tara_moso
2022-11-27 11:07:40
2970文字
Public 🌙
 

一人の私と独りの神様

謎のウイルスによって動物になってしまったマークとスティーヴンを、ジェイクが一人でお世話をするお話
一頭と一人と、一羽の僕 (https://privatter.net/p/9225181 ) と、
一頭と一人と、一羽の僕 2 (https://privatter.net/p/9228588 ) の間のお話です。
ジェイクと、実はちゃんと側に居たコンス様の会話。
今回モフモフ要素ほぼなし、軽く流血してます。
ご都合設定なので細かいところは気にしない。

 
 謎のウイルスが蔓延してもはや一ヶ月。通りにはすっかり人間の姿はなく、どこもかしこも固くシャッターを締めている。
 聞けば今回のウイルスは、またも地球外から攻めてきた謎のヴィランが原因で、退治しようにも肝心のヒーローたちがまっさきに動物になってしまったから、今回の騒動は収束見えぬまま、どんどんと地上は動物王国と化しているらしい。よほど動物好きな異星人なんだろう。自分のフェチズムのために一つの星を丸ごと動物園にするなんて、人類以上の存在ってやつはどいつもこいつもエゴイストばかりなんですかね。
 ねぇ、と高い屋上からこちらを見下ろしている神様に目線向けた。
 コンスは何も言ってこない。初めこそ口(嘴?)を開けば口喧しく文句を言ってきていた。一生分の「愚か者」を聞いたんじゃないか。でも、そのうち彼が守護する夜の旅人も、それを害する不届き者も、どちらも仲良く動物になってしまえば、もはやそこにあるのは食うか食われるかの自然の摂理。守護者としての出番も無くなってしまったのだろう。
 最近は何も言わず、ただ、近くで静かにこちらの様子を眺めているだけだった。だから急に聞こえた『ジェイク!!』の叫び声に反応できなかった。 
 ドンっ!!!という衝撃の方が早く、神がこれを警告したのだと頭が理解したのは、大きな獣に押さえ込まれた後だった。
 頭の後ろから荒い息遣いが防護服越しでも熱と共に伝わってくる。肩に乗った大きな脚はみしみしと骨を軋ませてきた。ゴフゴフと獣の鼻先が背中を嗅ぎ回っているのを感じながら、自由が効く残った片腕で辺りを探るも、獣が服を噛み引きずり始めた。引きずられながらも手探りを続けて落ちていたガラス瓶を掴みそのまま後ろの獣の頭に叩きつける。叫び声を上げて獣が背中から離れた隙に転がって距離をとり起き上がって見てみれば、大きな熊が頭に残ったガラスの欠片を振い落としていた。顔をあげた熊と睨み合う次の攻撃に備えようと身構えると、熊がこちらから目を逸らした。
 そのまま踵を返し歩いてゆく熊を見送る。あれが収容所送りを免れた元人間だったのか、どこかの動物園から逃げ出した本物の熊なのかは分からない。
 なんにせよ、今夜のディナーにならずに済んだ事に安堵した。急に力が抜ける。気が抜けたか、と思ったがそんなものじゃないほど視界が揺れた。踏ん張ろうとするも、足元の何かに滑る。壁を背にずるずるとその場に座り込み脇腹が真っ赤になっているのを目にしてようやくその熱さと痛みを脳が認識した。
 負傷を認識した途端乱れた呼吸を落ち着けようと試みながら、大きく穴の空きもはや役割を果たせそうにない防護服を脱いでゆく。中のシャツはすでに真っ赤になっていて、抉れた腹からの出血は手で圧迫したところで止まりそうになかった。
 空を見上げればまだ陽は高く空は青い。スーツを呼ぶのはまだ無理だった。

「愚か者め」
 
 頭の上から久しぶりの言葉が聞こえて思わず吹き出す。顔を上げればいつの間にかコンスが目の前に立っていた。巨大な鳥の頭蓋骨が死にかけの男を覗いている画は、まるで死神のようだな。なんて口に出せば不敬を責め立てられるので、間違っても言わないが。

「第一声がそれではあんまりでしょう。もっと自分の下僕に優しくしないと、また契約解消されますよ」
「愚かな行いをする者をそう呼ばずになんと呼ぶ。
警告したはずだ傷は直せても、獣に堕ちるのは止められぬ」
分かってますよ」

 アンタがそんな万能な神様なら無理矢理でもあの2人にスーツを被せてる。いや、どうかな。何度も想像した未来に自分で笑ってしまった。

「獣に堕ちるのが嬉しいか」

 ああ、見抜かれている。

「気に食わん。ヘラヘラと笑いおって。やはりお前達は揃いも揃って腑抜けばかりだ」
「いじけないで下さいよ。仲間外れになるのが寂しいのでしょう?」
「それはお前のことだろう」
 返答の代わりに、苦笑しながら両手を挙げる。
「ところで、傷の方は治したいんですけど、スーツ呼べませんか」
「こんな陽の高いうちにヘマをしたお前が悪い」
「うわ、冷たい」
 目の前の神は鼻で笑った。
「じゃあ、月が出るまでお喋りの相手をしてくださいよ」
 目の前の神は無言のまま。もとより返事は期待していないので、勝手に喋り始める。

 話す内容はとりとめのないことばかりだ。
 
 ――コンス様はモフモフって感触わかります?スティーヴンもマークも、毎晩ブラッシングしてやってるんできっと最高の手触りですよ。いままで手袋ごしでしか触れなかったから、やっと思う存分触れる。人間以外の生き物なんて触ったことなかったな。どんな感じなんだろう結構楽しみにしてるですよ。きっと柔らかくて、温かいんだろうなぁ。コンス様とは正反対ですね貴方に触れたこともなかったですけど。硬そうだし。冷たそうだし。ああ、冗談です。どこか行かないでください。独り言じゃ寂しいんで。私が獣になっても、どれくらい私でいれますかね二人のご飯、用意してやらなくちゃ。スティーヴンがとにかくよく食べるんですよ。人間のときよりもいっぱい食べてる気がする。うさぎでも肥満になりますかね。マークも同じくらい食わせてやりたいのにあいつ、食べないんですよ。我儘な奴。それに頑固者。こんな状況じゃ肉、手に入らないんですよ。確実に動物の物だってわかるやつなんて。元人間だったかどうかなんて。分かるわけないだからあいつ食べない気なんですよ。いつも寝てばかりで。いっそ本当のライオンになっちまえばいいのに……全部忘れておっきな猫になってしまえばああでもスティーヴンの事食べちまったら困るな。アイツ今きっとコロコロして食べ頃なんですよ、きっとご馳走だ……そんな事しちまったらマークは……あぁ……ねぇコンス様、アイツらがまだ少しでも人間のままでいてくれるのは貴方の加護だったりしますか……アイツは今まで十分頑張ったんだからそれくらい褒美をくれてやってもいいでしょう?……いや、いいんです答えなくても……ただ、……あぁ、どうせなら鳥になりたいな大きな鳥。マークと、スティーヴンを乗せて……3匹で暮らしていけるような場所へ行くんです、今度は、一緒に……
 
……
お喋りは終わったか」
 コンスの声に、ヒュッと息を吸って閉じ掛けていた目を開いた。
……ちょっと話すの疲れたんで代わりに話してください……ハトホル神の話とか」
「たわけ」
「じゃあちょっと死んでるんで月が登ったら生き返らせてください
 コンスは大きなため息をついて、腕を空に向かって伸ばした。
「お前にそんな時間はない。ジェイク・ロックリー」
 コンスが空を掴むように腕を回すと、ぐるっと雲が動き、青空がオレンジへ、そして紺色に変わってゆく。うっすらと空に月が浮かび上がるとシュルシュルと包帯が身体を包み始めた。
やさしくできるじゃないですか」
 コンスは無言のまま、フンと鼻を鳴らした。
「コンス――
 顔が隠れる前につぶやいた言葉が伝わったのかはわからない。
 
 スーツに包まれ、再び目を開けたときにはすでに神の姿はなかった。