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シノハラ
2025-10-27 01:00:02
3822文字
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ルムメ
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Luna2の感想文のルムメ
国防に関わりそう(実際に他所の土地では関わってる)になる技術者(しかもソロで仕事をする)、ちょっと放っておけないけど元々同居人の方が先にやらかしているので特に扱いが変わらない回
食事中にカーヴェが静かなのはさほど珍しい事でもない。
たとえば、仕事の調子がいい時は頭の中の設計図に夢中になり過ぎて、アルハイゼンを構っている場合ではなくなってしまう。
他にも仕事を受ける前の懸案事項に気を取られている、なんてこともある。
そういう時はいつもより少しだけ時間をかけて食事をして、水を飲み干すとアルハイゼンに呼びかけるのだ。
どうやら今日は後者であったらしい。
「この家を出ないといけないかもしれない」
「何があった?」
深刻さが前面に押し出されたカーヴェの声には焦りはない。
様子を見るに、妙な思い違いをしているようにも思えなかった。
「持ち掛けられている仕事がちょっと危ないかもしれないんだ。いや、詳しくは話せないし、そもそもしっかり話を聞いているわけじゃない。というより、しっかり聞くべきじゃないかもしれないと思っているくらいだ。どちらにせよこの仕事を受けたら監視がつくかもしれないと僕は思ってる。さすがにそれじゃあ君の迷惑になるだろう?」
さすがに穏やかでない言葉が続き、アルハイゼンは微かに眉根に力を込めた。
彼は自分が騙されているかもしれないと知っていてなお、語られた物語が真実であった時の相手の損害を思ってしまうような男である。
とはいえ、今のカーヴェの説明を聞くに、胡散臭い花を高額で買うなんて可愛らしい話題でないのは間違いないが。
「出所が怪しい仕事じゃない。草神様からの依頼らしい。僕に話を持ち掛けてきている人も、吐いていい嘘と悪い嘘くらいは分かっているからそこは疑わなくていい。僕はクラクサナリデビ様を信用している。彼女が滅多な事をするはずがないのは君だって分かるだろう?」
ほとんど断定の問いにアルハイゼンは頷くだけで答えを示す。
あの時アルハイゼンは草神を担ぎ上げ、本来の地位に戻すことを選んだ。
それ以外に選択肢がなかったというのが実際のところではあるが、他に道があったとしてもアルハイゼンは同じ選択をしただろう。
彼女が草神でありスメールは草神の国であるというルール以前に、アルハイゼンは彼女に国を治める能力があると信じている。
「
……
でも、求められている要件を満たせば、いくらでも良くない転用が可能になる。もちろん、良い使い方もできるのは間違いない。多分、国の大事に関わる事だ。いつも任せてもらえるようなインフラ周りとか、そういう次元の話じゃない。きっと、納品してそれでおしまいになるような物じゃないはずなんだ」
カーヴェがそこで一度言葉を区切り、それからゆっくりと息を吐き出した。
ローテーブルに隠れて良く見えないが、気を紛らわせるように指を曲げて握り込んだらしい。
「だから、僕がこの案件を引き受けるならこの家を出るべきだ。君が命を賭して勝ち取った平穏を乱したくはない。大丈夫、僕が探さなくても交渉次第で良い物件を融通してもらえると思う」
さすがに国の大事に備えての事だとカーヴェが判断するだけはあるらしい。
つまるところ、カーヴェはそれだけの厄介事に巻き込まれつつあるということだ。
スメールがこれからもスメールとしてあり続けるためには必要な仕事で、そこに悪意や不用意な領土拡大を目論む意図はないのだろう。
彼女がそう判断し、現在の大賢者達が承認した案件であるのなら、アルハイゼンがどうこう言う事でもない。
それはそれとして、アルハイゼンは机に視線が行きがちなカーヴェにも分かりやすいように大袈裟に首を傾げてやった。
その動きを視界の端で捉えたらしく、カーヴェが顔を上げてアルハイゼンに視線を合わせる。
「監視は今更の話だ」
「は?」
アルハイゼンの返答に、カーヴェが目を大きく見開いた。
ああやっぱり気づいていなかったかと思いながらも、訓練もしていない相手に看破されてしまってはマハマトラは始末書ものだろうとも考える。
「アザールから目を付けられた時から、この家はずっと監視されている。さすがに内側に盗聴器の類が仕掛けられているわけではないが、君が想定しているのも外側からのものだろう? それだったら今も似たようなものだよ」
「え、いや、でも」
「もちろん、勢力図が変わってからは理由も変わっている。君が想定している監視もおそらく似たような動機で行われるものだと思っているが、現状を踏まえた上で何か問題が?」
自分が欲しかったのは平穏な日常だけとはいえ、アルハイゼンは国家のトップを挿げ替えたのだ。
頭が変わればその手足となる人材の多くが入れ替わり、その補填をするためにアルハイゼンは国が落ち着くまで奔走する羽目になった事もある。
ただそれだけならばよかったが、失職したり影響力を弱めたりした者からそれなりに恨みを買った自覚もあった。
その点をクラクサナリデビは憂慮し、アルハイゼンの同意を取り付けた上でマハマトラにアルハイゼンの周辺に目を光らせさせているのだ。
そのおかげか、アザール関連で身の危険を感じる事はない。
同居人であるカーヴェにもある程度監視が行っているはずだが、彼の反応を見る限り何もなかったか、何もなかった事になっているかのどちらかだろう。
旧体制の残り香が完全に払拭される時まで、この監視は継続されるはずだ。
別に自分もカーヴェも後ろ暗い事をやっているつもりはないし、今まで生活に支障を感じたことは一度もなかったので全く気にしていなかったのだけれど。
「ええと、じゃあ
……
」
「特に君が気にする必要はないだろう。むしろ、分散しない方がマハマトラの手間が増えなくて向こうも助かるくらいじゃないか」
監視、とぽつりと呟いたカーヴェは思わず自分の生活を振り返ってしまったらしかった。
これを機に外で寝入ってしまうほど深酒をするのを止めてくれると良いのだけれど。
「仕事は受けるつもりなのか」
「
……
多分。どういうスタンスで進めるかはともかく、僕が適任の仕事だと思う」
アルハイゼンの問いかけに眇められていた眼が開かれて、再び少し細められる。
それから曖昧な物言いをする割には既に腹が決まっていそうな返答があった。
「そうか。君の思うようにすればいいよ。依頼の出所が確かなら、滅多な事はないだろう」
「
……
ああ」
カーヴェの考えと決断に大きな問題はないように思えて後押しをしてやると、彼は少しばかり安堵したらしい。
しばらく考え込むような仕草をしてから、ゆっくりと頷いて見せた。
「ありがとう、アルハイゼン。今日は少し飲もうか」
それからこの話はおしまいとばかりに声を明るくして、アルハイゼンが飲むのも決定事項にしたらしくカーヴェは勝手に台所に消えていく。
帰ってきてまだ一滴も飲んでいないし、少しばかり付き合ってやってもいいだろう。
一人になった居間で、アルハイゼンはカーヴェの言葉を反芻する。
最近耳に入ってきた情報と組み合わせても、正直思い当たる案件はなかった。
さすがに一書記官程度の地位で探れるような話ではないのだろう。
たとえば賢者であれば、と考えてアルハイゼンは馬鹿げた過程を思考から追い出した。
あの時、代理から辞さない手などアルハイゼンにはそもそもない。
何のために自分があそこまで苦労をして奔走し、一時的にとはいえ代理の職を引き受けたと思っているのだ。
こうやって定時後早々に帰宅し、ゆったりと夕食を取る生活を何よりも貴ぶが故だと言うのに。
とはいえ、カーヴェが簡単に口を割ったり、うっかり口を滑らせたりする事はないだろう。
日頃から軽率なところがないとはもちろん言わないが、なんだかんだで彼はプロなのだ。
それも国家プロジェクトに関われるくらいなのだから、自分の脳から出してはいけない情報が持つ危うさをしっかりと理解している。
「メラック」
ならばと彼の工具箱を呼び寄せて、アルハイゼンは今回の仕事に関わっているだろう人物の名前を数名あげようとして口を閉じた。
何でもないとメラックに告げればぴぽ、と了解の音と共に元居た場所に帰っていく。
スメールが彼を必要としている時、彼は砂漠の片隅にいたらしい。
けれど、今彼はここにいる。
これからのスメールに、カーヴェは必要な人材なのだ。
今のところ、自分はそれだけ分かっていればいい。
そう、アルハイゼンは自身の好奇心に言い聞かせる。
カーヴェが思う通り、それは危険を孕むこともあるかもしれない。
けれど、とアルハイゼンは考える。
結局のところ今関わらなかったところで、スメールに問題が起こればカーヴェも被害を受けるのだ。
であれば最初からしっかりと仕事をして、彼自身がベストを尽くすのが一番カーヴェのためになるだろう。
もし、彼一人ではどうしようもない事態に陥れば、手助けができそうな人間が自分を含めそれなりにいるのだし。
そう結論づけたアルハイゼンの前にことんと置かれたワインの瓶には、普段よりも少し良い銘柄を示すラベルが貼られている。
どうやらカーヴェが自費で買った物のようで、これを飲み干したら自分の部屋からもう一本取って来てやってもよかろうと思いながらアルハイゼンは彼からグラスを受け取った。
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