琥珀
2025-10-19 00:58:21
2092文字
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影の戦士ハイヒン

なんかちょっと思う方向と違うものになった…
フリに出会わなかった軸の闇落ちハイヒンは共依存かもという妄想

「来ました。ターゲットです」
黒い、革をなめしたスーツは体にぴたりと添い、しかし動作を邪魔することなくしなやかに伸びる。夜の闇に紛れやすいそれを纏うと緊張感に気持ちも引き締まる。彼は腰に携えた剣の柄に手をやり、相棒の言葉に頷いた。
相棒が探知魔法を用いて闇の中でも正確な位置を割り出すと、彼は音もなく地を蹴り、瞬時にターゲットとの間合いをつめた。月もない夜の街角は、ランタンを持っていても視界が悪い。だがそんな闇など彼には障害にもならなかった。
腰を落とした姿勢から鞘から抜きざまに蒼剣を横に薙ぐ。宵闇の静寂に、ごとりと何かが転がり落ちた音が響く。
ターゲットの男が気配に振り返る動作を完了する前に、その首と胴体は泣き別れになっていた。ヒンメルの青い髪や顔に相手の返り血が飛び散り、赤く染まる。
首をなくした胴体はしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがてバランスを失い後方へ倒れ込む。鮮やかな切り口を源流に、みるみるドス黒い川が池を作ると共に、辺りに鉄錆の匂いが広がった。
冷めた目で男を一瞥した彼は刀身を一振りし、付着した血液を飛ばし鞘に収めると、顔に飛び散った返り血を拭うこともなく踵を返した。間も無く処理班が跡形もなくここを片付けてくれるはずだ。
「相変わらず手際がいい」
「ただのうのうと肥え太っただけの豚なんぞ、相手にもなりやしないさ」
「違いない」
相棒の賛辞にも眉一つ動かすことなく彼は片手を上げ帰宅を示す。余計な言葉を交わすこともなく、青い髪を靡かせ軽やかに跳躍すると民家の屋根を渡り、夜の街へと消えていった。


十六歳で孤児院から旅立った彼らだったが、ひょんなことから闇の戦士となりこの街に身を置いている。
剣士として荒削りながら高い能力値を持っていた彼は、特定の指導者を得ることでその才覚を伸ばした。
今では所属する小隊で随一の腕前となっていた。
闇の戦士は一つのグループではないと聞いている。どれだけの小隊がどこに配置されているかなど知る由もない。それぞれの小隊がそれぞれの頭を持ち、任に就いているが、自身の所属する小隊以外は誰がそうなのか知らないのが現実だ。
ため息をつき、ヒンメルは返り血を浴びた服を脱ぐと絞ったタオルでその身を拭った。
何人葬ってきたか、もう忘れた。拭ったところで染み付いてしまった血の臭いは取れるものではない。それを嫌なものであるとも思わなくなっていた。
お帰りなさいヒンメル」
ふいに後ろから声をかけられ、ヒンメルは振り返る。眠っていると思っていた幼馴染が、ベッドの上で身を起こしこちらをみていた。
「起こしたか。済まない、ハイター」
「構いません。もともと眠りは浅いんです。任務ですか?」
「ああ。税金の横領をしていた豚を一匹」
「なるほど。どうりで血の匂いがする」
ヒンメルは洗面器に先ほどまで使っていたタオルをなげこむと、ぎしりとハイターのベッドに片足を乗り上げると、自身より大きな身体の肩口に額を押し当てる。
ゆるりとハイターの指先はその青い髪を、宥めるように撫でていたがふいに後頭部でその髪を掴み、伏せた顔を上げさせると半ば噛み付くようにその唇を合わせた。
闇の戦士となったヒンメルは、任務での人殺しに躊躇はしない。表情を変えず眉一つ動かすことなく、ターゲットを確実に死に至らしめる。
だが、その後は必ずこうして触れたがる。
人の命を天に還した彼が、生を確かめるように人の温もりを求めるその行動はある意味滑稽だ。本来命あるものとして生をつなぐ行為であるそれすら、彼ら同士ではその意味も持たないのだから。
だが、ハイターは黙ってそれを享受する。
幾度それを繰り返したかわからない。
誰にも心を開かない彼が自身の前でだけはその表情に綻びを見せる。氷のように冷たい表情で任務をこなす彼が、自身の下で喘ぎ身をくねらせる。その事実はハイターの、ある種の欲を満たすには十分だった。
先ほどまで冷たい夜気を纏っていた身体は嘘のように熱く熱を持つ。見上げる蕩けた青い瞳と目があった。
私じゃなく、誰か女の子を見繕うほうがいいんじゃないんですか」
そんなことを口にしてしまうのは、欠片ていどに残った僧侶としての矜持だろうか。人を殺め、欲に溺れ、もはや女神の加護があることに疑問が残るほどだというのに。
とはいえ、任務の後の気晴らしなら、あえて負担のかかることをせずとも柔らかな女の体の方が癒されるだろうにと思うのは事実ではあったのだが。
しかしヒンメルは荒い息の元首を横に振り、ハイターの言葉を否定する。
「誰も信じない。信じられない」
伸ばされた指先が頬を撫で、首を伸ばすとハイターの口角に唇を寄せた。
「おまえだけだ」
囁きとともに口角に口付けられる。
あんなに素直で天真爛漫であったはずの彼は、この数年ですっかり人が変わってしまった。それは自身にも言えることだろうとハイターは自嘲気味に眉を下げる。
それでも腕の中に抱きしめた彼の、心の壁の内側に自身が存在している事実に、たまらなく狂喜してしまうのだった。