roku
2025-10-27 20:11:48
2498文字
Public 🌳🌟
 

初めてのプレゼント【森諸】

諸星はスマホを肩に挟んで手書きの手帳を使ってそうだな Nうこさんの絵で見たいなと言ったのを実現してくださったので、さらに裏話的に文字おこししてみました✨
Nうこさん!ありがとうございました❣️

一糸纏わぬ姿でヘッドボードに背を預けた諸星はサイドに置いた煙草を手に取った。セックスの後の煙草はもはやルーティンみたいなものだ。だがスポーツマンである森重の隣で吸うのは気が引けて、ベッドを抜け出しキッチンの換気扇の下で火をつけた。
あー腰痛え。ケツもやべぇわ。
森重とのセックスはこれが初めてではないが、その規格外のサイズにはまだ慣れない。むしろ慣れる日が来るのかさえあやしいものだ。高三のオレが見たら卒倒すんな。そんなことを思いながら換気扇に向かって煙を吐き出し腰を押さえた。
「帰ったのかと思った」
のそのそと寝室から出てきた森重が諸星を背後から包み込む。
「黙って帰んねぇよ」
まだ一口しか吸っていない煙草を灰皿に押し付け森重に向き合った。
「なぁ、今から時間あるか?」
「あるよ。もう一回する?」
「しねーよ!ちょっと買い物付き合ってほしくてさ」
森重は普段から必要最低限の買い出しをするぐらいで、いわゆるショッピングというものとは無縁だった。それとは対照的に諸星は暇さえあればショッピングに出かけるほど買い物が好きだった。
「まぁ、いいけど……
あまり乗り気ではない返事に「嫌ならひとりで行くからいい」と言い放った諸星。森重が買い物に興味がないことは何となくわかっていたから。
「嫌とは言ってない。何買うの?」
「手帳」
諸星はこの春主任に昇進した。それにより仕事量が以前よりも増え、手帳があれば便利だと感じたのだった。
「ふーん」
訊ねてきたくせにこの返事だ。森重の興味の有無はとてもわかりやすい。バスケ以外の事柄の9割は興味がない。時折こいつの何が良くて付き合っているのか?とはなはだ疑問に思うことがあるが、不思議と別れたいと思うことはないのだ。
「だからちんこ擦りつけてケツ揉んでねーで準備しろよ」
ジト目で森重を見上げれば「わかった」という返事とともに唇が塞がれた。
何にもわかってねぇじゃねーか!
腹立たしい気持ちがあるにも関わらず、身体は昨晩を思い出し緩やかに熱を上げている。悟られないように森重の胸を押し返すがびくともしない。
「もう一回してからでもいいんじゃない?」
明らかに諸星の変化に気づいている。まだ付き合いは短いが、スイッチの入った森重から逃げられないことを諸星は知っていた。

「ったくよ〜。盛りのついた高校生かよ」
「そういうあんただって随分気持ちよさそうだったけど?」
「黙れ」
結局家を出たのは昼を随分まわってからだった。
昨日の夕飯以降、水分以外を口にしていないふたりは先に昼ごはんを食べることにした。もちろんメニューは定番の味噌カツだ。存分に腹を満たし、本来の目的である諸星の手帳を探すためいくつかの店をまわった。特にこだわりがあるわけではないが、たくさんありすぎてなかなか選ぶことができない。こういうの、決定回避の法則っつーんだっけ。これというものがないので今日は一旦帰ろうと森重に声をかけようとしたそのとき目に入った焦げ茶色の革の手帳。それはバインダータイプで必要に応じて中身を変えて長く使うことができるものだった。
「決まった?」
「おう。これにするわ」
「うい」
短く言った森重は諸星の手から手帳を奪ってレジへ向かい、諸星が戸惑っている間に会計を済ませて戻ってきた。
「はい」
……何だよ?」
「昇進祝い」
「え?」
「何もしてないから」
森重の口から出た言葉に目を丸くさせた諸星は「さ、サンキューな」と瞬きを数回繰り返し表情を綻ばせた。

◇◇◇

ブー、ブー、とでスマホが振動している音がする。森重のスマホが鳴ることはほとんどないのできっと諸星の物だと思い、声をかける。
「諸星さんどっかで電話鳴ってるよ」
「ん?鞄の中か?」
「知らないけど」
がさごそと鞄を漁り音の発信源を取り出す。ディスプレイを確認した諸星の口からは大きな溜息が漏れた。残業を終えてやっと帰宅し、ひと息つこうかと冷蔵庫からビールを取り出したところだった。
こんな遅い時間にかけてくんなっつーの!悪態をつくものの、相手が今面倒を見てる部下なので無視するわけにもいかなかった。
「もしもし、お疲れ。はい、あーちょっと待てよ」
諸星はさらに置きっぱなしの鞄の中から手帳を取り出し左手で広げた。そしてスマホを右耳と肩に挟んで右手でペンを取った。
「あー、それな、来週の―――
ソファの方から視線を感じ視線を移せば森重とバッチリ目が合った。諸星はパチッと右目だけを器用に閉じると森重は珍しく目を瞬かせスッと視線を逸らせソファにごろんと寝転んだ。
「いけるか?また何かあったら連絡しろよ。お疲れ」
会話を終えた諸星はぼうっと天井を見つめる森重の上に覆い被さり唇を重ねた。
……何してんの?」
「ん?お前が拗ねてたから」
「はぁ?拗ねてないけど」
「じゃあれか!オレのウインクにやられた?」
………あんたいくつになってもほんとくだらないよね」
呆れた溜息を漏らした森重の視線は上に乗る諸星ではなくローテーブルに向けられている。
「どうした?」
………あの手帳、まだ使ってんの?」
「当たり前だろ」
「いい加減買い替えなよ」
あの頃、付き合い始めて1年半ほど経っていたが、森重は諸星にプレゼントを贈ったことがなかった。諸星はセンスがいい上に持ち物に関して不自由している様子がなく、中学からバスケ一筋で生きてきた森重には正解がわからなかった。だからあの時初めて明確になった諸星の“欲しいもの”をプレゼントしたのだ。それをまさか5年経った今でも使っているとは思わなかった。そこまで大切にしてくれている諸星からの愛が何だか気恥ずかしくなったのだ。
「あれはオレの昇進祝いにお前が、寛がくれた初めてのプレゼントだろ。んで、あの革すげぇ良い味出てきてるし。だから買い替えるわけねーの。わかったか?」
「わかった」
「じゃあこのままここでするか?」
「大さんがそれでいいなら」
森重は諸星を力いっぱい抱きしめた。重なる唇は熱を帯び、触れ合う心臓は大きく波を打っていた。