nozomu_HK
2025-07-07 04:40:25
3677文字
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月夜は全て知っている(虚ヴェ吸血鬼パロ)

吸血鬼の虚空万象とヴェルトの話

「なあ。嬢ちゃん1人か?」

「....だったら何?」

少女は態とらしくヒールを鳴らし、声をかけてきた男を睨みつける

夜遅い路地裏。人通りもなく月明かり以外の光源も無い中、男の人相までは分からなかったが、下心を隠そうともしない物言いからよからぬ事を考えているのは明白であったからだ

「そう警戒すんなよ」

男は態とらしく肩を竦める

「俺はただこんな時間に1人でいるのが心配だっただけだよ」

「そう。なら大丈夫だから早くどこかに行ってくれる?」

「冷たいこと言うなよ。大丈夫だって。俺たち優しいから」

「だから...」

一向に退こうとしない男に痺れを切らした少女が口を開いた時だった。はたと違和感を覚える

「.....俺“たち”?」

鋭い光を放っていたスカーレットの瞳が初めて揺れた

そして気付く。初めから男の視線は少女より後ろに向けられていることに

「っ......!!」

振り向いた少女の目に映ったのは男が鉄パイプを振り上げる瞬間だった

思わず目を瞑る。防御態勢を取ることもできない程、彼女の体は恐怖に震えていた

がん。鉄が打つ音は聞こえ、体が強ばる。しかし一向に痛みが襲ってくる気配は無い

それに、音はもっと下、足元から聞こえたように思える。それも殴りつけたというよりは落としたような軽い音

「っ.....!なんだ、お前....!!」

恐る恐る目を開けると、飛び込んできたのは二人の男の姿

1人は正面の男よりも細身で臆病に見え、向かいの男に震え声で吠えている

その足元には鉄パイプが転がっており、向かいの男が助けてくれたのだと悟る

背丈は180程あるだろうか。白に金の装飾が施されたシワひとつない服を身にまとっている

髪は腰の高さまであり、月明かりに照らされて金色に輝いている

男は質問に答えるつもりはないらしく、無言で細身の男を見下ろしていた

ふと、その瞳が少女に向けられる

新緑の瞳は宝石のような優美さがあり、それでいて吸い込まれそうな怪しさもあった

男は美麗な顔を綻ばせる。含みのあるようにも見えるそれは少女を安心させるようだった

「あんた...」

「下がっているといい」

男は少女を守るように立つと、再び男を睨みつけた

笑みの消えた冷たい表情。冷たく見下ろす切れ長の瞳

──殺られる

全身を冷えた汗が伝い、恐怖のあまりにガチガチと歯を鳴らす

もう立ち向かう勇気も度胸もなくなっていた。怯えながら後ろに下がると方向を変え、一目散に逃げ出した

「あ、おい!」

「君はどうするんだい?今なら見逃してあげるよ」

「っ.....くそっ」

こつ。靴音だけが静かに響く。勝ち目が無いと思ったのか長身の男も脱兎のごとく逃げ出して行った

金髪の男は後ろ姿が見えなくなるまでじっと見つめるとパッと表情を変え少女を見た

先程のような人好きする笑顔だった

「もう大丈夫だね。次からは人通りのない道を選ばないようにするんだよ」

「待ちなさい」

ひらりと手を振って去ろうとする男を少女の凛とした声が引き止める

「あんた。吸血鬼でしょ」

「....よく分かったね」

男は少女の指摘に否定しなかった。背を向けたまま彼は言葉を紡ぐ

「なんで襲わなかったの?」

「興味ないからね」

「ならなんであたしを助けたの?」

「約束だから」

「約束?」

「そう。約束」

「約束って....っ」

刹那、びゅう、と風が吹いた

前も見れぬほどの強風に思わず目を瞑る。次に目を開いた時にはもう男の姿はどこにもなかった




*********




「帰ったよ。ヴェルト」

「.....虚空万象」

カーテンを締切っていた薄暗い部屋の中に一筋の光が差し込み、カーテンがふわりと揺らぐ

一般的な一人部屋。その端にあるベッドには人影がある

ヴェルトと呼ばれた茶髪の男は首をもたげ、金髪の男──虚空万象の姿を捉えると忌まわしげに目を細めた

虚空万象はそんな態度に不機嫌になる所か上機嫌に笑みを深め、饒舌に語り始める

「あぁ。良かった。今日は遅くなってしまったから逃げていないか心配だったんだ」

「....逃げられるわけないだろう」

ヴェルトはため息をひとつ落とすとベッドから降りる

じゃら。と金属の連なる音が響いた

「拘束されているんだからな」

ヴェルトの右足には枷が嵌められており、鎖に繋がれていた

鎖の長さは十分にあったが、それはこの部屋の中を自由に動き回れる程でしか無く、彼の言う通り逃げ出しことは不可能に等しかった

ヴェルトが虚空万象に監禁されてから数ヶ月が経っていた

ヴェルトは逃げる意思もなくこの場所に居座り続けている

虚空万象のいる昼間は鎖が外されるがどこに行くにも着いて来るので逃げ出す暇は無い

そして、虚空万象がいなくなる夜間はこうして鎖に繋がれているという訳だ

「そうだったね」

「....何かあったのか」

「おや。心配してくれるのかい?」

「そんな訳ないだろう」

「...少しトラブルがあっただけさ。もう大丈夫だよ」

「!.....そうか」

ヴェルトが平常を保っているつもりだっただろうが、その声には不安と安堵が入り交じっていると虚空万象は思った

「心配せずとも僕は君との約束を破るつもりは無いよ」

「それだといいんだがな」

約束。それは数ヶ月前、2人が初めて出会った日に交わした契約のことだった

ヴェルトはこの地に留まり、虚空万象に血を与え続けること

虚空万象はヴェルト以外から吸血することは無い。その上、ヴェルトの周囲に有事があれば助けること

2人を縛る呪いとも言えるそれは、この歪な関係を保ち続けていた

「だからそろそろ君の名前を教えてくれてもいいと思うんだけど?」

虚空万象の問いにヴェルトが答えることはなかった

実の所、契約には互いの真名が必要であり、偽名であるヴェルトに本来の効力を発揮することはない

故に虚空万象はヴェルトから真名を聞き出そうとしているのだが、ヴェルトは依然無言を貫いている

これ以上の追求は無駄と判断したのか早々に話を切りあげた虚空万象はヴェルトの白い肌に優しく触れる。それは壊れ物を扱うように滑らかだった

「そろそろご褒美を貰ってもいいだろう?」

窓から差し込む月明かりに照らされる見目麗しい男。妖艶に笑う口から垣間見える牙ですら、美しく見えてしまう

これが映画なら、相手は頬を赤らめながら淫靡に頷いていただろう

しかし、残念ながらこれはロマン溢れる創作物ではないしヴェルトもロマンチストではない

嫌悪感を隠しもせず、ため息を一つこぼしたヴェルトは、マフラーを丁重に解いた

タートルネックの首元に付けられているボタンを外すと、傷一つ無い肌が顕になる。ヴェルトは首を傾げ、片側を示した

「好きにしろ」

その言葉と虚空万象がヴェルトに首筋に鋭く尖った牙を突き立てるのは殆ど同時であった

遠慮の一片もなく、ヴェルトの腰を抱え自身に引き寄せると、箍が外れた様に吸い付いた

「んっ....ぐっ、」

ヴェルトは痛みに顔を顰め、くぐもった喘ぎ声が漏れた。白い肌は微かに上気し、初めは苦痛に満ちていたそれも徐々に色が混じりだした

だらんと垂れ下がっていた腕が、時折びくりと跳ねる

虚空万象の喉が動く音が響く。ヴェルトの押し込めた声が色に満ちて暫く、彼は苦しげに言葉を発した

「っ.....。もう、やめっ、」

一時の快感が過ぎ、次第に全身の力が抜ける感覚に襲われた

力の入らない腕で、虚空万象の腰を何度も叩く

「っ...!!おい、もう.....っ!!」

ヴェルトの訴えを無視して、あと少しだけとでも言うように虚空万象は力を強めて細い体を抱しめる

痛みと貧血。それ以上の快楽にヴェルトは立つのもやっとだった

ぱちぱちと視界が弾け、足は震えていた

「ん....。ご馳走様ヴェルト。今日も美味しかったよ」

刹那、虚空万象がやっと口を離した

既に限界など超えていたヴェルトは、安心したせいか全身の力が抜け、虚空万象に体を預けるように倒れ込んだ

「おっと。大丈夫かい?」

「だいじょうぶっ....な、わけ、ないだろう.....!」

「それもそうだね」

ヴェルトは涙の滲んだ目で虚空万象を睨みつけるが、当の本人はそれを意にも介さずあっけらかんに笑った

「顔色が悪いね。もう休むといい」

抵抗する力もないヴェルトを軽々しく姫抱きにした

お前のせいだろ。だとか、もっと優しくできないのか。だとか、紳士ぶる彼に言いたいことは沢山あったが、そんな体力すら惜しく、ヴェルトは言われるまま静かに意識を落とした

ヴェルトをベッドに寝かせた虚空万象はその柔らかい髪を撫で、歪に笑う

「おやすみ、ヨアヒム。次はいい答えが聞けることを待っているよ」