lolo
2025-10-22 01:57:21
1459文字
Public お話
 

ふたたび はじめて

死出/敵連合に加入希望なモブさんの個性をおためしする弔くん。

おだやかな休日の昼下がり、毎号欠かさず買っている雑誌を買うため街にくり出した出久のまえに、その男は姿を現した。
「死柄木、弔……!」
「よぉ。久しぶりだな緑谷ァ」
不敵に口元を歪める死柄木。
全身に緊張が走る。出久は目の前の敵から決して目を離さないようにしつつ、すばやく臨戦態勢をとった。
「そんなに殺気立つなって。今日は別に、おまえを殺しに来たわけじゃないんだからさ」
そんなの信じられるわけがない。出久は無言で相手を睨みつける。
ショッピングモールでの邂逅はまだ記憶に新しい。あの日出久の命をたやすく掌握していたこの男は、去り際に「次会う時は殺すと決めた時だろうから」となんとも不穏なセリフを残していったはずではないか。
警戒心をむき出しにする出久と対照的に、散歩の途中のような風情で佇む死柄木がふと後ろをふりむく。
死柄木の背後にひっそりと控えていた人物の存在に、出久はそのときはじめて気づいた。
顔立ちにも服装にも目立ったところのないその男に、死柄木が何事か短く指示を出す。
男は一歩まえに進み出ると、さっと両手を掲げた。
(仲間がいたのか……!)
しまったと思ったときにはすでに遅く。
出久の体は身構えたそのままの形でびたりと静止していた。
(動けない!?あの男の個性か)
男は両手の親指と人さし指を組み合わせてつくった四角形のなかから、出久に視線を据えていた。まるでカメラのレンズをのぞくように。
指先ひとつすら自由にならず、焦りから冷や汗を流す出久に死柄木が腕を伸ばしてきた。すべてを無に帰す力を持った、破壊者の手が迫ってくる。
湧きあがる絶望に出久が息を止めた、その瞬間。

ふにっ。

…………へぁ?」

頬に固い指先が触れたと思ったら、冷たくやわい、すこしだけささくれた感触が唇に落ちた。
まぬけな声とともに目を見開けば、ものすごく近い距離にこちらを凝視する紅い瞳がある。
「!!?!?」
ずざざあっ、と靴底が焼け焦げそうな勢いで出久は後ずさる。一瞬遅れてはっとした。――動けるようになっている。
「三秒……。まぁ、こんなもんか」
呆然とする出久を置き去りに、死柄木は何事もなかったかのようにつぶやく。
「悪くない個性だと思うけど、わりとありふれてるよな。あと、おまえとは話が合わない」
「ええー……敵連合って、だれでも加入OKじゃないんですか?あ、じゃあ俺特訓しますよ!十秒!十秒止められるようになったら、ベロチューだってでき――ヒィ!」
死柄木は軽々しくしゃべりまくる男の首に手をかけ黙らせる。
そのまま踵を返し立ち去ろうとする背中を、出久は反射的に呼び止めた。
「しっ、死柄木弔!」
「あ?」
「さっき……な、なんで僕に、その、キ、キ……
死柄木は肩越しにふりかえり、動揺のあまりまともに言葉を紡げない出久をみとめると、どこか満足げに笑った。
「嫌がらせだよ。決まってんだろ」
ひらりと片手を振り、黒いフードをかぶった後ろ姿があっという間に雑踏にまぎれていく。
動かなければいけないと頭では分かっていたものの、全身から急激に力が抜け、出久はへなへなとしゃがみこんでしまった。
心臓が暴れている。発熱してるんじゃないかと思うほどに頬や頭が熱い。
……はじめてだった、のに」
まだ生々しく彼の感触が残った唇で、出久はだれにも聞こえない恨み言をつぶやいた。

***

モブさんの個性:シャッターチャンス
指でつくった窓からのぞける範囲の人や物を、三秒間だけその姿のまま静止させられる。