2025-10-28 02:27:35
1878文字
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龍劍小話

書き途中のお話
彼らについて浅学の部分もあるので、捏造がまじってたりします。ご容赦ください🙏

その日は処暑を過ぎた、秋の気配を感じる朝だった。

夏の寝苦しさから解放されてぐっすりと眠った劍子仙跡は、醒めたばかりの寝ぼけ眼で寝台の天井を眺めていた。
しばらくそうした後に、眠気が残る身体を起こそうと布団の中で大きく腕を伸ばすと、二の腕の肌に触れた枕の感触に違和感を覚えた。
(ムム。普段よりも肌触りが良いような?)
劍子は再び目を瞑り、その違和感の正体を確かめようと試みた。
伸ばしたままの両腕を軽く開いては閉じてを数回繰り返し、腕を折っては枕を掴んでその感触をしっかり確認した。
(この肌触りと感触は、龍宿の家で覚えがあるような。あれは絹だったかな)
劍子は手の平で枕を優しく撫でながら、浮かんできた枕の感触の記憶を更に掘り起こすことにした。
(あの時は、龍宿の家を訪ねた日だったな。茶を飲んだら内傷がバレたんだ)
友の多い劍子は、相談を受けることも多かった。
武林では至る所で厄介事が起こり、劍子に泣きつく者も少なくはなく、この日はその厄介事を一件落着して帰ってきた日だった。
長い間留守にしていた劍子は、自宅へ帰る前に顔を見せようと龍宿の住まう邸へ尋ねると、宴とばかりにご馳走が振る舞われた。久しぶりに好友と食事を共にし、振る舞われた酒で会話が弾み、長旅の疲労が癒えるようだった。
しかし食後の茶を飲み切るや否や、劍子は龍宿の部下に問答無用で屋内に担ぎ込まれ、長椅子のある部屋に押し込まれてしまった。
主人の言いつけなのか、丁寧に長椅子に降ろされると、劍子の頭は備え付けの枕に軽く沈んだ。
(そうか、この感触はあの時の長椅子にあった枕か)
それは肌触りの良い生地だった。程よく弾力もあり、華やかな香りが鼻腔をくすぐった。
しかしすぐに状況を把握した劍子は上体を起こし、部屋の出口に立つ龍宿の部下である金陵寒鴉を睨んでみせた。
抗議をしようと一言発するより早く、彼の背後から龍宿が姿を現した。
一言二言三言、呆れた言葉を彼の口から聞いたような気がするが、劍子は記憶していなかった。それよりも、好友の機嫌に注視していた。
龍宿は団扇を仰ぎながら劍子の前までやってくると、団扇で口元を隠し、どこか怒気を孕んだ視線を劍子に投げた。
(あの時の龍宿の気迫を見たのは久しぶりだった)
龍宿の気迫に押されて身構えた劍子の顎を華やかな団扇が優しく捕え、劍子の顔は龍宿の方へ引き寄せられた。
近づく好友の顔に、劍子は息を飲んだ。華麗無双と謳うにふさわしいその美しい顔が目前に迫ってきたのだ。街の娘なら心が弾むであろう。彼に憧れを抱く者は多い。
しかし劍子には動悸が襲っていた。妙に嫌な予感が背筋を走った。
劍子は薄い希望を賭けて助けを求めようと、変わらず部屋の出口に立っているであろう金陵寒鴉へ視線だけ向けた。
しかし彼の姿はすでにそこにはなかった。部屋の外から箒で枯葉を掃くような、乾いた音が微かに聞こえる。
肩を落とす劍子の下顎を龍宿が指で掴み、されるがままに右へ左へと振られると、その指は劍子の手首に触れた。
脈診する龍宿の後ろで、彼の愛弟子である仙鳳が薬湯を持って控えているのが見えた。
(あれは咳き込んだのがまずかった)
食後、劍子は茶を飲んだ後に咳込んでいた。その拍子に、喉奥に現れた胃液とも違う粘液の感覚に冷や汗をかいた。
喉を潤そうと茶杯に一口だけ残る茶を飲み下すと、鉄の味がした。
内傷があることは自身でも気が付いていた。龍宿との食事を終えたら彼に気付かれる前に家路につき、自宅で身体を休ませようと考えていたのだ。それは、好友との約束を避けるためでもあった。
ここ最近の厄介事の解決には、儒門天下の疏樓龍宿の力が必要不可欠だった。一つ片付いてはまた一つと、休む暇もなく厄介事を共に片付けていた。
しかし、その最中に劍子は何度か龍宿の目の前で血を吐き、身体の不調を見せることがしばしばあった。
見かねた龍宿は「次に吾の目の前で血を吐くことがあれば、汝の頼みを聞くより先に彼女へ便りを出す」と条件を出した。
彼女が現れると数日は寝台から動けなくなることは必至だった。劍子はそれを避けようとした。
龍宿に見つからないように口元に出た血を袖で拭ったが、薄らと口元に血が残っているのを龍宿は目敏く見つけ、約束は果たされた。
 
 
どのくらい思い出にふけっていただろうか。目が覚めた頃よりも外は日が出ている様子だった。
「あの約束はあの時に果たされたから、今日はないだろう」

昨夜、久方振りに龍宿の邸を訪ねた劍子は、茶を飲んだ後に血を吐いた。