shizuku0797
2025-10-18 20:00:00
4807文字
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ケジメを、ひとつ

ナミ・ゾロ・ルフィ

OPノンカプWebオンリー「新次海2025」展示作品


アーロンパークが落ちて、ココヤシ村で宴が始まる少し前。
治療を終えたゾロの下をナミが訪ねてくる話。
しっとり系行間妄想話です。
ナミが出航するまでの期間中、彼女は一味とどう接していたんだろうなあという思いもこめながら。
ナミとしては蟠りを残しておきたくなかったんだろうけど、はたしてじゃあ特に付き合いが長いルフィとゾロはどう思うんだろうかなっていうところから。
彼女を「航海士」だとずっと思っていたルフィとゾロにとって、ナミが無理やりにでも見せた裏切り行為はただただ「なにやってんだよ」って気持ちだったと思うわけで。
この二人がナミに対して疑問を持たずに一貫してそう思っているのがすごく好きで、ゾロですら「さっさと助けやがれ」って言っちゃうんですもん、あなた口ではああいうけどちゃんとナミのこと信じてるじゃんって思うので何度も読み返しては惚れます。惚れる。私の5本の指に入るゾロの好きなシーンです。



しんと静まり帰った診療所。
少し遠くの方でわいわいと賑やかな声が聞こえてくる。ちょっと寝過ぎたかと体を横にしたまま気配を探れば、どうやら昼間治療を受けていた村人達やジョニーとヨサク、ドクターもいないようで、今ここにはゾロしかいなかった。

……ったく、起こせよな」

いない理由はわかる。
今日この島は長い長い支配から解放されたのだ。
宴をせずにはいられないと、怪我をしている者たちも昼間から皆揃って浮き足だっていた。ゾロも久々に酒が飲めると内心わくわくしていたところだ。

ドクターの治療によって完全に塞がった胸の傷に、そっと手をやる。
縫合がきちんとされているし、昼間からたっぷり寝たので痛みももうない。「本来なら全治2年じゃぞ!」なんて言われた気もするが、まあそんなことは知ったことではない。

ならば自分も早く酒を飲みに行かねばと、ゾロは上半身を起こす。
そういえば、どこぞの魚人から拝借したシャツはどこにいったのかとまわりを見回していると、沈黙を切り裂くようにコツコツと足音が聞こえてきた。
その音が段々と近くなってきたので、ゾロは警戒することなく扉を見る。
なぜならこの足音には聞き馴染みがあるからだ。

カチャリと静かにドアノブが捻られて、ゆっくりとドアが開く。

――入ってきたのは、ナミだった。

「おう」

「なによ。あんたもう起きたの?」

一応そうは言うナミだったが、ゾロが起きていたことは想定の範囲内だったらしく、特に驚きもせずに「はい」と彼にいつものシャツを渡した。

「なんだ。わざわざ持ってきてくれたのか?」

「ついでよ。メリー号に荷物持ってったついで」

それが本当かどうかはゾロにはわからないが、とりあえず素直にナミからシャツを受けとるとそのまますぐに着始めた。

しかしナミはといえば、珍しく何かを言いたげだけど言い出せないような、歯切れの悪い表情をしながらこちらを見てくるので、堪らずゾロも「なんだよ」とだけ言葉を投げた。
するとナミも勘弁したのか、言いにくそうにしていた口をようやく開く。

「なんでそんな大怪我してたのに海に飛び込んだりしたのよ」

それはナミが初めてアーロンパークでゾロと再会した時のこと。

あの時はこれ以上自分に関わってほしくない、この村の事情に首を突っ込んでほしくない一心で彼らを遠ざける言葉を吐いたのに、あろうことか目の前の男は両手両足を縛られたまま海へ飛び込んだ。
しかも「服の代わり」だと言っていた包帯は、実は大怪我を負ったために巻いていた包帯で、アーロンとの戦いでその怪我の凄まじさを知った。
しかしゾロはあの時、そんな傷を負っていたなんて一ミリも想像できないほど平気な顔をしていた。
だから自分は彼の鳩尾を殴ったのだ。ただただ遠ざけたくて。
それでもなぜあんなにも平然としていられたのか。なぜあんな行動をとることができたのだろうか

「お前が飛び込ませたんだろ」

「そんな重傷だったら飛び込まないわよ普通」

しかしゾロはナミが疑問を抱くことすら理解していないようで、何を言っているんだと怪訝そうに眉間に皺を寄せる。

「別に。もう平気だった」

「嘘。私が一発いれた時痛そうにしてたじゃない」

「あんなの痛くも痒くねェよ。――それに、もう済んだことだろ」

「そう……なんだけど

ナミ自身もわかってはいた。
ゾロがどういう男かは、航海を共にするうちに理解してきているつもりではいる。
いつだって彼はルフィと同じくらい真っ直ぐで、ただ言動が不器用なだけということは、もうずいぶんとよく知っている。
だからこそ、彼がそれほどの潔さを持っていることが、少し悔しかった。
何よりそんなゾロにひどい仕打ちをしてしまった自分をどこか悔やんでもいた。

……ごめん」

思わずナミから溢れた謝罪の言葉。
本人も意図せず言ってしまいようで、一瞬驚いた顔をした。
恐る恐るゾロを見れば、しかし彼は顔色ひとつ変えずに、代わりに小さくため息をついた。

「そんなの言いっこなしだろ」

ゾロはどこまでも一貫としていた。
変わらないその姿勢に、ナミは思わず気が抜けて近くの椅子に座り込む。ナミが悔しいと思っていても、申し訳ないと思っていても、この男の気持ちも態度も何も変わらない。

いつだったか、傷ついた体でゾロが「おれは、おれのやりたいようにやる」と言っていたことをナミは思い出す。
この男はどこまでいってもその気持ちに変わりはなくて。あの時も事情はどうであれ、ゾロは自分の意思で海へ飛び込んだ。
またナミも自分の意思で、彼を海から引っ張り上げたのだ。
あの時なぜ彼を助けたのかと問われれば、体が勝手に動いたとしかいいようがないのだが、恐らくゾロは最初から彼女が自分を助けるとわかっていて飛び込んだ。だから心を見透かされているような気がして、カッとなってしまったのも事実だ。

この男はこういう時だけ勘が冴えていて、狡い。
こういう時だけ勘が冴えているのは、この船にもう1人いるのだけれども。

結局出会った時から今までも、これからも、彼らがナミに向ける眼差しは変わらない。
だからこそ、こうして救われたのも事実だ。
ナミは一つ大きく息を吐く。
全ての心の蟠りを吐き出すように。
ゾロの言う通り、過去のことをああだこうだと悔いたり反省したりするのはもう言いっこなしだ。全てが繋がっているから今こうして二人は会話しているのだ。

――ええ、わかってるわ。ケジメをつけたかったの。付き合ってくれてありがと」

「だから別になんでもねェだろ」

ゾロはそう大きく息を吐きながら返すのだが、「まあ、だったら……」と、何かを考えたのか少し顎に手を当てて首を軽く捻った後、言葉を付け足す。

「今度、酒奢れよ」

なんて悪戯っぽくニヤリと片方の口角を上げて言ってきたので、ナミもつられて口角が上がる。

「私に奢らせるなんて高くつくわよ?」

「この村の極上の酒で手ェ打ってやるよ」

お互いに引かずの問答を交わせば、二人は顔を見合って小さく笑った。
そんな変わらないやり取りができたことで、ナミの肩の力がスッと抜けたのはきっと気のせいではないのだろう。

ひとしきり笑った後、ナミはいつも通りのゾロの姿を見ながら、そういえばと疑問を零す。

「ところで、なんでそんな怪我したのよ?」

それはナミが知らないバラティエでの出来事。
ゾロは片眉をぴくりと上げると、そっと胸に手を置く。そして静かに目を閉じながらあの時のことを反芻し、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。

……もう二度と敗けねェためだ」

「なによそれ。いつ死んでもおかしくない怪我だったんでしょ?」

「これくらいで死んでたら、おれのこの先が思いやられるよ」

そう言いながらゾロはふんと鼻を鳴らして笑う。こんなものは余裕だと言わんばかりに。
どんな状況であろうが、こちらの心情の変化があろうが、出会った頃から何も変わらない――ナミには到底理解しきれないその考えに、小さく首を振った。
ルフィもゾロも、出会った時からナミにとっては規格外の存在だった。無茶ばかりして、常識なんて通じない。おまけに航海の技術を持ち合わせていないに、なぜか漂流していても自信に満ち溢れていて、いくらこちらが拒否しようが諭そうが、結局のところ彼らはどんどん突き進んでいくので、仕方なくナミは振り回されながらついていくのだ。
でもまあ、いやいやと言いながらもそれはそれで楽しいと思っていたナミも実際にはいたのだけれど。
それはきっとこれからも変わらないのだろうな、と彼の発言から見てとれたので少しばかり安堵したのは、ここだけの話。

「だって全治2年て聞いたわよ」

「治った」

「治っ……はあ、あんた達ってどうしてそうなの」

「なんでおれも入ってるんだ?」

すると思わぬ方向から声が飛んできて、ナミとゾロは声が飛んできた方を見る。
ぴょんと窓から二人の様子を覗き込んでいたルフィがいた。両手にはちゃっかり何本もの肉を持っている。
二人はルフィが来たことに差して驚きもしなかったので、ゾロが「おう、ルフィ」と声をかければ、彼も嬉しそうに「ようゾロ!」なんて肉を掲げて返事をした。

「ちょっとルフィ、いつからいたの?」

「今来た!お前ら宴行かねェのか?」

どうやら村の宴にゾロとナミの姿が見当たらなかったのが気になったようで、ルフィは立食パーティーに舌鼓を打ちがてら診療所を覗きに来たようだ。

「今行くよ」

「おう!早くこいよ!肉いっぱいあるぞ!」

嬉しそうに笑うルフィを見て、ゾロはよいしょとベッドから立ち上がり、出口へと向かう。
一方のナミは椅子に座ったままゾロの後ろ姿を見送っていたので、ルフィは「あれ?」と首を傾げた。

「ナミは行かないのか?」

「先行ってて。私はこのあとドクターと約束があるから」

「まだどっか痛いのか?」

ナミは、ルフィを見た。
ルフィが「痛いのか」と聞いているのは、左肩の傷か、はたまた心の話か――

「ううん。もうバッチリよ。ありがとう」

首を横に振って否定すれば、ルフィは安心したようにニッと歯をむき出しにして笑った。

「おう!ならよかった」

「ホント。あんた達って人の痛みには鋭いくせに、自分の痛みには鈍感よね」

なんて頬杖をつきながらルフィに零せば、その言葉の意味を理解できているのかいないのか、

「でもおれはゾロみたいにマヌケじゃないぞ?」

と、口を尖らせる。

「どっちも大マヌケよ」

そう笑いながらナミが返せば、ルフィは納得していないようだったが、それでもナミが笑っているならいっかと、彼もまた笑った。
本当に彼らは人の痛みには人一倍敏感で、時には膿を出すために抉りながら、時には棘を抜くために引っ張りながら、一番大事なところを突いてはなんとしても傷を塞ごうとしてくる。
そのためなら自分の体が痛めつけられても、何度だって立ち上がるのだ。そんな彼らの姿を幾度と見てきた。
それならばこれからの自分は、そんな彼らが少しでも傷つかないように、何度だって立ち上がれるように、この先の海へと共に歩みながら導いていこう、と思う。

「あんた達だけだとすぐに漂流しちゃうもんね」

ナミがぽつりと零せば、ルフィは自信満々に「おう!」と返事をした。

「だからナミがいないとダメなんだ!」

「知ってるわよ」

ちょうど入れ替わるようにして入口の扉が開く音がした。きっとドクターが診療所に入ってきたのだろう。
タイミングよくゾロがルフィと合流したので、ルフィは居ても立っても居られないと「早く肉行こう、肉!」とゾロを誘って広場へと繰り出そうとする。

そんな彼らの姿を窓越しに見送ろうとすれば、ルフィがもう一度ナミに振り返った。つられてゾロもナミを見る。

「ナミ!お前はおれ達の仲間で、航海士だからな!」

と、満面の笑みで言う。

何をいきなり当たり前のことを言い出すんだと、ゾロはやや呆れていたがその口元は緩んでいて、ナミもふふっと肩を揺らして笑った。

「ええ、知ってるわよ!」

そう返せば、二人は満足したのかナミに向かってニッと笑うと、賑やかな人混みの中へ紛れていった。

……さて」

ナミはドクターがこちらへ近づく音を聞きながらポケットに入れていた紙を見る。
そこに描かれていたのは「みかん」と「風車」のマーク。

肩の痛みも心の痛みも。あの時、すべて消え去った。

だからこそ、これからの新しい海へ一歩一歩力強く進んでいきたい。
ナミは新たな決意を胸に、大きく深呼吸をするのだった。


Fin.