sevendays23
2025-10-18 19:55:00
4036文字
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二年間の壁

雫さんとの相互リク。
捕まった船長を助けに行く剣士の話。


『二年間の壁』(雫さんリク)

これがよくある話かどうか、わからないか。ある島に着いた時、風に飛ばされた麦わら帽子を追いかけた途端、地面がなくなって、たどり着いた先はごろんごろんと檻の中、なんて。しかも、その鉄の檻の中は、泥水で満たされていて、半身浸かり弱ってしまう、なんて。

「うぅぅ……

船長は力が抜けた顔をしながらもふくれっ面をした。なぜこんなことになったのかわからないが。

「腹減った……

ともかく腹が減る。こんなところに閉じ込められては。

「力抜けるぅぅ………

そもそも、力が抜ける。動きづらい。まったく自由ではない。

「でもぉ……

船長は覇気を発動しようとした。武装をすれば、少しは泥水の中でも耐えられるだろう。そして目の前の鉄くらい、何とか壊せるようになるはずだ。

――おい。

すると、低い声がした。船長はむっと前を見てしまい、また力が抜けた。

――お前の仲間『は』、お前を助けに来ると思うか。

「んん?」

彼は、何か引っかかったように言った。

――この鉄の檻を壊せると思うか。

「ん!どっかで聞いたことあるぞそれ!」

船長はばっと手を出した。むむっと額に手を当てながら、

「たしかー、えーと、あっ!ゾロとナミと冒険してる時に聞いたんだ!!」

思い出して、手を挙げる。
しかし、声はそれに構わなかった。

――この鉄の檻を壊せると思うか。

機械的に、同じことを、ひたすらに聞いてくるだけ。

「そんなん、決まってる」

ならば、船長も泥水の中で不敵に笑った。
カツカツと足音が、近づいてきていた。

――――――――

ここに来る、数時間前のこと。

「ゾロ、ほんとにいいのかー?一人で」

「あぁ、おれ一人でいい。あれはあいつには効くが、おれには大した罠じゃねぇ」

剣士は大きくため息をつき、遺跡と向かい合う。目の前には暗い、下りの長い長い階段が、ずんとあった。けれど彼は当然怖気なかった。

「まぁこっからならいくらマリモマリモでも迷わねぇだろ。おれだってロビンちゃんが遺跡まわりを調べるお供をしただけだし、クソゴムがたこ焼きみてぇに綺麗に罠にハマっただけだしな」

「前者は余計だぐるぐるぐる眉」

「あぁん!?」

「もー、いいから早く行けよー。おれはナミみてぇに止められねぇからなー。サンジはおれとたこ焼きの話でもしてようぜー。今日のおやつだろ?」

「ったく、仕方ねぇな……たこ焼きってのはソースが定番だが、他に塩ダレとか具も豊富で、チーズとかウインナーとか」

「お、おい。いきなり話し出すな!それに塩だれってなんだよ!!それにウインナーってたこ焼きじゃなくてウインナー焼き……

狙撃手と料理人は今日のおやつについて他愛もない話をしながら、剣士を送り出す。長い階段に送り出す。

「同じ事が起きるなんてな」

剣士は顔をしかめながら、さっき航海士に言われたことを頭の中で思い返していた。

『前は、私が買い物に行ってる間に全部が終わってたわ。泥だらけで汚れてるし、お風呂に入るまで船に入れないって言ったもの』

そして、ため息混じりに続けられた。

『今度もすぐ終わらせてお風呂に入ってよ。こんなアホみたいな罠に、二度もかかるなんてねぇ……

『じゃあおれもお風呂に入ろうかな……ルフィのケガすぐ見れるし』

『ならおれも付き添ってやらなきゃなァ。能力者二人じゃ風呂大変だろォ』

『わしもじゃ。船長に罠のかわし方を教えてやらにゃならん』

『ヨホホ、私もお風呂には付き合いますが、ルフィさんのそういうとこ好き派ですよー!!』

『お前はルフィに甘すぎじゃ、ブルック』

『ちがいますー!!わたしは皆さんに骨抜きなんです!あっ、本当に骨が抜けたら困るんですが、ヨホホ!』

『もー!うるっさいっ!』

「アホみたいな罠……

階段を降り、仲間と交わしたいつも通りの会話を思い出しながら、剣士は顔をしかめた。そのとおりだ。船長は同じ罠にハマっていた。わが船長ながら、アホみたいな罠に――

――お前の仲間『は』、お前を助けに来ると思うか。

剣士はひくっと声を耳にした。

――この鉄の檻を壊せると思うか。

シンクロする。頭の中で。同じセリフを思い返す。浮かび上がる、過去のこと。

――――

仲間が、いやその時は航海士は正確には手を組んでいただけといえるけれども、三人だった時のお話だ。船長は同じように罠にかかってしまった。風に飛ばされた麦わら帽子を追いかけて、情けなく檻に入れられてしまった船長。バギー一味の時とは違う、けど同じような鉄格子。

「お前の仲間『は』、お前を助けに来ると思うか」

「くるっ!!!」

そんな問いに船長は即答していた。ほぼ階段から声を聞いていた剣士は、檻を見た。さすがにあの檻は斬れやしない。

「この鉄の檻を壊せると思うか」

だからこそ、この問いに剣士は顔をしかめた。鍵を開けるために、航海士を呼んでこなければならないから?いや違う。斬れないものは斬れない。確かだ。自分でも口に出して言った。つい最近の話。

「壊せなくても、すぐ助けてくれる!」

船長はノータイムでそれに応えた。

――どうやって?

「どうやってもだ!」

ばしゃんと勢いとともに水をかくような音とともに言えば、剣士ははっと咄嗟に気づく。
航海士を呼ぶまでもないことに。

「ルフィ!もぐれ!!!」

「おう!!」

泥に覆われた部分に、どぶりと飛び込んだ。船長も水が苦手なのに信頼と一緒に潜った。すると、やはり、鉄柵の下部に、ぽっかり空いた穴。普通なら通れない穴。でも、ゴムの体なら、ねじ込め、くぐれるくらいの穴。剣士が引っ張れば、抜け出せる穴。

「ぷはぁっ」

「げほ、げほ、おえっ」

剣士は泥水から顔を出した。もう声は聞こえなかった。

「しし……ラッキーだったなゾロ、ありがとう、おえっ」

「休んでろバカ」

船長が耳元でげほげほ咳き込みながら笑って言うもんだから、泥だらけの剣士は担ぎ直し、泥に濡れた麦わら帽子をかぶせてやる。

「わかっ……おえっ、げほ、ねるぅ……

「静かに寝ろ」

そうすると、船長は素直に寝たようだ。びちゃびちゃと泥水を垂らしながらも、グースカと安心しきったいびきが聞こえる。

「のんきなやつ」

背負った彼が無事に助けられたことに安心する。この気持ちにウソはない。でも、

「なんでイライラするんだ」

斬れないものは斬れない。それは確か。だから別の方法で助け出せばいい。今回のように。今回は運も味方について、船長を助け出せた。それで、いいはずだ。なのに、何故。

……帰って、寝よう」

考えるのをやめて、帰路を急ぐ。泥だけでビチョビチョの身体は、苛立っていたせいで重く感じた。

――――

「青かったな」

かつかつと階段をくだる音。船長の顔があっと輝いた。

「ゾロ!」

今になって、分かる。何故、あの時あんなにイライラしたのか。彼は、自分の限界をもう決めつけていたのだ。鉄なんか斬れやしないのが普通。檻なんて壊せないのが普通。

「お前の代わりに、返事するぞ。船長」

するりと一刀を抜き、ずぶずぶと泥に入る。
違う、普通なんかじゃない。

「斬って、助けて、船に帰る」

その限界は、二年前くらいに超えた。
緑の覇気が、強く、溢れ出す。

……死・獅子歌歌」

瞬き一閃。金属の軽やかな音。
限界を超えた時より向上した技。

「それで、終わりだ」

きんと納めた刀。ばらばらになった檻。

「だろ?」

ならば、もう船長を止めるものはない。

「しし、そうだぞ!」

弱った身体でなんとかびょんと手を伸ばして、剣士の腕をつかむ。

「ありがとう!ゾロ!!」

「あー」

剣士は力のままぐいっと引っ張り、船長を泥水から脱出させる。

「帰ろう!」

犬みたいにぶるぶると泥水を払ったあとは、前みたいに弱る様子もなく、剣士の横に並び、走り出す。

「他になんか話したのか」

「なんにも!!なんか機械みたいだったしな!それにロビンも調べてくれてるんだろ?ならいい!」

……だな」

何がしたかったのかなんてわからない。確かに同じ言葉の繰り返しだった。どうでもいい。剣士はそういう性格だし、船長も見聞で察しているようだったからことさらどうでも良かった。

「あっ、ウソップとサンジも待ってくれてんだな上で」

「たこ焼きの話してる。あとナミがすぐ終わらせて風呂に入れって」

「たこ焼き!?うまそう!風呂はいやだなー!」

「チョッパーとフランキーも風呂に入るらしい。あとジンベエとブルックも」

「うーん、なら入ろうかなー。ゾロも入るだろ?そしたらウソップとサンジも入って風呂大会もしよう!」

「たこ焼きは」

「出てからサンジに聞いて作ってみんなでパーティだ!そん時にロビンと先に話聞いたナミからこの遺跡の話聞けるだろ!そしたら完璧だ!」

「だな。じゃあそうしろ」

剣士と船長はそんな話を楽しそうにしながら階段を駆け上がる。

……ふふっ」

外にいる考古学者がそれを見て、ぱたんと本を閉じた。この島は遺跡は能力者を試す遺跡がある小さな小さな島。能力者が誰にせよ、その大事な人物が助けてくれるかどうか試す。東の海に昔はあったそうだが、海の動きや地形の変動で二年で流されたのか、海軍や海賊、科学者がこれは何かに使えると踏んで研究がてらどうやってかここまで流したのか。

「いずれにせよ、ゾロとは違って」

賑やかな声が四つになる。たこ焼きだかなんだか聞こえてくる。

「二年、時が止まった遺跡ということね」

考古学者はふっと笑って、この物語の裏方を進むように、そちらの声に入っていくのだった。