shizuku0797
2025-10-18 20:00:00
6778文字
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その音を切り裂いて

ゾロ・ルフィ・サンジ

OPノンカプWebオンリー「新次海2025」展示作品


捕まってしまった3人。敵に目をつけられたゾロは音によって洗脳されてしまい、ルフィとサンジを敵と認識してしまう。
襲い来るゾロをなんとか正気に戻そうと、二人はゾロと対峙する。
シリアスなバトル系です。「揺らめく炎に手を差し伸べて」もちょっと意識してみたり。
ゾロが操られてしまったら、ルフィとサンジは全力で止めようとするんだろうなって思うわけです。
でもゾロは操られたままで終わらないもんね!ていう妄想も込めて。




ガラス張りの牢屋で三人は鎖に巻かれ、天井から吊るされたまま身動きがとれなかった。

……くそっ。3人揃ってこのザマかよ」

サンジはなんとか鎖を解こうと手首を捻るが、鎖はジャラリと音がするだけで、まったく振り解けない。
ゾロもこの状況に苛立ちが募り、大きく舌打ちをした。
幸いにも刀は奪われていないが、こうも身動きが封じられてはどうすることもできない。
おまけに鎖は海楼石でできていて、ルフィは「力が入らねェ」と掠れた声で言いながら俯いていた。

上陸したこの島で早々に襲撃を受けた麦わらの一味。
敵はまるで麦わらの一味が上陸することを知っていたかのように用意周到で、分断を余儀なくされてしまった。
しかし、彼らの狙いはルフィ、ゾロ、サンジの3人だった。彼らが仲間たちと逸れてしまうと、突然脳を貫くようなひどい耳鳴りに襲われた。
抵抗も虚しく3人はその場で意識を手放してしまい、気がつけばこの牢屋の中にいたのだ。

「まずいなナミさんやロビンちゃんは無事か?」

「わからん。とにかくここをどうにかして出ねェと」

「いいぜ。出してやるよ――このあと生きてりゃな」

不意に。彼らの滲み出る焦りの声に答えるように、ドスの効いた声が牢屋内に響いた。
3人はその声の方をキリッと睨みつける。ガチャリと牢の扉が開き入ってきたのは、スキンヘッドにサングラスをかけたガタイのいい男。両手にはメリケンサックを嵌めて、首には大きなヘッドホンをかけている。

「よお。気分はどうだ、お前ら」

男は3人をそれぞれ品定めするようにじっくりと見ながら、ニヤニヤと抑えきれない笑みを浮かべて声をかける。

「はっ、別に悪くはねえよ」

「はっはっは、強がり結構!しかし、お前らこの状況はさすがにまずいよなあ?」

すると男はずんずんとルフィの前に進み、彼を見下ろした。
視線がぶつかった、その瞬間。

「なあ、船長っ!」

ガンッ!
「グあッ!」
「ルフィ!!」

男は問答無用でルフィの脳天にメリケンサックを嵌めた拳を振り下ろした。ただの打撃ではあるが、海楼石の鎖をされたとあれば痛みはダイレクトに響く。

ゾロとサンジは慌てて己の船長の名を叫んだ。
なんとか助けようと体を捩じるのだが、残念ながらただいたずらに鎖がジャラジャラと揺れるだけでどうしたって外れない。

「さあ、もっとノリノリでいこうぜ!」
ドスンッ!ボカッ!
「ぐふっ!」

男はまるでリズムを取るようにしながら、何度も何度もルフィを殴りつける。
それを見ているだけしかできない状況に、ゾロとサンジは苛立ちを隠せず奥歯をギリギリと噛み締めた。

「てめェ!!いい加減にしろ!!」

我慢の限界に達したのはゾロだった。声を荒げ、男に怒鳴りつける。

ビリリッと空気が震えた。

男は次に振り上げたその拳をピタリと止め、ニヤリと笑ってゾロを見た。

……よし。おまえにしようか、海賊狩り」

「!?」

男はそう言うとじわりじわりとゾロへと歩み寄る。

「てめェ!」
「ちょっと大人しくしてろよ」

そういうよりも早く、ガンッ!と、男はゾロの後頭部に強烈な一打を入れた。

「ぐっ!」
「ゾロ!」

ゾロはそのせいで、ぐわんと脳が、視界が揺らいでしまい、男が首に掛けていたヘッドホンを自分にかけられてしまっても、振りほどくことができなかった。

男はゾロにヘッドホンをしっかりとかけると、ポケットから何やらリモコンを取り出す。

「ミュージック……

その瞬間ヘッドホンからは機械音を立ててベルトが飛び出し、ゾロの頭をぐるりと一周してガッチリと固定された。

そしてリモコンのボタンが静かに押される。

「スタート」

ビィィン
「ぐあっ!!」

ヘッドホンから大音量の重低音と超音波が流れ始める。
それは脳を直接刺激するような、揺さぶるような、全ての五感を狂わせる嫌な音……

「な、んだこれ……ぐあああああッ!!!」

ゾロは必死に頭を振ってヘッドホンを外そうとするのだが、ヘッドホンは頑丈に固定されていていくら頭を激しく振っても外せない。
視界がチカチカと光り、モノクロとカラーの景色が交互に揺れる。ここがどこかも、わからない。

「がはっ!」
「ゾロ!!」

ルフィとサンジは必死にゾロの名前を呼ぶが、その声はもう、彼の耳には届かない。


ゾロの中で何かが、切れた。


……
「ゾロ?」

項垂れたままぴくりとも動かない。


男はそれを見るとニヤリと笑い、牢屋から出ると壁のレバーを下げた。


「お前らを解放してやるよ」


3人の鎖がじゃらりと外れる。
サンジはそのまま着地し、傷ついたルフィはぶへっとそのまま地面に倒れ込み、そして、ゾロもそのまま片膝をついて着地した。

「ゾロ!大丈夫か!?」

「ただし――

ルフィとサンジは慌ててゾロへと駆け寄る。
男は3人の様子をゆらりと見た。

――そいつを倒せたらな」

ビュッ

一閃。
ゾロは問答無用で一刀を翻し、そして、刃を向けた。

刃を向けた先にいるのは、ルフィとサンジ。


――てめェら……何者だ?」

……は?」


予期せぬ言葉が二人の耳を貫いて、思わず素っ頓狂な声が漏れる。

「おい、ゾロ

しかしゾロは、サンジの言葉を遮るように斬撃を床に放ち、ゾロと彼らの境界線を刻んだ。
そしてもう一刀を抜き、閻魔を肩に乗せ、三代鬼徹の切っ先をギラリと光らせて顔を上げる。


その、ゾロの瞳には光が宿っていなかった。


ゾロは続けて二人の耳を疑う言葉を投げる。


「おい……ウチの船長とコックを、どこへやった?」


一瞬ルフィとサンジは、ゾロが何を言っているのかわからなかった。
どうして?なぜ?目の前にいる自分たちのことがわからないのか?

「おいおいマリモ、何つまらねェ冗談

しかし、ゾロの手は止まらない。
ゾロは二刀を素早く構え、二人に襲いかかる。ん

「とっとと居場所を吐きやがれ!!」

ヒュンッ!!

ゾロはさらに刀を大きく振り下ろす。
その先にはルフィがいた。
ルフィは刃が顔に触れるギリギリのところでバク転をし、ゾロとなんとか距離を置く。

「わ!何すんだよゾロ!おれだよ!ルフィだ!!」

「てめェらの言うことなんざ聞く気はねえよ!!」

しかしゾロはヘッドホンをつけたままだからなのか、ルフィの声は聞こえていない。
そもそも今は目の前の二人を、己の仲間だと認識していない。

「てめェ!あいつに何した!」

牢屋の外でその様子を笑いながら見ている男に、サンジは怒鳴り散らした。

「さあ?お前達の声はどうやら届いてねェみたいだな」

「クソ野郎が!」

「ほら、よそ見してていいのか」

サンジは扉をこじ開けようと構えるが、そうはさせまいとゾロが襲いかかってくる。
殺気に気付いてサンジは慌てて振り返り、「うお!」と間一髪のところで避けた。避けた瞬間に揺れた前髪が、数本わずかに斬れる。

「どこ行く気だ!」

「こんのっいい加減にしろクソマリモ!」

「ゾロ!!やめろ!!」

ルフィはゾロの動きを止めるために、腕を伸ばして捕まえようとした。しかし、それよりも素早い動きでゾロはその腕をすり抜けて、刀を振るう。ルフィは刃が閃く手前で体を捩らせて避け、サンジと合流した。

「くそっ、どうやら本気でおれたちのことわからねェらしいな

「わからねェってなんだよ!」

「知るか!恐らくあれだろうよk

サンジはくいっと顎を上げる。
さしたのは、先ほど男がゾロにかけたヘッドホン。

「音波を使った催眠ってところか」

「じゃあ、あれ外せばいいんだな!」

「あいつが素直に外させてくれればな」

「くそっ。しぶてェな!おれは早くここから出なきゃいけねェってのに」

「それはこっちのセリフだマリモマン!何洗脳されてんだよ!」

「ゾロ!お前のそのヘッドホン外してやる!」

ルフィは対峙しているゾロへ正面からダッシュで突っ込んでいった。

「バカ!ルフィ!!」

正面から突っ込むなと、サンジが慌ててルフィを止めようとするが、こうなってしまった彼はもう止まらない。

ゾロは向かってくるルフィに素早く一刀を構えた。

「三百六十煩悩鳳ッ!!」

ギュルンと大きな斬撃がルフィ目掛けて飛んでくる。
「ゴムゴムの」と、ルフィは武装色を纏った両腕をぐいんと後ろに引いた。

「バズーカッ!!」

斬撃に向かってルフィは技を放つ。
お互いの威力はすさまじく、ドゴン!と爆音が牢屋中に響き渡った。
二人の技が拮抗する。

「うおりゃっ!!!」

ルフィは負けてたまるかと、もう一度力を入れなおして、飛ぶ斬撃を霧散させた。
その時飛び散った斬撃の一部が、ルフィの頬を掠めて血が滴り落ちる。

「ハァハァくそォー、やっぱり強ェな、ゾロは」

「ちっ、武装色の覇気か」

ゾロが舌打ちをしたその瞬間。
今度はゾロの視界の端に黒い足が飛び込んできたので、咄嗟に二刀目を抜いて攻撃を防いだ。
サンジが隙をついてヘッドホンを外そうと、攻撃を仕掛けた。
しかし、あと一歩のところでヘッドホンには届かない。
ギリリッと二人の力が拮抗する。

「ああ?なんだ、どこぞのクソコックみてェな戦い方しやがって!」

「おれだよ!!」

ならばもう一発と、サンジは二発目を繰り出そうと体勢を動かす。

その時、牢屋の外にいた男がゆっくりと動いた。

「どうやら、お前たちにもチューニング必要なようだ」

男は壁を一つ叩く。
ガコンと壁の一部が外れ、ボタンとダイヤルが出てきた。
男はポケットから取り出した耳栓を嵌めると、ボタンを押し、そのつまみをぐいんとMAXまで回していく。


ビィーーーーン!!!


すると、牢屋中に嫌な音が響き渡る。
脳を直接貫くような、不快感が募る気持ち悪い音がルフィとサンジに直撃する。

「うっ!」
「なんだ、これ!」

堪らず二人ともぐらりと体が揺れた。
その隙を見て、ゾロはサンジの力を押し返して弾き飛ばす。

「ぐあっ!!」

そのままサンジは壁に叩きつけられた。

「サンジ!!うっ!!」

しかし、爆音は止まらない。
さらに音が何重にも重なり不協和音を響かせる。いくら耳を塞いでも音は体中に響き渡り、視界も脳も大袈裟に揺れる。
ルフィは思わず片膝をついた。

ゾロはサンジを弾き飛ばした後、黙ってサンジの方へと歩みを進めた。
彼の瞳は先ほどよりもひどく濁り、もう言葉すらも発しなくなってしまった。

チャキッ

そして、己の愛刀を倒れたサンジに向ける。
ルフィはハッとなってゾロを止めようと手を伸ばそうとする。しかし牢屋中に響く音がまた一つ大きくなり、「っぐアッ!」とルフィは声を上げながら反射的に耳を塞いだ。

「ハァハァゾロ……てめェ、ふざけんなよ!」

一方のサンジも、なんとか体を起こそうとするが、叩きつけられた痛みと、この不協和音のせいで上手く体が動かない。
それでもサンジは顔を上げてゾロを睨みつける。視線はぶつかっているはずなのに、その瞳はもはやサンジを見ているかも定かではない。

「ふざけんな

耳を塞いでいたルフィも小さく呟くと、今度こそゾロに向かって腕を伸ばした。

バシッと、ルフィは刀をサンジに向けているゾロの手首を、強く掴んだ。ゾロは少しだけ険しい表情をして、ゆらりとルフィに顔を向ける。
不協和音のせいで脳は揺れ、視界も歪んでいるのだが、それでもルフィは、そのまままっすぐにゾロを見た。

「ふざけんなよゾロ!おい、聞こえてんだろ!何そんなもんにやられてんだ!ちゃんとおれを見ろ!!」

ルフィはこの不協和音に負けないほど大きな声で、ゾロに向かって叫んだ。

しかし、ゾロは元に戻らない。
彼は掴まれた手首を自分の方に引っ張った。ルフィはその勢いに体勢が崩れてしまい、体が床から離れる。ゾロはそのままゴムの伸縮に合わせて腕をさらに振ると、サンジに向かってルフィをぶつけた。

「うおっ!」

勢いよくルフィとサンジがぶつかったせいで。、二人ともバランスを崩して倒れてしまう。
倒れたせいより体が重くなり、思考も鈍って次の動きが出てこない。
それでも二人は必死にゾロを見る。

無表情のゾロはカチャリと二人に向かって刀を構える。

っ!!」

ビュンッ!

刹那。刀が閃いた。



ガコン



すると、何かが落ちる音がする。
天井の隅に設置されていたスピーカーが真っ二つに斬れて、落ちた。

しん、と不協和音がぴたりと止んだ。

ルフィとサンジは目を丸くして、もう一度ゾロを見た。

ゾロは刀を振り下ろしたまま、俯いていた。


……っざけんな


そして、二人に聞こえるか聞こえないくらいの声でそう吐き捨てながら、自らの意思でヘッドホンに手をかけた。

……く、そ!ふっざけんなッ!!!」

ゾロは力任せにヘッドホンを引っ張って頭から外すと、間髪入れずに叩き斬った。

「ハァハァハァ

「ゾロ?」

不協和音から解放されたルフィとサンジは、ゆっくりと起き上がってゾロを見る。

肩で息をしている彼の瞳にはハッキリと光が宿っていた。

「ハァハァ悪ィ、お前ら……おれ

「ゾロ!おれが誰だかわかるか!?」

「ああ、ルフィ。おれ達の船長だ」

「にしし!ああ!」

「ったく、手間かけさせやがって」

……迷惑かけた」

「すまん」と、ゾロは二人に頭を下げたものだから、サンジはそのらしくない行動に「けっ」とひとつ舌打ちをしたあと、

「バーカ。お前の攻撃なんざこれっぽちも効いてねェよ!」

と、悪態をついた後、「だから謝んなアホ」と顔をそらせてボソッと呟きタバコに火を点けた。

「おれもなんともないから大丈夫だ!」

ルフィも、そう言いながら腕を頭の後ろのに回してひとつ大きく笑う。
ゾロは、そんな二人を見て「そうか」とひとつ息を吐いた後、「じゃあ」と気持ちを切り替えてぐるりと体を捻った。
その先にいるのは、牢屋の向こうで音響マシンを破壊されたことに動揺している男。

「この落とし前は、きっちりつける」

そしてゾロは三刀を構えた。
二人は頷く代わりに、片や両腕を振るい、片や靴のつま先をトントンと叩いた。

「三刀流千八十煩悩鳳!」

「ゴムゴムの鷹銃乱打!!」

「悪魔風脚焼鉄鍋スペクトル!!」

3人の技が一斉に放たれる。
すると牢屋のガラス壁は、ものすごい勢いで全て粉々に割れた。

「くそっ!」

男は狼狽えながら、それでもなんとかしようと咄嗟に超音波を発する銃を3人に向かって放つ。

しかし、そんなものはもう効かない。

誰よりも早くゾロは駆け出して、男に向かって突撃した。怯む隙すらも与えない。

「煉獄鬼斬りィッ!!」
「ぐああああ!!」

ゾロは素早く腕を交差させ、懐に飛び込んで一閃を放った。
男は断末魔を上げながら白目を剥いてどさりと倒れた。

あっけなく勝負が着いた。

「耳障りな音ばっか聞かせやがって」

ゾロは刀を納める。
ゾロが片をつけてくれるとわかっていたルフィとサンジは、ゆっくりと牢屋から抜け出してこちらへと歩いてきた。

「あーあ、ほとんど腹いせじゃねェかよ」

「落とし前をつけただけだ」

「だいたい、自力で戻れるんならさっさと戻れよクソ剣士」

「うるせェな。こっちも大変だったんだよクソコック」

「よかったなーゾロ!元に戻って!」

ゾロとサンジの言い争いがギャーギャーと始まったところで、ルフィはよかったよかったと笑顔をこぼす。
嬉しそうにいうルフィをチラッと見たゾロは、サンジから視線を外して、ひとつ息を吐く。

……お前らの声が、聞こえた気がした」

ぽつりとゾロは言う。
もちろんルフィとサンジにその言葉は届いていたので、二人は驚いたように顔を見合わせた。
しかしすぐにルフィはとびっきりの笑顔になって、ゾロとサンジの首に飛びつく。それはもう飛びつかずにはいられなかった。

「にしし!よし!じゃあ3人で帰ろう!!」

「ああ、ルフィ。そいつが迷子にならないようにしっかり掴んどけ」

「おう!」

「迷子になんかなるかよ」

相変わらず3人でぎゃーぎゃーと騒いでいたが、それでもゾロもサンジも首に回されたルフィの腕を振り解くことはなかった。



Fin.