ニイナ
2025-10-23 00:00:00
4157文字
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奪うための理由なんて、

ロー誕に書いた話のその後。原作軸のロドフ。
捏造しかない。

 インペルダウンでの生活は退屈と言えば退屈で、味気ないと言えば味気なく、けれども気ままで快適である、とも言えた。差し入れされる新聞で外の動向を追うのは、自分が加担していないだあって勝手に憶測を立てても実害はないのが良い点だった。外の世界はあれこれと忙しなく目まぐるしく状況を変えているらしく、話のネタにも事欠かなかった。
 その中でドフラミンゴがわずかに気にかけていたのは、カイドウを討ち取ったあとで消息不明となったローのことだった。賞金が跳ね上がり、実に生意気な、と思っていればこの有り様である。結局のところ詰めが甘いのだ、と思いつつもその後の情報があまりに伝わってこず、ドフラミンゴはひそりと眉を寄せていた。気にするべきでもないと割り切るにはローという存在はドフラミンゴに引っ掛かりを残していた。ただだからといって、ドフラミンゴにどうこうできるはずもないため、新しい情報を待つしかなかった。
 ドフラミンゴの収監されている場所は最も警備の厳しい一角で、他の囚人とは隔離されていると言っても過言でははない。そのため、基本的にはこの監獄の片隅は静かなのだった。けれども、それが一時慌ただしくなり、ついでまたしんと静かになった。何か予期せぬことが起きたのだろう、と考えたものの、それにしては静かすぎるので些末なことだったに違いない。そう、ドフラミンゴは切り捨てて読みかけの新聞を読むことにした。
 こつり、と床を踏む音はしずかで、そうしてあまり耳に馴染みのないものだった。ここに来る者の足音にしては落ち着いていて、殺気のようなものを感じない。看守でも交代したのか、とぼんやり思って顔を上げ、ドフラミンゴは唖然とする。
「監獄でも快適そうじゃねェか、ドフラミンゴ」
…………ロー」
 青いファーのあしらわれた青い羽織を肩にかけ愛刀を肩にのせ、悠然とひとりの青年が佇んでいた。その顔には嫌と言うほど覚えがあり、ドフラミンゴが気にかけていた当人だった。信じられない思いでその名前を口にして見せれば、ローがにたりとあくどい笑みをのせる。嫌味なその顔に目を眇めてドフラミンゴは舌を打ちたくなった。
「ずいぶん間の抜けた面だなァ」
「どうしてここにいる?そもそも、どうやって入り込んだ?」
「侵入経路をベラベラ喋るやつがあるかよ。けどまァ、ここまで来れたのはシュガーの功績がでかいな」
 含みを持たせた言いように眉を寄せていれば馴染みのある名前がローの口からこぼれてドフラミンゴはローを鋭く睨め付けた。温度を下げた声がローを問い詰めても、それさえ些末なものだとローは動じない。
「シュガーに何をした」
「べつに何もしちゃいねェよ。あいつがおれに手を貸す理由なんざ、ひとつだろう」
 びりびりと肌をなめる覇気をこぼしてたところでローには効かず、余裕綽々の態度でローが答えを返した。それに、ドフラミンゴは額を押さえて息を吐いた。シュガーが手を貸す、となればその理由は自ずと限られる。そしてこの時ばかりはドフラミンゴも自身をその理由に挙げざるを得なかった。
…………俺をダシに使ったのか」
「利害の一致なだけだ。お前をここから出すのにあいつの能力はかなり有用だった。看守も海兵も玩具になりゃ、すぐに詰みだからな」
…………
 ローの語るものに納得がいかずとも納得できてしまい、ドフラミンゴは舌を打つ。シュガーを掌中に収めているというだけで、インペルダウン襲撃は優位に運ぶだろう。ただそれはシュガーが裏切らなければ、の話なのだが、どうせ策が講じられているに違いなかった。
「安心しろ、シュガーにはベポを付けてる」
「シュガーが玩具にするかも知れねェのに、か」
「そこは問題ない。ここからの脱出のルートはベポしか知らねェからな。ベポがいなくなれば出て行けなくなる」
「なるほどな」
 ほとんど脅しかけるようにシュガーを従わせているローを鋭く見つめ、ドフラミンゴはギリ、と歯を鳴らした。脱出する手段をあらかじめ示しておけば、そこを捨て置くことはできない。航路をローが知らないということは、必然的にベポを玩具にはさせられないということだった。ドフラミンゴを脱獄させたい、という願いのためにシュガーはローのクルーに手を出せないわけである。生意気な甘ったれと思っていたローの整えられた策に指を噛んで苛立ちを紛らわそうとしたものの、それはあまりに無意味なものだった。
……それで、わざわざ俺を脱獄させてどうしたい?今になって殺そうと思い直したのか?」
「そんなんじゃねェ」
 ローの意図がわからなくとも、どうせ碌なものではないことは明らかだった。ロー自身の手で討てなかったからこそ、こうやって面倒くさいことをして殺すのだと、ドフラミンゴは思っていた。けれどもドフラミンゴの言葉を聞いたローが露骨に顔を歪めた。子供のような不機嫌さを隠しもせずむっつりと口を曲げるローに、ドフラミンゴはぱちりと目を瞬かせる。
「だったらなんだ。他に用なんざないだろう」
「用ならある。あるから、来たに決まってる」
「意味がわからねェな」
 どうして理解しないのか、と不平を示すローのことがドフラミンゴには理解できるはずがない。もはやローとは殺し合うだけの関係性でしかなく、それ以外でどんな理由があるのか見当もつかなかった。そして理解できないものを考えるのが、ドフラミンゴは億劫になっていた。
 機嫌を損ねたままのローが何か口を開こうとした時、どこかしらで爆発音が響き、地面が揺れた。インペルダウン自体がまた少しずつ崩れていくのを感じながら、ドフラミンゴはローの出方を見つめるしかない。
「おれは、アンタを奪いにきただけだ」
…………は?」
「海賊は奪うのが基本だからな。欲しいもんは力で奪い取る」
 じっとローの言葉を待ち構えていたドフラミンゴは、身勝手でなおかつ意味のわからないそれに、つい間の抜けた声を出していた。話を続けていくローに、いかにも海賊らしい言い分だと思えども、ますます理解し難くドフラミンゴはローの言動を訝った。
「おかしなものでも食ったのか?」
「違う」
「なら、妙な能力に巻き込まれたか、変な薬でも飲んだんじゃねェだろうな」
「なんでそうなる!違うって言ってるだろ!」
 ギャン、と子犬のように喚くローの子供っぽさに額を押さえてドフラミンゴは息を吐いた。癇癪を起こされたところでドフラミンゴにはローの言動が何ひとつわからない。正誤性の取れていないローを正常だとはとても思えず、可能性を浮かべたものの、全てローによって否定されることになり、頭を抱えたくなった。
「お前の言動がおかしいからだろう。俺を手元に置いてどうしたい」
……ひとまずは、アンタの脱獄に乾杯してやる」
「ほら見ろ、おかしくなってるじゃねェか」
「おかしくなってねェ」
 不満を前面に出して苛立つローがガシガシと髪を搔いた。ドフラミンゴが何ひとつ理解しないことに腹を立てているらしいローの拗ねた声がこぼれ落ちる。それでも気を取り直したのか、ローが大きく息を吐いた。それに釣られるようにまたどこかで爆発音がする。その音に気を取られていればローの能力が展開して、手にしていた新聞とローが入れ替わった。
「ロー?」
「アンタに、この酒で祝杯あげてやる」
「お前、それ……
 どこまでも意図のつかめないローに目を丸くしてその顔を見上げ、取り出されたものにドフラミンゴは驚愕する。ローが愛刀の柄にかけていた袋から手にしたのはいつかにドフラミンゴがローへと贈ったワインボトルだった。封も切られていないそれとローを見比べてドフラミンゴは動きを止めてしまい、ローの挙動についていけなかった。
 愛刀をすこしだけ抜いてボトルが切られ、中身がぼたぼたと床にこぼれ落ちる。もったいないことを、と場違いなことを思っているうちにローがボトルに口をつけてワインを含み、そのままドフラミンゴへと口付けた。
「っ!?」
 ローの行動が読めずに様子を窺っていたせいで反応が遅れ、気付けば後頭部を掴まれて動けないよう固定されている。ぬるいワインが口を無理やり割らされて流し込まれた。口内でさわやかなフルーツの香りがひろがるのと同時にローの舌がワインを喉の奥に押し込んで口内を荒らす。息が詰まるのを感じつつどうにかワインを飲み干せば、口の端から垂れたものはローによって舐め取られた。
「ドフラミンゴ」
「お前は、何を、してる……!」
「アンタを祝ってんだろ」
「は、ァ……?」
「さっきから鳴ってるのもどうせグラディウスの祝砲だ。アンタを祝うためのな」
「どいつもこいつも、頭がおかしいだろう」
 苛立ちに声を上げたところで淡々と返されてドフラミンゴは言葉をなくす。ローの顔にのる恍惚にも正気を疑い、聞かされた事実に目眩がした。爆発音は祝いの砲だというのが、嘘偽りではない気が確かにしてドフラミンゴはこめかみを押さえた。
「そりゃまァ、アンタに狂ってるから仕方ねェよ」
「あ?」
「それでも、もうアンタはおれのもんだけどな」
「ロー」
 子供じみた笑みに男の色を出してこぼすローを見つめ、榛色の眸に立ち昇る欲を認めてドフラミンゴは息を飲んだ。肌をなめるローの劣情に、ぞわりと背筋が震える。いつの間に、目の前の子供は男になったのだろう、と隠しきれない動揺でドフラミンゴはわずかに後退った。その些細な動きに眉をしかめたローが距離を詰めて頬を撫でてから触れるだけのキスをする。その熱にも身体がびくりとして、自分ではない感覚に落ちそうになった。
「絶対、離してやるかよ」
「ロー、ふざけるのもいい加減に、」
「ふざけてもねェ。アンタはこのままおれに囲われるんだからなァ」
「ロー!」
「ドフラミンゴ、アンタに拒否する権利なんざねェよ」
 拒むことも跳ね除けることも許さない、とそんな選択肢はないと告げるローの眸に灯る欲と仄暗さにドフラミンゴは再び言葉をなくす。ローにそろりと身体を抱きしめられ、ローの熱がじわりと伝わっていく。そのぬくもりを押し退けることが出来ずに、ドフラミンゴはそっと目を閉じた。