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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第21回お題「初デート」
両片想いの赤安(※れいくん自覚なし)。周囲の人たちは赤安が付き合っていると思っています。
日差しがやわらかになり、夏の余韻が少しずつ遠ざかる頃。
ゲリラ豪雨や台風に見舞われる日もあったが、今は穏やかな秋晴れの日が続いている。
日を経るごとに、信頼関係が構築されてきているためだろう。各国の捜査機関とも円滑な連携が取れるようになり、組織の人間の確保も順調に進んでいる。
からりと晴れた空を窓越しに眺めながら、降谷はミルクを入れた珈琲を飲んで一息ついていた。
合同会議の休憩時間。会議中は緊迫した空気が漂うが、休憩時間ともなると和やかな雰囲気になる。合同会議も回数を重ね、他国のメンバー同士が会話を交わす光景も、最近ではよく見られるようになっていた。
この合同会議には、FBIも出席している。もちろん赤井の姿もあったが、今日は席が遠く離れているので、遠目で見ることしかできない。
今日はこのまま直接会話を交わすことはないだろう。降谷はそう思っていたが、休憩時間が終わる間際に赤井が自席を離れ、こちらに向かってくるのが見えた。赤井はどこにいても人の目を惹きつける。赤井を追う周囲の視線はやがて、自分にも向けられることとなった。
「降谷君」
「赤井。
……
お疲れ様です」
周囲の視線に降谷は幾ばくかの緊張を覚えた。自分たちがどんな会話を交わすのか、聞き耳を立てられているような気がする。
最近、赤井と自分を見る周囲の目は、すっかり変わってしまった。赤井と自分が親密な関係にあると誤解されているような節がある。自分の気のせいかもしれない。そう考えたことも一度や二度ではないが、日を追うごとに“気のせいではない”と思い知らされてゆく。
自分たちに向けられる、興味津々といった視線。漏れ聞こえてくる会話。時折聞こえる色めき立った声。それらが日に日に降谷の疑念を確信へと変えてゆく。
しかも、冷ややかな視線どころか、好意的な目で見られているようにも感じていて、降谷はどこか気恥ずかしくもあった。
「今夜、時間は空いているかな」
赤井に問いかけられて、降谷は我に返る。
「今のところ、予定はありませんが
……
」
次の作戦のことで何か話したいことでもあるのだろうか。もしくは、新たに調査が必要なものでもあるのだろうか。
仕事の用事があるのだろうと降谷は思考を巡らせていたが、予想は瞬く間に外れてしまう。
「一緒に食事でもどうだろうか」
「
……
え?」
理解が追いつかず、降谷は固まってしまう。
赤井に食事に誘われたのは、これが初めてではない。自分の携帯番号を教えてからというもの、電話あるいはメッセージで誘われることが度々あった。
しかし、周囲に人がいる状態で誘われたのはこれが初めてである。
周囲にいる人間が、自分たちの関係を勘違いしていることに赤井は気づいていないのだろうか。あるいは、気づいていながら特に気にしていないのだろうか。周囲の視線などお構いなしに、赤井は話を続ける。
「君の行きたい店に行こう」
ここで自分が動揺していては、周囲に示しがつかない。一緒に食事に行くこと自体に問題はないので、降谷は気を取り直して、赤井にこたえた。
「わかりました」
「では、仕事が終わったら連絡してくれ」
そう言って、赤井は自席へと戻ってゆく。降谷はひとつ息をつき、紙コップに残っていた珈琲を一気に喉に流し込んだ。ふと、近くで赤井を呼びとめる女性の声が聞こえてくる。降谷が目をやると、三人の他国の女性捜査官が赤井を取り囲むようにして立っていた。
そのうちのひとりが、赤井に問いを投げかけている。
「もしかして、フルヤとデート?」
降谷は胸がどきりとした。赤井は少し考えるような素振りをして、こうこたえた。少しの乱れもない、普段通りの声音だった。
「デート?
……
ああ、そうだな」
周囲からどよめきの声が聞こえてくる。聞き耳を立てている人間の多さに、降谷は眩暈がした。
近年では友人や家族と出かけるときにも“デート”と言ったりすることがあるが、基本的な意味は、交際中あるいはその可能性がある人と出かけることを指す。
記憶違いでなければ、赤井から恋愛的な意味で誘われたことは、これまで一度もないはずだ。
自分たちはそんな関係ではないと示さなければならない立場にいるはずの赤井が、まさかまったく逆のことをしてしまうとは。
降谷は周囲の反応をこれ以上見ていることができず、ノートパソコンに視線を落とした。
合同会議が終わったあと。会議中に協議された内容と調査が必要な事項を取りまとめるために、降谷は資料室へと急いだ。資料室は鍵をかけることもできるし、普段から人も少ない場所であるため落ち着いて作業をすることができる。今は、周囲の目に触れない場所にいたいという気持ちもあった。
降谷はしばらく集中して作業をした。気づけば十七時を過ぎている。休憩も兼ねて今夜行く店を考えることにした。口コミなども見ながら、二、三店舗ほど候補をピックアップする。この中から赤井に選んでもらおうかと考えていると、降谷のスマホが鳴った。
緊急招集である。
民間人が組織の人間に拉致されたのだという。降谷は急いで現場へと向かった。
犯人とされる組織側の人間は二人。古びたビルの一階に、民間人三人を拘束して立て籠っていた。事件を表沙汰にしてしまうあたり、組織でも末端の人間だろう。しかし、事態は深刻だった。組織の人間の手に、拳銃が握られていたのだ。
組織の人間が民間人に危害を加える可能性があったため、ビルへの突入タイミングは慎重に見極める必要があった。
ビルへの突入、そして民間人の救助を終えた頃には、深夜二十三時を過ぎていた。
少々手荒い方法を使ったので、ビルの出入り口は破壊されて、ガラス片があたりに散らばっている。
ガラス片を躊躇なく踏みつけて歩いてくる音が背後から聞こえてきて、降谷は振り返った。ライフルバッグを背負った赤井が、そこには立っていた。今日のこの事件で、もっとも活躍した男といってもいい。この男のライフルをきっかけに、事件は動き、そして解決に至ったのだ。
「お疲れ様です、赤井」
「ああ。まさかこんな時間までかかるとはな」
赤井は思い出したように煙草を取り出して、火をつけた。夜風に小さく揺れる炎が、赤井の顔を照らす。
「立て籠もりですからね。これでも早い方ですよ」
赤井の口から煙草の煙が吐き出される。ただの煙のはずなのに、赤井を際立たせる演出か何かのようだ。
「今夜は君と食事をする約束だったんだがな」
赤井は表情をひとつも変えず、しかし声にはいくらかの落胆を滲ませながら言った。
降谷は少し驚いた。このまま食事の話題に触れることはなく、約束はなかったものとして流れてゆくのだろうと思っていたからだ。
「実はいくつかお店の候補を考えていたんですけど、この時間だともう開いているお店はないですね」
自分が候補として考えていた店は、二十二時あるいは二十三時が閉店時間となっている。この時間だと、深夜まで営業している居酒屋やチェーン店くらいしか開いていないだろう。
「そうだろうな」
救急車や警察車両が行き来する中。ふたりの間に静寂が降りた。肌寒さを感じる風が、頬を撫でてゆく。
心の中にも冷たい風を運んできたようで、食事に行く約束が消えてしまったことが、降谷にはさみしく感じられた。
今頃、周囲の人たちは、赤井と自分のデートが流れてしまったと思っているだろう。
そう、ただの食事ではなくデートだと周囲に思わせたのは、目の前にいるこの男である。
降谷は赤井から顔を逸らして言った。
「なんで“デート”なんて言っちゃったんですか」
赤井がこちらを見て、「聞いていたのか」と小さく呟く。「こちらまで聞こえてきただけです」と返すと、赤井は今度はゆっくりと煙を吐き出しながら言った。
「訂正するほどのものでもないと思ってね」
「でも
……
」
自分たちはそういう関係ではないのだから、デートというワードは否定すべきだ
――
赤井にそう告げるべきなのに、降谷は言葉を続けることができなかった。
このままだと、これからもずっと、周囲に誤解されたままになってしまう。そんな危機感の裏側で、否定することに抵抗を覚える自分がいた。理由はよくわからない。しかし、否定することで何か大事なものを失ってしまうような、そんな予感があった。
「食事をすることは叶わなかったが、今日はこれが君との初デートということにしよう」
「これ?」
意味がわからず問い返すと、赤井が降谷の目の前まで近づいてきた。
思わず仰け反ってしまいそうになるほどの至近距離に、赤井がいる。赤井は煙草を遠ざけて、降谷に顔を近づけてきた。
赤井の吸っている煙草の匂いが、ぶわりと鼻を擽る。と同時に、額に何かが触れて、すぐに離れていった。
「おやすみ、降谷君」
赤井が背中を向け、去ってゆく。
何が起きたのか理解できず、ライフルバッグを背負ったその大きな背中を、降谷はただぼんやりと見送ることしかできなかった。
一際強い風が吹き抜けて、降谷はようやく我に返る。
錯覚なのか。現実なのか。記憶を辿ろうとすると、胸がどくどくと鳴りはじめた。
ちゅ、と小さな音を立てて離れたそれは、赤井の唇だったのではないのか。
「
…………
え?」
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