かのまる
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伊剣ワンドロワンライ「テント」「マグカップ」「二人で刻む」

三つのお題をお借りしました。
ものすごくオーバーしてしまい六時間ほど。
すみません🙇‍♀️
セイバーは男の子です。

「イオリ!! どうか私をキャンプに連れていってくれ!」
 伊織の家で食事中、向かいに座っていたカヤの親友のセイバーが瞳を輝かせて身を乗り出してきた。
「美味い飯! 熱々の温泉! 最近読んだ漫画の中でとても楽しそうだった。イオリは以前からキャンプに行っているのだろう?」
「にいちゃん、連れてってあげなよ! 私は虫が苦手だから、二人でたっぷり楽しんできて」
「なあ、イオリ〜、ダメか……??」
 伊織は、普段なら一人で黙々とテントを張り静かな夜を過ごすキャンプを好んでいた。だが、弟分のセイバーがそこまでキャンプに行きたいのならば……伊織は仕方がないなと笑った。

 待ち合わせ場所に向かうと、オレンジのフライトキャップに、グリーンのシャツ、サスペンダーを垂らしたパンツ姿のセイバーが大きなリュックを背負っている。
「うむ、では早速買い出しだ!! 憧れの厚切りビーフ……じゅるり。急ぐぞ!」
「こら、セイバー。袖を引っ張るな!」
 セイバーは伊織のカーキ色のジャケットをぐいぐいと引っ張ってくる。
 早くもワクワクが抑えられないセイバーの姿に、伊織も釣られて胸が湧き立つのを感じた。

 カゴいっぱいの食料と引き換えに、伊織の電子マネーの残高は二百五円とすっからかんになってしまった。
 目的地である富士山の麓にある大きなキャンプ場に着くと、セイバーは車を降りて、ぐーんと大きく伸びをすると、腕を広げて伊織に向き直った。
「富士山がこーんなに大きい! 何とも絶景だなぁ。よし、ここに『てんと』を立てよう」
「ああ、俺はテントを張る。セイバーはテーブルと椅子を用意して、食材を分けておいてくれ」
「わかったぞ!」
 ローテーブルの隣に並べられた椅子は、アウトレット品の伊織の物より、セイバーの方がよっぽど高級品で作りがしっかりしていた。それでもちゃんと使えるので伊織は満足しているが。
 一方、伊織は身体に叩き込まれたルーティーン作業で、あっという間にテントを設営し終わった。

「なぁー、入ってみても良いか? ……ほうほう、中は意外と広いのだなぁ。秘密基地みたいで楽しいぞ! イオリ」
 テントに頭を突っ込み、伊織を振り返ったセイバーは、ぱあっと満面の笑みを浮かべている。伊織からするといつものテントなのだが、新鮮な反応に思わず口元に笑みが浮かんだ。
「それは良かった。夜は混み合うから早めに温泉に行こう」
「キャンプといえばやはり温泉!! 楽しみだ♪」

 こじんまりした温泉は、何と運良く貸切状態だった。
 伊織は無造作に髪を下ろしたセイバーの姿に思わず目を逸らしそうになる。
 まるで少女のような顔立ち、白く瑞々しい肌にドキリとさせられる。よく見れば細身の男の体型なのだが、湯煙に紛れたら勘違いする人間もいるだろう。
 他に誰もいなくて良かったと伊織は心の底から安堵した。

 よく身体を洗い、熱い湯に足先からそっと浸かる。
「「はぁ……」」
 思わず同時に長いため息をついてしまい、二人は顔を見合わせて笑い合った。
「温泉は最高だぁ。生き返るぅ〜」
「はは、年寄りくさいことを言うな」
 頭のてっぺんで大きなお団子を作ったセイバーは少し寂しそうに笑う。
「実は温泉にはあまり行ったことがないんだ。ほら、私はどうしても目立ってしまうからな」
「そうか……今日は俺がいるから、周りは気にせずゆっくり浸かるといい」
「ありがとう、イオリ」
 ぽっと紅く顔が上気したセイバーの横顔に、伊織はいつもより血の巡りが速いような気がした。

 そして、たらふくバーベキューを平らげたあと、デザートのマシュマロまで堪能したセイバーは、満足気にランタンの灯りをじいっと見つめている。
 伊織は時折、薪を焚き火にくべる。その度に心地よいパチパチとした乾いた音が静かな空間に響いた。
「楽しいな」
「キャンプは気に入ったか?」
「うん、キャンプはよいものだ。それに……イオリの側はとても心地がいい。なのに胸がドキドキしたり、ふわふわと浮き足立ってしまう。何でだろうな?」
 揺らめく炎によく似た色の大きな瞳は、無垢な眼差しを伊織に向けた。
「きっと俺のことを兄のように感じるからだろう。セイバーは甘えた ・・・だからな」
「だっ、誰が甘えん坊だ!?」
「少しからかっただけだ。そろそろ焚き木の始末をして寝る準備をするか。……ほら、今夜は月が綺麗だぞ。セイバー」
 二人が空を見上げると、まん丸な月が柔らかい光を放っていた。

 事件は寝床の準備中に起こった。マットを敷いてる伊織に慌てた様子のセイバーが、コソコソと小さな声で告げた。
「イオリ、寝袋を忘れてしまった。せっかくふわふわのダウンの寝袋を買ったのに」
 半泣きのセイバーに、安物の化繊のダウンを使っている伊織も少し切なくなる。
「落ち着け。毛布があるから、セイバーは俺の寝袋を使うといい」
「でも、イオリは寒くないのか?」
「俺は慣れているから気にするな。セイバーの寝袋はまたの機会に使えばいい」
 伊織がセイバーの頭に手を置くと、素直にこくんと頷いた。

「イオリ、イオリ。寒くはないか?」
「セイバーこそ」
「私は平気だぞ! それに、イオリの匂いがして何だか安心する」
……そうか」
 帰ったらすぐ寝袋を洗濯をしなければ。
 それはさておき、ピンクの豚のぬいぐるみを抱いたセイバーが寝袋にすっぽりと包まれている姿は、小動物のように愛らしく伊織は心がほっと温かくなる。
「なあなあ、イオリ。もっと近くに来て……今夜は私を湯たんぽ代わりにぎゅっとしてもいいぞ」
 頭上のランタンの光に照らされて、もっちりとした頬がほんのり赤みを帯びている。
「じゃあ、お言葉に甘えるとするかな」
 伊織が背中からセイバーを胸に抱き寄せて、毛布まで掛けてすっぽりと包みこんだ。
……!!! こ、これできみも寒くないな?」
「うん。セイバーの体温が気持ちよくて……眠くなってきてしまった。おまえも初めての夜だが……眠れそうか?」
 しっかりと抱きすくめられたことで、セイバーはまるで耳元で囁かれているような錯覚がして、胸の鼓動が高鳴るのを感じた。
「せっかくのお泊まりだから、もう少しきみと語り合いたかったが……
「また明日……たくさん話そうな。おやすみ。セイバー……
 すぐにすうすうと伊織の安らかな寝息が聞こえてきた。
 分厚い寝袋で良かった。この胸の音を聞かれずに済んだのだから。
 セイバーが安心したのも束の間。すり、と頭を擦り付けてきたと思ったら、伊織はますます身体を寄せてきた。
 想像以上の密着度合いに、セイバーは動悸を誤魔化すようにぎゅっと目を瞑った。それでも疲れと心地よいぬくもりに包まれ力が抜けていき、とろりと心地よい眠りに落ちていった。

 眩しい朝日で目覚めたセイバーが寝ぼけ眼でテントの入り口を開けると、先に起きていた伊織が朝食を作っている。
「おはよう、セイバー。よく寝れたか? もうすぐホットサンドが出来上がるぞ」
「ホットサンド!?」
 一気に覚醒したセイバーはタオルと櫛を掴み、慌ただしく炊事場に向かっていった。そんなセイバーを伊織は優しい瞳で見つめた。
 誰かが隣にいるキャンプなんて考えたことも無かったが、案外悪くないかもしれないと自然と頬が緩んだ。
 いや、食べることが大好きで、好奇心旺盛なセイバーだからいつものキャンプがやけに新鮮だった。
 誰かじゃない、セイバーとだから楽しかったのだ。
 もっとセイバーのことを知りたくなった。彼が何を考え、どんな顔で笑うのか見たくなった。
 まだ寝癖の残るセイバーが、急いで戻ってくる。
 伊織は沸かしたお湯を、粉末コーヒーとココアが入った紙コップに注いだ。
「ホットサンドができたぞ。具材はハムとチーズだ。おかわりに甘いバナナチョコサンドも作ろうか」
「わああ、どっちも美味そうだ!! いただきます!!」
「ああ、そうだ。セイバー、次のキャンプ ・・・・・・だが……また一緒に来るか?」
……!! 無論、きみとならいつでも、どこへでも! だ!!」
 今度お揃いのマグでも探しに行こうか。