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mlkmirm
2025-10-21 02:14:37
12244文字
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地上111メートルの告白
――
遊園地デート。
それは、恋仲の二人が手を繋いでパーク内を回ったり、カップル限定ストローで一つのジュースを飲んだり、お化け屋敷に入り悲鳴を上げながら飛びついてしまったりする、お約束のデートである。
今ここに、片思い相手のナツキ・スバルをデートに誘わんとする者が、居た。
「あの、ナツキさん」
「んー?どした?」
しん、とした空間に二人の声だけが響く。
いつもの昼休みの際には賑わっている筈のここ中庭であるが、今日に限ってはこの曇天のおかげで貸切状態になっていた。
声をかけられた男、スバルは返答の後弁当の卵焼きを口に放り込んだ。
「実は、父さんが会社の福利厚生的なもので遊園地の招待券を貰ったそうで、そのまま僕に譲ってくれたんです。それで、もし今週の土曜日が空いていたら一緒に行きませんか?」
親の会社からの頂き物という、『デート』への絶好の口実を得たオットーは、非常にさり気なく、しかし心の中では特大の気合いを入れてスバルに畳み掛けていた。
「別に良いぜ?近いの?」
そう言ってスバルはパックジュースのストローを咥えた。
……
さらっとOKを出したが、この男内心では心臓ばっくばくである。そして、緩みそうになる頬を口内を噛み締める事で防いでいた。
そう、何を隠そうこの二人は、お互いがお互いをカンストレベルまで好き合っているのにも関わらず、それに気付いていない上、万年『俺達って仲が良いだけの腐れ縁だよな』を貫いていたのだ。
所謂、両片思い、というやつである。
オットーはスマホを操作して、こう言った。
「ええと、ナツキさんの最寄駅からは電車で三十分くらいみたいです。近くもなく遠くもなくといったところですね。
……
はい、では先に一枚だけお渡ししておきます」
財布の中に大事に大事にしまっておいたチケットを、スバルに差し出す。スバルは軽く親指と人差し指で摘み、さらりと両面を眺めてから、同じく自分の財布の中に片付けた。これで、今回のオットーのミッションはコンプリートだ。
「俺、遊園地ってガキの頃以来かも。へへっ、やりぃ!」
ここで初めてスバルは少しだけ内なる感情を表に出した。態と満面の笑顔の少し手前の嬉しそうな顔を作りオットーに見せる。ここではしゃぎ過ぎないのが彼なりのこだわりポイントだ。
「ふふ、僕も久しぶりなので楽しみです。開園と同時に入りましょう。どうせなので回れるだけ回りたいですし」
「うわ、すげぇ楽しみ!お前、絶対寝坊すんなよ?」
「いや、ナツキさんにだけは言われたくないです。今日も僕がモーニングコールしなかったら遅刻してたでしょう」
「うっ
……
、当日もよろしくお願いします
……
」
こうして、いつもの昼休憩が、普段の数倍楽しく始まったのであった。
デート前日の晩。
二人はメッセージでやり取りをしていた。
『約束通り明日八時半に李瀬路駅で落ち合おうな。俺、黒いキャップ被ってるから目印にしてくれ』
『分かりました。七時に電話を掛けるのでちゃんと起きてくださいね?』
『ああ。じゃ、お休み〜』
『お休みなさい』
スマホを枕元に放り、スバルはそのままベッドに飛び込んだ。
「んふふ。明日だけは電話よりも早起きしちゃうんだよなぁ。すげぇ美味い弁当作ってやって、驚かせてやろう!それで、気分も盛り上がったところで、告白するんだ!!」
二人が行く予定の遊園地にはとあるジンクスが存在していた。観覧車の天辺で告白をすると永遠に結ばれる、というものだ。
「へへ
……
、最近はぜってぇあいつも俺の事意識してると思うし、明日でものにしてやる!」
そう言って、彼はスマホのアラームを五時でセットし、眠りに就いた。
時を同じくしてオットーの部屋では。
「観覧車、乗りたいんですけどねぇ
……
」
苦い顔で頭を抱えていた。何故なら彼は極度の高所恐怖症だからだ。
彼らの学校での教室の位置は二階。オットーはそれさえも耐えられず、窓の外は巨大な壁画だと自己暗示をかける事で凌いでいたのだ。
無論彼も遊園地のジンクスの事は下調べ済みで、何とかして彼と乗って長年の片思いを実らせようと奮起していた。
そしてよく悩んだ結果、外には目を遣らず、浮遊感も無視して、スバルの事だけを見つめる事で乗り切ろうという根性論丸出しの結論に至った。
「明日こそ、告白するんだ
……
」
最近ふとした瞬間に彼と目が合う事が増えてきたのに気付いてしまったオットーは、明日という日に賭けていた。上手くいってくれと願いながら。そして、結ばれた暁には恋のABCを進めてやるんだとひっそり企んでいたのである。
「さて、寝ようかな。アラームは六時半、と」
彼を起こす筈が寝坊してしまってはいけないから、と少し早めに目覚ましをかけたオットーなのであった。
直ぐにこの部屋は暗転をし、部屋の主からはすうすうと規則正しい寝息が立った。
「おはよう御座います、ナツキさん」
「おう、おはよう!」
かくして彼らは無事に遊園地の最寄駅で落ち合う事に成功した。
「あれ、何だか少し大荷物ですね」
「ん
……
、弁当、作ってみた」
こほんと咳払いをしてスバルは答えた。
「!!」
オットーの脳内は今こうなっている。ナ、ナツキさんの手作り?!どうしよう、嬉し過ぎる!僕、今日の日の為に生まれてきたのかも!ああっ、何か返答をしなくては
……
!
「有難う御座います。道理で電話の声が寝ぼけていないなと思ったんです」
「ふふん、俺だって早起きくらい出来るんだぜ?」
お前の為ならな、とスバルは心の中で思った。
「では、開園までもう直ぐですし、早速行きましょうか」
そう言って足を踏み出した。スバルは右手に弁当のバッグを持っているから、さり気なく左側に回って。
……
手を繋ぐわけではないが、気分だけ味わう為にオットーはそうした。
「そうだな」
スバルは半歩先を歩き始めたオットーを追い、二人は遊園地の受付の列に並びに行くのであった。
「うわ、結構人多いな
……
」
「ですねぇ。何から乗りましょうか?」
「あっ、弁当が有るからジェットコースターは乗れねぇんだけど良いか?あれだったら俺待ってるしお前だけ乗りに行く?」
ジェットコースター!高所恐怖症のオットーにとっては鬼門である。
「いえ、二人で来たんですから二人で楽しめるものに乗りましょう」
そう返されてスバルは悩んだ後にこう言った。
「じゃあ、コーヒーカップでも乗るか。足元に荷物置けるし」
意外と可愛い乗り物を選ばれたなぁ、とオットーは微笑ましく思った。
「ナツキさん!ストップ!ストップ!!」
ぎゅいんぎゅいんという擬音語が使われそうな勢いで周りのカップの数倍回っているのは、スバル達が乗ったカップだった。
並んで薄ピンク色の椅子に座って、スバルは中央の赤いハンドルを楽しそうに握っていた。
「えー?こんくらい大丈夫だろ?」
「うぷ、ちょっと目が回ってしまって
……
」
「まじか、
……
わりぃ」
しゅんとしてハンドルから手を離すと、カップは通常の動きに戻っていった。
「すみません。実は今日が楽しみで随分早く目が覚めてしまったんです。それで少し寝不足で
……
」
あくまでもスバルのせいではないのだと伝える努力をしてみる。
「いや、俺も楽しみ過ぎて一人ではしゃいじゃってたのもあるし、気をつけるわ」
出だしから少し怪しい雰囲気だ。
その後数分でかしゃん、という音共にカップの動きは止まった。
オットーは少しふらつきながら、スバルはそれを心配しながらパーク内のベンチに座った。
「俺、何かジュース買ってくる!冷たいもん飲んだら少しは楽になるだろ?」
そう言い残して販売カーの元へ駆けた。
オットーはベンチからその様子を眺めていた。
「くそ、情けない
……
」
そう自分へ恨み言を吐きながら。
「お待たせ!コーラで良かったか?
……
ほら」
「すみません、有難う御座います」
受け取った飲み物をストローで吸い込む。しゅわしゅわと、ぱちぱちと弾ける泡に少し気分が和らいだ気がした。
この時、スバルは迷っていた。本当は横にならせてあげたいけど、それを提案して良いものか、と。この大きなベンチであれば、例えば膝枕をしてあげたらもっとしっかりと休む事が可能なのではないか、と。
隣でちびちびジュースを吸い込む愛しい人の為にスバルは腹を括った。
「な、膝貸してやるから、ちょっと横になるか?」
「いや、そんなの悪いですよ」
「悪くねぇって。お前がそうなったのも全部俺のせいだし!だから
……
」
ぐいっとオットーの肩を抱いて、スバルは無理矢理膝枕をする事に成功した。ジュースはオットーが咄嗟に抱え直したので溢れなかった。
「ほら、こっちの方が楽だろ?」
「
……
ええ。何から何まで有難う御座います」
「ん。また元気になったら回ろうぜ」
そう言って優しく想い人の髪を梳いた。
二人は、今猛烈に「今の俺(僕)達、凄く恋人っぽい
……
!!」と感動していた。もうこのまま今日は一日中ここでこうして過ごしたいとも思ったが、彼らの今日の目的は観覧車での愛の告白であった為、この後二十分程休んだ後直ぐにまた行動を開始した。
ちなみに、オットーの気分はスバルの膝を借りて五分後には回復をしていたが、滅多にない体験をしたオットーは追加で十五分その感触を楽しんでいたというのは神とオットー本人のみぞ知る話だ。
「ご迷惑をおかけしました」
「良いって。それよりも、もう大丈夫なのかよ」
「ええ、おかげさまで。次は何をしましょうか?」
なるべく激しくないものを、と考え、スバルはそのアトラクションの方へ真っ直ぐ指を差した。
「あれ、とかどう?」
「ミラーハウス、ですか」
レトロな遊園地といえば、なものが揃い尽くしたこの施設、勿論このミラーハウスも設置されていた。
ミラーハウスとは、壁や天井が鏡で出来ている迷路で、どこが本物の道?こっちかな?などと言いながら壁にぶつかったり連れと笑い合ったりするアトラクションの事だ。
「そう!俺、結構好きだぜ、あれ」
そう言って、スバルはオットーの手を引っ張った。あくまでもさり気なく、体調が悪かったお前を先導してやるぜ、くらいのノリで。かなり勇気を振り絞ったのは、握った先の相手には内緒だ。
オットーはオットーで、先ほどからやけにスキンシップが激しめのスバルにどきどきが止まらなかった。それまでは、ナツキさんって僕の事が気になっているのかなぁ、くらいの気持ちだったのに、今は確定で好きだろうとタカを括っている。そしてその気持ちは行動に出た。
するり。
オットーがスバルの指に自分の指を絡めにいった音である。もう少し親切に言うなれば、『恋人繋ぎ』をした音だ。
「!!」
軽く顔を赤らめて緊張した表情を見せたスバルを横目で見たオットーはつい頬を緩めた。そして、これはいけると確信した。
「ミラーハウスの中で迷ったら、大変ですからね」
一応そう言う事で、これは必要な行動であった事を示した。
「っそうだよな!オッケー、オッケー!」
何とも初々しい二人はそうしてミラーハウスの中に消えていった。
結果的にミラーハウスは大いに楽しめた。先ず、どこを見ても己の想い人が映っている点が良かった。横目で見る、そおっと視界に入れる、などという回りくどい方法を取らずに堂々とお互いの顔が見られて二人ともとても満足した。更には恋人繋ぎである。オットーなんて、何となく出口が分かっていたのに態と違う道を選んだくらいだ。
「いやぁ、結構楽しめましたね。まさか最後の道があんな所に有るとは」
「確かに!
……
つーか、すげぇ迷ったせいでちょっと疲れたかも」
「おや、そうですか
……
。それなら、次は休憩がてらあれに乗りませんか?」
オットーが次に選んだものは、メリーゴーランドだった。
「いや、あれは女の子とか子供が乗るやつだろ」
「そう思うじゃないですか?でも、乗ってみたら意外と楽しいかもしれませんよ?」
ちなみに現在も彼らの手は繋ぎっぱなしである。
「まあ、そうかもな。っしゃ、乗ってみるか」
このメリーゴーランドの搭乗時間は約二分と短かった。その為順番に乗ってお互いが記念写真を撮る事にした。
「白馬に跨る俺って、まじ王子様じゃね?」
そんな事をキメ顔で言うスバルに、オットーは当然ときめいていた。しれっとした顔で連写をし、そしてその写真をスマホの秘密のフォルダに保存した。
あっという間の二分が終わり、交代をする。
「オットー、手ぇ振って!」
お行儀良く馬に乗ったオットーにスバルが声をかける。片手にはスマートフォンだ。
「こ、こうですか?」
ぱしゃり!
「あははっ、半目になってる!」
「ええっ!消してくださいっ!!」
「分かってるって!ほら、もう一枚!」
ぱしゃっ!
スバルは一枚目の写真を即座に非表示にさせているフォルダ内に隠し、二枚目の写真のみを通常のフォルダに残した。
そうして一周回ったオットーは元の搭乗口でスバルと合流した。
園内はこの遊園地のテーマソングがずっと流れており、どこかノスタルジックな雰囲気を醸し出していて、二人の脳内も大分お花畑になっていた。
「そろそろお腹が空きましたね」
「あ、じゃあ飯にするか」
確か途中でテーブルと椅子が有った筈、とスバルは辺りを見回した。
「休めるとこ、どっちだっけ?」
「向こうですね。行きましょう」
そう言って二人は歩き出した。ちらりと横目で相手の手を意識して見つめるが、二回も連続で手を繋ぐのは恥ずかしく、向こうから握って貰えないかと二人共が期待するばかりだった為、今度は繋がれる事はなかった。
「家族以外に作るの初めてだから、不味くても笑うなよ?」
そんな前置きをしてから開けた弁当箱には色とりどりのおかずが詰まっていた。
先ずは定番のサンドウィッチ。一種類目はレタスとハムとトマトで、パンは軽くトーストしてある。二種類目は茹で卵とマヨネーズを和えたものを、柔らかいロールパンに詰め込んだものだ。その他に唐揚げ、卵焼き、タコさんウインナー、ブロッコリー、ポテトサラダ。デザートに苺。栄養バランスまで考えてスバルが考え抜いた数々だ。
「す、ごいですねぇ
……
。これ、ナツキさんが一人で?」
「そうだけど。
……
これくらい普通だろ」
「早速頂いても良いですか?」
スバルはすっと割り箸を渡した。
「あ、どうも。では、頂きます!」
全部美味しそうで、つい迷ってしまう。考えた結果、先ずは卵焼きを口に入れた。
「え、うまぁ
…………
!」
「へへっ、お前甘い卵焼き好きなんだろ?前言ってたもんな!」
前、って一体どれだけ昔の事を覚えていてくれているんだ。記憶違いでなければ多分去年とかだぞ。
「えっと、次は
……
」
「いっぱい有るから焦らずに食えよ」
そう言って水筒から二人分のお茶を注いだスバルはにこにこと満面の笑みでサンドウィッチを頬張った。うん、今日も上手く出来たと首を振りながら。
食べながら二人は考えていた。
……
そろそろ『あれ』に乗るか、と。
スバルはこれで胃袋をゲット出来たと思っているし、オットーは度重なるスキンシップでスバルの気を引けていると思っている。やるなら今だ。今しかない。
「あのさ、次観覧車乗らねぇ?今日晴れてるしさ、景色綺麗だと思う」
仕掛けたのはスバルだった。
「良いですね。丁度僕も同じ事を考えてました」
これで、二人が二人して臨戦体制に入った。
あのジンクスを知らぬ筈がないだろうと信じ切っているのだ。それに誘ったスバルと、自分も誘おうと思っていたと明かしたオットー。結果は火を見るよりも明らかだ。
デザートの苺まで仲良く半分こした彼らは、野郎二人、雁首揃えて観覧車の列に並んだ。
オットーは震える足に力を入れて黙らせた。スタッフのお姉さんがゴンドラの出口をばたんと閉め、アナウンスが流れる。
「そろそろ動きそうだな」
とスバルは目の前に座る男に話しかける。
「ええ、そうですね」
オットーはやはり少し緊張した様子だ。
ガタン、と小さく揺れ、観覧車全体が動き出した。
「おー、登ってる」
この遊園地の観覧車は、およそ二十分間かけて一周をし、地上へと戻る仕様になっている。まあ、極度の高所恐怖症のオットーからすると地獄なのだが、告白をする場所としては誰からも介入されないという点において最適だ。
事件は搭乗してから三分後に起きた。
「オットー
……
」
「どうしました?」
内心冷や汗だらだらで耐えているオットーに、それまで外を見てはしゃいでいたスバルはか細い声を発した。
「あのさ、
……
初めて知ったんだけど、俺、高い所無理かも」
そう、この男、オットー程ではないが、実は軽度の高所恐怖症であった。それも無自覚の。
「うわ、何か揺れたっ
……
。えっ、どうしよう、怖い!!」
早くも目が潤んできている。オットーは咄嗟に、アナウンスで禁止されていた搭乗中の席の移動を行った。するとゆらりとゴンドラが揺れた。しかしそんな事は気にせずに、オットーはスバルの横にぴたりとくっついて座り、彼の手を握った。
「僕が付いてます、から、安心してください」
「オットー
……
。ごめん、有難う
……
」
ちょっと近付けばキスさえ可能な距離で二人はそれぞれの右手と左手から体温を感じた。オットーは自分の手の震えが伝わらないように必死で、スバルは汗ばんできた自分の手をどうにかしようと必死だった。
そして、天辺付近に迫った頃。
「「あのっ!」」
声がハモる。
ここで、あっ、どうぞとは言わないのが男である。
「僕から話しても良いですか?」
スバルは無言でこくんと頷いた。
「
……
ナツキさん、貴方の事が好きです。僕とお付き合いしてください」
「
………………
」
スバルの顔は真っ赤に染まっていた。先程食べた苺を彷彿とさせるくらいに。
「
……
俺から告る予定だったのに」
その呟きにオットーは歓喜した。握った手に軽く力を加える。
「それって」
「俺も好きって事!
……
言っとくけど、吊り橋効果なんかじゃねぇからな!一年の頃からずっと好きだったし!!」
ぎゅうっとオットーはスバルに抱きついた。すると緩くゴンドラが揺れ、二人して少し冷たい汗を掻いた。
「っ、嬉しいです。僕も出会った頃から貴方しか見えてなくて、ああ、どうしよう。嬉し過ぎて涙が
……
」
これにて、ハッピーエンド!!とは勿論ならない。
ガタン!!
強風が吹いて大きくゴンドラが揺れた。ここで、オットーは我慢の限界を迎えた。
「あの、ナツキさん?実は僕極度の高所恐怖症で
……
」
彼の足ががくがくと震えだす。
「道理で全く外を見てねぇと思ったわ。大丈夫俺も怖いから、地面に着くギリギリまでこうしてようぜ」
「賛成です」
全く締まらない二人であったが、合法的にくっつけたので結果オーライだ。
ここで、先に我に返ったのはスバルの方だった。あれ?俺達付き合ったばっかなのに熱烈にハグし過ぎじゃね?、と。でも、オットー、震えちまってるからなぁ、と思い、背中に回した手を更に自分の方へ寄せた。
続いてオットーも落ち着いてきて、それと同時に格好悪い姿を見せてしまった事に後悔した。それでも抱き合った体温は温かいし、とても気持ちが良かった為、その思いには一度蓋をしたのであった。
十分間、少しの話をしながら身を寄せ合ったこの時間は、間違いなく二人の中で宝物になった。
「地面が揺れてない
……
」
ようやっと地上に降りた二人は、温もりへの名残惜しさと高所から解放された安堵感が同時に押し寄せていた。
「ちょっと休憩するか?」
不安げに質問するスバルの手を、オットーは繋いだ。
「いえ、やっと来たんです。最後まで楽しみましょう」
にっと笑ってみせ、スバルの顔を見た。
「無理、すんなよな」
「
……
さっきみたいに膝枕してくれたら治るかもしれません。っふふ」
「あ、お前実は結構平気だろ。
……
もう」
結ばれた途端当然のようにいちゃつきだすところも、また若さ故の可愛らしさである。
「次はゴーカート乗ろうぜ?勝負して負けた方が勝った方の言う事何でも聞く事にしてさ!」
「乗りましょう。本気でいかせて貰います」
くすくすと笑いながら歩く二人の初めてのデートを、これ以上見守るのは不躾というものだ。ゴーカートもお化け屋敷もふれあい広場も色々ハプニングは有ったが、それは二人だけの思い出にさせてあげよう。
夕方六時、夢のような時間を終えた二人は遊園地の最寄駅に来ていた。
電車を待つ間、暫しの沈黙が流れる。
「
……
俺、もう少しお前と居たいな」
彼らは健全な付き合いたてほやほやの高校生カップルで、この後ラブホテルに駆け込むような事はしない。だが!恋のABCのAくらいは到達したいというのがスバルの本心だ。
対するオットーは
……
。
「では、終電になるまでネットカフェにでも行きます?」
「そうする!!」
そうして二人は同じ電車に乗り、最寄りの大きな駅へと向かった。
「こっちの完全個室の部屋にしましょうか」
タッチパネルを操作して入る部屋を選んだ。
仕切りのみの半個室のブースではなく、完全個室を選ぶ辺り、やる気満々である。ああ、勿論、公共の場でおっ始めるわけではなく、あくまでもハグしたり、出来る事ならばキスをしたりする方のやる気だ。
「
……
ん」
スバルはオットーの言葉に軽く顔を赤くしながら頷いた。
てくてくと指定された番号のブースへ向かう。途中でセルフサービスの飲み物を取りに行くのも忘れずに。
「へぇ、こういう所ってセルフなんですね。余り来ないから知りませんでした」
「そ。俺のお勧めはオレンジジュースとカルピスを半々で混ぜたやつな」
へぇーっと言いながらオットーはホットコーヒーのボタンを押した。
「あっ!お前またそんな大人の飲みもん飲んで!くそ、子供で悪かったな」
「いえ、そういう飲み方を考えるところも可愛くて好きですよ」
可愛い、そのワードが出た瞬間スバルは固まった。初めてそんな言葉を使われてパニックで言葉が出なくなったのだ。
「
……
か」
「か?」
「可愛く、ねーし
……
」
ぼっと朱が差した顔を空いてる方の手で隠すその仕草に、オットーは燃えた。
「
……
部屋、行きましょうか」
「
…………
ん」
彼の左手を捕まえて、二階にある完全個室ブースへ急いだ。
大きなふかふかのソファーと机、それにパソコンが有って、靴を脱いで上がるタイプの部屋だった。
二人は部屋に入ると直ぐにソファーに座り、テーブルに近隣のコンビニで買ったご飯を並べた。
「あー、まじで腹減った。お前どっち食う?」
生姜焼き弁当と大盛り皿うどん。それから、ホットスナックのコロッケとチキン。勿論温め済みだ。
「好きな方で良いですよ」
オットーはそう言ってスマホを弄った。
「今日取った写真、全部送っておきましたから、ナツキさんのも後で送ってください」
勿論連写した方は送っていない。
ぴろぴろぴろと連続してスバルのスマホの通知音が鳴った。
「ん、了解」
スバルは生姜焼き弁当を選んで蓋を開けた。
「頂きまーす」
ぱくぱくと食べるスバルを、コーヒーを啜りながら横目で見るオットー。
と、そこで、オットーは動いた。
「口元にご飯粒が付いてますよ」
ひょいと摘んで自分の口の中に入れる。
その様子にスバルは今日何度目かの赤面をした。
「あ、りがと
……
。っ、お前も食えば?」
「ふふ、そうします」
元よりオットーの方が精神年齢が高い為、こうして自分のペースでスバルを慌てさせる事が出来るのだ。
「今日楽しかったな
……
」
「そうですねぇ」
「な、俺、ゴーカートで勝ったよな」
「でも、接戦でしたよ」
皿うどんを食べながら、オットーは少し悔しそうに返答をした。
「勝ちは勝ちだ。願い事、良いか?
…………
、俺、お前に大人にして貰いたいんだけど」
ごくん。と咀嚼したものを飲み込んだ。
「こんな場所では、ナツキさんが思ってるような事はしてあげられませんよ?」
割とやる気満々で部屋選びをした男が何か言っている。
「ハグは?」
「まあ、ハグは大丈夫なのでは?」
弁当をテーブルの上に置いて、向かい合って抱き締めてやった。
「じゃあ、きすは?」
聞いた事が無い声色だった。甘く、低く、震えた声。
「キスでやめられるか、分かりません」
オットーは興奮を隠さずそう答えた。
どくどくと心音が鳴り響き、暫し無言の時を経た。
「今から、俺んち
……
」
「親御さんの御迷惑になります」
「だよなぁ」
残念そうにスバルはオットーの肩口に額を擦り付けた。
「あ、じゃあ、タイマーかけようぜ」
ぱっとスマホを尻ポケットから出すスバル。
「俺のお願いは、五分間お前とキスをしたい。ってのにするわ」
「
……
それなら」
了承を得てスバルはぱぁっと明るくなった。
オットーはタイマーなんかで止まれるだろうかと不安に思った。
「よし、五分な。タイマーセットしたから」
ぴっという音と共に時間が一秒ずつ減っていくそれを、スバルはテーブルの上に置いた。
その瞬間、オットーはスバルの頬に手を添えた。強制的に目と目が合う体制を取らされ、スバルの指先が緊張で痺れた。
「シて、良いですか?」
念の為、確認を取る。そんな事せずとも、答えは決まっているのに。
「時間勿体無いから、早く、
……
シてくれよ」
スバルはきゅっと目を瞑った。いつされるか、どんな顔でされるか、そんな事を考えると心臓が壊れそうだった。
ふっと笑ったような息が聞こえた一秒後、彼らは初めてのキスをした。
二人とも未経験のそれを、手探りで始めた。
柔らかい唇の感触を楽しんで、何度も押し付けあった。所在無さげなスバルの両手を捕まえて自分の首に回させたのはオットーだ。ちなみにその後彼の手は、スバルの腰に回っている。
「
…………
ん」
ふに、ふに、とマシュマロの感覚を味わった彼らは夢中でそれを反復した。
今までの友達という枠を超えたそれは酷く甘美で、イケナイ行為で、彼らを大人にしてくれた。
ぴぴぴぴ、ぴぴぴぴ。
タイマーが鳴り響く。
あぁ
……
、時間か、とスバルは腕を緩めた。オットーもそれを察して唇を離した。
「オットー、有難う。すげぇ嬉しかった」
「僕も、とても幸せな五分でした」
まるでお行儀良く行為をやめたかのように見える彼らだが、内心は、もっとシたかった!や、ディープキスまでいけなかった
……
!などと思っていた。
そうして、すっかり冷めた弁当をまたつつくのであった。
「明日、昼の間は両親出掛けてるからさ、俺んち来いよ」
この流れでそれを言うのは、つまりそういう事だ。
「こんな所じゃ出来ないような事、シたいな」
いくのか?B体験、はたまたC体験に。
「ええ、お邪魔でなければ」
この後帰宅したらきっと彼らは男性同士の性交渉のやり方を調べる事だろう。間違いなく、そうだ。
そして、その初体験はきっと忘れられないものとなる。
「ふふ。
……
あのさ、お前っていつから俺の事好きだったの?」
良い雰囲気を崩さずに、スバルは問いかける。
「貴方と友人になった瞬間からです。ナツキさんこそ、いつからですか?」
「俺は
――
」
そんな甘い語らいは数時間続き、その間スバルはずっとオットーの腕の中に居た。
「そろそろ、帰りましょうか」
名残惜しくもまもなく終電だ。
二人は身体を離し、帰り支度を始めた。
「明日昼前に来てくれたら飯作ってやるよ」
「必ずそうします」
即答だった。
「ふはっ。じゃ、帰るか」
そうして部屋を後にした。
帰る方向が逆な為、駅の改札でお別れをする事になった。後十分でスバルが乗る電車が到着する。
「今日は、本当に有難う。一生の思い出が出来た」
「こちらこそ、想いに答えてくださって有難う御座いました。きっと、僕、今日の日の事を生涯忘れません」
二人の手が磁石のようにくっついて、離れない。
「俺、もう行くな?帰ったら電話するから」
スバルを家に帰したくない。そんな気持ちがオットーの中でぐるぐると回った。
「
……
?オットー
…………
?」
……
タイムアップだ。高校生という己の立場を呪った瞬間だった。
「
……
また明日、ですね」
「おう!じゃーな!」
するりと手を離す。そのままスバルは駅のホームを目指して歩き出した。
今日一番の勇気は、どこで使っただろう。
膝枕?恋人繋ぎ?それとも手作りのお弁当?
いや、地上111メートルでの告白か、はたまたファーストキスの瞬間か。沢山有ってきっと選べない。
では、今日はもう勇気を出さなくて良いのか?
スバルは、まだこちらを見ているであろうオットーの方をくるっと振り返る。
「オットー、今日は有難う!
……
大好きだぜ!!」
きらっきらの笑顔でそう告げた。全身で、愛を伝えた。
終電間近の駅構内は気怠くざわついていて、スバルの言葉はオットーにしか届かない。要するに、誰も気にしちゃいないのだ。
「ナツキさん、僕も大好きです!また後で!」
そう言って、二人は別々の方向に歩き出した。
口元には笑みを浮かべて。
足取りは軽く、スキップでもしそうなくらいだ。
「ふふ」
この笑い声はどちらのものだっただろうか。
二人同時だったかもしれないな。
かくしてスバルとオットーの関係は、両片思いから両思いにレベルアップを遂げた。
帰宅後寝落ちするまで電話をするのは語るまでもない
……
。
明日はきっと、良い日になるだろう。
さて、純粋、純真、純情で、純一な彼らの恋が実る話はここまで!けれども二人の純愛はこれからも続く!続くったら続く!
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