ortensia
2025-10-26 02:10:36
3275文字
Public 未完
 

文字通り鉄面皮だが発声の表情が豊かなロボットと完璧な表情を作れるアンドロイドの完璧な無愛想


 人類は人類以外の脅威が存在していても、結局直面することから逃避し、人類同士の争いをやめなかった。人類の大部分が貧困に飢えても、それが他人事だと裕福層は己を肥やすのをやめなかった。
 かつて多くの人間に仕えていた機械達は、人間がいなくなったなら、それはそれで自己防衛のプログラムは生き続ける。主人の命令がなくとも、なんとか自分で工面してエネルギー補給と自己の修復と改良を行う。
 人類のディストピアをロボット達がユートピアとして生きることは、可能なのだ。

 頭が直接きゅんとした。
 なんてことはない。ただの駆動音だ。エンジンが徐々に掛かるように頭の回転が速度を増し、ぱちぱちと各四肢に電源が入って行くような感覚が、回路の熱と共に全身に伝わる。
 それがある程度漲ると、漸く瞼の存在を思い出す。シャッターが何処かに引っ掛かったように、ぴくりと表面が揺れ、そして億劫そうに開く。外部から映像記録が取り込まれ、同時に手足を動かそうとする。
 正直、自分のこの無防備なシステムが嫌いだった。もっと他のセンサーで外部の情報を充分に取り入れてから適切に起動するほうが安全なのでは。
 人間ではないのだし。
「おう、起きたか?」
 初めに飛び込んで来た外部情報はそんなざらついたデジタル音声。そして視覚カメラに映るのは、人型にしては少し大柄なロボットのフレーム光沢。発言からして自立型。その頭部が内部から発光し、波打つようにデジタル表示している。
 音も光も、刺激が弱く心地良いのが、目覚めにはありがたかった。
「セルフチェック、オールグリーン。」
「お?おう。そりゃ良かった。」
「セルフチェック、エネルギー不足。」
「そりゃ、良くねえな。」
 しかし、起動出来たということは、エネルギーを入れられたからだ。
「エネルギー、充填中です。」
「おう、ま、ゆっくりで良いぞ。」
 そう言って、一先ず安心したのか、ロボットはこちらを伺っていた直ぐ目の前から距離を置いた。随分砕けた口調だ。プログラムというより、稼働の中で培った学習によるものなのだろう。人と良い付き合いをしたロボットなのだ。
 寧ろ人間よりよほど。いや、人間にも色々いるのは分かっている。
 ただ、自分がブラックアウトした原因の人間が、自分にとって良い相手ではなかっただけで。
 そもそも自分だって自立型アンドロイドの筈なのに、人間の都合で動けなくなってしまうのは、運が悪いのかもしれない、このロボットと違って。
 人間の中には、ロボットとアンドロイドの違いを大人が子供に説明する時、アンドロイドはお友達ロボットだ、と説明するパターンがある。
 何が友達か。電子回路の基本的なパターンはロボットもアンドロイドも変わらないのだ。つまり逆に言えば、ロボットとも友達になれる。
 友達とはいったい何か。しかしその実、アンドロイドのほうが人間に近い造りに設計されているせいで、より非人道的扱いを受けることが多い。知らんけど。
 友達を殴りたいけど人間相手には出来ないからアンドロイドで我慢する。そんな友情ならそもそも抱かないでほしい、アンドロイドだって迷惑だ。実際アンドロイドが何を思おうと、人間にはアンドロイドを自分に従える他ないのだが。
 気付いたら時には自分が働いていた筈の邸は廃墟と化していた。肝試しに人気のスポットにでもなりそうだ。
 気付いたらマスターが変わっていたとかならこれまでもたまにあったが、これは初めてのパターンだった。自分の記憶回路にないだけで、アンドロイド全体の統計でも珍しいことなのかどうかは分からないが。
 しかしそもそも、人間の数自体が減っているらしい。この機体に充電して目覚めさせてくれたロボットは言った。ロボットはこちらが働いていた時代からも起動していたらしい。何度も改良を加えられてはいるようだが、元のフレームがそもそも大型の機種なのか、おそらく人間の危険を鑑みて投入される、工事作業系のロボットだろう。こっちの話を何処か懐かしむような反応だったが、事情を把握するとそう言って人類史を簡単に語ってくれた。簡単過ぎるだろ。
 兎に角雇い主はもういないのだ。マスター死亡処理の正しい手順には公共の書類手続きなどが必要だが、今はそう言ったことを担当する部署もないらしい。何故なら人間がいないから。まさかそこまで深刻化している状況とは。そんなことに対応するプログラムは持っていないのだが、同世代を同じくしていた相手のロボットが乗り切っているのだからと、なんとかサポートセンターの手続きなしでプログラムを書き換えるはめになった。
「これはなんです。」
「食え。それでマスター権限から解放される。」
 うまい話過ぎやしないか。
 こんなものあったら、持ち主を他人が勝手に変更して、窃盗に遭ってしまう。そんな心配も、人類が溢れかえっていた頃の話かもしれないが。まだ当時の感覚でしか思考プログラムが働かない。景色はこんなに違うのに、ただ場所を移動しただけで、自分のよく知る景色は、ただ別の場所には存在しているのだと、錯覚してしまう。このロボットが詐欺ロボットではない確証もないのだが。
 こんなものあったら、あるいはロボット自身が人類に仇なすかもしれない。いやどうだろう。プログラムがそれを許すか。
「何かのウイルスでは?」
 起動してもらった恩はあるがそれはそれ。上目に見て、その光沢を見詰める。
「ウイルスプログラムだぞ。」
「は?」
 ロボットはあっさり言った。
「マスタープログラムの破壊ウイルスだ。目的がそうなんだから、そういう意味ではウイルスを使うので間違ってねえだろう。」
 そういうことなのか。
 妙な話、そこで漸く人類の衰退を意識した。人間達なら、ウイルスと言う名前自体を嫌悪する傾向にある。その上でウイルスプログラムの使用を勧めて来るロボットが、こうして一人でもいるのなら、きっと人類の、少なくとも意識は衰退したのだろう。それを衰退と言うマイナスイメージの言葉で表現するのが適切かは分からない。これは人類が勝手な印象で否定して来たことを、正しく理解したと言う変化かもしれないが、人間はそう正しくはあれないのだと思う。それも、数が少なくなれば、意識の数も変わるだろうと言う、簡単な思考プログラムだ。
 受け取ったウイルスプログラムを取り込む。
 もうマスターの、人間の指示を必要としない世界が始まる。

……えっ?ロボットに給仕すんのか?」
「わたくしの仕事ですから。」
「でもおまえもアンドロイドだろ?おれたちは機械同士なのに、給仕する側とされる側に分かれるなんて、不公平な奴隷だろ?」
「貴様こそ何を仰っていますか?給仕は立派な仕事、人間だってそうしています。……なのにそれを、奴隷呼ばわりだなんて、そちらのほうが失礼です。」
……すみません。」

「どうやってそんな声出してる、って言われても。おれのモデルに成った人間が元々声の表情が豊かだったんじゃねえの?」
……あなた人間のモデルなんかいたのですか?」
「いや知らねーけど。」
「はあ?」
「いたかもしんねーじゃん、って話……。」
「はあ?」
「もし居たら、こんな奴だったんかも、って考えるんだよ。」
 時々、と付け足すが、嘘だな。メードは思った。コイツ頻繁にやってやがる。機械の人間のモデル、はあ、何言ってやがる。そんな無意味な仮定を想定して。
 それって、人間で言う、イマジナリーフレンド、ってヤツ?メードは声にはしなかった。もし電子頭脳が何か誤作動でも起こして、そこに存在しない筈のものを反映させてしまったら、ロボットでもアンドロイドでも、それを存在しているものと扱ってしまうだろう。それをイマジナリーフレンドと呼べないこともないかもしれない、正確には幻覚か、はたまた解離性同一性障害と人間が称するものかもしれないが。プログラムで構成されたものを、人間は何かとはっきり言ってくれないのだ。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。