スロウライト

レノ✕シスネ

雨上がりのハイウェイを、車が静かに滑っていく。フロントガラスを流れる橙の光が、一定の間隔で車内を照らしては通り過ぎる。
 助手席のシスネは、窓に頭を預けて眠っていた。ガラス越しの光が髪に艶を落とし、呼吸に合わせて小さく胸が上下する。ハンドルを握ったまま、レノは横目にその寝顔を見て、ふっと息を漏らした。
……ったく。寝てんのかよ」
 連日の任務で疲れが溜まっていたのだろう。その呟きにも、車の揺れにも、シスネは反応を返さなかった。
 以前は決して隙を見せなかった彼女が、今はすっかり気を許した顔で眠っている。その変化がなんとなく嬉しくて、レノは知らず口の端を上げた。
 やがて灯りがまばらになり、冷たい外壁が夜を映す高層棟が姿を現す。神羅の中でも一部の上級職のみが居住を許される社宅エリアは、息を潜めるように静まり返っていた。車をゆっくりと停め、エンジンを切る。
「おい、着いたぞ」
 声をかけてもシスネは瞼を開けず、眉をひそめて小さく唸るだけだった。
……うん……
 寝ぼけたその声に、レノは苦笑する。
「しゃーねぇな」
 外に出ると、湿った夜気が頬を撫でた。助手席側にまわりドアを開けると、車内灯がふわりと灯る。淡い光に照らされた横顔は、どこまでも穏やかだった。シートベルトを外し、そっと腕を差し入れる。
 抱き上げた身体は、思っていたよりずっと軽い。華奢で、簡単に壊れてしまいそうな気がした。柔らかな髪が頬に触れ、細い腕が縋るように首に絡む。幼さの滲む無防備な仕草に、レノは思わず息を詰めた。
……あったかい……
 夢の中のような声が耳元に触れる。続いた言葉は、風に溶けそうなほど小さかった。
……ずっと……こうだったら、いいのに……
 レノの足が止まる。胸の奥が、静かに軋むように揺れた。微かに身じろぎした彼女の額が肩に触れる。その儚い温もりを、手放したくなかった。
……俺は保護者かよ、と」
 照れ隠しのようにぼやいて笑い、背中でドアを閉める。その笑みの奥に、言葉にならないものを隠したまま。
 夜風が静かに髪を揺らす。街灯の下、寄り添う影がひとつに重なり、ゆっくりと夜に溶けていった。