2025-10-26 18:50:10
6688文字
Public 僕せか小説類
 

VS

⚠︎ATTENTION
・アプリ更新51時間目②までのネタバレを含みます。
・上記以降の更新前タイミングでの捏造話につき、更新後に多数差異が生じることと思います。見逃してください。
・使用魔法等、戦闘シーンを中心に多数捏造があります。最初から捏造小説なので見逃してください。
・その他誤字脱字など、何かあってもとにかく見逃してください。
・これは前半です。

 次々と地面に突き刺さる大剣を模した物質を飛び退いて避け、着地と同時に【魔女の要塞】を展開する。円形に広がった薄い膜のような一見頼りなくも見える障壁は、しかし目の前に飛んできた風の刃を受け止めてなお傷ひとつなく、次いで勢いよく降ってきた矢のような水、さらにバチリと激しく明滅する電気をも難なく防ぎきったのち意思に従い静かに消える。視界が僅かにクリアになったところで、防御の切れ目を狙ってかまたひとつ大剣が落ちてきたが、これは座標が合わなかったらしく、ソロを通り過ぎて数メートル離れた地面に突き刺さった。
 掻き消える大剣を背後に、追撃が来ないことを確認してソロは浅く息を吐く。が、ちらと見遣った地面のあちこちに巨大な水溜りができているのを認めると舌打ちを漏らした。
 先程の水魔法。
 偶然か意図的かは判らない。だがどうもここの地面は水をあまり吸わないらしい。足を僅かに動かしてみると、案の定、靴の裏がろくな抵抗もなく石の表面を滑る感触がした。だめだ。こんな状態で迂闊に動き回れば無様にすっ転びかねない。動きの制限を悟って顔を顰める。
「さっきから防戦一方じゃない?そっちからも攻撃していいのよ」
 声と同時、また何かが迫って来ている気配がした。視線を戻す。咄嗟に再度【魔女の要塞】を展開するも、そこにぶつかったのは攻撃と呼ぶにはまるで勢いの足りない、水鉄砲のような威力の水魔法だった。
 怪訝な表情をするソロの前。零れ落ちる水滴の向こうで女が笑う。
 上空で箒に腰掛け優雅に脚を組み、ソロを見下ろす女───A組担任・アネリ。花のようなピンク色の髪を風に靡かせて妖艶な笑みを浮かべる彼女は、小首を傾げて「残念」と言った。
「可愛らしく転んでくれると思ったのに」
「はは……
 半笑いを零しながら、意図的だったか、と内心呟く。水捌けが悪く、濡れると滑りやすい地面。ここに足を運んだのが初めてではないアネリは知っていて利用したのだ。ソロに目的を達成させないために。
「───アネリ先生、悪戯が過ぎますよ」
 そう、目的。ソロがそれを達成できていないのは、アネリともう一人、彼を相手取っているからである。
 深いブルーの髪と、肩口から覗く女児を模したぬいぐるみ……のような謎の生命体。アネリ同様、先程からソロ目掛けて【魔女の工廠】で創り出した大剣を落とし続けてくれた男。
「エキシビジョンマッチ。催し物とはいえ、戦闘は戦闘……油断するべきではない」
 S組担任・サイード。
 終始変わらぬ表情と抑揚のない声色で淡々と攻撃を仕掛けてくる彼もまた、ソロを微妙に梃子摺らせている一因だった。

 そもそも何故こんな面倒な状況になったのかと言えば、先にサイードが口にしたエキシビジョンマッチのせいである。
 すったもんだあった妖精杯の後半戦が終わり、結果発表も終えた、完全に終盤。閉会式を残すのみとなったタイミングで、学年主任であるユリオス・アノンが「これまでにはない閉会の催しモノを」なんて言って突発的に企画したのが、このエキシビジョンマッチ───教員同士のガチンコ魔法対決だ。
 極力目立つ真似をしたくないソロとしては正直、この時点で既にかなり面倒だった。だが実況席からああも大々的に盛り上げられてはNOとも言えない。会場の生徒やスッチャラカ妖精たちが湧き、面白そうだと指名された担任本人たちまでも乗っかり始めてしまえば尚更である。こちとら設定上、落ちこぼれD組の新任教師なのだ。立場は普通に弱い。
 そうして半ば強制的に出場するはめになったエキシビジョンマッチは、初手からソロの眉間に深い皺を刻んでくれた。
 まずユリオス主導で簡単に設定したルール上、生徒たちの後半戦に倣いふたつのチームに分かれて対決することとなったソロたち担任勢は、スッチャラカ妖精お手製の籤引きでチーム分けを行った。S組からD組の担任五名。少々数的バランスは悪いが二人チームと三人チームに分かれる形となる。まあ勝ち負けにこだわるものでなし、どうでもいいかと適当に籤を手にしたのだが、結果ソロ的に最悪の組み合わせが爆誕した。

 三人チーム、アネリ・チャミィ・サイード。
 二人チーム、ビブ・ソロ。

 よりにもよってである。
 少数チームになったのはいい。実力の問題でもない。いや、側から見たら落ちこぼれD組新人担任と、今回それを下回って最下位を取ってしまったB組の担任vs他組担任、という図なのでチーム実力差の問題はあったのかもしれないが、ソロが肩書き通りのソロ・ペイストリーでない以上そこはどうでもよかった。
 問題なのは相性だ。
 ソロ視点、B組担任のビブは潜入した当初から何かにつけてD組を貶めんとする傾向があり、あまり関わりたくない厄介者なのだ。ユリオスの言う生贄教育推進派、そのわかりやすい人物例。プライドが無駄に高くて、自分より下と断じた相手をとことん見下し優越感に浸ってしたり顔をしているろくでもないタイプ。端的に言うとウザい。鬱陶しい。面倒くさい。心の中で何度中指を立てたかわからない厄介な相手、それがビブである。
 そしてビブのほうもソロを快く思っていない。当人やその影響を多分に受けたB組生徒が絡んでくる度に、ソロやD組メンバーが何だかんだ返り討ちにしてきたからだ。気に食わない生意気な新任教師。そんな認識なのだろう。
 そんな「こいつさえ避けられれば」の相性最悪の相手とピンポイントでチームとなってしまったわけである。運がないとしか言い様がなかった。
 しかし当然、そんなことで組み直しを唱えられるわけもなく。ソロとビブは互いにコイツかよという心情を隠しもしないまま、引き攣った笑みで「よろしくお願いします」を絞り出し、いざエキシビジョンマッチに臨んだのだが。この相性の悪さがさらなる面倒を引き起こした。

 開始後、先陣を切ったのは向こうのチームだ。良いトコ見せるぞ!と張り切ったチャミィが真っ先に飛び出し、土魔法で生み出した巨大なゴーレムをソロたちに差し向ける。その間にアネリとサイードは箒で上空へ移動。エキシビジョンマッチという催し物故か、アネリはとにかく多種多様な魔法を放って会場を盛り上げ、サイードはその様子をしばらく静観するつもりのようだった。
 一方でソロたちのほうは、さすがにゴーレム程度【魔女の要塞】で難なく防御できるものの、そこからの動きが決まらなかった。というのも全てビブがビブなせいである。
 仮にもチームだというなら最低限、今どっちがどっちの相手を引き受けるかくらい決めるべきだろうとソロが声をかけるも、返事が返らないのだ。形だけとはいえ、こちらが歩み寄りを見せてやったというのにコイツ。さすがにこんなところで無視してんじゃねえよと青筋を立てたソロが隣を見ると、額に汗を浮かべながら防御を展開するビブの横顔が映る。まさかと思いおそるおそる「あの、大丈夫ですか……?」と尋ねると「ちょっと集中乱れちゃうから話しかけてないでくれる!?」と視線も寄越さないまま怒鳴られ、ソロは自分のまさかが的中したことにわかりやすくげんなりした。
 コイツ、この防御で既に手一杯になってやがる。
 ウッソだろ、とソロはいっそ素直に驚愕した。この男、仮にも魔法学校オリオンの教師ではないのか。こんな防御程度で苦戦している奴がなんで教師できてるんだ。コネか?……あり得る。
 そう思われていることにすら、今のビブには気付く余裕がないらしい。勘弁してくれとソロは溜息を吐く。どうしたものか。
 そうして僅かに思案したのち、ソロはあっさりとビブを見捨てる決意をした。
 教員たちの実力がどんなものか未知だが、オリオンの方針から察するに教員のほうにもある程度生徒間と似たような実力主義が根付いていると思われる。つまり組が上の担任ほど高い実力を持っている可能性が高い。そう仮定した場合、現時点C組担任の相手で手一杯になっているB組担任などまず使い物にならないと判断したのだ。だったらソロが彼らの相手をしたほうがいい。
 仮に今「ここは俺が引き受けますから先生はあちらを!」なんて鳥肌が立つようなことを言って助けてやったとして、待ち受けるのはA組とS組担任なのだからどうせビブは早々に詰むのだ。そう考えると要約「そのままそこの対応だけやってろ」というソロの判断は実力を鑑みた上で合理的であり、意図しないながら優しいとすら言えるものだった。
 だが、そうやって動き出そうとしたのを逃げと捉えたのだろう。
 ソロが箒で上空へ向かうため【草木の拳 プラント・フィスト】で隙を作り出したとき、ビブはそれを阻止しようとした。具体的には比較的手近だったソロの箒を掴み、妨害した。新任のくせに何一人で逃げようとしてるの、そんな気持ちで。これが良くなかった。

「は、」

 予想外の妨害に、箒がソロの手を離れてしまったのだ。
 思わぬタイミングで引っ張られてすっぽ抜けた箒。その柄がカツン地面を叩くのとソロが振り向いたのがほぼ同時で───その間抜けな隙を、チャミィは見逃さない。
 再びゴーレムが襲い来る。ゴォっと風を切って向かって来た土の拳は、ソロがほとんど反射で展開した【魔女の要塞】にぶつかった。轟音、衝撃。砕けた拳から土煙があがる。視界がもうもうと遮られる中、咄嗟ながら確かな精度で自らと、ついでにビブをも守ってしまった防御を解く。
 立ち込める土煙が邪魔だった。適当な風魔法で周辺を晴らす。ヒュォ、と身に纏ったローブが翻り、周囲を見渡せるようになったとき。ソロの箒はどこにもなかった。

…………………………………………………………………

 息を吸って、吐いて。
 痛いくらいの沈黙が落ちる。
 こういう時こそ追撃が来るべきだと思うのだが、遠いながらにこちらの妙な雰囲気を察知したのかチャミィは何も仕掛けて来ない。それどころか「おぉーい!どーしたー?」なんてゴーレムの頭上から気の抜けた声を降らせてくるものだから、余計にこの場の沈黙が際立っている。アネリとサイードも様子を伺っているようだった。
……あ、のぅ………………
 ソロの背後から控えめな声が掛かる。ビブである。さすがに状況は理解できているらしく、なんとも情けない声でソロの反応を伺ってくる。それでも真っ先に謝罪が出て来ないあたり、ビブはビブだ。先程からソロの中で“愚か者”的な言葉が全て“ビブ”に置き換わっていることは置いておく。

………………………………………………………………………………

 長い長い沈黙の後。
 ビブ先生、とひっくい声を発したソロにビブは「ハイ」と背筋を伸ばした。しかし直後、咄嗟とはいえ新任教師相手に萎縮してしまったことを少々不満に思う。しかもそれが表情に出ている。この後に及んで恐れ知らずというか、大したものだが、幸いソロは背を向けたまま振り返らなかったのでそれには気付かない。
 代わりにいやに落ち着いた声が、ゆっくりと、言い聞かせるように、ビブにこう告げた。
「俺が、アネリ先生たちの相手を、引き受けるので。チャミィ先生の相手をお願いします」
 ハイ以外の返事は認めない。
 そんな圧を残してソロはその場を去る。背後から何か聞こえた気がしたが、耳を貸さないまま無理矢理素直な返事だと思い込んだ。そうでなければキレ散らかしてしまいそうだったからだ。
 いや、訂正しよう。既にソロはキレ散らかしてはいる。ただそれを生徒や他の教員たちの目がある手前、そして今後の任務継続に支障をきたさないため、かなり頑張って表に出さないよう抑え込んでいるだけだ。実際の内心は荒れに荒れ、既に脳内のビブは軽く五十回ほどにわたってバリエーション豊かに死を迎えていた。
 ザシュ。ゴッ。ドス。着々と死体を増やしつつソロは周囲を見渡す。それなりに急いでいるのは、早いところすっ飛んでいった箒を見つけ出さなければ、上空からの攻撃に反撃もできないまま対応し続けるはめになるからだ。
 なおこの場合の“できない”とは、不可能の意ではなく“任務に差し支える可能性があるからできない”の意である。
 実のところソロは箒がなくとも飛べなくはないし、これくらいの距離なら反撃も避けられる前に届かせられるのだが、一応高度な技術に分類されるためこんなところで披露したくはないのだった。一般の出の教員ごときがどこで身に付けたとか何とか、変に勘繰られては困る。
 そうならないためにも、さっさと箒を探し出さねばならないのだが。
(くそ、どこ行きやがった……!)
 フィールドが無駄に広い上、飛ばされた瞬間が土煙で遮られてろくに見えなかったため、範囲を絞れない。一応、攻撃の向きと微かな落下音から導き出したそれらしい方向へ向かっているものの、大雑把すぎてほとんど当てにならない。落下音だっておそらくでしかないのだ。さすがにヒントが少なすぎるわ、と苛立ち任せにまたひとつ死体を積み上げたところで、ソロの耳に思わぬ声が届いた。

「せんせーーーーーーーーー!!」

 会場の喧騒を上回る大声。芯があって、活発で。よく通るその声は、いつだって騒がしいD組の教室でも不思議と一際目立つ少女のものだ。咄嗟に足を止める。鮮やかなスカイブルーが脳裏で揺れる。弾かれたように顔を上げると再び「ソロセンセー!」と、今度は隻眼の少年がソロを呼び、その視線を風のように導いた。
 上空、観覧席として使われている浮島のひとつ。段になっている座席の一角に、D組の生徒たちの姿がある。ほとんど全員が立ち上がって、身を乗り出す勢いでソロに向かって声を上げている。いつの間にやら近くに来ていたらしい。
 距離があるのでさすがに誰が何を言っているかまではわからないが、他組から向けられる引き気味の視線をものともせずに、ぎゃあぎゃあと喧しく騒ぎ立てる姿はなんとも自由な彼ららしい。思わず半笑いが零れる。しかし直後、その彼らの様子が少しおかしいことに気が付いた。
 揃いも揃って、何故か首を横に振っているのだ。違う、そうじゃない、そう言うように。そして何処かを示している。腕を大きく振り、何度もその指先で一方を指差して───、

 ───まさか。

 ソロがその意図を汲み取った瞬間、答え合わせのようにスカイブルーの少女───ミーコが叫ぶ。

「あっち!!」

 早く!!

 それが合図だった。
 革靴が地面を蹴る。ふわり、ローブが風を孕んで膨らむ。
 ぶっ飛ばせ、やっちまえ、と彼らから飛び出す悪役 ヴィランチックな言葉を背負って、ソロは走り出した。示された方向を見据え、その口元にニヤリと悪役 ヴィランチックな笑みを浮かべて。
 ───やるじゃねえか!
 何のことはない。上空の彼らからは見えていたのだ。ソロの箒が飛ばされた一部始終、或いはそれが落下した瞬間が。
 そしてソロの立ち位置と状況から、その行方を追えず、見失っていることもわかっていた。そこへちょうど当のソロが近付いて来たから、どうにか伝えようしてあれだけ騒いでいたのだろう。基本的に子どものような言動を好まないイブキまで彼らと一緒になって立ち上がっていたのも頷ける。あいつはソロ……というか殺し屋No.0に関する事柄では、存外簡単に年相応の姿を見せるのだから。
 ともあれ、助かった。これで箒を取り戻す目的は果たせそうだ。
 想定より走り回らずに済んだのは僥倖だった。上空からの攻撃リスクもそうだが、ソロ自身の体力消費を大幅に抑えられたという点でこれは大きい。密かに安堵する。
 実はソロにとって、ノーヒントで探している間の最大の懸念事項は、情けない話だが己の体力だったのだ。元来の身体の弱さに加えて、魔法に頼りきりの日常で培った生活習慣病。体力は余裕で平均以下。何もなくとも定期的に体調を崩すような貧弱体質故、体力を消費しすぎると目的を果たす前にダウンする可能性が無きにしも非ずだった。これを避けられたのは、ひとえに教え子たちのアシストのおかげである。そこをちゃんと、ソロはわかっている。
 だけど教師の真似事を始めてから時折感じる妙なむず痒さで、どうしたって素直に褒めてやることはできそうにないから。代わりになどきっとならないけれど。

 ───たまには、彼らに沿って動いてやるのも悪くないかもしれない。