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みすず
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創作
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ベルガモ
親子の会話とそれ以上。
今年もサンティエは他国に比べると早々に空気が冷いものになる。
領地の麦の収穫量は十分か、楽観視はできない雪害への対策は。領地で報告を聞き、視察をして戻ると北方よりも暖かとはいえ王都に近い人々は防寒具を身につけ始めていた。
「ドナート、寒くはありませんか?」
「いえ、私は大丈夫です。父上は大丈夫ですか? お寒いようでしたら羽織るものを
……
」
「いいえ、問題ありません。お前が冷えていないか心配だっただけですから」
王都の屋敷へ向かう馬車のなか、ドナートへにこりと微笑むと最愛の息子の表情がふにゃりと僅かに緩む。自分譲りの赤い目を見つめてからヴァレリーは手を伸ばしてドナートの頭を軽く撫でた。息子の年齢を思うともう人前でするわけにはいかないが、使用人すら見ていない馬車のなかであれば甘い親の顔をすることに遠慮はいらない。ヴァレリーがドナートに甘くないときはないのだけれど。なにせ、息子は厳しくする必要もないほど大変優秀でよく出来た子なので。
「ん
……
あの、父上」
「なんでしょう」
「ええと
……
父上の登城はいつになりますか?」
ドナートの頬をひと撫でしたヴァレリーはそのまま緩く腕を組む。離れていく手に一瞬寂しそうな顔をしたドナートはすぐに真面目な顔となったので、なにか気にかかることがあるのだろう。
「王都の様子を確認しなければなりませんし、こちらも諸々報告をまとめる必要がありますからね
……
」
領地で造られた蒸留酒の出来が良かったので王家へのご機嫌伺いがてら献上をして、と少し時間がかかることを告げれば、ドナートはやや緊張した面持ちで口を開いた。
「父上が登城される際、私も
……
補佐としてお供してはいけないでしょうか」
ヴァレリーは考えるように顎へ指を添えて首を僅かに傾げる。ヴァレリーを蛇蝎の如く嫌う派閥からは非常に評判の悪い仕草だが、じっと父を見つめるドナートの目には期待と僅かな懇願の色があるばかりだ。
サンティエの法においてドナートは既に成人である。ベルガモ侯爵家の嫡男としてヴァレリーと共に登城することは厳しい目を向けられることはないだろう。
ただ、懸念事項がある。
「今回は面倒事が起きるかもしれませんからねえ
……
」
「
……
吸血鬼のことでしょうか」
「ええ
……
まったく、あちらも暇なことです」
ヴァレリーが王都から領地へ帰った理由。
ベルガモの領地に吸血鬼が現れたという報告があったのだ。
これを聞いたヴァレリーは可愛い息子の前で深々とため息を吐いて、領地への帰還を決めた。当初はドナートを王都へ残していこうと思ったのだが、彼はいまのようにヴァレリーと共にと望み、ヴァレリーは逡巡した後に承諾した。領地こそ貴族にとって絶対の支配地であり、ベルガモの領地とは即ちドナートのものとなる領地である。息子の顔は知られれば知られるほど、影響力はあればあるほどいい。自分には足りない人肌の熱を持つドナートが、自身の求心力を持っていったって構いやしないとヴァレリーは思っている。最愛の息子へ残すものは盤石に。ドナートへ向く冷たい風は代わりに受けてやりたいとも思う。
今回の吸血鬼の件はベルガモに尖った視線を向けるものも現れるであろう内容だ。はっきりいうのであれば、睨み合っている第三王子派がこれ見よがしに嫌味を言ってくる。
吸血鬼は闇属性のものが多く、サンティエでは忌避される存在だ。彼らが魅了という能力を持たなければまた違ったのかもしれないが、過去に起きた事件の数々がサンティエに彼らを受け入れない空気を作った。その拒絶は長い時間のなかでそれこそ当たり前のものになっており、闇属性そのものへの嫌悪へまで至っている。正妃腹の第一王子を廃嫡するほどにだ。
その吸血鬼が本格的な冬の前になにがしかの用でもあったのか、ベルガモの領地に現れたのだ。幸いにも魅了事件も領民との小競り合いもなかったが、一部の領民は吸血鬼と遭遇するのを避けて家に閉じ籠ったという。それほど吸血鬼は恐れられているのだ。
「なんらかの影響を受けたのではないかと囁く声はあるでしょうし、登城自体に文句を言ってくる可能性もあります。お前が拘うような連中ではありませんよ」
「
……
ですが、私も父上の後を継ぐのであれば、その手の人々を躱せるようにならなければいけないと
……
思います」
いけないでしょうか、と落とされた声。
ドナートの自身に続くのだという熱意を受けるヴァレリーは、ほろりと苦笑を浮かべてから頷く。
「お前が必要だと思うのであれば、その機会を摘むべきではありませんね。ああ、ただ」
「ただ?」
「いえ、お前に怖がられやしないかと心配で」
「私が父上を恐れることなどあり得ません」
不思議そうに首を傾げるドナートの仕草は可愛らしく、自分と似ていないとヴァレリーは思う。これを口に出すと息子はしょんぼりするだろうから言いはしないけれど。
「
……
お前の父は自分を嫌ってくるものに優しい顔はできないのですよ」
つまりは嫌味には嫌味で応じるということだ。己の性根が捻じ曲がっている自覚はあるが、自身を尊敬して慕ってくれる息子に他者を迂遠に扱き下ろす姿を積極的に見られたいヴァレリーではない。
貴族社会で無垢に優しく在ろうとするなど難しい話だ。ヴァレリーは無理だと断じる。ならば、ドナートにも薄暗い部分を隠さずにいるべきなのだが、息子を掌中の珠のように愛するヴァレリーは悩ましく思ってしまうのが本音だ。
「不当な言葉に毅然と返すのは当然のことだと思います。侮られるのをそのままにするべきではありません」
「
……
それが分かっているのならばいいでしょう」
貴族としての正しさを述べるドナートに、ヴァレリーは結局頷いた。箱庭で育てるのはドナートのためにはならない。
しかし、そう理解しつつもヴァレリーの腕は囲い込むようにドナートの身を包みに伸びてしまう。
「あ
……
ち、父上
……
」
「可愛い子。私のたったひとつの宝物。お前の前にはこの世の善いものだけがあればいいのに」
そうなれば自身もいなくなるだろうけど、と思いながらヴァレリーはドナートの唇にちゅ、ちゅ、と口付けを落とす。親が子へ与えるには過剰な熱に震えたドナートが、きゅう、とヴァレリーの服を縋るように握り締める。
「ぁ、父上
……
父上
……
♡」
繰り返す口付けに、先程まで侯爵家の嫡男らしく背筋を伸ばしていた体からくたりと力が抜けていく。ヴァレリーはそのままドナートの体を膝の上に引きずり上げ、潤んだ赤い目を見つめる。自分と同じ色をしているのに、ドナートの目は特別な宝石のようだ。ヴァレリーはその目に自分だけを映してほしくなる。自分以外が目に入らないようになにもかもを排してしまいたくなる。
ドナートを抱きしめていた手で彼の背中をなぞる。服越しに辿る背骨。腰に手を這わせれば銀色の髪を揺らしてドナートの体が小さく跳ねた。そのままヴァレリーの膝へ股を擦り付けるように腰をへこへこと揺らすドナートに、ヴァレリーは彼の尻を鷲掴みにしながら口で釦を外そうとして──聞こえた御者の声に動きを止める。
「旦那様、間もなく王都へ到着いたします」
ヴァレリーが市井の生まれであれば舌打ちをしていた。
夜、熱っぽい呼吸を繰り返すドナートに口移しで水を飲ませるヴァレリーは、愛しい息子の体に視線を落とす。
屋敷へ着いてから不在時の様子を執事から端的に聞いたヴァレリーは、急ぎの要件がないと判断するやすぐにドナートを寝室へと連れて行った。
散々に貪ったドナートの体には所有痕が幾つも散っていて、男性器を持たない下肢はいまも膣から溢れる精液でどろどろに濡れている。ナカへ留めようとしているのか割れ目がひくひくとうねっているのがいじらしくて、ヴァレリーは薄く口角を上げながらドナートの蟀谷に口付けた。
「ち、ちうえ
……
♡♡」
「ふふ、可愛い子
……
体はつらくありませんか?」
無体を強いたのは己だというのになんと白々しいのかと思わなくもないが、愛しい息子を案じる気持ちに嘘はない。情愛の痕跡がそこかしこにあるベッドの上で、ドナートの背中をそっと撫でるヴァレリーの手つきは息子が幼い頃にしたのとそっくり変わらなかった。
「へ、きです
……
」
言いながらも小さく咳き込んだドナートに、ヴァレリーはもう一度水を飲ませて汗ばんだ体を抱き締める。
「お前、明日はゆっくりと休みなさい」
「で、ですが
……
私も父上の
……
」
「登城を共にするのであれば、万全の体調でなければ許しませんよ」
「
……
休みます」
しゅんとした顔が可愛くて、ヴァレリーは何度もドナートの顔に口付けた。擽ったそうにしながら背中へ回された腕はしなやかで、父と素肌を合わせることへの嫌悪はまるで感じられない。そのことに深い満足感と愛おしさを覚えるヴァレリーは、ドナートの耳元で繰り返し「いい子、可愛い子」と囁く。
「ふふ、お前はなにもかも素晴らしい。私の自慢の子」
「ほ、ほんとうですか
……
? でも、私はまだまだで
……
」
腕のなかで照れたように身動ぎするドナートの前髪を掻き上げ、ヴァレリーはその額にも口付けた。
「私がそうだ、と言っているのですよ」
「あ
……
」
「ね?」
強く言えば顔を赤らめたドナートがこくこくと頷き、その稚い仕草がまた可愛らしくてヴァレリーは息子の体をこれまたぎゅうっと強く抱き締めた。
このままずっとこの子を抱き締めていたい。寝室から一歩も出さず、ヴァレリーだけのものにしたい。
でも。
「もっと
……
もっと励んで、父上のお言葉に適うようになります」
きらきらとした赤い目が見つめてくるのにヴァレリーは微笑み、ドナートの形のいい頭を撫でる。
「ええ、期待していますよ。私のドナート」
──逃げ出さない限りは捕えない。
最愛の息子は父親が後ろ手に枷を隠していると知ったならどうするかしら。
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