らぎ
2025-10-26 17:39:40
1113文字
Public モノノ怪
 

離坤ドロライ二期 第七回「他の人から見た離坤」「肌」「窓」

ベビードールの下にいつもの股引きで着てるのにすけべな坤ちゃん欲しいなァ

その日、離の薬売りはたいへん不機嫌であった。薬売りたるものそれを表に出しはしないが見る者、例えば近しい同輩などが見ればそれと気がつく程度には不機嫌であった。
何せ朝から愛しい坤に避けられている。何か怒らせるような事でもしたかと思い返すも、どうも心当たりが無い。そもそも坤の薬売りも己も大変さっぱりした性質であり、禍根を後に引きずり、あまつさえそれを相手に態度で示すなど面倒極まりない事は極力したくないのだ。それを疑わない程度には付き合いも長い。しかしそれならば何故、と思考が三巡りほどしたところでエイヤッと離の薬売りは立ち上がった。分からぬのなら聞くより他にない。単純な話である。
いつの間にか視界から姿を消した坤の薬売りの気配を追って、離の薬売りは板張りの廊下を進み、陰の領域に足を踏み入れた。勝手知ったる坤の部屋へと歩を進めると、青磁の体の天秤が二体、ふわふわと纏わりついてくる。
……坤の天秤、ですか。何用です」
勿論のこと言葉を喋る筈は無いのだが、あのヒトは気に入っただとかこのヒトは気に入らないだとか、天秤にもその程度の情緒は有る。持ち主たる坤の薬売りならばもう少し繊細に言いたいことを汲み取れるのだろうが、離の薬売りには微かな焦燥と抑留の意思を感じ取る事しかできなかった。それでも明確な拒絶ではないのを良いことに、離の薬売りは無慈悲なまでに真っ直ぐ坤の薬売りの部屋の前に辿り着くと、声も掛けずにすぱん!と襖を半分開け放った。
果たしてそこに居り、ヒッと引き攣った悲鳴を上げた坤の薬売りは朱色の襦袢を肩から落としたところであり、その骨ばった素肌には──およそ観賞用に縫製された以上の役割を持たないであろう、覗き窓の如く切れ目の入った黒いシルクと繊細なレースが纏わりついていた。
……………………何か、言う事は」
口を開いては閉じ、また開いて漸くそれだけを言語にした離の薬売りに、坤の薬売りは観念したと見て項垂れた。
「その、ですね……離の方が、停滞マンネリを感じておられるのでは、と……
「それでその下着を着用するに至った、と。」
羞恥極まり顔を覆った坤の薬売りの掌をそっと取り、離の薬売りは綺麗で凶悪な笑みを浮かべた。頬の肉の薄い男が浮かべるそれは興奮して瞳孔の開いた牙獣にも似て、あわれ坤の薬売りは本日二度目の悲鳴を上げる羽目になった。
「斯様な入れ知恵は誰に……と言いたい所、ですが。先ずはその白肌、喰らい尽くしてくれよう。」
そう言うが早いか離の薬売りはぴしゃりと襖を閉め、後の顛末は室内の二人のみぞ知ることとなったが……まあ次の日出仕して来ない坤の薬売りを見れば火を見るより明らかであろう。