ちよど
2025-10-20 02:44:48
1889文字
Public アシュヨダ
 

ハロウィンにアシュくんに会いに来たヨダナさんの話

タイトル通り。シーツおばけが好き。pixivより再掲。

ヨダナさん「アシュヴァッターマン、アシュヴァッターマン」

 カルデアの自室に引きこもって何日経っただろう。
 当初はマスターたちがこの部屋に訪れていたが、俺が応えないでいるとその訪れは段々と少なくなり。今は沈黙だけが俺にのしかかっていた。
 体は重く、息をするのも億劫で、俺は鈍くなった思考をただ巡らせる。
 知らされただけの事実は、時間が経つにつれて揺るぎない真実へと変わっていく。

 ──誰も悪くない、それを選んだのは旦那自身だ。

 怒りがあるとすれば、それはその場に居合わせなかった俺にある。
 明かりを消してもサーヴァントの目にはなんの障害にもならず、眠らず食べなくても何も感じない。
 俺はただ二人掛けの椅子に身体を預けてオフホワイトの天井を眺めていた。

 突然、インターフォンが鳴る。

 無視をした。
 今は誰とも会いたくはない。

 ドンドンとドアを叩く音がする。

「おーい!アシュヴァッターマンいるか?」

 跳ね起きた。
 飛ぶように走る。
 ドアを開ける。

「──旦那、なんだよ、その格好」

 泣きたくなるような気持ちで笑うと、頭から大きなシーツを被った旦那がバサバサと腕を振り回した。
「おまえこそ忘れたのか、今日はハロウィンだぞ」
「あー。そういえばそんな時期か」
 ハロウィン。死者の霊が現世に戻ってくる日だったか。
 言われてみれば、随分前に食堂で子供サーヴァント達が仮装の相談をしていた。
 その時、俺と一緒にメシを食べていた旦那は興味なさそうだったんだが。また気まぐれを起こしたのだろう。
 シーツを纏ったまま、旦那はくるりとターンする。
 足がある。
「こうでもしないとわし様の輝く魅力が正体を顕にしてしまうだろう?──決して手抜きではない。よいな?」
「はいはい」
 頷いてやると旦那はシーツの中に手を引っ込めた。シーツの上からごそごそと腕を動かしているのが分かる。
 再び手が出てきた時には、子供が好むようなラッピングの袋を持っていた。
 旦那はそれを軽く揺らす。

「おまえ、言うことがあるだろう?」

 むふむふとシーツの中で旦那が楽しそうに笑う。
 俺は促されるままに答えの出ている問いを投げた。

「トリックオアトリート。──普通、逆だろ?」
「ハロウィンであろうと、わし様がルールに決まっておる。──トリート」

 旦那から袋が渡される。
 一瞬、受け取っていいものか迷ったが、何があっても構うものか。
 軽く袋を振ればかさかさと音がする。

「それはな。わし様からのメッセージが入っているありがたーいクッキーだ。1日1枚味わって食べるように」

 袋は重くはないが決して軽くもない。この中身のクッキーを1日1枚食べるのなら、けっこうな日数が必要となるだろう。
 俺は込み上げてきた感情を押し殺した。
 だというのに、旦那は俺の目元を拭う。

「泣くほど嬉しいのか?この果報者め」

 その通りだ。俺より幸福な男はいない。この幸福に臓腑が刻まれるようだ。
 すがるように旦那のシーツの裾を掴む。
 それに旦那はくすくすと笑った。

「子供みたいなただをこねるな。アシュヴァッターマン。おまえはわし様の自慢の戦士だろう?」

 旦那の自慢であれ、と命じられて、俺は首肯する。
 喉は震えて、頬を伝う雫は後から後から溢れてくる。

 俺は旦那から手を離した。

「うむ。わし様はおまえを誇りに思うぞ。アシュヴァッターマン」

 旦那の手が俺の身体の向きを変える。
「おまえはまず、心配をかけたとマスターに謝るのだ」
 背中から聞こえる旦那の声。
「それからシャワーでも浴びて適当なものでいいから口にいれろ」
 背中を押す旦那の手。
「あとはぐっすり眠れば大抵の問題は解決する」
……解決、しねぇよ」
 俺の言葉に旦那は少し笑っただけで応えない。
……このまま振り返らずに進んだら、あんたも一緒に行ってくれるのか?」
 神話になぞらえた問いかけに、シーツが揺れる音がした。

「それは無理というものだ」

 分かっていた答えに叫びたくなる。
 振り向いて縋りついて行かないでくれと訴えたい。
 だけど、そんな惰弱はこの人の自慢の戦士には許されていないのだ。

「アシュヴァッターマン、アシュヴァッターマン」

 旦那が俺の名前を二度呼ぶ。

「我が友よ、我が誇りよ。──次のドゥリーヨダナを頼んだぞ」

 ばさり、とシーツが落ちる音がした。
 振り返ればそこには何もなく、無機質な床が広がっていた。

 ──特異点と共に旦那が消滅してから、初めてのハロウィンの日だった。


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