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空良らら
2025-10-20 13:54:59
2583文字
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秋のおわり
1219が一緒に寝る話。若土の愛が重め。
山の冬の訪れは早い。
この頃少し肌寒くなったな、と思ったらあっという間に冷え込むようになり、朝晩は震えるほどの寒さになった。
「
……
さむっ」
今日は日中から雨がしとしとと降り続け、特に冷える夜だった。このままだと、夜更けには雨が雪になるんじゃないかというくらいだ。
私は厠で用を足して、震える身体を擦りながら縁側を足早に歩く。
寝所として宛がわれている部屋の戸を開けると、そこには既に先客が居た。
「お兄ちゃん」
「利吉くん」
利吉くんは、手際よく布団を敷いてくれているところだった。
「どうしたの。もう寝る時間だよ」
家族の寝所は、別の部屋である。たまに、もう少し話を聞かせて、と私の寝所に来ることもある彼だったが、布団を敷く前に少し話をする程度で、こんな風に布団を敷いてくれたことは初めてだった。
「近頃、寒くなってきましたね。山の冬の夜の過ごし方、お兄ちゃんは知ってる?」
無邪気な笑顔を浮かべた彼は、私の言葉をはぐらかすように問いを投げてきた。
「えー、何だろう。知らないなぁ」
私は、彼の話に付き合ってやることにする。
「山の夜は本当に寒いでしょ。ありったけの着物を着込んで、綿入りの夜着をかけても、身体が震えて眠れないこともある。だから
……
」
利吉くんは、綺麗に敷いた布団の上に、ころんと転がり、夜着にくるまった。
「家族でくっついて眠るんです」
得意げに微笑んだ彼は、おいで、と誘うように夜着を捲ってみせる。
「私の身体はとってもあったかいって、母上にも父上にも評判ですよ」
「でも
……
、きみが私のところに来ちゃったら、母君が寒い思いをするんじゃない?」
彼の父は、今は遠くで仕事をしているので家を空けている。今頃家族の寝所では、母君が一人で寒さに震えているんじゃないだろうか。
「母上は猫で暖をとっているので大丈夫です。それに私もそろそろ
……
、母上と二人で眠るような歳じゃないですしね」
「それなのに
……
、私とは一緒に寝ていいの?」
「お兄ちゃんは特別!」
何とも微笑ましい回答に、私はふふふ、と笑いながら夜着の中にそっと身体を潜り込ませた。
確かに、本当に
……
、あたたかい。
私の身体は大きいので、手や足の先が布団からはみ出しかけているが、彼と触れている部分はとても暖かかった。
「お兄ちゃん、身体を横向きにして
……
、もっとこっち」
彼の指示に従って身体を横向きにすると、腰に小さな手が伸びてきてぐい、と強く引かれる。
私と彼の身体は、ぴったりと隙間なく密着するかたちとなった。
「ほら、こうやってくっつくと
……
、すごくあったかいでしょ」
ぎゅ、と強く抱きしめてくる彼は、私の肩のあたりに顔を埋める。
「うん
……
、利吉くん、あったかいね」
ほこほことあったかい、ちいさな身体。
私も抱きしめ返しても
……
、いいのだろうか。
宙を彷徨わせていた手を、彼の小さな背中にそっと添えてみた。
「お兄ちゃんもあったかいです」
顔を上げた彼は、きらきらと輝くような笑顔を浮かべていた。
ぼんやりと灯りが点る薄暗い部屋の中、互いの顔を見るのもやっと
……
、というくらいの暗さのはずなのに、彼の顔は、何故か輝いているように見える。
――
まぶしい。
何だか見ていられないような気分になって、私は逃げるように顔をそらして、そのまま身体を起こした。
「じゃあ、もう寝ようか」
立ち上がって、灯りを消す。
「うん」
真っ暗になった部屋の中、気配を頼りに再び布団の中に身体を潜り込ませると、あたたかな体温がぎゅっと抱きついてきた。
「おやすみ、お兄ちゃん」
普段なら、彼はもう眠りについている時間のはずだ。私を待って、眠るのが遅くなったのか。
昼間たくさん鍛錬したし、もう眠気が限界なのだろう。彼の声はとろん、ととろけていた。
「おやすみ、利吉くん」
優しく背中を撫でてやると、腕の中の子供はすぐに規則正しい寝息をたてはじめた。
よく食べよく鍛錬に励みよく眠る、健康的な少年だ。まっすぐで優秀な、よい子。
こんな綺麗で清らかなぬくもりが今腕の中にあるということに、目眩がするくらいの幸福を感じた。
――
こんなに幸せでいいのかなぁ、私
……
。
闇に包まれた外は凍えるほどの寒さなのに、今この布団の中は、こんなにもあたたかい。
誰かとこんな風に身を寄せ合って眠るのは、生まれて初めてのことだった。
もしかしたら幼い頃は母や乳母が添い寝をしてくれていたのかもしれないが、その記憶はとうの昔に炎の向こうに消えた。
子供の体温って、人の体温って、こんなにもあたたかいものだったんだな。
――
この子が欲しいなぁ。
ふいに心の奥に浮かんできた欲に、自分でぎょっとする。
この子が欲しい、私のものにしてしまいたい。この温もりを、離したくない。
勿論そんなこと、無理だってわかっているけど。
胸がぎゅっとして、呼吸が苦しくなる。必死で息を吐きながら、私は身体をごろりと返して、彼に背を向ける体勢をとった。
だめだ、本当に、こんなの。
「ん
……
」
後ろでもぞもぞと動く気配がしたかと思うと、くっついていた身体が離れたことに気づいたのか、彼が私を探すように小さな手を伸ばしてきた。
再び、ぴと、と身体がくっついて、背中から抱きしめられる。あったかい。
だめだ、だめだと思うのに、あったかくて、嬉しくて、幸せで、どうしようも無かった。
こんな風に幸福を感じてしまったら、だめなのに。このままだと、弱く
……
、なる。
こんなに沢山のものをくれたこの子に、私が返せるものは何があるんだろう。忍術や兵法を教える程度じゃ、全然足りない。
この子のためなら、何だってしてやりたいな、と思った。私にできることなら、何でも。
いつの間にか、私は涙を流していた。共寝する子供を起こしてしまわないように、静かにしゃくりあげて、涙を拭う。
悲しいわけじゃない、あたたかい涙だった。嬉しいんだ、多分、私は。
もう一度寝返りを打って、彼の身体を正面から抱きしめる。すう、すう、というかわいい寝息を聞いていると、穏やかな気持ちになって、眠気が込み上げてくる。
腕の中にある温もりを感じながら、私はゆっくり目を閉じた。
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