットーが現実逃避をしていると力無く垂れ下がっていた両手をスバルに握られる。
 
 そのままその手を頬――耳元にもっていかれてぽしょりとつぶやかれた。

「俺の耳はこっち……なんです、けど」

 オットーはぱちぱちと瞬きをする。瞳を閉じてまた開く度にスバルの顔が赤く染まり視線はどんどん下に向いていく。
 そろり、と両耳を覆うように手をだして指先で耳輪を撫でるとくすぐったそうに肩をすくめられたが抵抗はされない。

「いいん、ですか」
「もうさわってるくせに……んぅ」

 じとりとオットーを睨め付けたあと強気な黒瞳は閉じられてしまう。

 耳輪に沿ってゆっくりとなぞる、柔らかい耳たぶをそうっとつまんでやるとスバルの口から小刻みに吐息が漏れた。本人も認める弱い部分を自分から曝け出した手前逃げることもできないのだろう。真っ赤になって力を込めてぷるぷると震えている姿がいじらしくて可愛い。

「かわいい……

 ――どのくらいの時間が経っただろうか。
 猫に本気で嫉妬をしているわけでは無い、ないと信じたい。が、オットーの初恋を人でないものに取られているというのが面白くなくていつもこんな行動をとってしまう。

 オットーの存外大きな手がスバルの頬から耳までをすっぽりと覆ってみたりすりすりと撫ぜられたり。耳に触れられるのは敏感すぎて怖いのだがずうっとあたたかい温もりに身を寄せていると自他の境界が曖昧になってくる。

 細く息を吐けば口から出る呼気が熱っぽくて目の前の男に蕩かされていることを実感してまた身体の熱が一つ上がった気がした。
  
 すっかりトロトロにされて力の抜けたスバルはオットーの両手に体を預けているも同然だった。

 ――その時オットーの指先がスバルの顎をカリ、とくすぐる。
 
 青い瞳に欲を称えたハイエナがスバルを覗き込んでいて、片手はスバルの頬から耳をなぞり、空いた左手でスバルの顎を何度もカリカリとくすぐる。

「んぁ……ん」
「ナツキさんかわいい……。ね、その気になりました?」
 
 スバルの半端に空いた口の端からつぅと細く唾液が垂れ、オットーの手にぽたりと落ちる。
 
 それをスバルはペロリとなめとるとぐにゃりと身体の力を完全に抜いた。オットーがゆっくりと覆い被さってくる。
 それを片手で制止すとスバルは自らソファにゴロリと仰向けに転がってみせ、一声鳴いた。