アルマジロ
2025-10-24 23:11:01
7775文字
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半獣

7.3のレザラの暗い話。通常🐺vs零式後半🐺という妄想マシマシ。メインクエのネタバレを含みます。

 アレクサンドリア連王国の中心、ソリューションナイン。あらゆる機能が集うこの層は常に喧騒で満たされ、人の姿を見ないことはなかった。昼夜を問わずネオンの明かりに照らされる様は、まさしく眠らない街と称されるに相応しい。
 しかし今、その光に照らされる人々の表情は一様に暗いものだった。度重なる機械の暴走と事故に人々は皆傷つき、疲れ果てている。そんな彼らの耳に届くのは、無機質な人工音声だ。

……死は、常にあなたの傍らにいます』

 大型モニターから常に流れるその声は、無慈悲に死の恐怖を煽り立てる。街の至る所にあるモニターが不定期にジャックされ、人々の脳裏に死を刷り込んでいく。

『勤勉に働いていても、報われないまま死ぬかもしれない。明日成し遂げられる偉業があっても、今夜のうちに死ぬかもしれない』

 街のどこにいても、死を忘却することはできなかった。かつて街に響いていた明るい喧騒は、黒いレギュレーターを巡る諍いに代わり、以前は笑顔を浮かべていた人々も、今は不安と恐怖に苛まれた顔で俯きがちに歩く。

 そんな街の惨状に惑うことなく、一人の男が大通りを歩いていた。
 彼はレジデンシャルセクターの庭園を悠々と横切ると、金色の尻尾を揺らしながら自室のある居住殻へと入った。居住殻のロビーに設置されたモニターには、今も黄金郷の映像が映し出されている。
 ラウンジソファには何人かの住民が座って項垂れていた。モニターから流れる音声に一喜一憂し、如何に死を遠ざけるかの議論ばかりしている。

 男は目深に被った白い帽子越しにそんな人々を一瞥すると、舌打ちを一つ零して廊下を進んだ。
 自室を前にロックを解除した男の元に、モニターから流れる音声が届く。

『平穏と幸福に満ちている者でさえ、次の瞬間には死んでしまうかもしれないのです』

 ……分かりきったことを、何を今更。

 そう内心吐き捨てた男──レザラは、自室に踏み入ると深い溜息を吐いた。
 帽子を脱ぎ捨てて軽く頭を振る。照明を付けることも忘れてそのまま居間のソファへと足を運ぶと、どかりと腰を下ろした。

 肺の中の空気を入れ替えるかのように、深い呼吸を繰り返す。それでも全身に街の重たい空気が纏わりついている心地がして、レザラは顔を歪めて乱雑に頭を掻いた。
 彼の頭部にレギュレーターは着いていない。魂資源の供給が絶たれたことを理由にレギュレーターを外す人間も最近は増えているようだったが、レザラはそれ以前、幼少期からレギュレーターを拒み続けている。
 彼にとって死は絵空事ではない。些細なきっかけで命は簡単に失われてしまうのだと、当たり前のように認識していた。だからこそ懸命に生きようとする。緊張感を忘れず一瞬一瞬を刻み付ける。それがレザラが幼い頃より培ってきた人生観というものだった。

 故に、街の人々が抱く死への過剰なまでの恐怖も、永久人への渇望も、レザラには欠片も理解できなかった。当然の事実を突きつけられて狼狽える様は滑稽にしか映らず、ようやく死を知ったかと思えば永久人などという逃避に走る人々には軽蔑すら抱いた。

 生き甲斐を奪われた矢先に、檻の中で不快な人間が日夜騒ぎ立てる様を見せつけられては陰鬱な気分にもなろうというもの。
 レザラは不機嫌そうにテレビのリモコンへ手を伸ばした。賑やかしの番組でも構わない。とにかく今はこの辛気臭い空気を少しでも誤魔化したかった。
 次から次へとチャンネルを切り替える。堅苦しいニュースやワイドショーをいくつも切り捨てた後、ようやく娯楽の特集を組んだ番組を映すことができた。
 能天気な音楽が部屋の雰囲気を明るくする。やっとまともに息ができるかと思った直後、突然番組の映像が乱れ始めた。

 タレントの空元気な声がノイズに掻き消されていく。しばらく雑音が流れた後、映し出されたのは女王を模した建物と黄金郷の景色だった。

『あなたの恐れを、恥じる必要はありません。それこそが、死を克服せんとする原動力となるのです』

 この映像を流した人物は、僅かでも人を明るい気分にさせようとする存在を許さないのだろう。行政の大モニターさえ乗っ取る人物だ。民間番組のジャックなど造作もないと言いたげに、画面からは変わらず無感情な音声が流れてくる。

『さあ……祈り、願い、渇望してください。私たちは永久人になるのだと』

 ブツリと音を立ててテレビの電源が切られた。リモコンの電源ボタンを押したレザラは、手のひらからリモコンを滑り落とすと、ぐったりと脱力してソファに沈み込む。
 結局この国はいつも同じだ。安寧を享受しろ、死を拒め、平和な檻の中で生きることこそが幸せだ。言葉や手口は変われどレザラに押し付けられてきた思想はいつもその繰り返しで、何処にも逃げ場なんて無かった。

「永久人……死の恐怖のない、永遠の命…………くだらない……

 眉根を寄せてレザラは悪態を吐く。限りある命を燃やして、短くとも輝いた生を願うレザラにとって、永久人になるということは永遠の家畜になることを意味した。
 記憶と魂すら管理されてしまうこの世界において、レギュレーターを着けずに死ぬことは最後の最期で得られる本当の自由だった。その権利すら手放して、自身の全てを他者に握られるなど、レザラには到底受け入れない思想だった。

「檻の中で安穏と過ごすだけの生に……何の価値がある……

 ソファの背もたれに頭を預けて、暗い天井を仰ぎながら目を閉じる。そして瞼の裏に懐かしい青空のリングを描いた。どこまでも広がる青い空の下で、互いに全力をぶつけ合い戦う舞台。自身の誇りを賭けて鎬を削るほどに増していく高揚感。ほんの少し前までは日常だったあの輝かしい日々が、今では酷く遠い憧れのようだ。

 自分の居場所はあそこだ。もう一度あの舞台に立ちたい。王座を取り戻して、戦いに明け暮れて、そうして生きていけたのなら────


「本当にその通りだ」


 不意に頭上から声が掛けられた。
 咄嗟に目を開けると、そこには自分の顔があった。自分と瓜二つの男が、ソファの背後から覗き込んでいた。

 突然の事態に驚愕したレザラだったが、それでも長年の戦士としての経験が身体を突き動かす。素早く立ち上がりソファから離れると、侵入者と向かい合って距離を取った。

 姿勢を低くして相手を探る。武器は持っていない。暗器を忍ばせたような衣服の不自然な膨らみもない。しかしながら立ち姿と体格は鍛え上げられた戦士のそれだ。素手だとしても警戒を緩めるべきではないだろう。

 何より奇妙なのはその顔立ちだった。まるで鏡写しかのように、男はレザラと同じ顔の作りをしている。不敵な笑みを浮かべる姿はまさしく闘士としての自分そのものだ。
 それほどまでにレザラと近い姿をしていながら、髪と瞳の色だけは大きく異なっていた。暗闇の中で金の瞳が煌々と輝いている。髪は所々に金の差し色が入ってはいるが、大部分を占めるのは深い黒だ。

 黒い髪をしたもう一人の自分が、目の前に立っている。
 それがレザラの抱いた侵入者への印象だった。

「誰だ、お前。どうやってここに入った」

 鋭く睨みつけながらレザラは相手に問いかける。剥き出しの敵意と眼光を浴びても尚、男は余裕のある態度を崩さなかった。

「オレはお前の最も身近な存在であり、お前を誰よりも理解する者だ。故に場所など関係ない。オレは常にお前と共にある」

 要領を得ない答えを返すその声もまた、レザラと同じものだった。現実離れした状況にレザラの背筋を冷たい汗が伝う。その不快な感触が、夢でも見ているのかという疑念を無慈悲に否定していた。

 レザラを誰よりも理解する、と男は語った。記憶においてこんな男との面識はない。にも関わらず、自分はこの人物を知っている。そんな確信めいた予感がレザラの中にはあった。
 だが、本当にそんな存在がいるのだろうか。これまで誰もレザラの死生観に賛同してはくれなかった。群れの中で常に異質でしかなかったレザラを、この男は理解できると言うのだろうか。幼馴染と恋人ですら、理解しきれなかった自分の根底を。

「死を無闇に恐れ、自ら檻に閉じ籠もるような連中を嫌悪しているんだろう?」

 先ほどまで脳内を占めていた思考を見抜かれ、思わずレザラは目を見開いた。
 黒髪の男は優しく微笑んで、レザラに歩み寄っていく。

「オレたちは死など恐れない。最期まで戦い、この命を燃やし尽くす。何故なら闘争のみがオレたちを自由にするからだ。今も……その気持ちに偽りはないな?」

 自分の声で語られる言葉が、レザラの価値観に共感を示す。
 初対面の筈だというのに、レザラは不自然なほどの親しさを感じていた。誰にも認められなかった信念が、ようやく肯定されたからだろうか。目の前の男を理解者のように感じながら、レザラは高鳴る鼓動のままに頷いた。

「ならば再びオレの手を取れ。オレはお前が望むだけの力を与えてやる。フェンリルの魂を全て取り込みさえすれば、生身の挑戦者に後れを取ることなどない。……今度こそ、奴を倒せるぞ」

 生身の挑戦者を、倒せる。
 その言葉がレザラの中で燻っていた闘争心に火をつけた。クルーザー級の王者決定戦にて、自身のリングで地を這わされた屈辱が脳裏に蘇り、頭がかっと熱くなる。
 奪われた王座が、傷付けられた誇りが、リベンジを果たせと吠え立てる。この男の手を取れば、それが叶う。

「フェンリルの魂を、全て……それほどの……力があれば……

 レザラは震える手を伸ばす。フェンリルの魂を全て取り込めば、これまでとは比較にならないほどの力が手に入るだろう。溢れるほどの力と高揚の中、生身の挑戦者を打ち倒す己の姿を想像すれば、口角が上がるのを止められない。
 夢見る理想の中では、ハウリングブレードは魔物の姿をしていた。人の名残を残した歪な姿で、リングの上で咆哮を上げる。自身と挑戦者の血が広がる壊れた舞台。そこに一人立つハウリングブレードは、激戦の傷を全身に受けながら笑う。

 その血だらけの姿が、異形と成り果てた親友の姿と重なった。

 咄嗟に頭を振るい一歩後ずさる。荒い呼吸を繰り返しながら、レザラは甘美な悪夢の影を振り払った。

「駄目だ……危険すぎる! 今の注入量ですら規定量ギリギリなんだ! 全てなんて入れたら身体が保つわけがない!」
「それがどうした?」

 訝しげに黒髪の男はレザラの懸念を一蹴する。初めて男の表情に不快の色が乗った。

「他人が決めた規定量を馬鹿正直に守っているからアイツに敵わなかったんだろう。闘士を辞めた今、アルカディアの規定に従う義理はない。そんな枷は外してしまえ。持てる力の全てをアイツにぶつけろ」

 さも当然のように、男はレザラを破滅へ誘う。だがそれは悪意による呪詛ではなかった。むしろ誰よりもレザラを案じ、その心を思い遣るからこそ道を誤らないでほしいと願う親愛の言葉だった。

「そして今度こそハウリングブレードが勝つんだ! その勝利のためならば肉体など惜しくはない、違うか!?」

 やがて男は声を荒げてまでレザラに呼びかける。それは間違いなくレザラの望みであり、選んだ生き様でもあった。
 それでも、レザラは沈痛な面持ちで首を横に振る。

……だとしても、今はそうするわけにはいかない。オーナーを止めて二人を助け出すまで、ボクは死ぬわけにはいかないんだ……

 レザラは黒髪の男に背を向けて壁際へと歩いていく。酷く疲れた心身を休めるように、カウンターテーブルに両手をついた。目を閉じて、衝動に身を委ねそうになった己を落ち着かせる。

 その丸まった背中を、黒髪の男は目を逸らさず見つめ続けていた。
 やがて静まり返った部屋に、レザラと同じ声が響く。

……親友はやり遂げただろうが」

 その言葉を耳にした瞬間、思わずレザラの両腕に力が込められた。みしり、とテーブルが悲鳴を上げる。

「ブルートボンバーは最期まで戦い抜いたぞ。死を恐れず勇敢に挑み、闘士として戦って死んだ! 自身に膝をつかせた相手を、王座を奪った敵を決して許さなかった!」

 必死に語りかける自分の声がレザラの胸中を掻き乱す。締め付けられる心臓が、浅く乱れた呼吸が、レザラの平静さを奪っていく。

「お前はどうだハウリングブレード! このまま生身の挑戦者が統一王者になるのを指をくわえて見ているのか! 自身を負かした相手に再度挑む気概すらないと!? それがお前の生き様で良いのか!」

「良いわけないだろッ!」

 とうとう堪えきれずに歯を剥いてレザラは振り返る。激情のままに拳をテーブルに叩きつけて怒号を返した。

「ボクだって悔しいさ! リベンジして今度こそ勝ちたい! だけどっ……今は無理なんだ……っ! オーナーに囚われた二人の命が懸かっているというのに、勝手な真似はできない……!」

 ただ闘争に身を焦がして駆け抜けたいという気持ちと、オーナーを止めて大切な人を助けたいという気持ちはどちらもレザラの本心だった。頭では生身の挑戦者が統一王者になるまで待つしかないと分かっていても、それを許せないと叫ぶ己もいる。相反する感情が胸の中で渦巻いて、引き裂かれるような痛みがレザラを苛んでいた。

 黒髪のレザラもまた、同じように苦痛に顔を歪ませながらそれでも必死にレザラに迫る。鏡合わせの自分に行き場のない思いをぶつけ合い、口論が熱を増していく。

「そうやって先延ばしにして本当に再戦出来るとでも思っているのか? 人間はいつ死ぬか分からない、お前も知っているだろう。あの挑戦者だってヘビー級の戦いの中で死ぬかもしれないんだぞ!? お前がこうしている間にも、アイツが死んで勝ち逃げされる可能性すらあるんだ!」

「分かってるよそんなこと! でも、だからってどうしろって言うんだ! ボクはもう闘士じゃない、試合なんてできない! 王座だって戻らない! ボクの自己満足のためだけに、これ以上誰かを傷付けるわけには……!」

 言い終わるより先に、黒髪の男がレザラの胸倉を掴んだ。額がぶつかるかというほどの至近距離で男が睨む。

「それでも戦いに生きると決めたのはお前だろうがッ!」

 その咆哮に思わず気圧されて、レザラの勢いが弱まる。襟元を掴む黒髪のレザラの手は震えていた。

「駆除人をしていた頃、お前は親友に心配されようとも命を危険に晒していた! 闘士になってからも、お前は恋人に向き合わず戦いを求めて死に急いでばかりいた! そんなお前が今更、他人を理由にオレから目を背けるのかッ!? オレだけがお前を自由にしてやれたのにッ! お前がオレを否定するのかぁーッ!」

 自身の存在全てを賭けて、断末魔のように黒髪のレザラは叫ぶ。あまりにも必死なその眼差しに宿るのは、怒りとも愛憎ともつかない苛烈な感情の嵐だった。
 あぁ、この男はまさしく自身の片割れなのだと、レザラはようやく腑に落ちる。逆立てた尻尾も、牙の隙間から零れる唸り声も、自分が何度も取り込んできたあの魔狼を思い起こさせるものだった。

 崩れ落ちそうになる身体を無理矢理立たせる。レザラはもう、何も言えなかった。この獣に何を説いたところで、裏切りにしかならないと分かっていた。

 肩で息をしていた黒髪のレザラは、やがて呼吸を落ち着かせると、握りしめていた拳をそっと解いた。呆然と立ち尽くすレザラの頬に優しく手を添えて、諭すように語りかける。

「アルカディアの枠組みに囚われなくていい。戦士として為すべきことを為していいんだ。リングでなければ戦えないなんて、そんなものは思い込みでしかない」

 黒髪のレザラは衣服のポケットに手を入れると、中からレギュレーターを取り出す。レザラが試合の度に着用していたものだった。フェンリルの魂を納めたそれは暗闇の中で薄っすら輝いて見える。
 男は手のひらにレギュレーターを乗せて、レザラに向けて差し出した。

……もう一度このレギュレーターを使うんだ。観客のためでもオーナーのためでもない、自分自身のために戦え。このまま引き下がったら、お前は一生負け犬のままだぞ」

 黒髪の男が真っ直ぐにレザラを見つめる。レザラは何も語らず、ただその視線を受け止めた。

「勝つんだ。今度こそ」

 力強い言葉が、背中を押す。レザラはゆっくりと腕を上げた。
 差し出されたレギュレーターは静かに輝いている。レザラはその輝きに、腕を伸ばして──



 手を振り払い、レギュレーターを弾き飛ばした。

 からからと空虚な音を立てて、レギュレーターが床を転がっていく。
 その様を、黒髪のレザラは目線で追いかけていた。金の瞳にありありと落胆と悲しみを滲ませて、悔しそうに目を閉じる。
 歯を食いしばり、息を詰まらせて、ただ俯きながら身体を震わせる。永遠にも思えるほどの長い沈黙の後、やがてゆっくりと顔を上げた男の瞳は、ただ暗く冷えていた。刃のような鋭さでレザラを睨み、吐き捨てる。

…………半端者め」

 その言葉を最後に、黒髪の男は姿を消した。
 瞬きと同時に消えるような、あっけない別れだった。


 一人残されたレザラが、ずるずると床に座り込む。己の選択を後悔してはいない。こうするのが正しかったのだと分かっている。
 それでも、心にぽっかりと穴が空いて動けなかった。どうしようもない悲しみが、レザラの身体を床に縛り付けていた。

 漫然と顔を上げれば、窓の向こうにはソリューションナインの変わらぬ景色が広がっていた。あの明かりの一つ一つに人の営みがあるように、この街のどこかに今も、アルカディアのオーナーがいる。
 檻のようだとしても、恋人も、仲間も、協力すべき挑戦者もいるこの街に、レザラは留まることを選んだ。先に続くであろう道を、進んでいくことを選んだ。

 もしほんの少し何かが違っていたのなら、レザラの選ぶ道は異なっていたかもしれない。足を緩めることなく駆け抜けて、たとえ行く先は奈落だとしても、走りきることが出来たのかもしれない。
 無意味な想像と知りながら、荒野を駆けて、戦い、そして死ぬ獣の姿を思う。そのように生きるには、レザラはあまりにもアルカディアに繋がれすぎていた。大切な人を、作りすぎてしまった。

 獣としての闘争の果てに死ぬこともできず、人としての平穏というぬるま湯で満足することもできない。自分にすら愛想を尽かされたレザラは、これから先どのように生きていくのだろう。
 孤高の狼は何処に属することもなければ、誰に理解されることもない。自由の代償は、いつだって孤独だった。

……笑えよ、フェンリル」

 独りぼっちの暗い部屋で、レザラは膝を抱えて呟く。
 床に転がったレギュレーターが何かを語ることは無く、ただ冷たく無機質な沈黙だけが、彼に残った全てだった。