ひじり
2025-10-26 17:16:42
2338文字
Public 大新 小説
 

一九六六年十月十日

大新。
浅葱さん(@Asagi_hika)の夢チェリ展示SS『1960』の本文及びあとがきを受けて書いた三次創作です。

浅葱さん『1960』

――

 新橋さんから手渡された朝刊に目を通す。今日は一九六六年の十月十日月曜日である。いつもであれば、日曜日は新橋さんの家で一泊し月曜日の朝には探偵社へと向かうが、今年より国民の祝日である体育の日と定められた。しかも自分の誕生日でもあるので、ゆっくりと新橋さんの家で過ごすことになったのだった。新橋さんは十月十日が祝日になったと知るや否や、「折角ならば趣向を変えた誕生日をしましょうか」と提案した。自分はいつも通りで良いと言ったのだが、新橋さんには兼ねてより計画していた何かがあるようだった。出会って十回目の誕生日であるから、その記念もあるのかもしれない。新橋さんは記念日を必ず祝う性分で、付き合いたてのころは何かと理由を付けて記念日を作ろうとしていた。はじめて自分が味噌汁を作ったときも、暦付きの手帳にせっせと書き留めていたから驚いた。彼の手帳には今までの自分との思い出が詰まっているのだろう。かく言う自分もスケッチブックに彼との日常を描き留めてはいるのだが、新橋さんのまめさには敵わない。
 粗方新聞に目を通し終わったところで、新橋さんが良い香りとともにやってくる。手にはお行儀よく並んだ皿と、黄色の輝きがあった。輝きはふっくらと丸みを帯び、白い湯気を発している。ちらりと具のようなものも見えていた。口内に唾液が集まるのを感じる……
「デンバーオムレツです。中に肉と野菜も入っております。コンソメスープはおかわりもありますから」
「ありがとうございます。いただきます」
 両手を合わせてそう言えば、「どうぞ、召し上がれ」と返ってくる。最初は意味を感じていなかったこの行為も、作り手に感謝が伝えられるのだとわかれば、案外無意味なことでもないのかもしれないと思えた。それに、新橋さんが『召し上がれ』と嬉しそうに毎回言うものだから、それが見たくて今日もこうやって『いただきます』と言っている。
 新聞の記事やら料理の感想やらを話せば、あっという間に朝食は終わった。皿洗いは自分の担当であるが、「誕生日なのですから、関白のように堂々と座っていればよろしい」と追い返されてしまった。「昼は出かけますからその準備でもしていてください」と命ぜられたのでその通りにして時間を潰した。

――同日、夜

 昼間の疲れを風呂で流して、嗜む程度に酒を交わす。ほんのりとアルコールを感じはじめたところで、新橋さんは「そろそろ頃合いですかね」と呟いた。
「頃合い?」
「大崎様、ここで待っていてください。俺は準備をしてまいります」
 新橋さんはそそくさと二階へ引き上げてしまった。何を準備すると言うのか。湯浴みも済み、食事も済み、晩酌も済んだ。となると残るのは……。十年も経つと否が応でも体の不自由を感じ始めるが、生憎、自分の人より大きいそこはまったく衰えていなかった。むしろ、月日を重ねるごとに魅力的になる新橋さんに栄養を与えられ続けていた。これでそういう流れでなければ、自分はこの期待が集まり始めた中心を虚しく処理しなければならない。
「大崎様!!!」
 慌て思考を手放し二階への階段を駆け上る。「大丈夫ですか!!!」と開け放った扉の先には、してやったりと言わんばかりの表情を浮かべた新橋さんが立っていた。それも、バニースーツを着用して。
「懐かしいでしょう?今日のために特別に取り寄せたのです。ささ、御検分あそばせ」

 いつの日か、新橋さんは海外からバニースーツを取り寄せたことがあった。その時はこのような服だとは知らず、しかし破廉恥なものならば破廉恥に使おうということで、そのまま行為に至った。あの後も何回か着用したが、流石にくたびれてしまったスーツは押入れにしまわれている。捨てないのかと聞けば、『ま、まぁ……これも思い出でございますから』と顔を赤らめていた。

 当時のバニースーツも大変扇情的ではあったが、今日のはさらに磨きがかかっている。正面の布面積はより少なくなり、本来であれば女性の谷間を強調するであろう深い切り込みが入っている。ベルトで留められた黒のストッキングも美しく、控えめなフリルが可愛らしい。後ろも見せてもらえば、そこもまた布面積が大幅に減っている。しかも、何故か、臀部のあたりが。しかしウサギの尻尾はもこもこと揺れている。新橋さんの白い肌によく映える黒い尻尾だ。周囲に布はないが、どうやって……
「いつまで眺めているおつもりですか。体に穴が開いてしまいます」
「いえ、その、これはどのような仕組みで」
「ですから御検分なさればよろしい」
 両手で臀部を広げ、こちらに見せつける。これは……。少し尻尾に触れれば、頭上から甘い声が漏れ聞こえた。どうやら自分の想像通りらしい。尻尾を掴んで回してやれば、さらに声が大きくなる。一体どこで見つけてくるんだが。
「抜きますよ」
 一応声をかけ、尻尾を引っ張る。すると人肌に温まった尻尾の先に、球体がいくつか連なって出てきた。新橋さんは抜いただけで軽く達したらしい。自分の十年の愛の結果だ。
「こんなにいやらしいものを自分で装着したんですね」
「言ったでしょう、いつもと趣向を変えると……。どうです?六年後の俺は」
「好きです」
「もう一声」
「退廃的な姿に我慢が限界を迎えています。誕生日の贈物に新橋さんをくださいませんか」
「クク……。御誕生日おめでとうございます、緋色様。御所望の俺ですよ」
「ありがとうございます。冥さん、愛しています」
「俺も愛しております」

 この後、六年前に負けず劣らずのアツい夜を過ごしたが、その様子を知るのは自分と新橋さんだけである。

おまけイラスト