こゆ
2025-10-25 22:36:44
2234文字
Public
 

名前を呼んだら、

ハートのワンライお題:名前

新世界突入前、ポラタン健在のほのぼの時空です。兄コイチと弟ベポたんといじっぱりローさんの話。


名前を呼んだら、



「負けたー!」
甲板の上で悔しそうに寝転がる頭が二つ。いつも仲良しのウニとクリオネだ。天気は良く、ポーラータング号の甲板は太陽の光を浴びてぽかぽかと暖かかった。食後の軽い運動として催された模擬戦でベポの見事な蹴りに沈んだ二人の様子を見て、ペンギンが微笑んだ。
「よし、おれの勝ち!ペンギンの言った通りだ」
「ナイスペポ」
ベポがキリっとした顔をしてペンギンに両手を上げるとペンギンが駆け寄ってウェーイとハイタッチをする。
「ペンギンの入れ知恵かよ、クソ」
ウニがジトっとした視線だけを投げて寄越した。
「ウニは今日寝違えてるっぽから左から頭部狙えってペンギンに言われた!あとクリオネはウニの後ろから右に出るコンビネーションが癖になってるってアドバイス貰った。直した方が良いとおれも思うな〜」
よっ、と勢いをつけてクリオネ、続いてウニが起き上がる。ぐぬぬっと唇を歪ませながら。
「ペンギンって名探偵みたいだよなー」
と、クリオネは一人でうんうんと頷く。
「名探偵?」
ペンギンがふはって笑いながらが聞き返す。
「すぐおれ達の不調とかもわかっちゃうの、凄いと思う」
クリオネの言葉に同調し、ウニが静かにそう言うと首を大きく縦に振ってクリオネが頷いた。そんな二人の様子に、当のペンギンは興味薄そうに「名探偵かぁ」と顎に手を当てる。
「じゃあペンギン、何か推理してみてよ!」
「へ?」
ベポが楽しそうに強張る。
じゃあ、そう言ってすぐにペンギンは考える素振りを見せ、辺りを見渡す。いつものように騒がしそうなクルーを見渡して、パッと何かが目についたようで動かしていた瞳を一瞬静止させると、ふっと笑った。その顔はまるでこれから悪戯を仕掛ける子供みたいだ。
「そうだなァ、例えば、キャプテン」
「「「キャプテン?」」」
三人の言葉が被さる。見れば表情も同じく、不思議そうだ。近くも遠くもない距離で、いつものように柵に寄りかかりながら本を読むローを見ながら、ペンギンは続ける。
「キャプテンは今日、少し食欲がなかった」
「そうだっけ」
「気づかなかったぜ」
二人はちらりとローを見遣る。
「あと、帽子で上手く隠れているけれど、顔色が悪い。多分あえて深く帽子を被っている」
「うーん、確かに」
「言われてみれば……
その言葉と同時に、うんうんと頷く。
「何より、さっきからページを全然めくっていない。あの本は三日前に手に入れたばかりなのにあのペースはおかしい」
「へえ」
「てかペンギン、いつからキャプテンのこと見てんだよ」
若干引き気味のクリオネとウニ。そんな二人を他所に、ペンギンは続けた。ペンギンの視線が鋭くなる。それはさながら、名探偵のように。
「あと、もう一つあるけど……まあいいか。これらのことから考えると、キャプテンは今日体調が悪い。多分熱でもあるんじゃないか?」
「うそ!? キャプテン!!一大事だ!!」
ペンギンの名推理を聞いていたクリオネとウニを置き去りに、ベポが一目散にローの方へと突撃していった。

「キャプテン!!」
その声で、ベポがすごい勢いで走ってくることに気づいたローはぎょっと顔を歪ませる。
「な、」
反射的に後ろに体を反らせるローに、ベポが飛びかかる。訳がわからないという風に戸惑うローの額に、また別の手が当てられた。
「やっぱり」
昼食の後片付けを終えたシャチが、あちゃーって顔をしてローを上から覗き込んだ。
「うわ!ほんとに熱い!ペンギンの言った通りだ!え、シャチ? シャチも気づいてたの〜?」
「は? ていうか離せお前ら!」
半ば強引にシャチとベポ二人の手を引き剥がすロー。と、「キャプテン」と横から戒めるような声。その声の主は、言わずもがな、ペンギンだった。
……! ペンギン、変なことをベポに吹き込むな、」
「あはは、だって本当のことだもの」
「何の」
何のことだ、そう言おうとしたローの右腕をペンギンがぐいっと引っ張る。
「今日、おれたちの名前呼ばないね。ローさん?」
「ローさんのその悪い癖、実はペンギンには昔っからバレてるんだよなァ」
はははってシャチが少しも笑っていない様子で。そして左腕を引っ張った。服越しでもわかるの体温に、ふたりの表情が一瞬だけ険しくなるのを、恐る恐る近づいていたクリオネとウニは見逃さなかった。
「行きますよ」と、ペンギン。
「ペポ頼んだ」とシャチ。
そう短く告げるとローの抗議の声も聞かずに、ベポはローをアイアイっと担いでサクサクと船内へ通ずるハッチへ歩いていく。
「あ、俺わかったかも!」
 突然のクリオネの叫びに、
「キャプテン、連行される犯人みたいだな」なんて考え事をしていたウニがビクっと隣を見た。
「名前って言ったじゃん、ペンギン」
「うん」
「今日さ、キャプテンずーっとおれらの近くにいたけどペンギンの名前もシャチの名前も呼んでない」
「あ、」
常ならば、何か用があれば名前だけで指示が通る関係だというのに。
「名前を呼んだらバレちゃうから……隠してたってこと?」
「反抗期の子どもか!」
嵐のように去っていったハートの海賊団の古株四人に、取り残されたクリオネとウニは込み上げる笑いと心配と少しの寂しさと全部包み込む安心感を整理できずに、ただただ四人の消えたドアコックを見つめて「手合わせの続きするか」「おうとも」そんな言葉を交わした。





 【了】