白殊皎(しらよし こう)
2025-10-26 13:00:00
3847文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

白の箱庭


FGO【土近/歳勇/ひじこん/としいさ】
白殊版〝○○しないと出られない部屋〟
お題と事の顛末。


「総司、歳を見なかったかい?」
「えー見てませんよ。シミュレーションルームとかにいませんでした〜?」
 ボイラー室横の例の部屋でノッブ達とお団子を食べていた沖田総司は、困り顔の近藤勇に尋ねられてそう答えた。
「そうか、ありがとう。行ってみるよ」
 近藤はそれを聞いて、綺麗な眉をこれまた綺麗な八の字に下げて、とぼとぼといった効果音がしそうなほど落ち込んだように立ち去っていく。
「何じゃアレ。お前んとこのか」
「近藤さんです。この間会ったでしょう? 土方さんを探しているようですけど。いつもベッタリなのにどこで何やってるんですかね」
「興味ないし。わしが知るわけなかろう」
「でしょうね」
 ノッブが〝人斬りサークル〟と呼ぶ自分たち新選組に興味が無いのは重々承知なのであっさり流す。
 しかし、近藤が召喚されてから、周りにあの距離の近さは一体なんなんだ、と言われるくらい二人でいるというのに土方はどこへ行ってしまったのか。
『でもまだお手々繋いで寝るくらいしか出来てないんですよ〜』
 と心の中でツッコミつつも、まぁ土方の事だから何事もなかったかのようにいつの間にか近藤の傍にいそうな気もするので、放っておけばいいか、と沖田総司はお団子に意識を戻した。



 近藤の探し人はシミュレーションルームにもいなかった。
 昨夜確かに同衾したというのに、朝になったらその姿はなかった。
 ちなみに、沖田がツッコミを入れたように、本当にただ同じお布団でオヤスミナサイしただけである。
『まさかいい加減愛想を尽かされた? それとも誰か他にいい人が?』
 自分がこの星見の船に召喚されるかなり前から土方はここにいて、主に力を貸していたという。
 狂戦士バーサーカーの霊基とはいえ、土方は理性で歯止めが効く頼りになる男だ。
 今は自分と想いを交わしているとはいえ、過去にそういう相手がいてもおかしくはないし、情にはあついから、相手に復縁を迫られれば……
──その可能性は、なきにしもあらず……
 土方を信頼していないわけではないが、すん、と近藤は微かに鼻をすすった。
 もしそうだったとしても迷惑はかけまいと……



 「近藤さん!?」
 バチッと音がしそうなほど勢いよく土方は目を開けた。
 辺りを見回してもそこに近藤の姿はない。
「どこだァ? ここは……
 土方が目を覚ましたそこは壁も床も真っ白な継ぎ目のない不思議な部屋で、部屋の真ん中にこれまた白い寝台が据えられていた。
 それがあるというのに土方は床に転がっていたのである。
 昨夜は確かに近藤の寝顔を見ながら、睫毛が長いな……などと思いつつ眠りに落ちたはずである、なのになんでこんなところにいるのか。
「ちくしょう、なんの仕業だ!?」
 立ち上がって周囲を見回すと、寝台の上に何やらプレートのようなモノが見えた。
 近づいてそれを手に取る。
「なッ……ふざけるなぁあ!!」
 次の瞬間、土方は眉をつり上げて床にそれを叩きつけた。



 食堂、管制室、医務室、図書館、倉庫。
 思いつく限りの場所を探すが、近藤は土方を見つけられずにいた。
 もうこれは個人の部屋の以外ないのではないかと思い始める。
──やっぱり……
 近藤の視界が涙でにじんだとき、突然足下の感覚が無くなった。
「うわぁぁぁっ」
 落ちる──と思ったが次の瞬間、ぼふんと音がして白いものに身体が受け止められた。
「近藤さん!?」
 そして聞き慣れた声。
 探し求めた土方がそこにいた。
「歳……!」
 思わずその身体に縋りつく。
……なんてこった」
 土方は苦々しく呟いた。
「歳……。どうしたんだ?」
 自分に会いたくなかったのかと思い不安がさらに大きくなる。
「違ぇよ……まさかこんなことが……
 近藤の心の機微を敏感に感じ取って、言葉を選ぼうとするが動揺が先に立って口ごもる。
 果たして自分達の現状を素直に伝えていいものか……
──絶対に嫌だ。
 でも一部は伝えなければなるまい。
 土方は意を決して近藤に向き直った。
「近藤さん、あんたと俺はこの部屋に閉じこめられたようだ」
「うん?」
 それがどうしたと言うのだろうと、寝台の上できょとんとする近藤。
 そのはずだ。
 脱出手段などいくらでもあると思っているのだろう。
──しかし。
「どうやらここはクソタチの悪い固有結界みたいなもので、何をやっても出られねぇ」
 実際に土方はここに来てから壁や天井、床などに宝具をかましているが、傷一つ付かない。
「歳の宝具でも?」
「あぁ……
 ならば自分が、と誠の旗を顕現させようとするが、いくら意識を集中しても、何かに封じ込められたように力の行使ができなかった。
「???」
 それを見て近藤さんでも駄目か、と頭を抱える。
「くそッ……
 マスターとの魔力経路はわずかに繋がっているのを感じるが、通信もできそうにない。
「そんな……。一体何をすれば……
 呆然とした表情で呟く。
──土方は知っている、この部屋から脱出する方法を。
 だが、それは絶対にこんなところでやりたくなかった。
「これは?」
 土方のただならぬ態度に疑問を抱きながら、どうにかならないものかと部屋を見回した近藤は、何かが落ちているのを見つけて、寝台から降りて手に取ろうとする。
「見るな、近藤さん!!」
 土方の叫びも虚しくそれを手に取って確認した近藤は顔色を蒼ざめさせて固まった。
 それは当世のタブレットのような物で、表面に文字が浮かんでいる。
──曰く、『この部屋は同室となった相手とまぐわいをしなければ出ることは不可能と思え』と。
「え? えぇええええ!?」
 大して広くない真っ白な空間に近藤の叫びが響いた。



 何度も言うように、この二人は想いを交わしあってはいるが、まだ夜の営みに及ぶ仲ではない。
 その二人にそれを求めるのは無理があるというものだ。
「誰がこんな……
 互いにそういう欲がないわけではない。
 だが、こんなところで、何者かに強制されて行うことなど言語道断である。

 土方には想いがある。
 自分にとって近藤は存在意義とも言うべき存在だ。
 身体を重ねることにしても、もっと経ってから、もっとゆっくりと、しかるべき時に、近藤を大切にしながら、嫌というのならしなくても全然構わない、と狂戦士とは思えない細やかさで己の内に秘めていたので衝撃も大きかった。

……嫌だ」
 ぽつりと近藤がもらす。
「いくら歳とでも、こんなところでは嫌だぁ!!」
 近藤が続けた言葉に、不謹慎ではあるが土方はホッとした。
『歳となんか絶対に嫌だ』と言われなくて良かったと。

 近藤にだって想いがあった。
 奇跡とも呼べる邂逅で再び逢うことができ、叶うと思っていなかった恋が成就してやっと上下関係ではなく隣に立てて、今度こそ離れない、離さない、どこまでも一緒に行くのだと、この想いまでも座に刻むのだと。
──そういう事に関しても土方が望むのならば応えるつもりでいたけれど。

「「絶対に嫌だ!!」」

 天を仰ぐ土方と、床に視線を落とす近藤。
 二人の声は見事に重なった。



 それから二人は躍起やっきになった。
 ああでもない、こうでもないとなんとか脱出の糸口を掴もうとするが宝具も駄目なことは言うに及ばず、だんだんと己の魔力回路がすり減るのを感じて、下手をすると二人揃って座に帰る羽目になるかもしれないと思うようになってきた。
 もちろんそれもまた絶対に避けたいことではある。
…………歳」
 疲れて寝台にひっくり返る土方に、その横に座った近藤が声をかける。
「近藤さん?」
「これ以上はどうにもならないし……。もし歳が嫌でなかったら……私を……
 土方の手に自分の手を絡ませ、思い詰めたような顔で言うその人を、土方は起きあがり押し止めた。
「いいか、近藤さん。俺はあんたが誰よりも大切だ。俺を想ってくれるのは嬉しいが、もっと自分を大事にしてくれ」
「でも……!」
 脱出手段は他には……項垂うなだれていた顔を上げ土方をじっと見つめると、土方は近藤の視線をしっかりと受け止める。
 狂戦士であるはずのその瞳は、あくまでも澄んで冷静だった。

『──条件の達成を確認しました』

 そこに、機械的な声が聞こえたかと思うと周囲の景色がゆがみ、気づくと二人は近藤が使っている部屋の寝台の上にいた。
「「???」」
 何が何だかわからないが、とりあえず脱出できたようだ。
 まだ何かが起こるか、あの部屋を仕組んだ何者かが現れるかもしれないとしばし警戒もしたが、何も起こらないし、誰も現れなかった。
「あんたを傷付けずに済んで良かった……。本当に良かった」
 土方は改めて近藤を抱きしめるとその髪に顔を擦り寄せる。
「うん……。ありがとう、歳……
 近藤もそれに応えるように土方の胸に頭を預けた。


 それにしても、身体を重ねなければ出られないはずだった部屋から、なぜ出ることが出来たのか──


──まぐわい、とは〝目合い〟
 すなわち互いに目を見合わせて愛情を確かめ合うこと。
 決して身体の関係だけを示す言葉ではない。
 そういう意味では、二人は偶然とはいえ本当のそれを交わし、みごと姿の見えぬ不埒者ふらちものの企みを退けたのだった。