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横井
2025-10-26 23:36:58
858文字
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ベニロレ(8)
ロレの胸元で母の懐を思うベニ。ベニロレ。
【母の懐】
夜半に目が覚める。シーツからはみ出していたベニテスの手に、ひんやりとした空気が触れている。手をシーツの中に引っ込める。シーツの中は柔らかくて暖かい繭だ。繭は外界からベニテスを隔て、包みこんでいる。
ローマでの最初の冬、こんなに暖かい夜を過ごせることに震えが走った。背負った重責と使命に、手足は冷えていた。二年目の冬、ごくたまに、夢の中で過ごしているような感覚に襲われる。三年目の冬、分け与えられる温もりの心地よさを知った。
部屋の暖房は切っていた。だがそれでも、ベニテスにとっては十分快適な部屋だった。清潔な寝床。雨が吹き込むこともない。隙間風もない。水差しに氷が張ることもない。これ以上、なにを望めようか。
しかし。
ベニテスは暗闇の中、目を開ける。同じベッドの中で眠っている人がいる。人柄を示すような行儀のいい寝相。枕に埋もれた美しい横顔。高い鼻から、規則正しい呼吸の音がする。
トマス。
ローレンスの指の長い大きな手に指を絡ませる。はみ出して冷えていたベニテスの手に、優しい体温を分け与えてくれる。暖かい。ローレンスの手を引き寄せて、静かにキスを落とす。
ローレンスが身じろぎをして、眠りの淵からわずかに目を覚ます。薄く開いたまぶたから、青い目が覗きウロウロと暗闇を彷徨っている。誰かを探すように。
「ヴィンセント
……
?」
「ごめんなさい、起こしてしまいましたね」
耳元で囁くと、手をゆるく握り返される。
「ヴィンセント
……
、まだ夜だ
……
」
力強い腕に引き寄せられ、ベニテスの体はすっぽりと包まれる。ローレンスの胸に顔が埋まる。豊かな厚みのある胸。力が抜けたそこは、今は柔らかい。
うっとりするような心地よさに、ベニテスは伏せたまつ毛を震わせた。暖かい。この人に守られている安堵。この腕の中、ベニテスを害するものはなにもない。
ベニテスはふと思う。
母親の懐で眠る子羊は、こんな気持ちなんだろうか。
主はベニテスをこの世の羊飼いに封じた。だが今だけは、この人の子羊でいることを許してほしい。
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