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らん
2025-10-26 16:03:11
4992文字
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さわってほしいの。
クロルリ。2022/2/13発行物のweb再録
※現パロ
※付き合ってる
※やること全部終えてるふたり
「ワンサイズ大きくなってらっしゃいますね」
その店員の一言で、ルリは思わず試着室の中で顔を覆った。という話を同じ大学の花田仁姫にこぼす午後三時。
大学近くのパンケーキが有名な店で目玉商品である季節のパンケーキを頬張りながら、彼女と向かい合っていた仁姫ことニッキーは溜息をついた。
「もうデカくなったもんは仕方なくね?」
「そんな身も蓋もないこと言わないでください
……
」
「だって、アンダーはそのままなんだろ? それなら太ったワケではないし」
「じゃあ私の胸はなんで大きくなったんですか
……
」
ミルクティーで身体を温めつつ、吐き出したことでいくらか落ち着いたルリもようやくパンケーキに手をつけていく。
何故こんな話をわざわざパンケーキがてら打ち明けたのかといえば、昨日の学校帰り、下着がへたってきていたこともあり、ショッピングモールに寄ったついでに測量も頼んだことが事の発端だった。
元よりルリは胸の大きい方である。国内産でギリギリ出ているサイズをしばらくはずっと身につけており、今回は前回測ってから一年以上経ったから、というなんの気なしに測ったものだった。しかし、そのせいでサイズアップにより大きなショックを受けたのだ。
「これが大きくなったかも? と思った上で測ってたらこんなにショック受けてないんですよ
……
こんなこと、まかり間違ってもニッキーにしか相談できません
……
本当に私太ってませんか?」
「毎日会ってるアタシが断言するけど、マジで太ってないから安心しな。むしろ、アタシの方がやばいかも。部活引退してから筋肉が脂肪になってる気がする」
高校でも柔道部に所属していた名残から、ニッキーは大学でも柔道部に所属していた。大学四年生に上がる前に引退してからは部活動ほどの激しい運動がないので、体型の変化がこちらも気になっているらしい。
そうこう言いつつ二人ともパンケーキを頼んでいる時点で、ダイエットという言葉は彼女達の頭の辞書では隅に追いやられているようだ。
「まあ、ルリの場合はクロムが原因なんじゃ?」
器用に一口サイズに切り分けたパンケーキを口に運ぶ直前のニッキーの一言に、ルリはきょとんと瞬きを繰り返した。
「どうしてクロムが?」
「胸は揉んでもらうとデカくなるって言うじゃん」
甘いものを飲み込んでから素直に疑問への回答を述べると、その答えで眼前では盛大にルリが咽せている。そんなルリを見、少女漫画で得た知見だと言いづらくなるニッキーなのであった。
ニッキーと別れ帰路につく電車内。ルリは先程のニッキーの言葉を幾度となく脳内で反芻していた。
(揉まれると、大きくなる
……
?)
確かに、クロムと付き合い出す前に測ったのが最後の測量だったため、成長した時期としては合うのかもしれない。それに、クロムはなんだかんだ胸が好きなのだ。
(よ、よく触られますし、?)
本人が言ったわけではないけれど、行為の際、愛撫が多い箇所である。下から支えるように掴まれて、丁寧に輪郭を辿られる場所。
男性は胸の大きな女性が好きだと聞いたこともあるので、クロムも大きな方が好きならば願ったり叶ったりだ。しかし、うら若き妙齢の女性として困る事もある。大きなサイズのブラは可愛いデザインが少ないのだ。
次また大きくなったらインポートランジェリーに頼るより他になくなってしまう。そうなると、クロムに見られても恥ずかしくないデザインの幅は更に狭くなるだろう。
(南さんなら素敵なお店も知ってそうだけど、高そうだし
……
)
早速昨日購入したサイズアップしたブラジャーをつけているが、確かに締め付け感は今の方がゆとりがある。ブラジャーの縁に肉が乗ることもなく、すっぽりと綺麗に収まっている状態だ。
触られると大きくなるのなら、今後はあんまり触られない方がいいのかもしれない。
そんな頓珍漢なことを考えつつ、ルリは電車の揺れに身を任せて目を閉じた。
「ルリ!」
「えっ、ハイ!」
珍しく焦った声で名を呼ばれ、ルリは思わず大きく返事をした。気づけばクロムが隣に立っており、火を止めている。
腰を掴まれコンロから遠ざけられたまま、そういえば調理中だったとルリは肝を冷やした。
「あぶねー、風呂から出たら煙出てんのはビビるぜ」
「ごめん、クロム」
「俺は別にいいけどよ、メシ作ってる時にボーッとしてるなんて珍しいな?」
研究室から早帰りしたクロムが入浴中に夜ご飯を作るのは、クロムの家に来るとルリが必ずすることだった。
これは付き合う前からの習慣で、今日も電車に揺られクロムの家にお邪魔したのだ。そしていつもと変わらずふたりぶんの夕食を作っていたのだが、まさか焦がすなんて。
別に胸が大きくなることでここまでショックを受けているわけではない。それならば、事実を知った昨日だって何かポカをやらかしていたはずだ。
昨日だって驚きとショックはあったものの、至って普通の生活を送れていたのである。
「フライパン焦がしちゃった。本当にごめんなさい」
「ルリがケガしてねーならオッケー! いっつも作ってくれるのも嬉しいけどよ、疲れてる時は出前とか取ろうぜ」
「
……
そうやっていつもピザとか食べてるから、私が来た時は作るんですよ?」
「おー
……
はい
……
気を付けます。んじゃあ、今日はファミレスの宅配しようぜ!」
これなら野菜も取れるし。そう誤魔化して笑うクロムを見、ルリは焦がしてしまった食材に謝りながら後片付けを始める。
(どうしちゃったのかしら)
本当に深刻な悩みといった悩みもないのに。
彼女が吐く息の重さを、クロムは見逃さなかった。
「ルリ、」
後ろから覆い被さるように彼女を抱きしめて、クロムは脈拍を測る。脈は正常値だ。どうやら具合が悪いのに無理をしているワケではなさそうだった。
突然抱きしめられたことに驚きつつ、ルリはクロムの重さと体温を受け入れた。
「どうしたの、クロム」
「具合悪いのかと思ってよ」
「自分の具合は私が一番分かるわ。病気は完治してるって知ってるでしょう?」
「そうだけどよ
……
片付けは俺がやるから、ルリは休んでろ」
「そんなにひ弱じゃないのに」
「知ってる! 俺がそうしたいだけだ」
渡されたファミリーレストランの宅配チラシの代わりにひっつき虫のクロムはさっさと離れ、有無を言わさずにルリに代わって後片付けを始めてしまう。
幼少期の記憶がずっと残っているクロムは、肺炎が完治した今でもルリが体調を崩すと深刻そうな顔をする。
(あの頃は、俺が医者になって治す、なんて誓ってくれたっけ)
結局、彼が医者になる前に完治して、クロムは自身の好きなことを研究しているけれど。
彼の頭の良さは、その当時の誓いに依る努力も多分にあった。
「ルリー、俺ハンバーグ弁当にする!」
「サラダも食べてくださいね」
「おう!」
洗い物の音に負けない大きな声の要望に、ルリは小さくはにかんだ。
その時、さっきまで触れられていた内手首に残る熱の名残に気づく。
体温の高いクロムは風呂上がりだとほぼ微熱ぐらいの体温になる。ルリはそんな彼の体温がとても好きだった。
彼らしい温度だと思うし、その温度を感じると生きているのだと実感できるから。
(触られないの、やだなあ)
そこで、ようやく自身の感情に合点がいった。
胸が大きくなったことがショックすぎたのではない。胸の大きくなった原因がもしクロムだとして、彼に触れてもらえないことが嫌なのだ。
電車内で考えていた頓珍漢な思いは、そのまま深層に染みついていた。
あんまり触られない方がいいのかも。じゃあそれをどうやって伝えるのか。クロムのことだ、控えてと言えばほとんど触れてこないだろう。理由も聞かないだろうし、受け入れる。気になったとしても、ルリが嫌がれば、何もしない。
それは寂しいと、思う。
野菜炒めを作りながらルリはずっと考えていた。触って欲しいけれど、控えてほしい、と思うのは矛盾ではないのか。
そもそも、サイズがどうであれクロムは気にしないだろう。でもルリとしてはこれ以上大きくなっても困る。
でも、だって、考えすぎた結果、野菜は焦げたけれど。
「
……
ねえ、クロム」
洗い物を終えてキッチンからやって来たクロムがベッドに腰掛けた。そんな彼の足に身を寄せると、ちょうど膝小僧にルリの頭が当たる。
「クロムは、大きな胸の人が好きですか?」
「
……
ハ?」
いきなりなんだよ、と茶化したい気持ちを抑え、クロムは努めて冷静に言葉を返す。ルリの声は少しトーンが落ちて聞こえたからだ。
「好きか嫌いかでいえば、好き、です」
「じゃあ私はどうですか?」
「いやもうルリはデケェじゃん
……
」
間髪入れずに返してしまい、口を覆うが出した言葉は返ってこない。真意がよく分からないため、下に座っていたルリを引き上げて抱きしめると、なんとも言えない顔をしていた。
「やっぱり大きいって思ってたんだ」
「スミマセン」
「いいの。私も自分で大きい方だとは思ってるので」
「あのー、ルリさん? コレなんの時間なんだよ?」
首に回ってきたルリの腕を受け入れながら、クロムは2歳上の彼女が何を言いたいのか分からず混乱していた。
胸の大きさなんて気にするものではなく、クロムにとって大きい胸が好みなのはルリが大きいからだし、ロングヘアが好きなのもルリが長いからだ。
基準が全てルリなので、何を聞かれてもルリと似たものへの回答にしかならない。
「
……
実は、胸が、大きくなりまして」
そして、それはあまりにも突飛な告白だった。
「
……
ハイ」
目を白黒させながらも恋人の吐露をひとまず聞くクロムはと言えば、知らず知らずのうちに背筋を伸ばしていた。
「それで、その
……
胸は揉まれると、お、おっきくなるって、聞いたの。大きくなると下着選ぶのも大変で、あんまり成長したくなくて、でも、でもね、」
クロムには触られたいの。
強まる腕の力に、クロムは自分も力で返す。今の今でこの告白をしてくるということは、さっき野菜を焦がしたのはこれが原因なのかと悟ってさえいた。
洗い物を終えたばかりで冷えた指先を申し訳なく思いつつ、クロムの肩に顔を埋めて羞恥に耐えていたルリの頬を彼は撫でる。
「あのよォ、ただ揉むだけで胸は成長しねーからな」
「
……
そうなの?」
きょとりと目を丸くし、自ら顔を上げたルリは、クロムの顔がまるで茹でたように赤くなっていることに気がついた。
「胸は脂肪だかんな、リンパ流して血流良くするようなマッサージしてんなら、でかくなるかもしれねーけど
……
んー、
……
多分、女性ホルモンが出てるんじゃねえの」
医者を目指す中で身体構造等は学んでいたとはいえ、こんなことで知識が役立つとは思ってもいなかった。
クロムはホルモンの話までして、思わず顔がニヤつくのを堪えきれない。
好意を抱いている相手に揉まれることによって女性ホルモンが分泌されていれば、それは成長を促す理由になるからだ。
つまり、クロムに揉まれて成長したと思う、ということは
――
それだけルリがクロムを好いている証なのである。
「どうしてニヤつくんですかっ」
「やー
……
思ってた以上によ、ルリが俺のこと好きで嬉しくて」
「どういうこと?」
分かっていないルリを更に強く抱きしめ、クロムは彼女の胸に服の上からキスをする。
「俺はルリならなんでも好きだ!」
そういうことではない、けれど、もうそういうことにしておこう。
結局、クロムを好きな限り、ルリの胸は成長する可能性がある、という事実は自覚出来ないままだったが、揉まれても成長しないという事実にルリは安堵したのであった。
(じゃあなんで大きくなったんでしょう? やっぱり太ったのかも
……
)
後日、ルリのダイエットに付き合うことになり肌艶の整ったクロムと、痩せたついでに胸も元のサイズに戻ったルリの経緯は、また別の話である。
何が起きてもクロムが人知れず嬉しくなっていたことなど、ルリは終始知る由もなかった。
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