望月 鏡翠
2025-10-27 00:23:54
924文字
Public 日課
 

#1885 行き先

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 矢の刺さる衝撃が体を揺るがし、侘助はつんのめって地面を転がった。
 すぐに体勢を立て直し、走り続ける。
 良い腕だ。
 あの一瞬で武器を構え直し、走って逃げる的に当てるなど、並の技量ではない。
 それでもやはり足を狙うわけにはいかなかったようで、矢が刺さったのは的の大きい胴だった。
 足を損なわなければ、走り続けることができる。
 男を引き離したあとは、足跡をこれ以上辿られぬように、道を選ばねばならなかった。
 岩場かあるいは川を越えれば、草を踏んだ後は残らない。犬は連れていなかったから、匂いであってきたりはしないだろう。
 袖の中の雛の様子を手探りで確かめると、強かに噛まれ、指が取れた。
 ひどく機嫌を損ねてしまったようだ。
 お前のためにこんなことになっているのだぞ、と心の中で語りかけて体を揺れぬように支えてやった。
 あの人間の男は、まだ年若いのにいい腕をしていた。呪われる運命はひどく恐ろしく、死の匂いを身近に感じることだろう。
 知らぬ国のこと、なるべく中立を保とうと思ってはみたが、やはり侘助は人とうまくやっていくのは苦手だ。
 同情はできるし、死にたくないという気持ちに共感もできる。しかし、いきなり切りかかってくるような男など、滅びてしまえばいいのだというのが正直な気分だ。
 仮に指を齧りとっても、雛には殺意や害意はない。どうせなら可愛げのある方に手を差し伸べる。この雛を遠くに連れ去るだけでそれが叶うというのなら、造作もないことだった。
 途中で、沢に出た。山深くにある流水は、山から削られた岩を集めて大きな石がゴロゴロとしている。足跡を消すのに、都合が良い場所だ。
 沢から出る場所にまたあとが残るだろうが、それを見つけられないほどに、上流か下流に移動してからまた森に入れば良い。
 それでも、歩みを緩めるつもりはなく、人の体力では到底追いつけない場所まで、この世界にとどまることができる限り進み続けるつもりでいた。
 上流と下流、どちらに向かいたいかと雛に問いかけてみると、下流を指し示した。
 逃げるなら人里から遠ざかる上流の方が良いのではないかと思ったが、雛がそういうならと、侘助は下流に足を向けた。