草笛の下手な私
2025-10-19 13:53:46
1920文字
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脱毛器をつくる

脱毛器を作るゼとそれを当てるス 14歳〜復活
つづきます

「脱毛器を作る」
ドンッと効果音でも鳴らすようにクロスさせた指を掲げ、ゼノは凛々しく言い放った。
脱毛器——正しくは「laser device for hair removal(脱毛レーザー装置)」と彼は言ったが——数千年ぶりに聞いた言葉だ。この新世界で目覚めてから体感にして早七年、世界の復興スピードは凄まじかったが未だ産業革命の初期レベルである。脱毛器なんて影も形もないのは当然だった。
「また?」
また作るのか?俺はそう尋ねた。ゼノがあれを作るのは初めてではない。ティーンの頃に一度製作済みだった。
「また、だ。せっかく強力レーザーで死滅させた僕の毛根が石化によって修復されてしまったのは君も知っているだろう?まったく忌々しいよ、剃っても剃っても翌々日には生えてくる」

十四歳の頃の話だ。大学の修士課程を複数掛け持ちしていたゼノと、ただの暇な中坊だった俺は相変わらずレールガンの実験に明け暮れていた。俺たちはまだただの仲のいい親友同士で、とはいえ早々に二次性徴を迎えていた俺にとってゼノが「片想いの可愛い子」となって久しい頃だった。一緒に歩くと必ず弟と間違えられていた彼の背がぐんと伸び、まあるいシルエットを産毛で光らせた白い頬が、急にシャープになった頃。ゼノが突然あのセリフを言ったのだ——「脱毛器を作る」。
「laser …… what?」
「脱毛レーザー装置。毛根にレーザーを照射させ毛母細胞や毛乳頭、つまり毛髪の発毛組織を破壊するんだ」
「つまり?」
「毛が生えてこなくなる機械さ」
「なんでそんなもん欲しいんよ?髭はまだ生えてないだろ」
スタン、これ髭かな?と顎を示されるたびに産毛だと答える問答はこの一年間で二十回はやっている。よほど心待ちにしているのかと思っていたが、発毛組織を破壊するために待ち構えていたのだろうか。
「アンダーヘアに当てる」
……アッ…………huh?」
「アンダーヘア。陰毛。最近生えてきたんだが無くしたいんだ、衛生的観点と見た目のエレ」
「OKもういい分かった、結論だ」
「これが結論だが」
かくしてゼノは脱毛器を作り上げた。完成までの一週間の間、俺の頭は「片想いの可愛い子」のアンダーヘアのことでいっぱいだったのは言うまでもない。最近生えてきた、ということはこの前まで生えていなかったのか。それが今は少し生えているのか。それをもうすぐ、なんとか組織を破壊して二度と拝めなくさせるのか。
見たかった。
仕方がない、俺は当時十四歳で、片想いの可愛い子のあられもない姿を夢に見ては下着を濡らすようなガキだったのだ。アンダーヘア生えたて情報なんかをぶち込まれてまともでいられるはずがない。どうにかしてレーザーを当てる前に見る口実を作る必要があった。
「スタン!見てくれ、脱毛器が完成した」
「早かったな」
「作りは大して難しいものじゃないよ。人体に照射するための安全調整くらいだ。目に向けちゃ駄目だよ」
はい、と照射部を手渡される。大きめの髭剃りみたいなフォルムに、レーザーが出てくると思われる長方形の口を備えていた。ここがゼノのあそこに当てがわれるのか……と感慨深く眺める。
「じゃあ僕はシャワーをして剃毛してくるから。そこの豚の皮で練習しておいてくれ、必要ないだろうけどね」
「ああ。……あ?何?練習?……ていもう?」
「レーザーが毛根へ当たりやすくするために事前に剃毛しておく必要があるのさ」
……練習、は?」
「初めて触る機械だし、手慣らしがいるかと思ったが……無粋だったね、忘れてくれ。エレガントなレーザー使いを期待している」
ゼノは豚の皮を片付けようと手に持った。練習——剃毛——エレガントなレーザー使いを————
「ゼノッ」
「おお……っ?どうしたんだいスタン、やはり練習する?」
「そのテーモーってやつも俺がやってやんよ」
「ええ?いや、結構だ。もう何度もやっているし。いくら君といえどデリケートゾーンの剃毛を頼むのは気が引けるよ」
「んなん、レーザー当てんだから同じだろ。毛の生えてる角度まで把握してねえと、レーザー当てるいい位置がわかんねえ」
いつになく早口で喋っている自覚はあった。脳が高速でドライブしている。ゼノなら指をクロスさせていたところだろう。口から出まかせであのゼノを言いくるめられるか自信はなかったが、それでも「やる」しかないと覚悟を決めていた。俺には使命があった。片想いの可愛い子のアンダーヘアを、消滅する前にこの目に焼き付けなければならなかった。
「おお……さすがだね。確かに君の言うとおりだ。ではお願いしよう。シャワーだけ浴びてくるよ」



つづく