kanaco
2025-10-25 08:13:22
2391文字
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【十二信】ピリ辛コンニャク

《十二信》未成立CP十二信でまだ恋というものでもない。でも信との距離感って確かに他の人とは違うのかも?と思ったけど違和感はなかった十二くんのおはなし。

ある日の昼下がり。

 十二が友人と待ち合わせをした部屋に入ると、すでに洛軍と四仔が寛いでいた。十二が「よお!」と明るく挨拶をすれば、洛軍が飲み物の入った瓶から口を離して片手をあげて応え、四仔は読んでいた本から顔を上げてコクリと頷く。

洛軍が手に持つ綠寶が目に入り、喉が渇いたなと十二は思った。そういえば朝に緑茶を飲んだきり、飲料水を摂取していない気がする。昼にスープは飲んだが『喉が潤う』とは違うかもしれない。それで自然と、挨拶の次に洛軍を羨むような声が出た。

「洛軍、イイもの飲んでるじゃん」
「飲むか?」

親切な洛軍が綠寶を差し出した。十二は目をパチクリさせて差し出された瓶を見つめる。中は半分ほど残っていた。反応が鈍い十二を訝しんだのか洛軍がもう少し喋る。

「もうそんなに喉は渇いていないから、十二が欲しいなら残りは飲んでもいいぞ」

優しいヤツだ、と十二は思った。気持ちがホッコリとしたので人好きするような笑顔を浮かべたが、そのまま首を横に振った。

「サンキュー、洛軍。でもいいや」
「そうか」
「俺、あんまり回し飲みとか好きじゃなくてさ」

潔癖と言うほどではない。「他人のもの」が「自分のうち」に入るのが少し気が進まなかった。間接的でも抵抗感が芽生える時がある。強要はご法度だし、好意だとしても避けられる分には避けてしまうきらいがあった。

「必要な場面ならしょうがないんだけど、気乗りはしねぇんだ」

悪い気にならねぇでくれよ?と十二が言えば、そんなことはない。むしろ悪かったな、と洛軍は答えて腕を引っ込めた。

「でも、ちょっと意外だったな」
「何が?」
「そういうの、気にしなそうだと」
「おいおい、坊ちゃんは意外と繊細なんだぞ」

ソファに腰をおろしお道化るように言えば、洛軍が笑う。

 そこにちょうど信一が入ってきた。手にビニール袋を提げている。

「あ~。俺、最後じゃんか」
「おつかれ、信一」

洛軍が労えば信一が「おう!」とにこやかに返事をした。一仕事終えての自由時間だ。機嫌が良く、リラックスしているようだった。

「それは?」
「弁当。まだ昼を食べてなくてさぁ。少し時間をくれよ。麻雀はその後な」

 信一は十二が座るソファの方へ真っすぐ歩いてきた。中央に座っていた十二が左側に寄ってやると、空いた右側に収まる。ビニール袋をカシャカシャと鳴らしながら、プラスチックの容器に入った弁当を取り出した。それから嬉しそうに箸でおかずを摘まむ。

十二は暇を持て余し、信一が食べる様子をぼんやりと眺めた。信一が照りついたコンニャクを取って口に運ぶ。そしてコンニャクの1/3だけを軽く噛んだが、その瞬間にパッと口を開いてコンニャクを出した。コンニャクの端っこに、薄っすらとした信一の歯型。

「か、辛い
しょぼん、とした声。

(あ、これ絶対に俺に回ってくる)と思った。案の定、隣からノロノロとした腕が伸びて、その手が握る箸は十二の口元で止まる。

あまり考えず、いつものようにそれをパクリと一口で食べた。弾力のあるコンニャクをモグモグと咀嚼し、飲み込む。それからペロリと口回りを舐めた。

(うま!)

1秒より早く、端っこを甘噛みしただけ状態で出したくせに辛いなんて分かるのかと疑ったが、なるほどなかなかピリッとした味付けだ。辛い食べ物が得意な十二とは違い、甘党で刺激物が苦手な信一は涙目で悶える辛さかもしれなかった。

危機察知能力が高いのかなんなのかと十二が感心していると、強い視線を感じる。

「え?」
「え?」

驚いたように見開かれたと洛軍の目が合う。

「いや

洛軍が不思議そうな顔をする。

「ほんの数秒前に、回し飲みが好きじゃないって言ってたから

十二はキョトンとして。

「あー……

間延びした声を出した。

小さな部分とは言え他人の口に放り込まれたもの食べるなど、回し飲みレベルではないだろう。それはそうだった。ただそうか。改めて考えても、嫌悪感どころか抵抗感すらやっぱり無くて。

「いや、コイツはほら、ちぃせぇ頃から慣れてるって言うか、慣らされてるっていうか

「そいつはな、洛軍」

先ほどまでずっと黙っていた四仔が唐突に口を出した。

「親ペンギンが口の中ですりつぶしたものを子ペンギンに与えるように、信一に育てられたんだ」
「なるほど、それはすごいな?」
「んなワケねーだろうが、気持ちりぃこと言うなよ!」

戯れ言を唐突に放つ四仔と、無闇に感心を寄せる洛軍に、クワッと目くじらを立てて十二がツッコめば、3人を見つめながら口をモゴモゴとさせている信一がゴクンと白米を飲み込んで口を挟む。

「まぁ、ほら」

3人の注目を浴びた信一が、首を傾げながらお行儀悪く箸で十二を指した。

「半身みたいなもんだから、そいつ」

(半身

十二は言われたその言葉を頭の中で反芻した。やけに響いてくる言葉。

「他人のもの」が「自分のうち」に入るのが、なんとなく気が進まない。
「半身」ってのは「自分のうち」?
自分のものが自分の中に入るならば、何の問題もないということ。

(信一は俺のうち

なんとなくムズ痒くて恥ずかしい気持ちにもなりながら、気分は悪くないどころか上々なのはどういう感情か。でもなんの違和感もないようにも思うのだ。

信一が「あ、これもキラーイ」と信一自身も使用している箸で、十二の口へ赤いトウガラシがついたブロッコリーを運ぶ。十二はそれをまた一口でパクリと平らげると。

「ま、そういうこと」

そう同意した十二は、信一が弁当と一緒に持ってきた飲みかけの綠寶を勝手に手に取って。

横で「あーっ!」とあがる非難の悲鳴を無視して、美味しそうに飲み干したのだった。