白殊皎(しらよし こう)
2025-10-21 18:00:00
4260文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

雛鳥は邯鄲の夢を見る

n番煎じの、土方さんが分裂(?)した話。

 副長が分裂したらしい。

 ちょっと何を言っているかわからないって?
 僕だってわからないんだから、勘弁してよ、マスターちゃん。

 ぼやく斎藤とそのマスターの視線の先には、新選組・鬼の副長とその局長。
 そして何事かと周囲を囲む幾人ものサーヴァント。
 その中心で鬼は〝何か〟と近藤を前にしてにらみあっている。
「かっちゃんはおれがまもるんだ、ちかづくな!」
「あぁん? 生意気なこと抜かすな! お前如きに近藤さんが守れるものか!!」
 土方が睨みあう相手は、近藤を「かっちゃん」と呼ぶ、癖のある髪を頭頂近くで結いあげた、きかん気の強そうな目をした少年……

 どう見ても副長だよね、アレ。
 斎藤のヒソヒソ声に微かに頷いた少女は三人に近づいた。

「あぁ、主。良いところに……二人を止めて……
 それに気づいた近藤が困り顔で助けを求めてくる。
 何があったの? と少女が問えば、朝起きたら土方のかたわらにこの少年がいたという。
 二人が目を覚まし、お互いに誰だ! となったのでとりあえずそれを止め、少年に誰なのか問うと、その姿と言動から幼い頃の土方らしい、となったため自分は幼馴染みの勝五郎が大人になった姿だと伝え、土方も君が大きくなった姿だと言ったらしい。
 なんで二人になっていたかは混乱して頭から抜け落ちていたようだ。

 はい、ごちそうさま。

相変わらずだなぁ、と斎藤は砂糖を吐きそうな気分になるが、後からの土方が怖いので黙って見守る。

 近藤の説明は全方位に漏れなく二人の関係をバラしているようなものだが、こういうところは天然なのか、はたまた意図的なのかはわからない。

 土方少年(便宜上こう呼ぶ)は、目の前の麗人れいじんが幼馴染みの勝五郎だとすぐに認めたらしいが、土方に対しては全く認めないという。
 とりあえずの解決策を、と少年を連れて三人でダ・ヴィンチちゃんのところへ向かおうとした道中でこの睨みあいが勃発ぼっぱつしたようだ。
 曰く、「こいつ、かっちゃんをいやらしいめでみてる」と。
 自分で言うな──周りのサーヴァント達は内心めちゃくちゃツッコミを入れたかったが、皆大人なので黙っていたらしい。

──主張はわかったから、とりあえずのダ・ヴィンチちゃんのところへ行こうよ。
 明るい髪色の少女はおくする様子もなく土方少年を抱え上げ、ぽす、と土方に手渡した。
「おいマスター! なんで俺が!?」
──だって自分でしょ? ストームボーダーは広いから、途中で疲れちゃったり、迷ってはぐれたりしたら可哀想じゃない。
 現在のマスターに言われ、土方は苦虫を噛み潰したような顔になるが、「歳、子供なんだから、ね?」と近藤に困り顔で言われたら断ることもできなかった。
「おれはひとりでもあるけるー!!」
 いきなり抱え上げられてしばしフリーズしていた土方少年だったが、宿敵(笑)に手渡されて、正気に戻るとジタバタと暴れる。
「私からのお願いだ、大人しくしておくれ」
 近藤が両手を合わせて頼むと、「かっちゃんのたのみなら……」と静かになった。



「またとんでもないことになってるね〜」
 騒ぎで何かあったのだろうと推測はしていたのだろうが、実物を前にしてダ・ヴィンチちゃんも開いた口が塞がらないようだった。
「土方くんが分裂? しかも片方は子供?」
 頬に手を当てつつ霊基のスキャンに移る。
「土方くんに異常はなしっと。そしてその子だけど……
 自分たちではよくわからないが、つい皆ダ・ヴィンチちゃんのモニターを一緒に見つめる。
「サーヴァント、じゃないね。普通の子供。悪意は感じないし、魔術的な構成要素も全くないよ。霊基が分かれた様子でもないから、分裂とは違うんじゃないかな」
「はぁ?」
 なんだかんだ言いながら、ちゃんと昔の自分を抱っこしている土方が声を上げた。
 じゃあなんでここにいるんだと。
「タイムスリップに近いものかも知れないね。この天才美少女ダ・ヴィンチちゃんにとってとても不名誉だけど……
 あごに手を当てて考え込む。
「わかんない☆」
 ペロっと舌を出してそう締めくくられた。

──悪意が無いなら居てもいいんじゃない?
 結果を聞いて寛大なマスターはそう言った。

──二人とも、その子よろしくね。
「「えっ」」
 マスターの決定に、二人の声が重なった。

 まぁそうなるよね〜。
 でもマスターちゃん、直球過ぎるよ……
 斎藤一はキリキリと痛む胃をそっと押さえてマスターの後ろ姿を見守っていた。



 マスターに世話を任され、とりあえず部屋に戻った三人だったが、不毛な土方同士の睨み合いは度々勃発した。
 奇跡ともいえる巡りあわせで近藤が召喚されてから、土方は彼にべったりだ。
 そして近藤もそれを全く拒まないし、隠さない。
 周囲からはもう〝夫婦〟という認識さえされている。
 なので普段からゼロ距離の二人、自分が勝五郎を守ると自負する土方少年には目の毒……いや目の上のたんこぶだろう。
 そんな何回目かの睨みあいの時……
 ぐぅううううう、と少年の腹が鳴った。
 それもそうだろう、普通の子供だというならば眠くもなるだろうし腹も減る。
 それらが必要ないサーヴァントとは違うのだ。
「あぁ……ごめんね。忘れていたよ」
 近藤は申し訳なさそうに頭を撫でる。
「ち、ちがうぞ、はらがへってなんか……
「歳、私たちも何か入れよう」
 にっこり微笑んだ近藤はマスターにならえしたかのように彼を抱き上げると土方に手渡す。
……近藤さん」
「とーし!」
 何か言いたげだったが、近藤に唇をとがらせて名を呼ばれ、何も言い返せなくなった。



 食堂はそこそこ賑わっていた。
「なんだここ、すっげえいいにおいがする!」
 土方少年は目をキラキラさせて辺りを見回す。
「おや、噂のご両人と、お子様かな」
 厨房を預かる赤のアーチャーは笑みを浮かべて三人を迎えた。
「どんな噂だよ……
 勘弁してくれ、といった表情で土方が天を仰ぐ。
「すまないね。そうだな、私にはとろろ飯、歳にはいつもの沢庵がついた定食。そしてこの子には……子供が好みそうなものを頼めるかな」
 近藤はわかっているのかいないのか、ふふ、と笑って注文を済ませる。
「ははっ、お熱いこった」
 近藤達がカウンターから離れると、厨房の奥からビーマが顔を出して笑ってみせた。
「珍しい本物のお子様だ、腕を振るってやろうじゃないか」
「違いない」
 厨房の主達はお互いに顔を見合わせて微笑みあった。



 土方少年に提供されたのはチキンライスに誠の旗が立てられ、様々なおかずが盛り合わされたお子様ランチだった(プリン付き)。
 かなりベタだが、そこは厨房の守護神達が腕を振るったものなので、味は格別であろう。
 今まで見たことのないものに、はじめは警戒をしていた彼だったが、近藤がスプーンでチキンライスをすくい、あーんをしてやると口に入れた。
 途端目を輝かせてスプーンを受け取り、自分で食べ始める。
「近藤さん」
 にこにことそれを見守りつつ、自分も食事を口に運ぶ近藤に、土方が声を掛けナプキンを片手にその顔に手を伸ばす。
「ついてる」
 いつの間にか頬についた汁をそれで拭い去る。
「あぁ、すまないね、歳」
 あまりに自然なそのやりとりに、数名のサーヴァントは本当にそれでいいのか!? とツッコミたい気持ちでいっぱいだったという。
 ちなみに土方少年はというと、この時ばかりは花より団子で食事に夢中だったようだ。



 食事を終えて部屋に戻る段階になると、土方は何も言わずに土方少年を抱え上げた。
 それを見て近藤がにっこりと相好を崩す。
「なんだよ」
「なんでもないよ」
 その様子に、本当に夫婦とそのお子様じゃねぇか、と誰かが呟いたとか呟かなかったとか。


 お腹がふくれれば、普通の子供なら眠くなる。
 ご多分に漏れず土方少年も部屋に戻る道すがら、船をこぎ始めた。
「ふふ、可愛いね。歳」
「近藤さん……
「むにゃ……かっちゃんはぁ……おれが……
「わかったわかった」
 土方は少年の背を優しく叩く。
 寝落ちながらも近藤を、いや勝五郎を慕うこの少年に、土方もなんとなく心がほぐれてきているようだった。



 部屋に着くと近藤はいそいそと寝台ベッドを整えた。
 土方少年を寝かせるためかと思いきや、自分が率先して潜り込み、自分の横をぽんぽんと叩いておいでおいでをした。
………………
 もちろんこの子込みだろうから、土方は深〜い溜息をついたがそれに従う。
「嬉しいね、歳。幼いお前と大人のお前、そして私の三人で眠れるなんて」
「まぁ、な」
 子供抜きならもっと嬉しいんだが、と思いつつ、近藤があまりに嬉しそうなので同意をする。
「でも、どうしてここに来たのかわかったら、早く帰してあげたいな」
「ん?」
「だって向こうの私が可哀想じゃないか」
──大好きなこの子がいなくなっていたら。
 そう言って綺麗に笑う近藤は美しすぎて、土方は目がくらむ思いだった。



 いつしか眠っていた土方が目を覚ますと、両の瞳に涙をいっぱいに溜めた近藤がいた。
「近藤さん!?」
「歳……あの子が……あの子がいない!!」
 互いが眠っているうちに部屋からまろびでたのか、二人でストームボーダー中を探したが土方少年はいなくなっていた。
 最終手段とダヴィンチちゃんの元へと駆け込んだが、その気配は全く消え失せているとの事だった。



「帰れたのかな……ちゃんと……
 泣きじゃくる近藤の背を抱き、なだめるようにゆっくりと撫でる。
「あいつなら、今ごろ全部忘れて〝かっちゃん〟に夢中だろうよ」
 あの頃の自分がそうであったように、どの世界線であってもそこに近藤がいるのなら、という想いをこめて。
「とし……
 近藤は泣きらした目で土方を見つめるとその唇にそっと自分の口を重ねた。
「そうだよね、きっと……
「あぁ」



「授かれば良いのに……
 ひとしきり泣いて、顔を上げた近藤は、ポツリとそうもらした。
 自分たちはサーヴァントであると同時に男同士だから、無理とはわかっているのだろうけど。
「俺はごめんだなァ」
「歳!?」
「──あんた似なら大歓迎だけどな」