shizuku0797
2025-10-18 20:00:00
5711文字
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大丈夫。

ウソップ・ナミ・サンジ・ゾロ

OPノンカプWebオンリー「新次海2025」展示作品


ロングリングロングランドの停泊中。青キジとの一件があったその日の夜の話。
ナイーブになっているウソップとナミの会話、ナミを見送ったサンジとゾロの会話で分かれています。
行間妄想話で会話中心です。しっとりと流れます。

原作で「おれはバタバタ騒いで終わったよ」とウソップがゾロに弱音を零すシーンが結構印象的で。
今までどんな敵でも立ち向かってきた麦わらの一味が、初めて手も足も出なかった青キジとの戦い。
この時のウソップは、強くなっていく敵と仲間達と自分とのギャップ、空島でのメリー号の一件とでだいぶ精神的にまいっていたんじゃないかなと。
まあ、ブラザーソウルを燃え滾らせていたけども。
この時ウソップの立場に一番近かったのはナミなんじゃないかと思うので。
ロングリングロングランド編、ギャグメインかと思ってうっかりしていたらめちゃくちゃ麦わらの一味にとって転換期となる編なので今でも32~34巻を読むと温度差に風邪を引きます。




青い月明かりがぼうっとメリー号を照らす。その輪郭は朧げで、今にもどこかへと溶けてしまいそう。

それでも溶けずにここに在るのは、この船を“家”として航海を続けている者たちが力強いからだろうか。いやでも今はそんな力強さもどこか朧げだ。

ロングリングロングランドにしばらく停泊をすることとなったその日の夜。

月明かりを頼りに、コツコツと甲板を歩く足音がひとつ。

ウソップはゆっくりと甲板を歩いた後、そっとマストに触れた。そして下から上へと手のひらを輪郭に沿って動かし、やがてツギハギされた鉄板に届くと、まるで野良猫の警戒を解くかのように優しく撫でた。

それからポツリと言葉を落とす。

……大丈夫」

まるで赤子をあやすように、柔らかくメリー号に囁く。

……大丈夫、大丈夫だ。今日もここまで来れたもんな

それはメリー号に言っているはずなのに、どこか必死さもあった。なんだか自分に言い聞かせているような。

ウソップの瞳の奥はどこか不安げで、でも気のせいだと言うかのように何度も首を振っては「大丈夫だ」とまた呟いた。
フル
それは祈りにも似ていた――

頭を何度も何度も振る。過ぎる最悪の事態を振り払うように。大丈夫、と何度も彼は呟いた。

「大丈夫」
「そんなわけないでしょ」

何度目かの呟きで予期せぬ言葉が返ってきて、びくりと肩を小さく振るわせた。
恐る恐る振り返れば、ストールを羽織ったナミがウソップのすぐ後ろに立っていた。

「なんだよ脅かすなよ

「気づかないあんたが悪いわよ」

それからナミもウソップの隣でメリー号のマストにそっと手を置いた。

で、何してたの?」

「あーえっと

まさかナミに一部始終を見られていたとは思わなかったので、ウソップは珍しくすぐに返答できなかった。

このいい知れぬ不安を吐露したらどれだけ楽なのだろうかと思うけれども、言ったら現実になってしまいそうな気がして、代わりに嘘で誤魔化そうとする。

しかし、こういう時に限って得意の嘘も喉を詰まらせる。
戸惑っているウソップを見たナミはひとつ息を吐いた。

……ごめん」

「なんで謝るのよ」

「なんでだろうな。でもおれは、大丈夫だ」

まただ。
今だけ口癖になった言葉が零れ落ちる。それはもはや呪いの言葉に近かった。
それを言うたびにいつもの彼らしくない、憂いを帯びた不安な影が見え隠れする。
だからナミは、その言葉が落ちきる前にそっと掬った。

「大丈夫って自分に言い聞かせてる時ほど、自分は大丈夫じゃないのよね」

「それおれに言ってる、よな?」

「ウソップ意外に誰がいるのよ。何度も『大丈夫』って言ってるくせに」

「おれは、別に……

反論する言葉をナミは遮る。

「青キジのことに、ロビンのこと。それに

彼女はマストに置いていた手をそっと左右に滑らせる。

――メリー号のこと。心配事は尽きないわ」

日中、海軍大将が目の前に現れて、訳が分からないまま仲間たちが次々に凍らされ、一味はパニックに陥った。
そんな状況を冷静に受け止められるほどナミだって強くはない。
それにウソップがそんな譫言のように「大丈夫」と呟いているのはメリー号が関係していることは明白だった。
だからあえてメリーの名前を出してみれば、案の定ウソップはぴくりと肩を震わせる。
しかし、ナミはそれ以上は言及せず、代わりの言葉を紡ぐ。

「でも、『大丈夫』って言い聞かせて足踏みするよりも、前に進んだほうがまだ気持ちが楽になるんじゃない?心配ばっかしてたらその分次の一歩が鈍っちゃう」

「おれは、そんな、何も

「バカね。あんたの顔見れば聞かなくたってわかるわよ」

それに声をかけるまでのあんなウソップの様子を見てしまっては――
彼がどれだけメリー号を大切にしてきたのかも知っている。だから。

「気持ちはわかるわ。でも『大丈夫』って言い聞かせてる時ほど自分は全然大丈夫じゃないこと、私はちょっと前に気づいたから」

ナミは少し声のトーンを落としてそっと目を伏せる。あの時の自分とちゃんと向き合えるからこそ言える経験談。でもそうやって言えるようになったのは、仲間たちが自分のすべてを掬い上げてくれたから。

「ナミ

ウソップはそれに対して何か言おうと口を開きかけたのだが、それよりも先にナミがウソップの肩をおもいっきり叩いた。

「もう!くよくよするのは敵か嵐が来た時だけにしなさい!」

まるでウソップの中の今抱えている不安を振り払うように、その声は力強い。

「嵐が来た時もくよくよしてていいのかよ」

「まあ、それでメリーがあんたを振り落としたら自己責任よね」

「め、メリーはそんなことしねェだろ!」

「わかんないわよ。いつまでもくよくよしてたら愛想尽かされちゃうかもね」

「うっそれは

ウソップはありえなくもないと言いそうになって堪らず声を詰まらせたので、ナミは小さく笑った。

「大丈夫よ。あんたのことメリーだってちゃんと見てるんだから。大丈夫」

誰かが自分に向けていう「大丈夫」という言葉は、先ほどまでの自分の呟きとはまったく違う安心感があって、不思議とウソップの肩がストンと軽くなった。
そしてようやくウソップも張り詰めていた糸がほぐれたようで、「ああ、そうだな」と、自然と笑顔がこぼれた。

そのタイミングでラウンジの扉がギィと開く。

「いつまでそんなとこにいるんだお前ら」

「ウソップ!ナミ!ルフィとロビンすっかり顔色もよくなったぞ」

「ナミさーん!温かいスープできたよ!夜食にいかがー?」

ゾロ、チョッパー、サンジが寝ている二人を起こさないように配慮した声の大きさでウソップとナミを呼ぶ。
ナミは彼らを見て、「ほらね。もう大丈夫」ともう一度だけ言うと、そちらへと歩を進める。
ウソップはそんなナミの後ろ姿と、扉を開けて待ってくれているゾロ達を見て、涙が出そうなくらいじんわりと胸が温かくなったのだが、グイッと腕で目を拭った後、

「おれもスープ飲む!」

といつもの調子で声を弾ませてナミの後に続いてラウンジへと入るのだった。



***


――どう思う?」

沈黙を破ったのは、ナミだった。

治療に専念したチョッパーが二人の容態が落ち着いてきたことで安心したのか船を漕ぎ始め、サンジが黙々と夜食のスープを作っていて、ゾロは何をするわけでもなくテーブルに頬杖をつきながら今にも寝そうなチョッパーを見ていた、そんな矢先のこと。

隣に座っていたナミはじっと扉の窓を見つめていたので、ゾロはくあっと欠伸をしながら「何が?」と面倒そうに問うた。
問わなくても、ナミが何を気にかけているのかわかってはいたのだけれども。

「何がって……ウソップよ。ちょっと様子おかしくない?」

もちろん話題に上がったのは今この部屋にいない狙撃手のこと。

先ほど何やら思い詰めた表情をしていたウソップは、ナミが声をかける前に「ちょっと夜風に当たってくる」と静かに扉を開けて、それきりしばらく戻ってこない。

「疲れてんだろ」

まるでそっとしとけと言いたげにゾロは返す。

「そうだけど、あのウソップがあんなに大人しいなんて……

「自分の中で処理しきれてないんだろ。だから早く寝ろって言ったんだ」

「それはそう、なんだけど

今日を振り返っただけでも、変な海賊団に仲間を失うかもしれない勝負を挑まれて、海軍大将が現れて、仲間が2人氷漬けにされた――
1日で起こった出来事としてはあまりにも怒涛すぎて、ずっと緊張の糸を張っていたような気がする。あらためて一連の出来事を思い返して、ナミは今日1日分の深いため息を吐く。

「あと、もうひとつ――

それまで口を閉ざしていたサンジが、スープがたっぷり入った鍋へ静かに声を落とした。

その言葉にナミはさらに肩を落とす。

「ええ、そうなのよ。あいつがああなるって言ったら――

理由はひとつ。

空島を下りてから、このロングリングロングランドに着くまで走り続けたメリー号。
だいぶ前からボロボロだったその体はもう限界なのではないのだろうか?まだ走れるのだろうか?
ようやくゆっくり立ち止まったこの時だからこそ、不安は余計に募っていく。

その気持ちはナミにもわからなくもない。

「おれが行こうか?」

サンジは鍋をかき混ぜていた手を止めてナミに声をかける。
けれどサンジは、ナミが首を横に振るのをわかっていた。
それからゆっくり彼女が立ち上がって外へ出る支度をすることも。

「こういうときはバケモノなあんたたちより、か弱い私が行った方がいいわ」

ゾロが「誰がか弱いだ」とボソッと呟いたけれど、ナミはあえて華麗にスルーする。

サンジはそんなナミの姿を目で追いながら「スープもうすぐできるから」と伝えると「あいつの分もよろしく」とひとつ笑ってそのまま外へと足を進めた。

そうしてラウンジに残されたのは、ゾロとサンジ。
二人の沈黙に三人の寝息が微かに混ざる。

――行けばよかったじゃねェか」

再び頬杖をついてナミが出ていった扉をぼんやりと見ていたゾロは、珍しく返答がわかりきっていた言葉を投げた。

「ナミさんの邪魔するわけにはいかないだろ。それに、彼女の言うとおりおれが行ったら逆効果だ」

そんなわかりきったこと何を言わせるんだと言いたげに、サンジはスープをもう一度じっくりかき混ぜる。
そして再び流れる沈黙と寝息とスープが煮立つ音。

しかし、今のゾロにとってはなんだかそれが落ち着かなくて。

………なんか喋れよ」

と、続けて言ってしまったものだから、ああ、自分も疲れているんだなと頭のどこかで冷静に自己分析する。
一方のサンジも珍しくそんなことを言うゾロを普段であれば盛大に茶化してもいいのだが、なんとなく彼自身も今はそんな気分になれなくて。一言でバッサリ切り捨てる。

「なんでお前と喋らなきゃいけねェんだ」

「それもそうだ」

……んがっ!」

特に二人で会話をする話題もない――ところに、タイミングよく鼻を詰まらせたルフィの鼾が漏れる。
ゾロもサンジも思わずそちらを見た。
しかし当の本人は何事もなかったかのように「んー」と呻き声を上げながら、かかっていた毛布を剥いで両腕を大きく広げた。
いつもと変わらない豪快な寝相にサンジはフッと口元が緩む。

「こいつ、普通に寝てやがるな」

「氷漬けにされたってのに呑気なやつ

それからサンジはルフィの隣で寝ているロビンをチラリと見る。
顔色はすっかりよくなっているものの、ルフィが隣で鼾をかいても目を覚ます気配はまったくなく、時々呼吸をする音だけが微かに聞こえる。
サンジは彼女の容態はもちろんだが、他にも気がかりなことがあった。
ゾロからの返答もわかりきった上で、サンジは鍋に向き直るとポツリと呟いた。

……おれはロビンちゃんが心配だ」

「ウソップと同じだ。それはロビンが決めることだろ」

「お前に言われなくてもわかってる。だから、ここがずっと彼女の帰れる場所でいないとな」

「ちゃんと帰ってくれば、な」

「彼女なら大丈夫だ」

――だといいが」

ゾロのその含みを持った返答に、サンジは今度ばかりは物申すとスープをかき混ぜていたお玉をゾロに向けた。

「いいか。世界中がお前やルフィみたいに生きてたら、3日と経たずに世界は滅ぶぞ」

「なんだよ急に」

「お前らみたいに前ばっか見て進めるほど、人間は単純じゃねえって話だ」

………

ウソップのこともロビンのことも。
自分たちが思っているよりも本人たちにとっては複雑で、でもそれは本人たちにしかわからない感情で。だからこそいつでも寄り添える場所が彼らには必要で。それを守りたい、とサンジは思う。
ゾロはそれでも何か言いたげに口を開きかけるのだが、それと同時に、

「ん、いい匂い

と、うたた寝をしていたチョッパーがスープの匂いに誘われて目を覚ました。
覚ますや否や、脳は一気にクリアになって慌てて飛び起きる。

「あ!おれ寝ちまったか!?ルフィとロビンは!?」

寝るつもりはなかったのに、ちゃんと診ないといけないのに、という責任感から自分の失態に慌てるチョッパーを見て、ゾロは落しかけた言葉を飲み込んで代わりに彼に声をかけた。

「大丈夫だ、よく寝てる」

落ち着けと言わんばかりの柔らかい声色でそう宥めると、チョッパーはルフィとロビンの手首に手を当てて冷静に脈をとる。

「よかった呼吸も安定してる」

ホッと一息ついたところで、チョッパーは自分が記憶を飛ばす直前よりラウンジにいた人数が減っていて、あれ?とまわりをキョロキョロと見回す。

「ウソップとナミは?」

「そうだな……そろそろ声かけてやれ、チョッパー」

「お、おう?」

咄嗟にサンジの言葉に返事をしたものの、しかし事態が飲み込めないチョッパーはそもそも二人はどこにいるんだ?と首を傾げながら立ち上がろうとするのだが、それよりも先にゾロが静かに席を立った。
サンジは横目で彼を見て、思わず苦笑いを浮かべる。

「緑怪獣が、余計な気ィ遣うなよ」

……あ?なんの話だ」

「別に」

サンジはふいと顔を背けると、最後にスープを小皿に移してコクッと味を確認する。納得のいく味にサンジが小さく頷いた。
ゾロは一度眉間にしわを寄せてサンジを見るが、それ以上は何も言わずに扉に手をかけてそのままギィと開けた。チョッパーも続けてひょこりとドアの隙間から顔を覗かせる。
その時のウソップの表情はもうすっかり晴れやかで。
それを見てどこかふっと表情が和らいだ彼らは、夜食のスープで心と体を温めた後、今日はそのままラウンジで眠りにつくのだった。


Fin.