匣舟
2025-10-20 22:52:14
2558文字
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二人の間にある秘密

ショートショートの勘乱です。
吸血鬼パロで、乱に血を吸われる勘の話です。


 忍者にとって満月は夜に紛れることが出来ないため、あまり満月の夜が好きだという人を見かけたことは無いが、現在夜の廊下を鼻歌を歌い出しそうな勢いでスタスタと歩く尾浜勘右衛門は満月の夜が好きだという忍者にしては物珍しい人間であった。
 できるだけ気配を消しながらひたすら廊下を歩いて目的地である月見亭に到着した勘右衛門は月見亭に先に到着していた小さな影に近づき、頬を突いた。頬を突かれたその相手は顔を勘右衛門の方へと向け、赤く染まった瞳を彼へと向けた。
「か、勘右衛門さん。」
 お待ちしておりました。と申し訳なさそうに顔を下げたのは一年は組の猪名寺乱太郎だった。いつもの愛くるしい茶色の瞳はどこへやら、今の乱太郎の瞳の色は茶色ではなく、深紅に染まった赤い瞳を携えている。いつもと違うのは瞳だけではない。
 喋る度に動く口をよく見てみると、獣の牙のような尖った歯が付いているではないか。しかし勘右衛門は驚く様子などなく、申し訳なさそうにしている乱太郎へと視線を向けていた。
「乱太郎、前も言ったけどさ俺がしたいって言ってやってるんだから、そんな申し訳なさそうな顔したらダメだよ?」
「だ、だってぇ。」
 わたし、保健委員なのに怪我をさせているんですよ?としょぼんとした顔をしている乱太郎の頭をよーしよし。と撫でながら、でも結局吸ったら跡が無くなるんだからいいじゃん。とフォローをする勘右衛門。
 どうして乱太郎が勘右衛門に怪我をさせてしまうのか、どうして勘右衛門がいつもと変わっている乱太郎を見て何も驚かないのか。それは、乱太郎が人ならざるもの吸血鬼だということを知っているからである。
 勘右衛門が乱太郎の秘密を知ってしまったのは、満月の夜に忍務から帰ってきた日の夜の事だった。少しヘマをしてしまい肩から出る血を抑えながら医務室をめざしていた時のこと。
 たまたま通りかかった月見亭で、蹲っている乱太郎を見かけたのが始まりだった。こんな夜更けにどうしたんだろう。また宿題を忘れたのか?と親切心で近づいていった勘右衛門が目にしたのは、赤い瞳を宿して、喋る度に動く口から牙のような歯が出ており、その口からヨダレのようなものが出ながら、必死で血が流れている勘右衛門のことを自分に近づけさせまいと必死な乱太郎の姿だった。
「せ、せんぱい……っ、」
 来ないでください。わたし、何をしてしまうか分かりませんから!と泣いている乱太郎のことをどうにかしてやりたくて、近づいてしまった勘右衛門に、我慢の限界であった乱太郎が血が流れている肩に牙を立ててしまったことにより、勘右衛門に吸血鬼であるということがバレたしまったのである。
 基本的に吸血された箇所は跡が残らないので、あんなに血が流れていた勘右衛門の肩もまるで肩に苦無を受けて出血をしたのが嘘みたいに無くなっていたのである。
 大変なことをしてしまったと後日勘右衛門に頭を下げにいった乱太郎に、なにかお願いでもなんでも聞きます!と言われたのでこうして満月の夜になると血を欲してしまう乱太郎のために勘右衛門は自分の血を分け与えているというわけである。
ほら、どこでもいいからガブッと行っちゃいな。」
 もう我慢できないんだろ?と口から少しだけ流れ出る涎を手で拭いた勘右衛門は、どこでもどうぞという意思表示のために乱太郎の前に座って抱きついた。
ほら、はやく。」
 先生たちが来る前に。と耳元で囁かれた乱太郎は、ごめんなさい。と勘右衛門に謝りを入れながら、いただきます。と言って勘右衛門の首元に自分の顔を持っていき、かぷり。と彼の首元に牙を立てた。
……っく、」
 鋭い牙のような歯が肌を貫通する瞬間に訪れる痛みに声を上げてしまう勘右衛門。その痛みはあの時のように長く続くものではなく一瞬であり、その後はただ血を吸われるだけで特に痛みなどは無いのである。
 勘右衛門は乱太郎が首筋に噛み付いている場所を確認するために目線を下にやると、頬を桃色に染めながら首元から出てくる血液をごくごくと美味しそうに飲んでいる乱太郎の顔が見える。目は先ほどよりとろんとしているように感じるのは気のせいだろうか。だが目の前に見える景色があまりにも可愛らしいので良しとする。
「あ…………、んぐ……っ」
 ちゅうちゅう。じゅるり。自分の血を小さな口で必死に吸おうとしている乱太郎が可愛いのと、血を吸われるの未だに慣れないなあ……と思いながら、勘右衛門がじっと乱太郎の顔を見ていたところ、視線に気がついたのかこちらの顔に視線を移してきた乱太郎と目が合ってしまった。
「かんえもん、しぇんぱい……?」
 ふにゃ。と力が抜けてしまったのか舌が上手く回らず、涎と勘右衛門の血入り交じったものを垂らしながら呂律が回っていない状態で喋っている乱太郎の姿を至近距離で見てしまった勘右衛門は、不意打ちを食らってしまい心臓を打ち抜かれてしまい身体が固まってしまう。
「っはぁ、はぁ……んむ。」
 長い時間血を吸っていた乱太郎もだいぶお腹いっぱいになったのかゆっくりと牙を引き抜いて、最後にはぺろりと傷跡を舐めて傷を癒していく。舐めた場所から湯気が立ちこめるのを感じながらじんわりと癒えていく傷に勘右衛門はすごいなぁと関心していた。
……ありがとうございました。勘右衛門せんぱい。」
 おなかいっぱいになりましたぁ。と腹を擦りながら微笑んでいる乱太郎が愛おしくてしょうがない。
「別にいいって。俺が言った事だし。」
 ほら、先生に見つかる前に早く部屋に戻れ。また血が足りなくなったら言うんだぞ。と乱太郎を見送ったあと、月見亭に残った勘右衛門は真っ赤に染まった頬を隠すためにその場にしゃがんだ
(なんなんだ、あの破壊力は……っ!)
 目がとろんとした乱太郎とか、呂律が回ってない状態で自分の名前を呼ばれるあの感覚。本当に自分に理性がある状態でまだ良かったと思うほどだ。
(次、血吸われるのいつだろう、早く来て欲しい……。)
 傷跡が無くなった首筋をするりと撫でながら、暗闇でいっとう輝く満月をしばらく見たあとに、勘右衛門も自分の部屋に戻るために月見亭を離れたのであった。