三毛田
2025-10-22 22:09:19
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53 053. 頷いてくれた、たったそれだけで

53日目
幸せなんだ

「好きです!」
 図書館へ本を返しに行くと言って、教室をあとにして。いつもならば戻ってきているはずなのに、まだ姿はなく。
 探しに行ったら、一人じゃなかった。
「済まない。気持ちとしてはありがたいが、既に恋人がいる」
 相手は唇を噛んで、俯いて。
 ここで丹恒を責めたりしたら、俺はここから飛び出して彼を連れ出さないといけなくなる。
「ありがとう、ございます」
……ああ」
 頭を下げ、俺の横を気づくことなく走り去っていった。
 緊張した、疲れたというようなため息をつき、丹恒はこちらへ。
「きゅ、う」
 そして、驚いたように俺を見て。
「ごめん。聞くつもりはなかったんだ」
「わかっている。お前が、そういうことをする人間じゃない。俺を心配して探しに来たんだろう?」
「う、うん」
「ありがとう。少し、苦しい」
「ぎゅってする?」
「頼む」
 抱きしめると、縋りつくような腕の回し方をして。肩に顔を埋め。
 思っているよりも、ダメージを負ったのだろう。
 他人に好かれるのも、疲れるのだ。
 特に、異性から好意を向けられるのは。
「お前が、いい」
「うん」
「俺が好きなのは、お前だ」
「知ってる。俺も、丹恒が好き」
 頭を撫でると、しがみつく力が強くなって。
 さっきの少女のように好きだって告げた時、丹恒が頷いてくれたのが嬉しかった。
 その体験は、一度だけでいい。本気で好きになった相手に、頷いてもらえた。たったそれだけそれだけなのに。
 嬉しくて仕方ないのだ。
「言いふらす?」
……今は、それでもいいかと思う。お前以外の好意は、いらない」
「じゃあ、手を繋いで教室まで戻ろう。もしくは、お前の腰に手を回しても?」
「手が、いい。手を、繋ごう」
 俺の肩に額を擦り付け、それからゆっくり離れていく。
「えへへ」
「嬉しそうだな」
「だってさ。丹恒が、学校内で手を繋いでくれるのを許してくれたから……嬉しいんだ」
……お前の手は、気持ちいいな」
「本当?」
「ああ。だから、もっと」
「もっと?」
 指で手の甲を撫でると、俯いてしまう。
「家に帰ってからで、頼む」
「オッケー! 好きなだけ甘やかすから、覚悟して」
 耳元で囁くと、強く手を握られた。痛いけれど、幸せな痛み。
「じゃ、帰ろうか」
「ああ、帰ろう」
 荷物を持ち、手を繋ぎながら玄関まで。
 色々視線を向けられるけど、丹恒と一緒に居られる幸せの方が上。
「ふへへへへ」
「ふ」
 俺がだらしない顔をしていると、彼は仕方がないなと言うように笑みを浮かべ。
 そんな顔も、愛しい。