イト
2025-10-18 23:15:11
895文字
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スモーキー・クォーツ

武新ワンドロ・ワンライ企画
お題は「瞳」「宝石」です

 子供の頃、川で水晶を拾ったことがある。
 指先ほどの小さなそれは、ひび割れも多く濁っていて、水晶というにはお粗末すぎたが、だが他の石くれとは異なる物なのは明らかだった。
 その石はわずかに透明で、日に透かすと複雑な光を見せてくれた。透明の中に色の違う何かを抱えており、どうにかこの石を割ることなくそれの正体を知れないかと角度を変えて眺めて、結局日が落ちるまで河原で水晶を見続けていた。
 確かにあれは水晶だったと思う。田中新兵衛は不意に幼い頃を思い出していた。
 あの石はその後どうしたのだっけ。飽きて川に投げ捨てたのか、割って中身を確かめたのか。また見ようとどこかに隠してそれで見失ってしまったのか……覚えていない。
 川に何をしに行ったのかも記憶にない。小魚でも釣りに行ったのか、川遊びでもしようとしたのか。子供の己は遊び相手もろくにおらず、一人で居ることの多い小僧だったのであの時はどうだったかなどを話せる相手もいない。
 ましてやここはカルデアの中、故郷を共にする者などおらず、その水晶のよすがは地表から消え去っている。手掛かりはこの頭の中にしかないのだ。
 まあ、どうでもいいか。
 石ころの事を思い出すのは諦めた。考えても答えにはたどり着かないし、思い出したからといって特に意味がないからだ。
 ただ幼い頃からそういった、光沢や輝きを持つものに引かれる質だったなと思い出しただけだ。
 これもそうだ。
 人間の瞳は透明なものの奥に、色のついた部分があって、それが中央のうろに吸い込まれているようなつくりをしている。
 ここから見るとよく見える。横に並んで盗み見るようにそれを眺めた。
 武市瑞山の瞳は少し淡めの色づきで、洞へ向けて煙がたなびいているような趣きがあった。
 ここから見るのが一番いい。
 少し上から、煙色を覆う水晶の照りを見る。先生が正面を向いている今、この角度から見るこの輝きが一番好きだ。
 正面からこれを見ると目を塞いでしまいたくなるくらいだから、田中新兵衛はきっと光り物に弱い習性があるのだろう。そう結論付けて思い出と一緒に頭の中にしまい込んだ。