紫よか
2025-10-24 16:47:53
1918文字
Public 刀剣乱舞
 

星のからだ

加州清光×花 冬の夜空の下で

「もー、寝なよ。主」
「ふふ、もう少しだけ」

 寝間着の上に加州清光の上着を羽織って、審神者の少年は中庭でふわふわと笑った。その目は空を見上げている。時刻はとっくに日が沈み、月が高くのぼり星が空に散らばっている。
 加州清光もまた、空を見上げた。ほんの少しだけ欠けた月が、それでも彼の顔を照らす。冬の澄んだ空気の空に浮かぶ星々は審神者が集めている装飾品を砕いて散らしたようだ。綺麗だ、と加州清光は思う。

「ねえ加州さん」
「ん?」

 審神者が静かな柔らかい声で、加州清光に声をかける。その声で、加州清光は空から目を離し、かれに顔を向けた。審神者は微笑むと、加州清光に近づいて彼の手を取った。

「私ね、ほとんど見えないのよ。星の光」

 月はぼんやり見えるのだけれどね。とかれは笑う。──そうだった、と加州清光は胸がきゅうと痛めた。弱視気味である審神者の少年には、この光の粒は遠いものであったのだ。

「加州さん、今この空には星はあるかしら。それは、どんな風に見えている?」

 加州清光は審神者の手を握り返す。見上げてくるかれの瞳をじっと見つめて、言葉を選ぶ。なるべく美しく。なるべくわかりやすく。けれど、これがなかなかに難しい。

「えーっとね……主が大好きな指輪とかビー玉とか髪留めとか、キラキラしたものが、すごく遠くにある感じ?」
「まあ」
「すごく小さな粒が、何個も何個もあるんだ。海の砂粒みたいだけど、それよりもかき集められなさそうで……届かない感じがする」
「地上から見える星の光は、何万年も前のものってどこかで見たわ」
「そ、俺たち刀剣男士よりもずーっと年上の光。だから届かない。あんたが上手く見えなくても、別に仕方ないような、そんな光」
「そう……ふふっ、そうなのね」

 にぎにぎと加州清光の手を握り、話を聞いていた審神者は、「わっ!」と驚かすように声を上げて彼の手を自身の頬にくっつけた。

「わっ、ちょっと! ……ほっぺ冷たいってば、こんなに冷やして……風邪ひくよ?」
「うふふ、加州さんの手……夏は冷たく感じたけど、今はあたたかく感じるわ」
「そう?」
「どっちでもない、変わらない。ぬるいのね」
「もー」
「あたためて、加州さん」
「まったく……良いよ」

 す、と指で少年のまろい頬をなぞる。審神者はくすくすと笑う。かれは先ほどから楽しげに笑ってばかりだ。自分は弱いかれの体をこんなに心配しているのに。加州清光は少しばかり不服に思いながら、それでもこの頬を触ることができるのはこいびとである自分だけなのだと。今この時間を許されているのも自分だけなのだと、そう思うと嬉しくなってしまう。相反する気持ちの中で、加州清光もまた、ふっと笑うのであった。

「加州さん。私、星の光がほとんど見えないって言ったでしょう。あれ、本当は違う気がするわ。加州さんが言ってくれたままならば、星たちは私の好きな光でできているし、それに、それにね……
「ん」
「加州さんといる時、胸の奥が、目の前がきらきらしているの。それって、私の中にも星があるってことよね」
……あはは、嬉しいこと言ってくれるじゃん」
「ふふっ。私には、お日様の光は強すぎて、痛いものだけれど……でも、そのあたたかさも胸にあるのよ。月の静かな優しい光もそう。私の中って、加州さんといると、いつのまにかに空の星でいっぱいになっているのね。だから、見えないなんて違うわ。とっても近くにあるの」
「俺もだよ。この体を得た時から、主といると、あたたかくもなるし寒くもなる。ま、人間じゃないし体温は変わらないけどさ。でも……あんたと話してる時に、顔がかーって熱く赤くなるの、あれ恥ずかしいけど嫌いじゃないし。あんたの中に星があるなら、俺の中にも星があるよ」

 こつん。ふたりは額と額をくっつけあう。目を閉じれば、ふたりの視界にはきらきらと美しい粒子が踊っていた。ああ、この粒子は、星は愛しさでできている。ふたりはそう思うのだ。

「私たちおんなじね、加州さん」
「ん、そーね」
「おんなじになってくれてありがとう、好きよ」
「俺も、この気持ちを教えてくれてありがとう。愛してるよ」
……うふふ、嬉しい」
「さ、もう寝よ。部屋に戻るよ」
「もう、浸らせてちょうだい」
「布団の中で浸って」
「はあい」

 手を繋いで、審神者の寝室に向かう。審神者が寒くないように、一緒に眠るのだ。布団の中で、爪先をこつんとくっつけて、抱き合って。寄り添って。そうすれば、ふたりは心がきらきらしたまま眠ることができる。

 まるで、ふたつぼしのように。夜を照らしながら。