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【12/21新刊サンプル】狼煙の産声

2025/12/21 神ノ叡智29

頒布予定の新刊サンプル
※🧞‍♂️高く登る絶望

「───どういうことだ、この状況は……!」
 喉奥の底で留めていたはずなのに、気が動転して叫んでいたらしい。この状況では誰よりも冷静でいなければならないのに。カクークが心配そうにイファの周囲を飛んでいる。
 花翼の集と迷煙の主の境目にある洞窟。ここを周辺一帯の緊急治療所にすると、伝達を聞いて飛んできたイファは目を疑った。死体と並んで転がる重傷者たち。診療所のそれではなく、安置所と言われた方が理解できた。

長い年月をかけてできたナタのオレンジの土壁にしみこむ無数の血液。竜と人間だったものが連なり重なって山となり、嘲笑うかのようにアビスの闇がそれを包んでいる。
もうすでに息絶えた者を泣き叫び悔いる者、母親を呼ぶ子供の泣き声、痛みに苦しむうめき声。己の生まれ育った花翼の集が、ドロドロとアビスに侵食されていく。
目を背けたくなるような光景だった。しかしイファはぐっとこらえて声を上げた。

……ッ!! カクーク、トリアージ! ここにいる全員にタグを付けろ!」
「わかった、きょうだい!」
「おい、歩ける奴はいるか! 歩ける奴は自力で洞窟の奥に行ってくれ!」

何かを成し遂げられない普通の人間は、力が弱い者は、物を言えない者たちは、何も言えないまま嬲るように、玩具のように壊されて殺されていくのか。

……呼吸がない、こいつも黒だ……くそ、だれか………だれか助けられる奴はいないのか」
……いふぁ、おにいちゃん」
!」
流泉の衆の服を身に着けた男児だった。土壁に力なく寄り掛かるその顔に、イファは見覚えがあった。先週、この子の家族であるコホラ仔竜を診察したのだ。なんでも少し目を離した隙に、男児の温泉あがり用のミルクを飲んでしまったらしい。消化器官も未熟な仔竜は数日ほど体調を崩し、依頼を受けたイファが診察に向かったのだった。そのやんちゃな仔竜は──今彼の隣にはいない。

……さっき、……あのね、ごほッ
「無理にしゃべるな、きょうだい落ち着いたら聞いてやるから
……クイクお姉ちゃんが、僕をここまで……連れてきてくれたの、……………外、近くで、やすんでるって、ごほ、言ってた……から、……迎えに、行ってあげて……先に………だって、僕もう、……たすからないでしょ?………

 イファはなにも言えないまま、男児の頭を撫でた。
コホラ仔竜の診察のとき、彼の両親は言っていた─年齢のわりにはとても賢い子だと。今回目を離してしまったのを後悔して毎日のように泣いていたから、今日イファ先生が来てくれて助かったよ、と。
将来は医者になりたいと、処置を行うイファの隣で本を抱えながら笑うあどけない顔。
今、イファの目の前にいる彼の頬にべっとりとついたアビスの跡。まだ幼さばかり残る手足も、健康的に焼けた小麦を嘲笑するかのように紫が侵食している。イファは彼の手首にトリアージタグをつけた。やるせないまま、点線を三つまとめて切って、黒い箇所だけを彼の手首に取り残した。





「イファ! 援護に来た! ──!!」
 援護に竜戦士部隊が、クク竜に乗ってやってきた。竜から飛び降りて駆けてくる。そして悲惨な洞窟の現状に息をのんだ途端、目を背けた。
 連なる死体、人も竜も関係ない。湿度と内臓と鉄の匂いが混ざって、感じたことがない不快感。死の香りが胃を刺し、吐いてしまう者もいた。ここが地獄か、と皆が思った。

花翼の集の緊急治療所、──地獄の中央にイファはひとり立っていた。彼の白衣にはところどころ血痕が付着していて、頬に泥が付いている。いつも彼が手放さないテンガロンハットは被っておらず、銀の髪はすす汚れていた。
 どろりとした覇気のないエメラルドグリーンの瞳。彼自身が生まれ育った花翼の集が壊れていくのを背中で感じていたのだろう。かける言葉に困って竜戦士が目を泳がせると、イファは事務的に声を出した。
「来てくれ、生存者はこいつらだけだ。こいつら以外の奴は─………
イファはそう告げると、洞窟奥で数人と数匹の元へと騎士を案内した。恐怖、孤独、喪失。怒り、悲しみ、震えながら身を寄せ合うのは、両手でも余る人数だ。
さっき伝達使から聞いた。生存者は聖火競技場へ集まっているんだろ。ここはもう危険だ。この洞窟が診療所だとアビス側にばれちまったらしい。さっきからここも魔物が狙ってる。こいつらを部隊で護りながら競技場まで送って行ってくれないか」
 イファの言葉を聞いた部隊のリーダーが大声で部下に指示を出す。
「承知した。おい、ここにいる要救護者の援護を数名で行え! ここから競技場まではかなり距離がある! 充分に気をつけろ!」
 部隊長の激励を受けて、数名が援護に名乗りをあげ救護者を洞窟から運びだした。全員が移動したのを見届けた部隊長がイファに向かって口を開く。
……イファ、この部隊でこの診療所を守ってやる。しんどいだろうがここに残って今後来るであろうほかの怪我人や竜を診てやってくれ」
「それなんだが、この場所はもう無理だ。俺もあんたらもここから離れて、別の場所の援助をした方がいいと思う」
イファの淡々とした物言いに、若い勇士が声を荒げた。
「おい!それってやつらにこの場所を大人しく明け渡すってことかよ………!」
「若造。口の利き方に気を付けろ」
「でも!!」
 ぎろ、とクク竜戦士のマスクの下から鋭い視線が未熟な勇士に突き刺さる。部隊長はナタ一番の竜医の意見を青さで制止したことを非難したのだ。少し勇士はたじろいだ後、
「はい
と答え、未熟な勇士は2人と1匹から離れて見張りの部隊へと合流した。
「俺は別に構わないさ。話をもとに戻すが、聖火競技場のことを知らせに来た伝達使いにもう伝えてはいたんだ。ここから撤退するって。それにこの診療所で待ってばかりじゃ、患者じゃなく死者が増えるばかりだ。見ろよ、この現状を」
 イファの視線だけが動き、亡骸の山を示した。部隊長がうむと思考を巡らせる。
「俺は直接現場に飛んでいって、少しでも生き残れる可能性があるやつを探したい。きっと自力で動けないやつもいるだろう。全員が全員、お前たちみたいに勇者なんかじゃないからな。しかも今の状況だ。俺がここにいてもできることはそんなになかったんだ、きょうだい」
「イファ、イファ」
カクークが心配そうにイファの周囲を飛んで回る。部隊長がそれを見て、イファへ声をかけた。
「ここを出たとしてどこに向かうつもりだ」
実はクイクの安否がわからないんだ。あいつは優秀な医者だし、何より大事な友人だ。急いで探しに行かないと……
「クイクが……そうか、わかった。俺たちも探そう。イファ、君の護衛に数人つけよう。ひとりで動くのは危険だ」
「いや、だいじょうぶだ。俺はひとりじゃない。カクークがいるからな。それよりほかの奴らのところに行ってくれ。腕っぷしに自信があるわけじゃないが、自分の身は自分で護れるさ、きょうだい。しかも俺は医者だ。医者がぶっ倒れてたら、本末転倒だろ?」
 無理やり口角を上げて話すイファを見て、竜戦士がくく、と肩を震わせて笑った。
わっはっは、すっかり頼もしくなったな、イファ。オロルンとうちにあそびに来てた頃は、やんちゃすぎて叱ってばかりだった。俺の家のホワイトオークにふたりで登って遊んでやがったのは今でも面白れぇ思い出だ。今俺は誇らしく思うよ、お前らを」
ロガンおじさん、頼む昔の思い出にひたらないでくれないか」
 クク竜戦士──ロガンはマスクの下で微笑んだ。花翼の集の飛行部隊のマスクは、クク竜に乗っても熱く吹き上がる気体燃素や高所で吹き荒れる風から顔を守るためのものだ。
 
そして今、べっとりと染みつくアビスの侵食を部下に悟らせないための、カモフラージュになっていた。

「ロガンおじさん……
「なんだ、その顔。叱られたガキみてえな顔しやがって」
 イファが何かを言いかけたのを、制止するようにロガンが語り掛けた。
「ナタ一番の竜医様なら気が付くだろう。俺ももう手遅れだ。絶対にほかの戦士には言うな。部隊長がこのざまだと、士気に係わる。いつくたばっちまうかはわからないが、最後までアビスに抗ってやるさ。」
 イファのすす汚れてしまった髪を、ロガンは父親がするそれのようにくしゃくしゃと少し乱暴に撫でた。
「イファ、知ってるだろうがお前の父親と俺はガキの頃からの友人だ。あいつよりうんとジジイになってから夜神の国に行こうとしてたんだがなあ来るのが早いとお前の父さんには叩かれるかもな」
父さんはロガンおじさんのことは殴らないと思う。むしろ、誇らしいって笑ってくれるさ。俺とオロルンをロガンおじさんが誇らしいと思ってくれたみたいに」
「そうだといいんだが。そういえばオロルンのことだが部隊でも話題だ。あいつ、『献身』になったんだろ。きっと俺みたいな名のない戦士が倒れる前に、あいつがなんとかしてくれるさ」
 がはは、と笑うロガンの頬は紫色に染まっていた。イファはそれを見て、静かに目を閉じた。



「よしそろそろ行く。皆準備はいいな! ──では武運を祈る、イファ」
 部下の勇士たちが一斉にクク竜に乗って、そして空へと舞い上がった。同じくクク竜にまたがるロガンをイファは地上から見守る。
「おじさん」
「どうした、イファ」
 戦場に死を迎えに行くようなロガンを、どう見送れというのか。イファにとってロガンは親戚のような大人の一人だった。
両親の葬式で呆然としていたイファを、ロガンは黙ってイファの背中を強く叩いた。周囲の大人は哀れみだったり、同情だったり、若年の跡取りに期待したり。当時イファに置かれた環境について何も言わず黙って見守っていた大人はロガンだけで、そして同じく何も言わなかった対等の友人はオロルンだった。
ロガンにとってイファの父親は、イファにとってのオロルンのような存在であった。

…………
「湿気た顔するなよ、イファ。前を向け。大丈夫だ。お前ことを待っているやつがごまんといる。きっとこの戦争も無事に我らの勝利で終わってくれるさ。そのためにお前の親友は動いたんだろう。あいつを信じろ。心配性が過ぎるぞ、お前は」
 すぐ箒が飛んできた厳しいイファの父親とは少し違い、優しく諭すような声だった。木登りをしてオロルンと一緒に怒られた時も、こうやって窘めながらも見守られていた。イファは思わずほろりと本音をこぼした。
………救えなくて、ごめんロガンおじさん……
 クク竜の羽ばたきにかき消されそうなイファの声に、ロガンはマスクの下で静かに微笑んだ。
「超えて行け、イファ。──じゃあな」
 ロガンを乗せたクク竜が空高く飛んで行った。部隊長を待ち望んでいた部隊は、はるか上空で部隊長を迎え入れ、そして一帯は敵地へと急速に飛んで行った。

「どうか皆に炎神様と、夜神の加護があらんことを」
 逆風がぬるく吹いた。背を向けた亡骸だけの洞窟から、鉄と内臓の匂いがこちらまで飛んでくる。
「イファ、イファ」
……カクークそうだよな。今は考えるのはよそう。とにかく今はするべきことがある。行くぞ、きょうだい!」
「わかった、きょうだい!」
 カクークが至極明るく翼を広げた。吊り下げられた鞄の紐を、イファはしっかりと握りしめた。



「おいクイク、しっかりしろ!」
 茂みに隠れるように倒れていたクイクをイファが見つけたのは、洞窟からそう遠くない場所だった。クイクに群がるように囲む魔物を、イファは風元素を込めたトリガーで牽制する。爆発する風元素の爆音にも、横たわるクイクは反応しなかった。
「ッ、くそ!」
 ドン、とイファは強く重い風元素の塊を打った。アンプルショットを受けた敵が突風にあおられ、魔物同士がぶつかって倒れていく。それでも魔物はひるまずクイクのいる方向へと向かってきた瞬間、イファは叫んだ。
「逃がすかよ! お前らの相手は俺だ!」
 その声を皮切りに、カクークが頭上で構えていたように翼を広げる。イファは視線を敵から離さないまま、鞄の紐をしっかりと掴んだ。イファの頬に夜魂の光が灯る。
「恨みっこなしだぞ、俺だって護りたいものがあるんだ!」
エメラルドのフィールドが一帯を殴った。その一撃を受けたアビスの魔物たちは、あきらめたかのように空間を割いて闇夜へ撤退した。


「おいクイク、クイク! しっかりしろ」
……イファ?」
 横たわるクイクの目が開いた。呼吸はある。意識もある。見る限りだとアビスの進行は見られない。まだ助かる。まだ希望はある。そう思ったイファは、再度己の夜魂を光らせた。己の燃素で、クイクを回復させようとした。が、それを制止するかのようにクイクが弱々しくイファの前に手をかざす。
「回復は要らない大丈夫よ」
「おい、馬鹿を言うな……
……外からだと侵食は見られないけど医者の私の勘が言ってる。温罨法を受けても回復の見込みがないの。外部にはまだ出てないけど、内臓からじわじわと進行してる
クイク
「イファの燃素をいたずらに消費させたくはないわ」
「あきらめるな、まだ何か手があるはずだ、医者のお前がお前自身のことを信じられなくてどうする!!」
 イファの叫びに、クイクは柔らかく微笑んで身体を起こした。イファの制止も聞かず、その場に立ち上がる。
「これ以上私に時間を使っちゃダメ、イファ」
………クイク、お前……どうするつもりだ」
「お姉ちゃんが心配なの……きっと今、会わないとたいへんなことになる気がするわ
 力なく微笑むクイクを見て、イファは詰め寄った。何かを彼女が言う前に、イファはクイクの身体を横でさらうようにして抱き上げた。
「掴まってろ、クイク」
「ちょ……イファ! さっきの言葉、聞こえなかったわけ!? これ以上私に時間を使わないでってば」
確かに俺の今の行動は医者としては褒められたものではないかもしれないな。でも」
 イファはクイクの顔を見て続けた。
「友人の願いはかなえてやりたい。俺が空からカクークと一緒にチャスカを探す。そのためにまずはここから移動するぞ。俺に温罨法を使わせてくれないのなら、こっちは叶えさせてもらう」
……本当に頑固」
「お前にだけは言われたくはないな」
覚悟をしたようにクイクはイファの腕の中で脱力した。イファはざくざくと土を踏み、坂を上って競技場の方向の高台へと歩みを進めた。
 

 数刻たったころ、イファとクイクとカクークはひとつの高台に到着した。もう少し高くて安全なところはないか、とイファが考えを巡らせたときだった、腕の中のクイクがその考えを読んだように口を開いた。
「ここで大丈夫……おろして、イファ」
「おいおいこんなところでしかも近くに戦闘跡があったんだ、いくらなんでもここは危険すぎる。もう少し高いところに
「大丈夫、お姉ちゃんが近くにいる気がするの。勘だけどね」
……じゃあ少し待ってろ、上から探すから……カクーク」
「わかった、きょうだい!」
 バサ、とカクークが翼を広げた瞬間、イファの背後で空間が破裂するような音が響いた。誰かが戦闘に入った音だ。瞬時にイファが音の鳴った方向へと顔を向けると、崖の奥からかすかに閃光が飛んで光った。

……オロルン、」
「行って」
 イファの口の端からこぼれ出た名前。クイクは高台にあった大きめの運輸用の木箱に寄り掛かっている。声色だけははっきりしていた。クイクの身体を侵食するアビスは、いつの間にか体外までどろりと広がっている。
「行って、イファ。……私のことはいいから」
 イファは躊躇した。ロガンと同様に、死を目の前にした同じ集の人間。身近な人間が、赤子の手首を折るようにどんどん死に向かっていく。
 イファは目を閉じた。そして崖の向こう、閃光の持ち主である男と最後に交わした会話をこんな時に思い出してしまった。



『へえ、それでお前は死にかけたのか』
『うんごめん、イファ』
『それって何に対して謝ってんだ、きょうだい。別にお前は俺に何も悪いことしてないだろ?』
 オロルンの手の中には黒曜石の老婆からの御守りが握られている。イファが黒曜石の老婆からオロルンに渡せといわれた宝石だ。袋ごと渡してチョーダイと言われたから、イファはその通りにオロルンに渡したのだった。
……心配をかけた。それに君の忠告をかなり無視した』
別に平気だ。それに抗ってでもお前には貫かなきゃならないものがあったんだろ』
『うん、そうだ』
 献身──、オロルンが継承した呼名。己の死を予言できたことを喜ぼう、そう謳う古名。





「くそ、どいつもこいつも死に急ぎやがって!!」
 イファは駆けだした。カクークがあわててそれを飛んで追う。崖の奥では閃光がバチバチと開いては閉じていく。
 本当は全員に怒りたかった。両親にも、流泉の衆の男児にも、ロガンにも、クイクにも、そして──オロルンにも。
どうしてそんなに命を甘んじるのか。どうして生きることを簡単に諦める。
この国に生まれたからか。アビスに侵略され、死と隣り合わせでいつ死んでもおかしくない国だからか。覚悟があるのか。そんな覚悟なんていらないとイファは全力で走りながら思った。

「──もう誰も死ぬな!」
……イファ?」
イファの叫びに驚いてオロルンが振り向いた。
「もうこれ以上──誰もいなくなるな!」
「イファ、どうしてこんなところに……それにカクークはどうしたんだ」
「きょうだい、きょうだい!」
ここにいるぞ、というように肩で息をするイファの横からカクークがパタパタと飛んで来た。
「イファ、……
オロルンはイファの身なりを見てぎゅ、と黙った。いつもはシルクのように真っ白である白衣に点々とついている数多の血痕。小麦色の頬には泥が付いている。いつも彼が手放さないテンガロンハットは被っておらず、銀の髪はすす汚れている。彼の魂は揺らぎ、震えていた。カクークだってイファの方を心配そうに見ている。

「イファ、大丈夫だ。僕は死ねない。死なない。死んでたまるか、こんなところで」
「オロルン……
「僕のことは君が死なせないだろ」
 そういうとオロルンは弓をイファの背後に構えると、ぐ、と引いて閃弓を飛ばした。バシュ! と鈍い音がして、イファの背後でアビスの敵が倒れる。
「一緒に生き残るぞ、イファ」
ああああ!!」
 イファが銃口を構えた。イファに背中を預ける形で、オロルンが周囲に宿霊玉を投げる。
「カクーク!」
「しっかり掴まっとけ! きょうだい!」
 イファの呼び声にしっかりと答えるようにカクークが翼を広げた。イファの夜魂の光が敵ごと照らしていく。浮遊するイファとカクークを守るように、オロルンは雷霆で敵を射抜いていった。紫とエメラルドグリーンが、暗い闇をはじいて敵を一掃していく。
「──じゃあな、僕たちの護りたいもののためだ、悪く思うな」
 滑空するイファの横を飛び上がったと思えばスピードを上げてオロルンは急降下した。オロルンからの踵落としを食らった敵は、雄叫びをあげて闇夜へと消えていった。

 敵を一掃したと上空から確認したイファがオロルンの横へと飛び降りた。これからどう行動すべきか。相談しようと口を開いた瞬間、フードが取れて両耳出ている状態のオロルンの長い耳がぴる、と動いた。

……誰かが泣いている?」
「え? 聞こえたのか、もしかして」
……子供いや違う赤ちゃんだ」
「なんだって!?」
 ずんずんとオロルンは進んでいく。泣き声の所在を突き止めるのに専念してほしかったイファは黙ってオロルンの後ろをついていく。数刻歩いただろうか、先ほどの高台とは別の高台にたどり着いた。
 周辺一帯は救援が間に合わなかったのだろう、道中地に倒れている人間や竜が数えきれないほどだった。生きているものはいなかった。

……!」
「聞こえたか、イファも」
 おぎゃ、おぎゃ、と泣く声が、イファの耳にも届いた。どこだ。どこにいる。イファがぐるりと周辺を見渡した時、数メートル先に木製のデッキが見えた。デッキの前に大人がふたり倒れている。急こう配の坂とデッキの隙間。茂み、まさか──
「あそこだ」
「ああ、」
 2人と1匹は同時に駆けだした。男女の亡骸を横に、イファが茂みをかき分ける。土と草に守られるように、そして祈られるように隠された真っ白なおくるみ。
……ああ──」
「ほぎゃ、ほぎゃあ!!」
 おくるみに巻かれた赤子を、そっとイファは抱きしめた。
「よしよしいい子だ……