白殊皎(しらよし こう)
2025-10-25 13:00:00
1870文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

蒼穹を胸に抱きて

FGO【土近/歳勇/ひじこん/としいさ】

──土方歳三、その慟哭。

  かーごーめー かーごーめー
  かーごのなーかのとーりーはー
  いーつーいーつーでーやーるー
  よーあーけのばーんに…………


「近藤さんッ!!」
 土方歳三は寝具を蹴って跳ね起きた。
──あぁ、まただ……
 見るのはお決まりの悪夢。
 目を覚ましても見えるのは代わり映えのしない天井。
 あの人の姿はどこにもない。

──慶応四年四月二十五日、近藤勇は中仙道板橋宿近くの板橋刑場で斬首された。

 それは紛れもない真実なのに、土方はそれを受け容れていなかった。
「近藤さん……近藤さん……
 どれだけ名を呼んでも、昔のように「歳」と呼ぶ声は返ってこない。

 新選組が続く限り、近藤は生き続ける。
 ならば自分は走り続けるだけと、そんなよすがすがるほど、土方は病み、狂い始めていた。



──告げる。
  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
  誓いを此処に。
  我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
  汝三大の言霊を纏う七天、
  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!

 厳かな少女の声に応えるように、魔法陣が虹色の光を帯びる。
 カルデア式召喚の上位英霊顕現の合図だ。
 光が膨れ上がったと思うと、そこには黒い外套の偉丈夫が立っていた。

「新選組副長、土方歳三だ。
 クラス? そんなことはどうでもいい。
 俺がある限り、ここが──新選組だ」

 データが示すクラスはバーサーカー。
 土方歳三がカルデアに召喚された瞬間だった。

 マスターたる少女・藤丸立香はバーサーカーは制御不能、そう聞いていたので土方もそうなのだろうと覚悟はしていた。
 しかし、土方は違っていた。
 戦術面での助言を求めれば正確にかつ合理的に回答をしたし、年若い彼女をそれとなく気遣う様子も見て取れる。
 まだ戦力の薄いこのカルデアで、その有能さから彼の存在は徐々に大きくなっていった。

──土方さんって、あの羽織は着ないんですか?
 幾度も魔術リソースをつぎ込むことで、英霊達はその姿を変え能力が解放されてゆく。
 何度目かのそれで、土方が新選組の浅葱の羽織に似た黒の羽織を身に着けていることに気づいた藤丸はそう尋ねた。
「お前にはどうでもいいことだ」
 土方は目に見えて不機嫌になり突き放すようにそう言い放ち席を立つ。
──ごめんなさい……
 聞いてはいけないことを聞いたと藤丸は去って行く背中に呟いた。



 マスターに当たるのはお門違い。
 土方はそう思いはしたが自分の中にくすぶる暗い思いを抑えることができなかった。
 何故、今更、この羽織は自分の元にやってきたのか。
 生毛うぶげを吹くように全身が粟立つ。
 掘り起こされたくない記憶がこじ開けられるような感覚に、壁に拳を叩きつけた。
「こん、どう、さん……
──思い出すのは立ちのぼる紫煙。
 傷を負い戦うことが出来なくなったあの人を閉じ込めたのは自分。
 ただ、ただ失いたくなかった、ずっと自分たちのしるべでいてほしかった。
 自分は間違っていたのか、どうすればよかったのか。
 空っぽの部屋に唯一残されていたそれを、どうしたのかはもう覚えていない。



 沖田総司、斎藤一、山南敬助、永倉新八──。
 様々な特異点に赴くうちに、えにしが繋がり新選組の元隊士たちがカルデアに集うようになった。
 皆かつての浅葱の羽織の姿を持って……
 
 誰かが言った。
──これだけ新選組の人間が集い縁が紡がれていくなかで、英霊の座に間違いなく刻まれているであろう■■・■■■が顕現しないのは、召喚を拒んでいるのではないだろうか、と。

──あぁ、やっぱりあんたはそうなのか。
 一番聞きたくなかったその言葉。
 自分を避けて話されていたのに、偶然にも居合わせてしまった。

 本当にあの人が召喚を拒んでいるとしても……

──それでも俺は手を伸ばす。
 心の限り叫び続ける。
 どうか、どうか俺たちの元へ再び舞い降りて欲しい──と。




──其は京に現れし特異点、渡れるは京に深き縁ある者と新選組のみ。

 邂逅かいこうせしは黒の剣士。

 そして──



 しゅるり、と音を立てて土方は〝それ〟に袖を通す。
 生前むかしのように髪を高く結い上げ鉢金を締める。
「準備できたかい? 行くよ──歳」
 あぁ、行こう。
 この蒼き空のもと、どこまでも共に……