墨色
2025-10-18 22:19:28
2185文字
Public れめししお題
 

とろける夏の休日

れめししお題企画参加
「夏」お借りしました。
れしの2人がかき氷食べに行くお話。

「敬一君、かき氷食べに行こう」
 叶が誘ってきたのは、猛暑日連続記録が更新された日だった。
「別にいいぜ」
 興味なさそうに返事をしたものの、思いがけないデートの誘いに、心の中は浮かれ気味だ。それを悟られないよう、素っ気ない態度を続ける。
「かき氷のシロップは、全部同じ味らしいぞ」
「あー、敬一君が想像してるかき氷とは大分違うと思うぞ」
 叶は苦笑した後、にんまりと笑みを浮かべた。
「ま、楽しみにしててよ」


「暑いなー」
「これ、全員かき氷食べるのに並んでんのか?」
 今日も炎天下、もちろん猛暑日の昼間。オレと叶は行列に並んでいた。若い女の子が圧倒的に多い。
「これでも、整理券持ってる列だからマシな方だぞ」
……すげえな」
 かき氷とは、そんなに人間を狂わせるものなのか。
「オレらも日傘用意するべきだったかな」
「いや、目立ち過ぎんだろ」
 日差し対策をするよう言われたオレは、サングラスとキャップを身につけいて、叶も似たような格好だ。いつもの遠目一〇〇メートルからでも認識できそうなスタイルではない。シンプルなTシャツとパンツルックは、コイツのスタイルの良さが際立つ。普段からこういった格好をしていれば良いのにと思っているのは、叶にはもちろん伏せている。調子に乗らせたくないし、意志があってしていることを否定するつもりもないからな。
「そろそろだな」
 進み始めた列を確認した叶が、スマホの画面を見せてきた。
「敬一君、どれにする?」
 注文はQRコードだからな、と付け加えられた。
……え?これかき氷なのか?」
 オレの口から漏れた言葉に、叶がヤレヤレとジェスチャーする。
「やっぱり、敬一君わかってなかったか。投資家として、世間の流行りは抑えてるものじゃないのか?」
 ぐっ。痛いところ突いてくるじゃねえか。確かに、トレンドを知っておくことも必要だが、SNSで流れてくるような流行りまで抑えるより、もう少し広い目で時流を追うのがオレのやり方なんだよ。
 そんな言い訳を飲み込み、オレはスマホの画面に映し出されているカラフルでフルーツが沢山盛られたかき氷を眺める。オレの知ってるかき氷は、そこにはなかった。
「店のおすすめは、マンゴーだぞ。ティラミスも人気あるみたいだな」
「ティラミスって、ケーキだろ?それもかき氷になんのか?」
「新鮮な反応しちゃって、カワイイなぁ敬一君は」
「うるせえ、黙れ」
 一通りメニューに目を通して、店のおすすめだと言うマンゴーにすることに決めた。
「オレはティラミスにするかな……映え的にはメロンか……メロンにするか」
「映え?動画撮るのか?」
「いや、イソスタの方だ。匂わせ写真撮ってやるよ」
「くだらねえな」
 誰に対して、誰を匂わせる気なんだ。

 店に入って、二人掛けのテーブルに案内される。店内は予想通り、女性客でいっぱいだった。浮いてねえか?
 叶が手早くスマホで注文を済ませた。程なくして、かき氷と温かいお茶が運ばれてきた。
……デケえな」
 写真でもデカいと思っていたが、現物はそれ以上だった。
「一気に食べると頭痛を起こすから、気を付けろよ」
 入念な写真角度を選び抜いて、かき氷を撮っていた叶に忠告される。
「ガキ扱いすんなよ」
 溶けてしまう前に食べねえとな、とスプーンを手に取る。天辺にはマンゴーの果実と、同じ色のソースがかかっている。氷全体にかかっているのは、別のシロップだろうか。
 そっと削られている氷を掬う。思った以上に軽い感触だった。それから口に運ぶと、サッと溶けた。
「すげえな」
 語彙力の足りない感想が口をついて出てくる。
「そうだろ?」
 満足そうな笑みでこちらを見てくる叶は、こういったかき氷は初めてではないのだろう。
「なんでも、進化するもんなんだな」
「だから世界は面白いんだろ」
 確かにな。
「敬一君、こっちもウマいぞ。食べてみるか?」
 差し出されたスプーンに載ったティラミス味のかき氷。……いや、これは溶けたら勿体ないだけだからな。誰に言い訳するでもなく、オレは決心が揺らぐ前にその匙を咥えた。
「ウマいだろ?」
……あぁ」
 ほろ苦いはずのココアとエスプレッソの筈なのに、甘いな。
「なぁ、敬一君。今度かき氷機買って持って行くな」
 今まさに、かき氷を食べているのに、何を言い出すんだ?この男は。
「そんでさ、ガキの頃夢だったシロップ全種かけするぞ!」
 この高級かき氷を前に、そんなことをキラキラした瞳で言ってくるのが叶黎明と言う男だ。
「だはっ、そりゃイイな」
 オレが賛同すると、
「そのときはみんなも誘って、配信するかな」
 早々と頭の中で算段を取っていく。
「それより、サッサと食わねえと溶けるぞ」
「そうだな、美味いうちに食べないとな」
 マンゴーかき氷は、濃厚な果実感たっぷりのソースも美味かった。
「かき氷って、夏休みって感じするからな」
 溶ける氷を掬いながら、叶が話す。
「夏休みの締めには、友達とかき氷がサイコーだな」
「おう、なら絵日記でも書くか?」
「イイな、それ!」
「あー、でも真経津には書かせられねえな」
「それはそう!」
 ははっと笑い声を上げあう。
 夏休み最後の日は、ガキの頃の夢を叶える宿題を片付けねえとな。