望月 鏡翠
2025-10-27 15:36:46
858文字
Public 日課
 

#1887 道連れ

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 空気の匂いが変わる。ここから先は違う場所なのだとわかる。豊かな森は、ところどころに木が生えるだけの、草地に変わる。なぜだか、旅人の道はこういう静かな場所であることが多い。
 豊かな緑とあふれるほどの命があるこの国とは、全く別の風景だ。
 侘助はこの国が嫌いではなかった。嫌な人間はいたが、緑が深くて呼吸がしやすい。
 しかし終の住処にはできなかった。また追い立てられる。
 肩の雛は、誇らしげに鳴いている。折れた指はそのままおもちゃに与えてやることにした。ただの枝よりは丈夫で、噛みごたえがあるだろう。歯が生え変わるのか知らないが、もしそうなるなら歯が痒くなった時分にはちょうどよいのだろう。
 霧の中に足を踏み入れる。
 人を招いたことは、ある。
 共に生きようとしてくれた者。単に敵として侘助を追っていた者。いずれであっても、道に踏み入れたとき一人になっていた。
 振り返って、背後を見る。
 深い森は消えていた。あの世界はどこか遠くに消えたのだ。
 だが肩の雛は相変わらずそこにいた。
「どう、して。お前、ここにいる」
 ここはもう別の世界のはずだ。旅人以外は、足を踏み入れることができない。
 雛は何を言われているのか、わかるはずがない。
 不思議そうな顔をして侘助の顔を見上げて、首を傾げる。機嫌がよさそうだ。
 人ではないからか。いや、人でない旅人など、たくさんいた。妖精のような小さなものから、大きなものまで。 
「旅人、なのか?」
 問いかけに答えはない。
 道に足を踏み入れることができるのは、旅人だけだというのなら、この雛も旅人なのだろう。人に追われ、親も死んだ、一人では生きていけない雛。たしかに旅人になるには十分だ。
 だが、もしや侘助が招いたから、だろうか。
 してはならないことをした。だが一方で、嬉しいと思ってしまう心もあるのだ。
「お前は初めての道連れだ」
 霧の中を歩く。
 ここではもう追われる心配もない。
 歩いていれば、いずれ次の世界か灯りの酒場にたどり着くだろう。