syanpon
2025-10-24 08:39:47
2352文字
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「そこはキスするところだろ!!!」

オトスバ
行商√


 オットーとスバルが互いの想いを確認し合い、名実ともに恋人になったのが3か月前。
 とは言っても働かざるもの食うべからず。そしてその前に手持ちがなければ一息つくこともできないのが商人。タルタルソース商売が軌道に乗り、千載一遇のチャンスを掴み地盤を固めるために奔走していた2人と地竜はなかなかまとまった休息が取れないでいた。
 
 ――休息が取れないということはつまり、いちゃいちゃする時間も取れないということである。

「ナツキさん、ナツキさん! 今月も黒字ですよ!」

 隣で黙々と帳簿をつけているオットーを眺めているとつけ終わったのかぱっと顔をあげたオットーは隣にいたスバルの手をぎゅっと握って興奮したようにブンブンと上下に振って揺らす。喜色満面の笑みというのはこういうことを言うのだろう。商売が上手くいくのに越したことはない。スバルも揺さぶられる手の動きに合わせながら「最高!」と声をあげた。

「ここまで長かった! でも得意の卸先も何軒か見つかってこうして安定した利益を出せて……! 僕ぁ嬉しいですよ!」
「まだウハウハ生活までは遠いけどなぁ」
「こうした積み重ねが大事なんですよ」
「その緩んだ顔で言われてもあんま説得力ないな」
「嬉しいもんは嬉しいですからねえ!……ナツキさん?」

 ニコニコと歯を見せて笑い合っているとスバルの動きがピタリと止まる。その変化にオットーは何か不安でもあるのかと首を傾げた。

「積み重ね……か。なぁオットー」
「はい」
「積み重ねは大事じゃん?」
「はい」
……やっぱいいわ。寝ようぜ」
「ちょっと!? そこまで言ってやっぱりやめたはずるいですよ!!」

 すい、と目を逸らしてはははと棒読みで笑うスバルにオットーはぎゃんと噛み付く。こんな状態でハイおやすみと言って気持ちよく寝れる人間は少数派だろう。じっと話の続きを促すように見つめればスバルはほんの少し顔を赤く染めて普段の声量からは考えられないほど小さな声でポツリと言葉を落とした。

「こ、恋人っぽいことしてねぇなって……
「はわ」

 そこまで言ったスバルの顔はリンガと見間違うくらいに真っ赤である。だけど火傷したかと思うくらい自分の耳も熱いためおそらくオットーの顔もおんなじくらいにほてっているはずだ。
 なんだこのいじらしい生き物は。
 僕の恋人だ。

「か、可愛すぎる……
「かっ!?!?」

 真っ赤なまま口をぱくぱくさせて固まる表情がとびきり可愛く、また美味しそうであったためオットーはそのまま顔を寄せるとスバルの頬をペロリと舐める。スバルはびくりと肩を揺らして「ぎゃー!」と大声をあげた。

「ちょっとなんですかもう夜ですよ」
「は!? 今の俺が咎められる流れ!? ペロってしたお前が悪くない!?」
「猫も鳥だってパートナーに毛づくろいすることあるんですからこのくらいは普通では」
「俺は人間! 人は頬舐めて毛づくろいとかしねーの! するんだったら……いや、やめよう墓穴を掘る。俺たちにはまだ早い」
「はあ……

 オットーが毛づくろい、つまり体の清潔を保つためにも行われる行為が人間だと何に当たるかに考えつく前にスバルは繋いでいたままの手をぎゅっと一度強く握り直してから離し、自分の手のひらをオットーに見せた。手汗をかいていることに気がついてジャージの袖で一旦拭いてもう一度。恋人っぽいことがしたい気持ちに変わりはないので。

「ん」
「ん……?」
「ん!」
「はい……?」
「ちがーう!!! これは握手!! こう!」

 硬く手を握り直されてばしりとスバルはツッコむ。先程は察しが悪くて助かったが今回は察しが悪くてムカつく。そういう羞恥プレイをさせられているわけではないはずなのだが。ぎゅっとオットーの指の間にスバルの指を絡め、手のひらと手のひらの隙間がなるべくないように密着させる。

「恋人ならこう、だろ」
……
「ぷ、オットー顔真っ赤」
「お、お互い様でしょう!?」

 隙間なく繋がれたスバルの左手とオットーの右手を見つめて顔を再度赤らめる男を揶揄えば仕返しとばかりに反対側の手も絡め取られた。
 のだが。

「お、オットーさん」
「なんですか」
「ナツキさんそろそろ手を離して欲しいなって」
「もうちょっとだけ……

 いちゃいちゃはしたかった。だけどハグは密着度が高くて恥ずかしいしキスなんてもってのほかだ。頬にキスをされたのは大誤算だったがだから手を繋ぐくらいならば程よく恋人らしくできるのではないかと思っていたのだが。困ったことにかれこれ10分以上繋がれたままにされるのはスバルの予想の外であった。
 柔らかく細められた青い瞳がふわりと溶けてスバルを見つめてくるのにも慣れない。恥ずかしくなって目を逸らしても「ナツキさん」と名前を呼ばれれば吸い寄せられるように目を合わせてしまう。
 華奢そうな見た目に反して男らしい指先が時折思い出したようにスバルの指先をくすぐってくると声が漏れそうになるのも困る。

「ナツキさんずーっと顔真っ赤……可愛い」
「も、もう限界かも」
「可愛い……
「おっとお、はなして」
「お話ですか? たくさんしましょう」
「そっちじゃないぃ……

 加護持ちの男だスバルの伝えたいことなんてわかっているくせにタチが悪い。
 
「ナツキさん」
「うう」
「もうちょっとだけこのままでいいですか」

 スバルだけを視界にとらえたその表情。
 愛に飢えているのにその愛を素直に受け取ることができないスバルにもわかってしまうくらいに優しいその眼差しに対しスバルは指に力を込めてほんの少し顔をあげて目を閉じることで返事とするのだ。