eclipsis
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Public SSS置き場
 

こわくないこわい話

雷を怖がるペローナがゾロとミホークを巻きこむ話。CPなし


 常にどんよりした空模様、それがクライガナ島だ。グズグズした重い灰色の雲たちがひしめいて地味な天候が保たれている。だが、今夜のクライガナ島は様変わりしていた。灰色の雲がついに真っ黒になって泣き出して、時おり雷がけたたましい音を鳴らして落ちてきていた。
 ゴロゴロ、ピシャーン! と、島中に雷音が響き渡れば、それと同じくしてキャーという悲鳴も響いた。島中ではなく、そこに佇む古城の最上階にだが。

「な、なぁ、ほんとに雷ってここに落ちてこないよな?!」
「ハァ……それ訊くの何回目だよ。滅多に落ちてこねぇって」
「お前、滅多にって言ったな? 落ちる場合もあるんじゃねぇのか?!」
……その場合の確率を例えるなら、貴様がおれを倒せる確率だ。だから静かにしろ、ゴースト娘」

 最上階のミホークの部屋、ここも普段とは違う変化が訪れていた。クッションを抱えて縮こまるペローナと、面倒くさそうに腕組みをしているゾロ。そして眉間にしわを寄せて一人掛けのソファに座るミホーク。
 部屋の主である男の表情を見れば、二人が招かれて来た訳ではないのは一目瞭然だ。ペローナとゾロは、文字通り転がりこんでミホークの部屋にやって来た。ちょうど大きな雷が落ち始めた頃合に騒がしく。
 ゾロが『何でおれも連れてくんだ』と文句をたれてペローナが『お前と二人でも怖いけど鷹の目と二人でいるのはもっと怖ェだろ! でも自分の部屋で一人なのが一番怖い!』と捲したてながら部屋の扉を無遠慮に開けてきたのだ。

 少し前の嵐のような訪問を思い返して、ミホークは頬杖をついて窓の方を見た。外は嵐というほどの強風は吹いていない。だが大粒の雨が窓を容赦なく叩いて開けろと言っているようだった。

「うぅ……今夜はずっとこの天気なのかな……スリラーバークでは雷なんて全然無かったのに」

 クッションを抱いたまま長椅子に座るペローナが気弱な声を出す。手が自然と撫でる仕草になって視線が下がる。彼女の頭の中では可愛いぬいぐるみを撫でる錯覚が起こっていたのに、手元にあるのはただの平凡なクッションだ。ペローナはそれを見て口がへの字に曲がった。不満そうな視線がジトッと上がれば、その先には仏頂面をしたゾロとミホークしかいない。ゾロは退屈のあまり眠そうにして、ミホークはいつの間にかワインを持ち出して飲んでいる。
 ペローナは視界に入る可愛くない光景に恨めしそうな視線を送った。

……つーか、お前ゴーストやらゾンビやらは平気で好きなくせに雷は怖いのかよ」

 呪いの眼差しを向けられたゾロが渋々といった感じでペローナへ話しかけた。それに返そうとペローナが丸い両目をキョロリと動かした途端、ドーンと大きな雷鳴が閃光と一緒に響いた。男二人は微動だにせず、ペローナが猫みたいに毛を逆立てて小さく飛び跳ねた。

「し、しし、自然災害は誰でも怖いだろ! さっきのすごく近くなかったか?! もしここに落ちてきたらひとたまりも無いぞ……! 逆にお前は何でそんなに余裕なんだよ?」

 少し声を震わせながらペローナがゾロに詰め寄った。長椅子からヨロヨロと飛び立って、まだ不器用な雛鳥のように宙に浮く。ゾロはそんなペローナを見て片眉を上げる仕草のみをした。

「おれは……雷に勝ったことがあるからな」
「ハ? 何だソレ。嘘つくなよ」
「嘘じゃねぇ。まぁ正確に言うとうちの船長が勝ったんだ」

 ゾロの返事にペローナが訝しげな目をして彼の周りを浮遊した。麦わらが……? と怪しむ声にもゾロは一切視線を合わせず口を真一文字に結ぶ。

……あ、わかった。ゴムだから?……お前って思った以上にガキみたいなこと言うんだな」
「うるせェ!!」

 ドーン! ゾロが吠えたのと同時に大きな雷鳴がまた響いた。ペローナはどちらかを喰らって床に落下寸前まで降下して目を白黒させた。城の石壁もわずかにジィンと身震いのような余韻を響かせる。するとここまで我関せずだったミホークが二人の方へ視線を投げた。

「全てがやかましいな。ワインが不味くなりそうだ」
 
 鋭い両目に冷たい炎が一瞬ギラリと光って二人を一瞥する。そして手元のワインを見ると、わざとらしくグラスを揺らす手遊びをした。少なくとも、ゾロにはそう見えた。

……あぁ、おれにも怖いものがたった今出来た。酒だな。目に入れるのも怖ェ」

 そう喋りながらミホークのワインを見るゾロの視線はふてぶてしい色を放っていた。飲めるのなら奪ってでも飲んでやりたいと、禁酒を言い渡した師匠を睨む。

「フフ……どこかで聞いたことがある小噺のようだな。ならばおれは今スモークチーズが怖い」

 ミホークは軽く笑って弟子の挑戦的な態度をいなすと、グラスに残ったワインを飲み干した。空になったグラスを見ると物足りなさそうな吐息が男の口から零れる。

「なんなんだ、お前らのソレ……アレだ、天の邪鬼みたいだな」

 すっかり気を取り直したペローナが二人のやり取りに野次っぽく絡んだ。そして言い終わると両目をパチリと瞑って祈るように両手を組みだした。

「だったら今の私はベーグルが怖い! ココアが怖い! かわいいぬいぐるみが怖い!」

 ペローナの嬉々とした発言は天空が聞き遂げたらしい。言い終わったタイミングで、とびきり大きな雷が落ちた。ドカーーンと爆発するような雷音にペローナは飛び上がってパニックになり、近くにいるゾロを咄嗟に羽交い締めにした。

「止めろ馬鹿放せ! ウグッ...! 本気で首絞めんな!!」
「雷こわいよ~~!! もうヤダ絶ッ対今度はここに落ちる!! みんな死んじゃゔ!!」

 青筋を立てながらゾロは首に回るペローナの腕をタップした。しかしそれっぽっちの刺激ではペローナのパニックは治まらない。目がグルグルと渦巻いて、ゾロの首にしがみついた腕には益々力が入るようだった。

 ワーワーしながら二人は部屋中を転げまわった。それを見たミホークは優雅なソファに座る長い脚を組み直す。そして盛大なため息を吐いた。

……おれは今チーズよりも、独りの静かな夜が物凄く怖くなった」